勝利の女神NIKKE 希望のカフェ   作:スウェーデンクラス

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ちょっと短いです汗
紅蓮達は、マスターの合流地点まで絶対に苦戦していないと思うので、書けるところが少ないですね汗
ただ、紅蓮がいつまでもマスターを想っている事を書きたかったのです!


ルート紅蓮 pt7

 

キンッ――

 

澄み切った金属音が、空気を裂いた。

 

それはあまりにも美しく、同時に一切の情けを含まない冷たい響きだった。

 

次の瞬間、巨大な金属の塊が地面へと崩れ落ちる。

重い衝撃が足元を震わせ、砕けた装甲片が乾いた音を立てて散らばる。

 

紅蓮はゆっくりと刃を払う。

 

血も油も付着していない、鏡のような刀身が一瞬だけ夕陽を反射した。

 

その動作には一切の無駄がない。

 

「流石ですね、紅蓮」

 

穏やかな声がかかる。

 

ラプンツェルが、今しがた両断されたラプチャーの残骸を見下ろしながら微笑んでいた。

彼女の声には素直な賞賛が込められている。

 

紅蓮は軽く肩をすくめ、鞘へ刀を収めた。

金属が収まる音さえ、どこか美しい。

 

「そんなに褒めるようなことかい? いつもと同じだろうに」

 

気負いのない口調。

だが、その背後には幾度となく死線を越えてきた者だけが持つ風格がある。

 

ラプンツェルは小さく首を振る。

 

「いいえ。いつ見ても……美しい所作なのです」

 

その言葉は誇張ではなかった。

紅蓮の剣は、破壊のための道具でありながら、どこか芸術的ですらあった。

 

そこへ、足音も軽くスノーホワイトが歩み寄ってくる。

 

「終わったか? こっちも終わった。先を急ごう」

 

短く告げると、彼女はすでに次の進路へと身体を向けていた。

 

紅蓮とラプンツェルは顔を見合わせ、同時に苦笑する。

 

「まったく。スノーホワイトはせっかちだね。もっとゆっくり行っても十分間に合うと思うがね?」

 

紅蓮の言葉に、スノーホワイトは歩みを緩めることなく首を振った。

 

「いや。このままでは合流時間に間に合わない。むしろ、早く着くくらいの方がいい」

 

その背中は、焦燥にも似た使命感を滲ませている。

 

やがて空はゆっくりと色を落とし始め、夕闇が大地を覆い始める。

 

「スノーホワイト。それも分かりますが……直に暗くなります。そろそろ野営しないと」

 

夕焼けの空を見上げたラプンツェルの落ち着いた声に、スノーホワイトはようやく立ち止まり、深く息を吐いた。

 

「ふぅ……分かった。場所を見つけて野営にしよう。……食料はあるか?」

 

紅蓮は待っていたとばかりに笑う。

 

「ほら、今日の昼間の休憩中にとっておいた魚があるぞ」

 

その言葉を聞いた瞬間、スノーホワイトの表情が露骨に輝いた。

 

「よし、あそこの屋根があるところで野営にしよう。急ぐぞ。早くしなければ、魚の鮮度が落ちてしまう」

 

先ほどまでの冷静さはどこへやら、彼女は足早に進み始める。

 

紅蓮はその背を見送り、呆れ半分に呟いた。

 

「やれやれ、そんなにすぐ鮮度は落ちぬと思うが……」

 

それでも口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。

 

ーーーーーー

 

夜。

 

焚き火の火は小さく抑えられ、赤い残光だけが静かに脈打っている。

周囲には虫の音と風のささやきが満ち、遠くで草木が揺れる音がかすかに響いていた。

 

紅蓮は野営地から少し離れた高所に腰を下ろし、景色を眺めていた。

視界いっぱいに広がる荒野は、月光に照らされて青白く沈んでいる。 

 

夜風が頬を撫でる。

土と緑の匂いが肺に満ち、冷たい空気が思考を研ぎ澄ませる。

 

足音が近づく。

 

「紅蓮? どうかしましたか?」

 

ラプンツェルだった。

 

紅蓮は振り返り、少しだけ気まずそうに笑う。

 

