勝利の女神NIKKE 希望のカフェ   作:スウェーデンクラス

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もう少しで完結です。
もうしばらくお付き合いください。
ハッピーエンドなのか、悲恋なのか。
作者もまだ悩んでおります。


ルート紅蓮 pt10

乾いた大地を踏みしめる足音が、規則正しく続く。

 

荒野はどこまでも広がり、瓦礫の海はやがて低くなり、代わりに剥き出しの土と岩肌が支配する風景へと変わっていく。

遠くには、わずかに起伏する地形――合流地点へと続く、最後の道。

 

その先を見据えながら、指揮官が静かに口を開いた。

 

「あと少しで合流地点だ」

 

その一言は、重い。

 

だが同時に――確かな安堵を含んでいた。

 

誰からともなく、息が漏れる。

 

長く張り詰めていた緊張が、ようやく終わりに近づいているという実感。ここまで誰一人欠けることなく辿り着いたという事実。

 

だが――

 

その中で、マリアンは、小さく息を詰まらせていた。

 

それは安堵ではない。

 

むしろ、胸の奥に押し込めていた何かが、ここにきて浮かび上がってきたかのような――そんな、揺らぎ。

 

その様子に、指揮官は気づいていた。

 

歩みを止めることなく、そっと手を伸ばす。

 

そして、マリアンの頭に軽く触れた。

驚いたように顔を上げる彼女に、指揮官は微笑む。

 

「大丈夫だ。今から会う人はいい人だ。親切にしてくれる」

 

その言葉は、説明ではない。

 

保証でもない。

ただ――安心させるための、まっすぐな言葉。

 

マリアンの表情が、わずかに緩む。

 

「…はい…!」

 

小さく、それでも確かに頷く。

その返事に、指揮官はもう一度だけ優しく頭を撫でた。

 

その空気を、ふっと和らげるように。

 

「そうね。無口で、食に貪欲なところはあるけど、いい人なのは間違い無いわね」

 

アニスが、わざとらしく肩をすくめながら言う。

 

その口調は軽く、からかうようでもあるが――意図は明白だった。

マリアンの緊張をほぐすため。

 

「おや?それを言うなら、アニスも食にうるさいじゃ無いですか。いつもいつも“誰よ?!私のパーフェクト食べたの?!”って怒ってませんでしたっけ?」

 

すかさずネオンが乗る。

どこか楽しげに、わざとらしく記憶を掘り起こすように。

 

「ちょっと?!そんなに煩くしてないわよ?!」

 

アニスが顔を赤くして反論する。

そのやり取りは、“いつも通り”だった。

 

戦場の緊張とは無縁の、ささやかな日常の断片。

 

マリアンは、それを見て――

ふっと、胸の奥が温かくなるのを感じた。

 

言葉にしなくても分かる。

 

彼女たちは、自分のために、こうして振る舞ってくれている。

その優しさが、何よりも確かなものとして、伝わってくる。

 

そして――

もう一人。

 

同じように、しかし全く別の理由で。

 

緊張を抱えたまま歩いている男がいた。

 

マスター。

 

その歩みは変わらない。

 

だが、その内側は――決して静かではなかった。

 

約束。

 

かつて交わした、必ず戻ると誓った言葉。

 

だがそれは果たされることなく、時間だけが過ぎていった。

 

孤独。

 

後悔。

 

そして――恐怖。

 

再会できるかもしれないという期待と、再会した時に拒まれるかもしれないという不安。

 

そのすべてが、胸の奥で渦巻いている。

そんな彼の隣で。

 

ラピが、静かに手を伸ばした。

 

マスターの腕に、そっと触れる。

わずかな温もり。

驚いたように、マスターが視線を向ける。

 

ラピは、微かに微笑んでいた。

 

「さぁ、行きましょう。もうすぐ合流です。……私達が一緒にいます」

 

その言葉は、短い。

だが、その中に込められたものは――決して軽くはなかった。

 

孤独ではない。

一人ではない。

 

それを、ただ伝えるためだけの言葉。

マスターは一瞬、言葉を失う。

 

予想していなかったのだろう。

だがすぐに、その表情は柔らかくほどける。

 

「ありがとう」

 

それだけを、静かに返した。

 

そして――

その時は、唐突に訪れた。

 

マスターは、足元を見ながら歩いていた。

 

一歩一歩、確かめるように。

だが、不意に。

 

「着いたぞ。……あちらさんはもう来てるみたいだな」

 

指揮官の声が、前方から響く。

 

わずかに呆れたような、しかしどこか楽しげな響き。

 

予定よりも早い到着。

 

それでも、すでに相手がいるという事実。

 

その言葉に、マスターはゆっくりと顔を上げた。

 

