なかなか終わらなくてヒヤヒヤしてます。
どうか最後までお付き合い下さい。
あ、最期までお付き合い下さい。笑
感想などお待ちしてますー。
次はどのニケで描こうか今から考えてしまいます笑
エレベーターの扉が、低い金属音を立てて左右に開く。
その瞬間、冷たい地上の空気が流れ込み、閉ざされた箱の中に満ちていた緊張が一気に引き締まる。
先頭に立つラピが一歩踏み出し、銃口を静かに持ち上げた。
続いてアニス、ネオン、そして最後尾を守るようにマスターが展開する。
全員の視線が、廃墟と化した地上を鋭く走る。
かつて都市だった場所は、今やラプチャーに蹂躙された静寂の墓標のようだった。
崩れた建造物、裂けた道路、風に舞う砂塵。
そのどこから敵が現れてもおかしくない。
一秒が、長く伸びる。
「……クリア」
ラピが低く告げる。
その声に呼応するように、アニスとネオンが周囲の確認を終える。
「こっちもOKよ!」
「問題ありませんね!」
最後にマスターが全方位を見渡し、確信を込めて言った。
「オールクリア。指揮官、マリアン。出てきても大丈夫だ」
エレベーターの奥から、二人が姿を現す。
指揮官は一歩外へ出ると、即座に人差し指を回転させた。
「分隊集合だ」
その短い指示だけで十分だった。
訓練された動きで隊員たちは集結し、指揮官を扇の要に据えた陣形を取る。
唯一、マリアンだけが指揮官のすぐ横に寄り添い、不安げに周囲を見回していた。
彼女の視線は落ち着きなく揺れ、廃墟の静けさに怯えているようだった。
指揮官は地図を広げ、指で一点を示す。
「よし。これよりスノーホワイトとの集合場所へ向かう」
声は冷静だったが、その奥にわずかな硬さがあった。
「目標はここだ。距離にして徒歩で二日。途中、ラプチャーとの遭遇も想定し、余裕を持って前進する。質問は?」
誰も口を開かない。
沈黙は、任務への理解と覚悟の証だった。
だが、その沈黙を破る小さな声があった。
「ところで、今からどこにいくんですか?」
マリアンだった。
無垢な疑問が、空気を一変させる。
全員が言葉を失った。
視線がわずかに揺れ、互いをかすめる。
マスターはその様子を静かに観察しながら、内心で察していた。
――まだ、伝えていないのか。
アニスがぎこちなく口を開く。
「ええと……いいところ、かな」
苦しい誤魔化しだった。
「?……それはどこです?」
マリアンは首を傾げ、さらに問いを重ねる。
純粋な好奇心。疑うことを知らない声。
答えを持ちながら、誰も言葉にできない。
沈黙が、重く沈む。
「指揮官? どこにいくのですか?」
まっすぐな視線が指揮官へ向けられる。
指揮官はほんの一瞬、息を詰めた。
そして無理に笑みを作る。
「……新しい、友達を紹介したいんだ」
その笑顔は、ひび割れた仮面のように、悲しみを押し殺し、どうにか形を保っている。
だがマリアンは、その裏にあるものに気づかない。
ぱっと顔を輝かせ、無邪気に笑った。
「うーん、私、新しい友達はいりません! ラピとアニスとネオンがいいです!」
その言葉は、屈託のない信頼そのものだった。
そして、彼女は駆け寄るようにマスターへ近づき、その腕に抱きつく。
「それに、今はマスターもいます! だから、新しい友達はいりません!」
柔らかな笑顔が向けられる。
その無垢さは、刃のように胸を突き刺す。
指揮官は言葉を失う。
喉まで込み上げた何かを、必死に飲み込む。
「……指揮官?」
沈黙に不安を覚えたマリアンが呼びかける。
指揮官は目を伏せ、そして顔を上げた。
「……っ……分隊、三メートル間隔で前進する。急ごう」
それだけを告げる。
「……ラジャー」
ラピの返答は短く硬い。
「……うん」
アニスの声は低い。
「……はい」
ネオンもまた、静かに応じる。
誰も余計な言葉を発しないまま、部隊は動き出す。
瓦礫を踏みしめる足音だけが、乾いた空気に響いた。
取り残されるような感覚に、マリアンの表情が曇る。
「指揮官?……ラピ?……アニス?……ネオン?」
一人ずつ名前を呼びながら、小走りで後を追う。
その声には、小さな不安が滲んでいた。
マスターは何も言わず、ただ彼女の歩調に合わせて隣を歩く。
守るように、寄り添うように。
荒廃した地上の静寂の中で、言葉にならない想いだけが、重く隊の上にのしかかる。
誰もが同じ方向を見て歩きながらも、それぞれが違う痛みを胸に抱えて。
そしてその中心で、マリアンだけが――まだ何も知らないまま、必死に皆の背中を追いかけていた。
ーーーーーー
一行はしばらく無言のまま進み続けたのち、倒壊した建物の内部で足を止めた。
かつては商業施設か何かだったのだろう。
天井は半ば崩れ、外壁の一部は失われ、そこから外の景色が大きく切り取られて見えている。
