遅筆な作者でございます。
今年も、頑張って書いてまいりますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
はい、てゆことで紅蓮編続きです。
マスターの部隊が出てきました。彼らの戦いぶりや散り様を描きたいんですが。それはまた別の話で書こうと思います。
紅蓮さん乙女になってますかね?
うん?なんか悲恋の気配が………
紅蓮は、彼が帰ってくるのを――
ただひたすらに、待ち続けていた。
勝利の翼号の甲板は、常に風に晒されている。
冷たい風が吹き抜ける日もあれば、砂と熱を含んだ重たい風が肌を叩く日もある。
だが紅蓮は、それらを気に留めることはなかった。
甲板に腰を下ろし、背を欄干に預け、空を見上げる。
その姿は、まるでそこに根を下ろしたかのように動かない。
VTOLが着艦するたび、甲板全体が鈍く震え、ハッチが開くと、その中から整備兵や補充兵が吐き出されるように降り立つ。
そのたびに――
紅蓮の身体は、無意識に立ち上がっていた。
背格好。
歩き方。
装備の揺れ方。
声の調子。
ほんの僅かな共通点を見つけては、胸が跳ねる。
しかし、次の瞬間、その期待が裏切られたと理解し、心臓が沈む。
――いない。
その事実を受け入れるたび、紅蓮はゆっくりと元の場所に腰を下ろし、何事もなかったかのように、再び空を見上げた。
青空の日もあった。
低く重たい雲が空を覆う日もあった。
遠くの戦線から立ち昇る赤黒い煙が、地平を汚す日もあった。
それでも、彼女は同じ場所に座り続ける。
何日も、何日も。
次第に、不吉な考えが頭の中によぎっていた。
彼に何かあったのではないか。
治療が長引いているのではないか。
あるいは――命に関わる状態なのではないか。
考えまいとするほど、不安は膨らんでいく。
通信を試みようにも、彼がどこで治療を受けているのかすら分からない。
連絡先もない。
繋がる術が、何一つない。
ただ、待つしかない。
待つことしか、できなかった。
だが無情にも――
戦況は、確実に、そして急速に悪化していった。
レッドフードがラプチャーの侵食により、部隊からの離脱。
その事実は、ゴッデス部隊の全員に、重く、深くのしかかった。
勝利の象徴だったはずの存在が、崩れ始めている。
それは、希望そのものが侵食されていく感覚だった。
そして、ついに人類は決断する。
地上を捨てる、と。
アークへの退避。
アークガーディアン作戦。
それは、生き延びるための選択であり、
同時に、敗北を認める宣告でもあった。
ーーーーーー
「……以上が、本作戦の概要になる」
ブリーフィングルームに、指揮官の低い声が響く。
語られる言葉は冷静で淡々としていた。
だが、その一つ一つが、鋭い刃のように胸に突き刺さる。
紅蓮は、無意識のうちに拳を握り締めていた。
「……待ってくれるかい?」
自分の声が、思っていた以上に震えていることに気づき、紅蓮は一瞬だけ目を伏せた。
「人類は……アークの中へと、逃げるのかい?」
それは戦術への問いではなかった。
彼女自身の中に生まれた、どうしようもない疑念だった。
「そうだ」
指揮官は即答する。
「人類はラプチャーとの戦闘を避け、来たる時に備える。もちろん、我々も作戦終了後にはアークへと退避する」
その瞬間、紅蓮は、思わず声を荒げた。
「そんなことを聞いているのではない!!」
その叫びに、部屋中の視線が紅蓮へと集まる。
だが、彼女は構わなかった。
「そんなことではない……!そのアークとやらには、避難民全員が収容できるのか……?」
沈黙。