「いや? 何もないよ。ただ、こうやってラプチャー共が来ないか警戒していた」

 

もっともらしい言い訳だった。

 

ラプンツェルはその隣に静かに腰を下ろす。

彼女の長い金髪が夜風に揺れ、月明かりを受けて淡く輝いた。

 

「……眠れないのですか?」

 

優しい問い。

 

実際には、ラプンツェルのジャマー効果によって、この周辺でラプチャーが彼女たちを感知する可能性は極めて低い。

 

それを紅蓮が知らないはずはなかった。

 

紅蓮は何も答えない。

ただ、遠い闇を見つめたまま、いつもの微笑を浮かべ続けている。

 

ラプンツェルは少しだけ間を置き、静かに続けた。

 

「以前……マスターが夢に出てくることで、あまり眠れないと仰っていましたよね?」

 

その言葉に、夜の静けさが一瞬だけ重くなる。

 

紅蓮は否定も肯定もせず、沈黙を守った。

 

ラプンツェルは微笑み、柔らかい声で言う。

 

「……あまり無茶はしてはダメですよ。警戒なら私が交代します。ゆっくり横になってください。目を瞑るだけでも、身体は休まります」

 

その気遣いに、紅蓮はゆっくりと片膝を抱え、俯いた。

 

「……眠れないわけじゃないんだ」

 

低い声が漏れる。

 

「ただ、眠りたくないんだよ」

 

吐息のような告白だった。

 

「……最近は、眠ってしまうと必ず彼が夢に出てくる」

 

夜風が強く吹き、焚き火の残り香を運んでくる。

 

「何故だろうね。以前はこんな頻繁に、夢で彼が出てくることは無かったのだが……」

 

苦笑が浮かぶ。

だが、その笑みはどこか脆い。

 

ラプンツェルは気づく。

 

――弱っている。精神的に。

 

いつも毅然としている紅蓮が、ほんのわずかに揺らいでいた。

 

「……夢で、彼に会うのが怖いのですか?」

 

問いは静かで、温かかった。

 

紅蓮はしばらく答えなかった。

やがて、ゆっくりと言葉を絞り出す。

 

「怖くもあり……嬉しくもある」

 

視線は闇の彼方へ向けられたまま。

 

「夢で彼に会うと、安心する。……だが、夢は夢。現実は変わらない」

 

胸の奥に沈めていた痛みが、声に滲む。

 

「彼は既に、いないのだからね……」

 

その言葉は、夜の静寂に溶けるように消えていった。

 

ーーーーーー

 

「もしよかったら……どんな夢を見るのか、教えてもらっても?」

 

夜気に溶けるような、控えめな声だった。

 

ラプンツェルは月光に照らされながら、そっと紅蓮の横顔を窺う。

問いは何気ない体裁を装っていたが、その奥には彼女を案じる気持ちが静かに滲んでいた。

 

紅蓮は一瞬だけ沈黙し、それから苦笑する。

俯けていた顔をゆっくり上げ、からかうような視線をラプンツェルへ向けた。

 

「なんだい?そんなに、私とマスターが夢の中で“している”ことが気になるのかい?」

 

わざと強調された言い回しだった。

 

ラプンツェルの思考が一瞬停止する。

次の瞬間、頬がみるみるうちに赤く染まった。

 

「は?! 夢の中で“シている”? そ、それは、もしかして……彼の屈強な身体に、組み敷かれて…?! ハァ……ハァ……❤️」

 

想像が暴走したのか、彼女の表情は露骨なまでに緩み、呼吸すら怪しくなる。

 

それを目の当たりにした紅蓮は、さすがに顔を引き攣らせた。

 

「す、すまない。冗談だよ……」

 

慌てて謝罪すると、ラプンツェルは我に返ったように肩を震わせる。

 

「は?! もう! …揶揄うのはよしてください」

 

抗議の声には羞恥と安堵が入り混じっていた。

 

紅蓮は小さく笑い、今度は真面目な声で口を開く。

 

「そうだね……夢に彼がよく出てくるようなった当初は、私たちがまだゴッデスとして活動していた当時の頃を、よく夢で見ていたよ」

 

彼女の視線は遠く、夜の彼方へと溶けていく。

 

