終わらないぞ?(^◇^;)
紅蓮編なぜか力が入ってめちゃ長編になっちゃう(^◇^;)
待っていてくださる方々がいるのであれば、もう少し作者の駄文にお付き合いください。
感想などもお待ちしてます。
あ、次のニケは、艦長か、メイドか、学生、科学者か、今までのニケの続編にしようと計画してます。
ちなみに、ラピ、アニス、ネオン、マリアンには手を出しません笑
目の前で。
本当に、目の前で。
マスターは――消し飛んだ。
紅蓮は、その光景を理解できなかった。
いや。
理解することを、脳が拒絶していた。
つい数秒前まで、確かにそこにいた。
笑っていた。
名前を呼んでくれた。
再び会えたのだと、そう思えた。
ようやく。
やっと。
長い長い時間を越えて、手が届くのだと。
そう、思ったのに。
その全てが、一瞬で消えた。
轟音と衝撃。
吹き荒れる砂塵。
そして――喪失。
あまりにも突然で。
あまりにも理不尽で。
心が、現実を受け止めきれない。
紅蓮は、その場に立ち尽くしていた。
目の焦点は合っていない。
ただ、虚空を見つめている。
何を見ているのか、自分でも分からない。
視界は開いているはずなのに、世界がぼやけていた。
耳の奥では、何かが鳴っている。
籠った音。
まるで深い水の中に沈められたような感覚。
誰かが叫んでいる気がした。
銃声も聞こえる。
爆発音も。
だが、それらは全て遠い。
現実感がない。
世界が、一枚隔てられているようだった。
途中。
誰かが、横を通り過ぎた。
カウンターズだった。
何かを叫ばれた気がする。
逃げろ、とか。
早く、とか。
そんな類の言葉だったのかもしれない。
だが――どうでもよかった。
何も、頭に入ってこない。
もう。
どうでも、よかった。
そして。
タイラント級が、動く。
大地を軋ませながら、ゆっくりと。
まるで山そのものが歩いているような重々しい動き。
その巨体が近づくたび、空気が震える。
圧倒的な存在感。
絶対的な暴力。
だが、紅蓮は動かなかった。
逃げることも。
構えることも。
ただ、そこに立っていた。
やがて。
タイラント級は、紅蓮の目の前までやって来る。
巨大な影が、彼女を覆った。
見上げれば、空を塞ぐほどの巨体。
本来なら、その場にいるだけで恐怖に膝を折るような存在。
だが。
紅蓮は、何も感じなかった。
タイラント級は、その巨大な頭部をわずかに動かす。
まるで紅蓮を確認するように。
だが――
攻撃は、しない。
踏み潰しもしない。
腕を振り下ろすこともない。
ただ。
そのまま、通り過ぎていく。
まるで。
そこにいる紅蓮など、最初から存在していないかのように。
あるいは。
脅威ですらないと断じたかのように。
無視。
それは、攻撃よりもなお残酷だった。
愛する人を奪われ。
その仇にすら、相手にされない。
だが。
紅蓮は、それでも動かなかった。
否。
動けなかった。
感情が、追いついていない。
怒りも。
悲しみも。
絶望すらも。
まだ、形になっていない。
ただ、胸の奥に空洞だけが広がっていた。
やがて。
タイラント級の巨体が、彼女の横を通り過ぎていく。
地鳴りだけを残して。
紅蓮は、ゆっくりと顔を上げた。
そして――歩き出す。
ふらつく足取りで。
一歩ずつ。
まるで夢遊病者のように。
向かう先は、一つだった。
ついさっきまで。
マスターが立っていた場所。
再会できたのだと。
そう信じられた場所。
彼が。
笑って、自分の名を呼んでくれた場所。
そこへ向かって。
紅蓮は、歩き始める。
何かに導かれるように。
ただ、そこへ行かなければならないと。
それだけを胸に。
ゆっくりと。
壊れた世界の中を。
ーーーーーー