誰もが答えを知っていたからこそ、言葉を失った。
指揮官は、重く口を開く。
「……アークに収容できなかった市民は、見捨てられる。これは、決定事項だ」
紅蓮の拳が、強く握り締められる。
「だったら、今すぐクイーンを倒せばいいだけだろう!? 見捨てるなど……できるはずがなかろう!!」
紅蓮の燃えたぎるような怒りの言葉に、指揮官は、冷静に返す。
「ほう。ではなにか、紅蓮一人でクイーンを討伐できるのか?」
紅蓮は、言葉を失った。
「無理だ。ここにいる全員と、人類の全戦力をもってしても不可能だ」
「いいか。これは決定事項だ。覆しようのないものなんだ」
紅蓮はさらに何かを喋ろうとして、口を紡ぐ。
何故なら、指揮官の手は力が入りすぎて白くなるほど握りしめているのを見たからだ。
さらに指揮官は続ける。
「本作戦には、ラプチャーに対抗可能な、あらゆる戦力が投入される。量産型ニケの部隊だけでなく、"人間"の部隊も投入される」
部隊にざわめきが走る。
「ちょっと、よろしくて?」
口を開いたのは、ドロシーだった。
「ニケでもない人間が、私たちと共に戦う?……無謀ではありませんか?」
その問いに、リリーバイスが静かに答える。
「心配は分かるわ。でも大丈夫」
一拍置き、続ける。
「その部隊は、対ラプチャーを想定して創設された特殊部隊よ」
そして、静かに告げた。
「……“彼”。私たちが、マスターと呼んでいた男が率いていた部隊」
部屋が、ざわめく。
「お兄ちゃんの部隊ですか……お兄ちゃん、元気かな」
スノーホワイトが、不安そうに呟く。
「マスターの部隊ですか……はっ!屈強な殿方が揃っているのですね……そして、よってたかって私を……!?ハァ……ハァ……❤️」
ラプンツェルが、頬を赤らめる。
「……興味深いですね」
ドロシーが、含みのある声で言う。
紅蓮だけが、何も言えなかった。
「入ってくれ」
指揮官の言葉に、扉が開く。
入ってきたのは、屈強な男だった。
マスターと同じくらいの体躯。
鍛え抜かれた肉体は、ただ立っているだけで異様な圧を放つ。
「失礼します」
「キメラ部隊。指揮官の大尉が不在のため、次席の私が指揮官を務めます」
敬礼するその姿は、勇ましい。
「本官以下36名。本日より、ゴッデス部隊の指揮下に入ります」
指揮官が説明する。
「彼らは遺伝子操作によって、筋肉、骨格、神経――あらゆる要素を極限まで強化された兵士だ」
その言葉に、眉をひそめる者がいた。
男は、わずかに笑う。
「大げさに言われますが……我々は、人類を守るために存在するだけです。……つゆ払いは、お任せを」
その瞬間、紅蓮は理解してしまった。
――彼らは、死ぬ覚悟でここに立っている。
ニケではない彼らは、倒れれば終わりだ。
修復も、再起もない。
「軍曹。ご苦労だった。下がっていい」
指揮官の言葉に、男は再度、寸分の狂いもない動作で敬礼した。
「ゴッデスの皆様と共に戦えること、光栄であります。では、失礼します」
その声は、どこまでも澄んでいて、覚悟に満ちていた。
まるで――自分の行き着く先を、最初から知っている者の声だった。
男が踵を返し、ブリーフィングルームを後にする。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
そして、沈黙が落ちた。
重く、逃げ場のない沈黙だった。
誰一人として、すぐに言葉を発することができなかった。
その沈黙を、紅蓮が静かに破る。
「……指揮官」
声は低く、しかし震えてはいなかった。
怒りを抑え込み、理性で刃を研いでいるような声だった。