瓦礫が散乱する室内は決して安全とは言えないが、周囲を一望できるこの場所は、警戒には最適だった。
ラピたちが持ち場を決め、静かに周囲の監視に入る。
マスターは崩れた壁際に立ち、地上の光景を見つめていた。
久しく踏みしめていなかった大地。
だが眼前に広がる世界は、彼の記憶にある地上とは似ても似つかない姿をしていた。
かつて街だった場所は骨組みだけを残した廃墟となり、崩れ落ちたビルの隙間からは無数の草木が芽吹いている。
コンクリートを割って伸びる緑は、静かで、しかし圧倒的な生命力を湛えていた。
風が吹き抜け、葉が擦れ合う音がささやく。
「……人間が住まなくなると、地上はここまで緑豊かになるものなのか……」
思わず漏れた呟きは、どこか感嘆を含んでいた。
マスターはゆっくりと深呼吸する。
胸いっぱいに流れ込む空気は、地下の閉ざされた空間では決して味わえない清涼さを持っていた。
「ふぅ……。空気がうまい……久しく忘れていた感覚だ」
自然と口元が緩む。
その様子を見ていたラピが静かに歩み寄った。
「マスター。久しぶりの地上は如何ですか?」
穏やかな問いかけに、マスターは苦笑する。
「複雑な気持ちだ。俺達が守っていた頃の地上は、緑なんて全く無くてな。見渡す限りコンクリートだらけだったんだが…」
彼は視線を遠くへ投げる。
「……だが、俺は今の地上の方が好きだな」
廃墟の中で息づく自然を見つめるその目には、不思議な安らぎが宿っていた。
そばで話を聞いていたアニスが肩をすくめる。
「人間は、破壊しすぎだったってわけね」
皮肉混じりの言葉に、マスターは小さく笑った。
否定はしない。
その沈黙こそが答えだった。
やがて彼は視線を巡らせ、指揮官の姿を見つけると歩み寄る。
声が周囲に届かないよう、距離を詰めて小さく問う。
「マリアンに、本当のことを告げなくてもいいのか?」
指揮官の目がわずかに揺れた。
彼は反射的にマリアンの方を見る。
少女は崩れた壁際で、ひらひらと舞う蝶を追いかけ、無邪気に笑っていた。
その姿は、この荒廃した世界の中でひどく場違いなほど純粋だった。
指揮官の表情が柔らかくなる。
「……本当のことを告げれば、彼女は嫌がり、拒否するだろう」
静かな声だった。
「だが、アークは彼女にとって休める場所じゃない。……これが最善なんだ」
その言葉には、苦い現実が滲んでいた。
自らが守るべき場所でありながら、同時にマリアンを縛る檻でもあるという事実。
マスターは何も言い返さない。
ただその横顔を見つめる。
そこにあるのは、愛情ゆえに嘘を選び、すべてを背負おうとする男の覚悟。
「そうか。これはお前達、部隊の問題だ。だから、俺は何も言わん」
静かに告げた後、マスターは一拍置く。
「……ただ、一つだけ助言だ」
低く、重い声だった。
「親しい者に――特に好いている者に、優しい嘘だとはいえ、嘘を吐かれるのは耐え難いものだ。それを忘れるな」
その言葉は、現在の指揮官へ向けられながら、同時に過去の自分へ突き刺さっていた。
――必ず戻る。
かつて紅蓮にそう約束した日の記憶が、胸の奥で疼く。
戻れなかった自分。
待ち続けたであろう彼女。
紅蓮は何を思ったのだろう。
裏切られたと涙したのか。
それとも、ただ無事を祈り続けたのか。
答えはもう、どこにもない。
その悔恨が、言葉に重みを与えていた。
指揮官はしばらく沈黙した後、静かに頷く。
「……あぁ、分かっている」
短い返答だったが、その声には決意が込められていた。
マスターは小さく笑う。
「そうか。それならいいんだ」
そして背を向ける。
「……後悔はするなよ」
その一言だけを残し、彼は再び警戒の持ち場へ戻っていった。
残された指揮官は、遠くではしゃぐマリアンの姿を見つめる。
崩壊した世界の中で咲く、小さな光のような笑顔。
その光を守るために、自分は何を選ぶべきなのか。
瓦礫の隙間を吹き抜ける風が、答えのない問いだけを運んでいく。
ーーーーーー
倒壊した建物の一角に、ひとときの静けさが落ちていた。
外では風が瓦礫を撫で、遠くで軋む金属音がかすかに響いている。
だがこの空間だけは、不思議なほど穏やかな空気に包まれていた。
マスターはマリアンの隣へ腰を下ろすと、背嚢を静かに降ろした。
無駄のない動作で留め具を外し、中からいくつかの道具を取り出して地面に並べていく。
小型のガスバーナー。
傷のついた金属製の鍋。
銀色に鈍く光る筒状の器具。
彼の手つきは慣れたもので、まるで戦場ではなく、自宅の台所にいるかのような落ち着きを帯びていた。
バーナーに火が灯り、小さな青い炎が揺れる。
鍋に注がれた水が、かすかな音を立てながら温まり始める。
その様子を不思議そうに眺めていたマリアンが、小首を傾げる。
「マスター?それはなんですか?」
問いかけに、マスターは柔らかく笑い、手にしていた銀色の器具を軽く掲げた。