「マスター?!」
悲鳴にも似た声が、荒野に響く。
マリアンだった。
その声には、信じられないものを見てしまった者の恐怖と、大切な存在を失いかけた者の絶望が混じっていた。
カウンターズは、マスターが時間を稼いでいる間に後退していた。
だが。
その最中で見てしまったのだ。
タイラント級の腕が振り下ろされ。
マスターの身体が、衝撃と共に吹き飛ばされる瞬間を。
あまりにも一方的だった。
あまりにも理不尽だった。
「嘘でしょ?!」
アニスが叫ぶ。
その顔から血の気が引いていた。
ネオンも息を呑む。
だが次の瞬間、彼女は足を止めた。
「クッ!待っててください!今行きます!!」
反射だった。
考えるよりも先に身体が動いていた。
踵を返し、マスターの元へ戻ろうとする。
「ネオン待って!私も行くわ!援護して!」
ラピもまた、即座に並ぶ。
その瞳には明確な覚悟があった。
たとえ相手がタイラント級でも。
仲間を見捨てるという選択肢など、最初から存在していない。
だが――
「止めるんだ!!まずはアイツと距離を取る!」
鋭い怒声が飛ぶ。
指揮官だった。
その声は、これまでにないほど切迫していた。
ラピとネオンが思わず動きを止める。
驚いたように、全員が指揮官を見る。
そして――その顔を見た瞬間。
誰も、反論できなくなった。
そこにあったのは、冷徹な判断ではない。
苦渋だった。
歯を食いしばり。
自分自身を押し殺し。
それでも部隊を生かすために命令を下している男の顔。
悔しさと。
怒りと。
無力感。
その全てを呑み込んだ上で、なお前を向こうとしている表情だった。
マリアンが、理解できないというように叫ぶ。
「指揮官!待ってください!まだ、マスターは生きてます!はやく戻って助けましょう!」
涙声だった。
必死だった。
首を横に振る。
嫌だ、と。
認めたくない、と。
まるで子供のように。
指揮官は、そんなマリアンの腕を強く掴む。
「急ぐんだマリアン!アイツは君を狙っている!」
叫ぶ。
その声には焦燥が滲んでいた。
タイラント級が現れた理由。
その視線。
その行動。
全てが示していた。
狙いは、マリアンだ。
ここで立ち止まれば。
救助に向かえば。
全員が死ぬ。
それが分かっていた。
だからこそ、指揮官は前へ進ませるしかなかった。
たとえ――仲間を置き去りにする形になったとしても。
走る。
砂煙を巻き上げながら。
後ろを振り返りそうになる自分を、無理矢理押し込めながら。
その最中。
彼らは、一人のニケの横を通り過ぎる。
白い笠のようなものを被った女。
先ほど、マスターに“紅蓮”と呼ばれていた存在。
ついさっきまで遥か彼方にいたはずなのに。
いつの間にか、ここまで辿り着いていた。
常識外れの速度。
だが。
その本人は――動いていなかった。
虚ろな目で。
ただ、マスターがいた場所を見つめている。
焦点の合わない瞳。
壊れたように。
世界から切り離されてしまったように。
「こっちだ!君も来るんだ!!」
指揮官が叫ぶ。
だが、反応はない。
聞こえていないのか。
あるいは――理解できていないのか。
今、起きたことを。
マリアンには、紅蓮が今にも崩れ落ちそうに見えた。
立っていることだけで精一杯のように。
魂が抜け落ちてしまったかのように。
その時だった。
ズシン――と。
大地を揺らしながら、タイラント級が再び動き始める。
巨体が、こちらへ向かってくる。
紅蓮など眼中にない。
ただ、獲物を追うように。
圧倒的な質量が迫る。
絶望が、背後から歩いてくる。
その瞬間。
空気を裂くように、一筋の閃光が走る。
白熱した光が一直線に飛翔し、タイラント級へ直撃する。