「今……遺伝子操作と、言ったね?」
指揮官は、一瞬だけ視線を伏せる。
それから、短く息を吐き、答えた。
「そうだ。対ラプチャーを想定して生み出された兵士だ。……強化人間と言えば、分かりやすいだろう」
紅蓮は、ゆっくりと首を傾げる。
「……それは、何のために?」
問いは穏やかだった。
だが、その奥には、聞きたくないという感情と、それでも聞かねばならないという覚悟が、絡み合っていた。
「ラプチャーに対抗するのであれば、私たちニケがいる。量産型だっている。それなのに……」
紅蓮の視線が、指揮官を射抜く。
「敢えて、人間を。敢えて、肉体を弄り回してまで、兵士を作る必要が、どこにあるのだ?」
一瞬、ブリーフィングルームの空気が凍りついた。
指揮官は、すぐには答えなかった。
答えたくない、という感情が、隠しきれずに表情に滲む。
やがて、絞り出すように口を開いた。
「……中央政府のお偉いさん達は、ニケの重要性は、理解している。だが――こうも考えたらしい」
言葉を区切り、苦い表情で続ける。
「『作るのに時間がかかり、高価なニケよりも』『より安価で、換えが利き、数を揃えられる兵士が必要だ』と」
その言葉が、冷たく、無慈悲に空間へ落ちる。
「……それが、彼らだ」
次の瞬間。
――ドンッ。
紅蓮の拳が、机を強く叩きつけた。
金属音が甲高く響き、誰かが息を呑む。
「では、なにか?」
紅蓮の声は、もはや抑えきれていなかった。
「中央政府の連中は……マスターを。あの男たちを――」
唇を噛みしめ、一語一語を叩きつける。
「最初から、捨て駒として使うつもりだったと、そう言いたいのかい?」
指揮官は、答えなかった。
否定も、肯定も、しなかった。
その沈黙が、すべてだった。
紅蓮は、ゆっくりと俯いた。
怒りは、もうなかった。
憎しみも、通り過ぎていた。
胸の奥に広がっていたのは、ただ――どうしようもない悲しみだけ。
彼も。
彼もまた――同じ道を歩かされたのだろうか。
守るべき人類のために。
誰かの未来のために。
自分の意思すら、選ぶことを許されず。
どんな恐怖を。
どんな痛みを。
どんな思いを抱えて。
それを、彼女は何一つ知らない。
そして――もう、直接聞くこともできない。
その事実が、静かに、しかし確実に、
紅蓮の心を締め付けていた。
ーーーーーー
紅蓮は、ブリーフィングが終わったあと、誰にも声をかけず、一人で艦内を歩いていた。
足取りは速くも遅くもない。
だが、その背中には、説明のつかない焦燥と、押し殺した感情が滲んでいた。
行き先は、決まっている。
考えるまでもなく、身体が自然とそちらへ向かっていた。
――あの部屋。
マスターと初めて言葉を交わし、語り合い、そして、想いを伝え合い、口づけを交わした場所。
最近の紅蓮は、甲板で彼の帰りを待つ時以外は、暇さえあればそこにいた。
理由は単純だった。
そこには、まだ彼が“いた”からだ。
扉を開けずとも、分かる。
あの部屋には、まだ彼の気配が残っている。
部屋の中に充満する、ひだまりとコーヒーの匂い。
そして、ほんの僅かに混じる、彼自身の体温の残滓。
それを思うだけで、胸の奥が締め付けられる。
そんな思考に沈んでいた紅蓮の足が、不意に止まった。
廊下の向こうから、低く抑えた笑い声が聞こえてきたのだ。
視線を向けると、数人の屈強な男たちが、壁際に集まり談笑していた。
その中に、先ほどブリーフィングルームで“軍曹”と呼ばれていた男の姿があった。
キメラ部隊。
遺伝子操作。
使い捨て。
そして、死を前提とした存在。
胸の奥で、嫌な感覚がざわつく。
だが、それ以上に――