視界が、開ける。

 

荒野の先。

 

わずかに盛り上がった地形――丘のようなその頂に。

 

三つの影があった。

 

距離にして、およそ一キロ。

 

人影として認識できる程度の、遠さ。

 

だが――

 

分かった。

 

理由など、必要なかった。

 

『彼女がいる』

 

その確信だけが、胸を貫く。

鼓動が、跳ね上がる。

 

耳の奥で、自分の心臓の音がやけに大きく響く。

息が、浅くなる。

 

「あぁ……」

 

漏れたのは、声にならない声。

 

やっと――

やっと、会える。

 

果たせなかった約束を、今度こそ。

 

「紅蓮……」

 

その名が、吐息とともに零れ落ちる。

視界の向こう。

その影の一つが、動いた。

 

ゆっくりと。

 

こちらへ向かって、歩き出す。

唐傘を被ったような、その輪郭。

 

間違いない。

 

だが――

その歩みは、あまりにも弱々しかった。

 

かつての彼女ならば、考えられないほどに。

 

一歩、一歩。

 

確かめるように、進んでくる。

 

たった一キロ。

 

だが――

その距離は、あまりにも遠い。

 

今すぐにでも駆け寄りたい。

 

抱きしめたい。

 

確かめたい。

 

それなのに、その距離が――

 

邪魔をする。

 

「……紅蓮ッ!!」

 

マスターが、叫ぶ。

 

抑えきれなかった。

 

胸の奥から溢れたその声は、荒野を突き抜けて響いた。

 

その声に、影が反応する。

 

「……マスターッ!!」

 

返ってきた声。

 

それだけで、すべてが確信へと変わる。

 

あぁ――

 

間違いない。

 

紅蓮だ。

 

その名が、心の中で何度も繰り返される。

 

走り出そうとする。

 

距離を、すべて無意味にするために。

 

その腕で、彼女を抱きしめるために。

 

だが――

 

その瞬間。

 

背後から。

 

“それ”は、響いた。

 

咆哮。

それは、これまでに聞いたどんな音とも違っていた。

 

ただ大きいのではない。

ただ重いのでもない。

 

空気そのものを震わせ、大地を揺らし、存在そのものを叩きつけるような――圧倒的な音。

 

天を貫くかのように。

荒野全体を支配するかのように。

 

それは、世界そのものが唸り声を上げたかのようだった。

 

マスターの足が、止まる。

全員が、振り返る。

 

その咆哮は――

 

明らかに、“異常”だった。

 

ーーーーーー

 

荒野の中央に、わずかに盛り上がった地形があった。

 

かつては何かの構造物の基礎だったのか、それとも地殻の歪みによって隆起したものなのか――判別はつかない。ただ、周囲よりも一段高いその場所は、見晴らしがよく、戦場においては理想的な監視点だった。

 

その頂に、三つの影が立っている。

 

風が吹き抜けるたびに、砂が流れ、長い影が揺れた。

 

「ここが、合流地点だ。……アイツらはまだみたいだな」

 

周囲を鋭く見渡しながら、スノーホワイトが呟く。

 

その視線は止まらない。死角を潰すように、地形の陰、瓦礫の隙間、遠方の起伏――すべてを一つ一つ確認していく。その姿は、まさに“警戒”そのものだった。

 

「そんなに、急くことでもあるまい?約束の時間にはまだなってないんだろ?」

 

その背を見ながら、紅蓮が苦笑を浮かべる。

 

声音は穏やかで、どこか余裕すら感じさせるものだったが――その奥底には、別の感情が潜んでいた。

 

「そうですね。約束の時間までまだ時間はあるのですから、ここで、ゆっくり待ちましょう」

 

ラプンツェルが柔らかく言葉を重ねる。

 

その微笑みは、荒野の中にあってなお、異質なほどに優しかった。張り詰めた空気を少しだけ和らげるような、そんな存在。

 

スノーホワイトは一度だけ深く息を吐く。

 

「確かに、その通りだ。……よし、あの盛り上がっている地形で待機しよう。あそこなら周囲を見渡せる」

 

短く判断を下し、顎で丘を示す。

 

それに応じて、紅蓮とラプンツェルも頷いた。

 

「わかった。そうしよう」

 

「分かりました」

 

三人は、ゆっくりとその頂へと移動する。

 

そして――

 

丘の上に立った時、視界が一気に開けた。

 

どこまでも続く荒野。

 

遠くに見える、崩壊した都市の残骸。

 

風に削られ、静まり返った世界。

 

その中央で――紅蓮は、一人、遠くを見つめていた。

 

その横顔は、静かだった。

 

だが、そこに宿るものは単純ではない。

 

憂い。

 