次の瞬間――轟音と共に爆発する。
その衝撃が巨体を揺らす。
予想外の一撃だったのか、タイラント級の身体が大きくよろめいた。
足元の地面が崩れ、砂塵が巻き上がる。
全員が反射的に閃光の飛来した方向を見る。
そこにいたのは――
スノーホワイト。
巨大火器《セブンスドワーフ》を展開し、膝射の体勢でライフルを構えていた。
白銀の髪が風に揺れる。
その姿は、まるで荒野に立つ狙撃の女神のようだった。
「こっちまで来い!!援護する!」
力強い声が響く。
それを聞いた指揮官は即座に叫ぶ。
「小隊!スノーホワイトの所まで走れ!援護はスノーホワイトに任せる!!」
『了解!!』
ラピ。
アニス。
ネオン。
全員が即座に返答する。
もう迷わない。
生き残るために走る。
マリアンもまた、涙を堪えながら走り出す。
だが。
途中で、振り返ってしまう。
そこには、紅蓮がいた。
ゆっくりと。
まるで時が止まった世界に一人だけ取り残されたように。
マスターが立っていた場所で。
ただ、立ち尽くしていた。
ーーーーーー
クレーターだった。
タイラント級の一撃によって抉り取られた大地は、まるで隕石でも落ちたかのように巨大な穴を穿っている。
その中心で――紅蓮は立ち止まっていた。
風が吹く。
巻き上がった砂塵が、まだ空気中を漂っている。
焦げた臭い。
砕けた鉄骨。
崩れたコンクリート。
そして――何もない。
ついさっきまで。
本当に、ついさっきまで。
ここに、マスターは立っていた。
こちらを見て。
笑って。
名前を呼んでくれた。
“会えた”と思った。
長い、長い時間の果てに。
ようやく。
やっと。
再び会えたのだと。
なのに。
今は、もういない。
生きている可能性など、考えられないほどに吹き飛ばされた。
あまりにも一瞬だった。
抱き締めることも。
触れることも。
その温もりを確かめることすらできなかった。
あと少しだった。
本当に、あと少しで。
手が届く距離だったのに。
何も、できなかった。
やっと、出会えたのに。
「……どこに、いるんだぃ……?」
喉の奥から、無理やり絞り出したような声だった。
か細く。
弱々しく。
今にも消えてしまいそうな声。
紅蓮は、その場にしゃがみ込む。
そして。
両手で砂を掘り始めた。
ザッ、ザッ――
乾いた音が響く。
必死に。
何かに取り憑かれたように。
「…さっきまで、ここに立ってたじゃ無いか……」
ザッ、ザッ――
砂を掻く。
掘る。
探す。
そこにいるはずだと。
まだ、どこかにいるはずだと。
やがて、砂の中から、硬い感触が現れる。
倒壊したビルのコンクリート片だった。
おそらく、衝撃で地中から露出したのだろう。
だが。
紅蓮は止めない。
爪を立てる。
何度も。
何度も。
ガリッ、ガリッ――
コンクリートを掻く音が響く。
「…マスター…。…マスター…!!」
呼ぶ。
泣きそうな声で。
子供のように。
何度も、何度も。
やがて、爪が剥がれる。
真っ白だった指先が裂け、赤く染まっていく。
血が流れる。
だが、痛みなど感じていなかった。
ただ。
掘る。
探す。
失いたくない一心で。
だが――
やがて。
音が、止まった。
紅蓮は、ゆっくりと立ち上がる。
その動きは、壊れた人形のようにぎこちなかった。
虚ろな目が、ゆっくりと背後を向く。
その先には――
タイラント級。
マスターを消し飛ばした怪物。
今は、カウンターズとスノーホワイトたちを相手に暴れていた。
砲撃と爆発と閃光。
それらを浴びながらも、怪物は止まらない。
「…また、奪うのか……」
紅蓮が、呟く。
掠れた声。
「…私から……」
やっと会えたのに。
やっと。
ようやく。
その瞬間。