「これはな、ハンドミルっていうんだ」
「ハンドミル、ですか?」
聞き慣れない言葉に、マリアンの瞳がさらに丸くなる。
「あぁ。コーヒー豆を挽く為の道具だ」
そう言って彼は蓋を開け、豆を入れると、ゆっくりとハンドルを回し始めた。
ザリ……ザリ……と、乾いた心地よい音が静かな空間に溶けていく。
その音はどこか懐かしく、戦場の緊張を少しずつほどいていくようだった。
挽きたての粉をフィルターに移し、スチール製のコップにセットする。
ちょうどその頃、鍋の水は湯気を立て始めていた。
マスターは火を弱め、慎重にお湯を注ぐ。
細い湯の筋が粉を湿らせ、ふわりと膨らむ。
その瞬間、芳醇な香りが室内に広がっていく。
深く、温かく、どこか甘い香り。
「うわぁ……!いい匂いです!」
マリアンの声が弾む。
無垢な喜びがそのまま音になったような響きだった。
マスターはゆっくりとコップを差し出す。
「ほら」
「? 私にですか?」
驚いたように見上げるマリアンに、彼は微笑む。
「マリアンの為に淹れたんだ」
その言葉に、少女の顔がぱっと明るくなる。
両手で大事そうにコップを包み込み、息を吹きかけながら慎重に口をつける。
次の瞬間、彼女の眉がきゅっと寄った。
「……少し、苦いです……」
涙目で呟くその様子に、マスターは思わず笑みを漏らす。
「そうか。だったらこれを入れてみよう」
取り出したのは小さなポーションクリームとシロップだった。
「本当なら、ミルクと生クリームなんかを入れてやりたいんだが、今は外だからな。これで我慢してくれ」
白いクリームと透明な甘味が黒い液体に溶け、ゆっくりと色が変わっていく。
深い黒がやわらかな茶色へと変化する様子を、マリアンは息を呑んで見つめていた。
「凄いです……!魔法みたいです!」
再び口をつける。
今度は、満面の笑みが咲いた。
「美味しい……!さっきより甘くて、苦く無くて、温かいです……!」
その無邪気な喜びに、マスターの胸の奥が静かに温かくなる。
彼はただ微笑み、ちびちびと大事そうに飲む彼女を見守っていた。
やがて、静かに呼びかける。
「マリアン」
「何ですか?」
顔を上げた少女に、マスターは真剣な眼差しを向けた。
「いいか?これから先、何があっても指揮官とラピ達を信じてやれ。アイツらは、君のことを本気で大切に思ってる」
低く、しかし確かな言葉だった。
マリアンは一瞬きょとんとしたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。
「私はいつでも、指揮官とラピ達を信じています。……もちろん、マスターのことも!」
迷いのない声だった。
「私はみんなの事が大好きです!」
その真っ直ぐな言葉に、マスターは目を見開く。
胸の奥に、何かが静かに触れた気がした。
すぐに優しく笑い、
「そうか、ありがとうな」
と告げて、大きな手で彼女の頭を撫でた。
マリアンは嬉しそうに目を細め、その手の温もりを受け入れる。
その時――
「なになに?すごくいい匂い!」
アニスが鼻をひくつかせながら現れる。
「とても芳醇な香りですね」
ネオンが興味深そうに周囲を見回す。
「コーヒーか……久しぶりにこの匂いを嗅いだな」
指揮官が疲れを滲ませた声で呟き、
「……マスターと同じ匂いがしますね」
ラピが控えめに言った。
マリアンは慌ててコップを胸に抱き寄せる。
「こ、これは、マスターが私にくれたものです!」
必死な宣言に、その場の空気がふっと和らぐ。
マスターは小さく笑った。
「大丈夫だ、マリアン。みんなの分もある。今淹れよう」
再び手を動かし、一人ずつ丁寧にコーヒーを淹れていく。
「すご〜い!本当にマスターだったのね!」
アニスが笑いながら口をつける。
「“本当に”は余計だ」
軽口が交わされ、小さな笑いが広がる。
廃墟の中で立ち上るコーヒーの香りと、ささやかな談笑。前哨基地で張り詰めていた緊張は、温かな湯気とともにゆっくりとほどけていった。
戦場の只中に生まれた、束の間の安らぎ。
その時間を、誰もが無言で大切に味わっていた。
紅蓮編の結末予想ーー!
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やっぱり、ハッピーエンドだよね!
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このクソ作者の癖が全開になりバッドエンド
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紅蓮さんとマスターが2人旅するんだ!
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アークに戻って喫茶店を営む日常に戻る