紅蓮は、抑えきれない衝動に突き動かされていた。
気づけば、足が前に出ていた。
「……すまない。少し、いいだろうか?」
自分でも驚くほど、声は控えめで、遠慮がちだった。
男たちは一斉に談笑を止め、紅蓮を見る。
その視線に、敵意はない。
だが、どこか覚悟を決めた者だけが待つ特有の静けさがあった。
軍曹が一歩前に出て、きちんと姿勢を正す。
「これは紅蓮殿。いかがなさいましたか」
その態度に、紅蓮は一瞬だけ言葉に詰まる。
何をどう聞けばいいのか、分からなかった。
「……その……」
視線を泳がせ、言葉を選びながら、ようやく口を開く。
「マスター……ではないな。大尉殿とは、連絡は取れているのかい?」
その瞬間、軍曹達の表情が、わずかに曇った。
それは一瞬で、すぐに困ったような笑みに変わる。
「……申し訳ありません、紅蓮殿。私たちも、隊長とは連絡が取れていないのです」
その言葉は、想定していた答えだった。
それでも、胸の奥に、小さな痛みが走る。
「……そう、か」
紅蓮は、無理に口角を上げる。
「なら、仕方がないね。時間を取らせて、すまなかった」
それだけ言うと、踵を返し、歩き出そうとした。
だが――
「紅蓮殿。お待ちください」
背後から、軍曹の声がかかる。
紅蓮が振り返ると、軍曹は持っていた鞄に手を伸ばした。
「実は……隊長から、貴方宛に預かっている物があります」
そう言って、取り出されたのは、一枚の紙だった。
小さく、何度も折り畳まれている。
紅蓮は、戸惑いながらそれを受け取る。
「……これは……手紙?」
問いかけると、軍曹は軽く笑った。
「ご安心を。中身は、見ておりません」
紅蓮の胸が、きゅっと締め付けられる。
今すぐにでも、広げて読みたい。
だが、ここでは――できなかった。
「……ありがとう、軍曹殿。あとで、読ませてもらうとするよ」
そう言って、紅蓮は今度こそ、その場を後にした。
ーーーーーー
部屋に入ると、窓から夕焼けが差し込んでいた。
赤と橙に染まる光が、主を失った室内を静かに照らしている。
紅蓮は、いつものようにカウンターに腰掛け、慣れない手つきでコーヒーを淹れる。
香りは弱く、雑味が残る。
彼が淹れてくれたものとは、比べものにならない。
カウンターの上にカップを置き、その横に手紙を置く。
紅蓮は、しばらくの間、それを眺めていた。
小さく折り畳まれた紙。
よく見ると、端は少し歪み、皺が入っている。
――片腕を失った彼が、無理をして折ったのだろう。
「……ふふ」
小さく、笑みが零れる。
「彼らしいな……慣れないことをするからだよ」
そう呟きながら、紅蓮は丁寧に紙を広げていく。
広げた後、紅蓮は目を見開く。
そこに書かれていたのは、あまりにも簡潔な言葉だった。
『紅蓮。俺は大丈夫だ。 待っててくれ、必ず戻る。……愛している』
それだけ。
飾りも、言い訳も、長い説明もない。
艦を降りる直前、あるいは、ふとした隙に書いたのかもしれない。
それでも――
不思議なほど、その短い文が、紅蓮の胸を満たしていく。
待てども、待てども帰らない彼。
募る不安。
膨らみ続ける最悪の想像。
それらが、この紙切れ一枚で、静かに溶けていく。
気づけば、視界が滲んでいた。
ぽたり。
ぽたり。
手紙の上に、雫が落ちる。
「……っ……ふ……」
声が、震える。
「……全く……君というやつは……」
涙に濡れた目で、紅蓮はその手紙を撫でた。
まるで、彼の頬に触れるように。
何度も、何度も。
そして、コーヒーに手を伸ばし、一口含む。
不味い。
水臭い。
彼が淹れたものではない、それでも――微かに、彼の匂いがした。