脳裏に、マスターの顔が浮かぶ。
こちらを見て、優しく笑っていた。
『紅蓮』
そう呼んでくれた。
「……また、オマエが……!!」
感情が、弾ける。
憎い。
憎い。
憎い。
憎い。
ニクい。
その瞬間。
紅蓮の姿が――消えた。
地面が爆ぜる。
衝撃だけを残して。
ーーーーーー
その頃。
カウンターズは、スノーホワイトとラプンツェルの援護を受けながら、タイラント級との距離を取っていた。
「くるぞ!!」
スノーホワイトの怒声。
それに反応し、ラピたちは即座に散開する。
直後。
巨大な砲撃が地面を抉る。
爆炎が起こり、衝撃と共に砂塵が舞い上がる。
だが、全員が紙一重で回避していた。
「関節部分を狙うんだ!他の場所より装甲は脆いはずだ!」
指揮官の号令が飛ぶ。
「ネオン!足止めをお願い!」
ラピが叫ぶ。
「任せてください!」
ネオンがショットガンを連射する。
細い身体が、反動で大きく揺れる。
それでも止まらない。
ただ仲間を守るために撃ち続ける。
「指揮官様!マリアンを連れて、もうちょっと後ろに下がって!!」
アニスがグレネードランチャーを放つ。
その顔には、いつもの調子はなく。
ただ、仲間のために恐怖を殺して戦っていた。
タイラント級の進路を無理やり逸らしながら、二人を守る。
「分かった!マリアン下がるぞ!」
指揮官が振り返る。
だが。
そこにいたマリアンは――膝をついていた。
俯いたまま。
肩を震わせながら。
「…私のせいで、マスターが……。私のせいで……」
呟いている。
自分を責めるように。
壊れたように。
指揮官は、その腕を掴む。
「マリアン!!」
鋭い声。
マリアンが、はっと顔を上げる。
涙で濡れた瞳。
指揮官は、強く告げた。
「悲しむのは後だ!…今はこの場を乗り越えるのが先決だ。…悲しむ時間は、後でいくらでもある」
その言葉は。
自分自身に向けたものでもあった。
マリアンは涙を溜めたまま、小さく頷く。
指揮官は彼女を連れ、後方へ下がる。
一方。
スノーホワイトとラプンツェルは並び立ち、射撃を続けていた。
「紅蓮はどこにいる…?!」
セブンスドワーフを展開したまま、スノーホワイトが叫ぶ。
「わかりません!」
ラプンツェルも叫び返す。
当然だった。
百年。
百年もの間、想い続けた相手。
もう二度と会えないと思っていた人。
その人に、やっと再会できた。
なのに。
その瞬間を、目の前で奪われたのだ。
そんなもの。
すぐに受け入れられるはずがない。
ラプンツェルは心の中で叫ぶ。
『紅蓮…!』
だが。
戦場は待ってくれない。
タイラント級が暴れる。
強靭な装甲。
圧倒的な火力。
まるで我々のことなど“邪魔”だと言わんばかりに。
そして――
その動きが変わる。
「ッ?!」
指揮官が気づく。
タイラント級が、その巨大な腕を振り上げていた。
絶望的な質量。
絶望的な射程。
「全員!避けろぉーーーーー!!」
叫ぶ。
だが。
全員が理解していた。
『あれは、避けられない』
長すぎる。
巨大すぎる。
今さら回避など間に合わない。
死。
その文字が、全員の脳裏を過ぎる。
そして――
振り下ろされる、その瞬間。
空間が、裂ける。
キンッ――
甲高い音が鳴り響く。
次の瞬間、タイラント級の腕が。
根本から、斬り落とされていた。
鮮血のように火花が噴き上がる。
巨腕が、地面へ轟音と共に落下する。
そして。
その怪物の前に。
一人の影が立っていた。
白い笠。
風に揺れる長髪。
握られた刀。
紅蓮だった。
その瞳には、もはや悲しみすらなかった。
あるのは、ただ純粋な殺意。
「オマエは……コロス!!」
低く。
地獄の底から響くような声を響かせる。