期待。

 

そして、どこか清々しさすら感じさせる、奇妙な均衡。

 

どちらにも傾ききらない、その曖昧さが――かえって彼女を際立たせていた。

 

彫刻のように整った輪郭。

 

風に揺れる髪。

 

ただそこに立っているだけで、周囲の風景そのものが意味を持つかのようだった。

 

やがて、その隣にラプンツェルが並ぶ。

 

「紅蓮?あれからどうですか?」

 

柔らかな声。

 

あの日の夜の記憶が、二人の間に静かに流れる。

 

夢の中で、もう会えないはずの人と出会ってしまうこと。

 

それを“喪失”として受け止めるのではなく、“再会”として捉えるという助言。

 

その小さな言葉が、どれほどの救いになったのか――ラプンツェルは知っている。

 

紅蓮は、しばし視線を遠くに置いたまま、答える。

 

「そうだね。もう眠るのは怖くないよ。……ただ、目が覚めてから少しの間は、やはり、胸にくるものがあるがね……」

 

その声音は、穏やかだった。

 

完全に癒えたわけではない。

 

だが、受け入れている。

 

それが、分かる。

 

ラプンツェルは、優しく微笑み返す。

 

「いつまでも、好いた人を想うのは、乙女の特権みたいなものですよ」

 

その言葉に、紅蓮は小さく笑った。

 

「ふふっ。私が乙女かい?」

 

少しだけ茶化すように。

 

だが、どこか照れを含んだ声音。

 

ラプンツェルは頷く。

 

「えぇ、あの方を想っている時、貴女は誰よりも乙女の顔になっていますよ」

 

その言葉に、紅蓮はもう一度笑う。

 

今度は、少しだけ深く。

 

二人の間に、柔らかな空気が流れる。

 

ほんの短い時間。

 

戦場であることを忘れさせるような、穏やかなひととき。

 

だが――

 

それは、長くは続かない。

 

「おい、来たようだぞ」

 

低い声が、空気を引き締めた。

 

スノーホワイトが、いつの間にか二人の元へ戻ってきていた。

 

その視線は、すでに遠方を捉えている。

 

紅蓮とラプンツェルも、同じ方向へと目を向ける。

 

荒野の向こう。

 

かすかに動く影。

 

やがて、それが“隊列”であることが分かる。

 

規則的な動き。

 

一小隊規模。

 

確かに、こちらへ向かっている。

 

「まだこちらには気付いてはないようだ。……?」

 

紅蓮が目を細める。

 

遠くを見通すように、視線を研ぎ澄ます。

 

そして――

 

小さく呟いた。

 

「聞いていた話では、こちらが預かるニケは1人のはずではなかったかね?」

 

その言葉に、スノーホワイトが短く応じる。

 

「そう聞いているが…?」

 

ラプンツェルも続く。

 

「おや?それでは、1人多いですね」

 

違和感。

 

それは、ほんの小さなズレだった。

 

だが――戦場において、その“わずか”は決して軽視できない。

 

スノーホワイトは即座にライフルを構える。

 

無駄のない動作でスコープを覗き込み、遠方の隊列を詳細に観察する。

 

沈黙。

 

数秒。

 

そして――

 

「指揮官とその部隊、そして、例のニケは確認できるが……あと1人は誰だ?」

 

声に、わずかな警戒が混じる。

 

「大分大柄だな、おそらく男。武装してる」

 

その一言が、空気を変えた。

 

紅蓮の思考が止まる。

 

男。

 

ニケではない。

だが――この戦場に立っている。

 

あり得ない。

 

通常の人間では、ラプチャーとの戦闘には耐えられない。

 

それは常識だ。

 

だが。

 

例外が、ある。

 

たった一人の男と、彼が率いていた部隊。

 

常識を覆した存在。

 

かつて――

 

約束を交わした男。

その記憶が、胸の奥で軋む。

 

鼓動が、わずかに速くなる。

理由は分からない。

 

だが、確かに。

胸の奥が、ざわつき始めていた。

 

風が、吹く。

 

遠くの影が、少しずつ大きくなる。

距離が、縮まっていく。

 

そして――

運命もまた、確実に近づいていた。

 

ーーーーーー

 

荒野の空気が、わずかに張り詰めていく。

 

距離は確実に縮まっていた。

 

最初はただの影に過ぎなかったものが、次第に輪郭を持ち、形となり、やがて“個”として認識できるほどに近づいてくる。

 

一歩、また一歩。

 

その歩みは遅い。

 

だが、確実だった。

 

そして――その度に。

 

紅蓮の胸が、締め付けられる。

 

呼吸が、浅くなる。

 

いや――呼吸そのものを、忘れかけていた。

 