紅蓮は、静かに目を閉じた。
彼を信じて、待つために。
ーーーーーー
紅蓮は、静かに目を開けた。
そこに広がっていたのは、何度見ても変わらぬ光景だった。
絶え間なく落ち続ける滝の音が、世界の鼓動のように耳を打ち、砕けた水飛沫は陽光を受けてきらめき、苔むした岩肌を濡らし、冷たい霧となって漂っている。
その麓に寄り添うように建てられた、小さな隠れ家。
粗末な造りではあるが、風雨を防ぐには十分で、長い年月をここで過ごしてきた痕跡が、木材の擦れや歪みに刻まれていた。
傍らには、小さな農園。
土は丁寧に耕され、野菜は決して豊かとは言えないが、確かな手入れの跡がある。
棚には、自ら仕込んだ蜂蜜酒が並び、瓶の中で静かに時を重ねていた。
――何年もかけて作り上げた、自分の居場所。
――自分の家。
紅蓮は木陰に横たわったまま、しばらく瞬きを繰り返した。
どうやら、うたた寝をしていたらしい。
身を起こすと、胸の奥に、かすかな痛みが残っていることに気づく。
それは肉体の痛みではない。
もっと、奥深いところに沈んだ、思い出の残滓だった。
「……また、昔の夢を見てしまった」
誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟く。
立ち上がり、軽く伸びをしながら、空を仰いだ。
「最近、よく見るね」
その声音には、夢の中で懐かしい顔に会えたことへの、確かな温もりと、
同時に、それが夢でしかないと理解している者だけが抱く、静かな悲しみが滲んでいた。
脳裏に、否応なく浮かび上がる。
――アークガーディアン作戦。
人類最後の賭け。
生き延びるための撤退。
そして、数えきれないほどの命を切り捨てた作戦。
仲間たちは、次々と倒れていった。
リリーバイスは戦死し、指揮官は後方へと回された。
それでも、部隊は最後まで戦い抜いた。
すべてが、最悪だった。
剣を振るい、血を浴び、叫び、祈り、そして、死にゆく仲間を看取った。
――アークに行けば、彼に会える。
その、たった一つの希望だけを胸に、紅蓮は戦い続けた。
だが、現実は無情だった。
ゴッデス部隊は、アークに迎え入れられることはなかった。
半ば見捨てられる形で、地上に取り残された。
恨んだ。
憤った。
惨めだと泣いた。
何度も、復讐のためにアークを破壊してやろうと思った。
――だが、できなかった。
私たちは、勝利の女神だから。
人類を守るために生まれた存在だから。
そして何より――
もしかしたら。
彼が、生きているかもしれない場所を。
自分の手で壊すことは、どうしてもできなかった。
紅蓮は、いつの間にか、腰の鞘にかけていた手に力が入っていることに気づく。
慌てて指を緩め、深く息を吐いた。
「……ふふ。いけないね」
自嘲気味に笑い、懐から一枚の紙を取り出す。
それは、もう読むことが難しいほど掠れた文字が書かれた、ボロボロの紙だった。
破れた箇所は何度もテープで補修され、折り目は柔らかく擦り切れている。
一目で分かる。
何度も、何度も、読み返されてきたのだと。
紅蓮はそれを愛おしそうに眺め、静かに立ち上がった。
「……さぁ。そろそろ、行くとするかね」
そう言って、彼女は歩き出した。
ーーーーーー
「やっと来たか」
白いニケ――スノーホワイトが、ゆっくりと歩み寄りながら、ぶっきらぼうに言う。
「スノーホワイト。そんな言い方はよくありませんよ」
ラプンツェルが、柔らかな笑みを浮かべて口を挟む。
「また、こうして会えたことを、素直に喜びましょう?」
紅蓮は肩をすくめ、苦笑した。