「彼の淹れたコーヒーを飲んで、二人で寄り添って、他愛のない話をする。そんな何気ない夢さ」

 

穏やかな光景だった。

戦場とは無縁の、ささやかで温かな時間。

 

ラプンツェルは胸の内で思う。

それは苦しみではなく、むしろ救いに近い夢なのではないかと。

 

だが、紅蓮の声はそこでわずかに沈んだ。

 

「でも……その夢の結末は、いつも同じでね」

 

夜風が吹き、草がざわめく。

 

「彼が私から離れていくんだよ。……どれだけ大きな声で呼んでも、振り向くことなく……闇の向こう側へ歩いて行ってしまう」

 

「夢の中で、何度も何度も、……別れを味わう」

 

その言葉は、何度も繰り返し味わった別離の重みを帯びていた。

 

ラプンツェルは眉を寄せる。

 

「……それは、お辛いですね」

 

夢の中でさえ、必ず訪れる別れ。

幸福の直後に突き落とされる喪失。

その反復は、心を静かに削っていく。

 

紅蓮はその同情に微笑みで応えたが、その笑みはどこか影を落としていた。

 

「だが……ここ最近は、違う内容の夢を見るんだ」

 

「違う夢……ですか?」

 

ラプンツェルが首を傾げる。

 

紅蓮は小さく息を吐いた。

 

「彼が――マスターが、私を迎えに来てくれるんだよ」

 

紅蓮は遠くを見る。

月明かりが彼女の横顔を照らす。

 

「ボロボロで、煤だらけで。“待たせた”なんて言ってね。……笑えるだろう?」

 

口元は笑っていた。

だが、その瞳には拭いきれない哀しみが揺れている。

 

「その夢を最近は毎日見る。……絶対に現実になることがない夢を」

 

囁きは、夜に沈んだ。

 

「……紅蓮」

 

ラプンツェルは悲しげに彼女を見る。

 

紅蓮は気分を振り払うように笑った。

 

「だから、眠るのが嫌なんだ。少しでも期待してしまうからね。……ほら、ラプンツェルは私のことを気にせず休むといい」

 

軽い口調とは裏腹に、その笑みには隠しきれない寂寥が滲んでいた。

 

ラプンツェルは何も言わず、そっと紅蓮の手を包む。

温もりが、静かに伝わる。

 

「どうしたんだい? ラプンツェル」

 

驚いたように問う紅蓮へ、彼女は柔らかく微笑んだ。

 

「紅蓮……貴女の悲しみを、私には到底すべてを知ることはできません」

 

静かな告白だった。

 

「もう会うことができないマスターと、夢の中で会うことを恐れるのは……当然です」

 

そして、少しだけ声に力を込める。

 

「ですが……こうも考えてみてください。……“夢の中で、また会える”と」

 

その言葉に、紅蓮の目が見開かれる。

 

ラプンツェルは優しく続けた。

 

「そう考えれば、寝るのが少しだけ、怖くなくなりませんか?」

 

夜は静かに彼女たちを包んでいる。

 

紅蓮はしばらく何も言わなかった。

やがて、ふっと力の抜けた笑みを浮かべる。

 

「……では、お言葉に甘えるとしよう」

 

立ち上がり、寝床へ向かいかけて――ふと足を止めた。

 

振り返り、ラプンツェルを見る。

 

「ありがとう」

 

短い言葉に、万感の想いが込められていた。

 

ラプンツェルはただ、柔らかく微笑み返す。

 

紅蓮は横になり、ゆっくりと目を閉じる。

胸の奥にあった硬い痛みが、わずかに和らいでいた。

 

今日は、夢を見るのが怖くなかった。

 

静かな呼吸とともに、意識が深く沈んでいき、やがて、紅蓮は、再び彼に会うかもしれない夢の中へと、そっと落ちていく。

 

そして、

 

『待たせたな、紅蓮』

 

紅蓮は夢の中で満面の笑みを彼に向けていた。

紅蓮編の結末予想ーー!

  • やっぱり、ハッピーエンドだよね!
  • このクソ作者の癖が全開になりバッドエンド
  • 紅蓮さんとマスターが2人旅するんだ!
  • アークに戻って喫茶店を営む日常に戻る
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