ニケの視界は、人のそれを遥かに凌駕する。

遠くの細部までを捉え、わずかな動きすら見逃さない。

 

だからこそ――分かってしまう。

あまりにも、はっきりと。

 

件の男は、俯いていた。

顔は見えない。

 

だが――そんなことは問題ではなかった。

 

歩き方。

 

重心の置き方。

腕の振り。

足運びの僅かな癖。

 

そのすべてが――

 

“彼”だった。

 

否定しようとしても、否定できない。

 

紅蓮が、どれだけその背中を追い、記憶し、刻み込んできたのか。

それを、身体が覚えている。

 

勝利の翼号の甲板。

 

何度も、何度も。

待ち続けた。

探し続けた。

 

だが――

 

決して、現れることのなかった存在。

 

その“はず”の男が。

 

今、目の前にいる。

 

機械仕掛けの心臓が、激しく脈打つ。

 

鼓動が、耳の奥で鳴り響く。

うるさいほどに。

 

抑えようとしても、抑えられない。

 

「……そ、んな」

 

掠れた声が、漏れる。

現実が、追いつかない。

 

「ありえ、ない」

 

否定する。

何度も、何度も。

 

そんなはずはない、と。

 

あの大戦の後――

彼は後方へと送られた。

 

治療を受け、その後は。

 

アークで、静かに生を終えたか。

あるいは――

どこかの戦場で、既に散っているはずだ。

 

だから。

 

ここにいるはずがない。

いる“わけがない”。

 

そう、言い聞かせる。

 

だが――

心の奥底で。

 

消しきれないものがある。

 

『もしかしたら』

 

その、たった一つの可能性が。

すべての否定を、容易く覆していく。

 

やがて――

男が、立ち止まる。

 

そして。

ゆっくりと、顔を上げた。

 

「……ッ!!」

 

その瞬間。

 

紅蓮の視界が、揺らぐ。

何かが、滲む。

それが何なのか、理解するよりも早く。

 

ただ、見えた。

 

その顔が。

 

間違いない。

 

間違えようがない。

 

時間が止まる。

 

そして同時に――

 

すべてが、動き出す。

 

足が、前へと出る。

意識するよりも先に。

 

ゆっくりと。

だが、確実に。

 

一歩。

また一歩。

 

その歩みは、弱々しい。

 

普段の紅蓮からは想像もできないほどに。

 

だが――

 

その一歩一歩には、確かな力が込められていた。

 

止められない。

止まれない。

 

男もまた、気づいたのだろう。

 

こちらを、凝視している。

だが、その表情には、まだ確信がない。

信じきれていない。

 

それは、当然だった。

 

「……ぁ。どうして……。ここに…」

 

紅蓮の声は、震えていた。

 

言葉にならない。

 

だが、歩みは止まらない。

近づく。

ただ、それだけを求めて。

 

その時――

 

声が、響いた。

 

力強く。

抑えきれず。

 

「……紅蓮ッ!!」

 

その一言が――

すべてを、断ち切った。

 

堰が、壊れる。

 

その瞬間、紅蓮の目から、涙が溢れ出した。

止めることなど、できない。

 

頬を伝い、次々と零れ落ちていく。

だが、拭おうともしない。

 

ただ、そのまま。

 

「……マスターッ!!」

 

叫ぶ。

その名を。

 

再び会えた。

ようやく。

長い、長い時間を経て。

 

最愛の人に。

 

その現実が、胸を満たす。

 

紅蓮は、駆け出そうとする。

 

もつれる足。

震える身体。

それでも――動かす。

 

彼に触れるために。

抱きしめるために。

確かめるために。

 

これは夢ではないと。

 

だが――

その足は。

 

強制的に、止められた。

 

大地が、震える。

空気が、裂ける。

 

背後から――

 

“それ”は、現れた。

 

巨大な影が地を押し割るように、その姿を現す。

 

ラプチャー。

 

だが――これまでのどれとも違う。

 

異様なまでの質量。

異様なまでの存在感。

 

まるで、大地そのものが起き上がったかのような巨体。

 

その出現だけで、空気が変わる。

音が、消える。

 

いや――圧し潰される。

 

紅蓮の足が止まる。

マスターの動きも、止まる。

 

全員が、その“異物”へと視線を奪われる。

 

再会の瞬間は――

無慈悲に、引き裂かれた。

 

それはまるで。

運命そのものが、二人の間に立ちはだかったかのようだった。

 

紅蓮編の結末予想ーー!

  • やっぱり、ハッピーエンドだよね!
  • このクソ作者の癖が全開になりバッドエンド
  • 紅蓮さんとマスターが2人旅するんだ!
  • アークに戻って喫茶店を営む日常に戻る
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