「すまないね。最近、夢見が悪くて、ろくに眠れてないんだよ」
その言葉に、ラプンツェルははっとしたように表情を曇らせる。
「……紅蓮、大丈夫ですか?ニケとはいえ、睡眠は大切です」
「私は大丈夫だよ」
そう言ってから、話題を変えるようにスノーホワイトを見る。
「ほら、スノーホワイト。さっき釣ってきた魚だ。これで機嫌を直してくれないかね?」
掲げられた大きな魚を見た瞬間、スノーホワイトの目が輝いた。
「……よし。すぐ食べよう。寄越せ。今だ」
涎を垂らしながら手を伸ばすスノーホワイトに、紅蓮は慌てて制止する。
「まぁ待ちたまえ。火を起こして焼こう。そのほうが、ずっと美味しい」
そうして、三人は静かな準備に取りかかった。
ーーーーーー
「美味かった。礼を言う」
魚を四匹平らげたスノーホワイトは、けぷっと可愛らしいげっぷをしながら満足げに言った。
紅蓮は顔を引きつらせつつ、苦笑する。
「……それはよかったよ。 まさか、そこまで食べるとは思わなかったがね」
ラプンツェルは丁寧に口元を拭きながら、ふと真剣な眼差しで紅蓮を見る。
「紅蓮……さっきの話ですが。どんな夢を見てしまうのです?」
紅蓮は、少し言い淀んだあと、静かに口を開いた。
「……彼の夢をね。マスターの夢を、最近よく見るんだ」
ラプンツェルは、くすりと微笑む。
「マスター……懐かしいですね」
スノーホワイトは首を傾げる。
「マスター?誰だ、それは」
彼女は、幾度もの思考転換の果てに、彼の記憶を失っていた。
ラプンツェルは、穏やかに、丁寧に、マスターのことを語って聞かせる。
「……そうか」
スノーホワイトは、ぽつりと呟いた。
「私が……お兄ちゃんと呼んでいた人なのか」
紅蓮は自嘲気味に笑う。
「待っても待っても、帰ってこない彼を待ち続けた時のことを、夢で何度も見てしまう」
小さく息を吐き、
「笑えるだろう? もう会えないと分かっていても……また会いたいと思ってしまう。 彼があの大戦を生き残っていたとしても、とっくに天寿をまっとうしているだろうにね」
紅蓮の悲しそうな顔を見ながら、ラプンツェルは、静かに首を振った。
「いいえ。そんなことはありません」
優しく微笑み、
「紅蓮が、どれほどマスターを想っていたか。私たちは、知っていますから」
紅蓮は、わずかに顔を赤らめる。
「……そんなにあからさまだったかい?」
「ええ。バレバレでしたよ」
ラプンツェルは楽しそうに笑う。
「あの頃の紅蓮は、乙女でしたから」
紅蓮は俯き、ぽつりと呟いた。
「……そうだったのかい。これは、恥ずかしいな」
ラプンツェルは静かに微笑む。
「私も、もう一度彼に会いたいです。あの頃の仲間に」
「あぁ……本当に」
紅蓮も微笑み、そう呟いた。
そして、表情を引き締め、スノーホワイトを見る。
「ところで……私たちに、提案があると聞いていたが?」
スノーホワイトは頷く。
「あぁ。今、アークにいるある部隊の指揮官と連絡を取っている」
「アークの指揮官……?」
紅蓮は眉を上げる。
「それで、私たちに頼むほどだ。何か問題があるのかい?」
スノーホワイトは、一拍置いてから言った。
「……あるニケを、預かってほしいそうだ」
「あるニケ?」
紅蓮が問い返す。
スノーホワイトは、静かに告げた。
「――そのニケは、元ヘレティックらしい」
その言葉が、滝の音に溶けながら、重く空気を震わせた。
紅蓮編の結末予想ーー!
-
やっぱり、ハッピーエンドだよね!
-
このクソ作者の癖が全開になりバッドエンド
-
紅蓮さんとマスターが2人旅するんだ!
-
アークに戻って喫茶店を営む日常に戻る