おわらねぇ!!
助けてクレェ!!
思考転換の設定と、休眠剤の設定は完全捏造です。
めちゃ長くなるので2分割にしました。
次すぐ出します。
誰もが、自分の目を疑っていた。
ほんの数秒前まで。
紅蓮は、タイラント級の遥か後方にいたはずだった。
崩れ落ちるように立ち尽くし。
魂を失ったような目で、マスターが消えた場所を見つめていた。
それなのに。
次の瞬間には、タイラント級の目前に現れ、その巨大な腕を切り落としていたのだ。
常識では考えられない速度だった。
ニケは人間を遥かに凌駕する身体能力を持つ。
跳躍力も。
瞬発力も。
戦闘能力も。
だが、それでも限度というものがある。
今の紅蓮は、その限界すら置き去りにしていた。
まるでーー憎悪だけで動いている亡霊のように。
「紅蓮……?」
ラプンツェルが、思わずその名を呼ぶ。
だがその声には、安堵ではなく、強い不安が滲んでいた。
違う。
何かが違う。
長い時間を共に過ごしてきたからこそ分かる。
今の紅蓮は、“いつもの紅蓮”ではなかった。
紅蓮は、呼ばれた方向へゆっくりと顔だけを向ける。
ギギ、と。
まるで錆びついた機械のような動きだった。
そして、その顔を見た瞬間。
ラプンツェルの背筋に、凍るような悪寒が走る。
「……ッ?!」
息を呑む。
そこにあったのは、怒りではない。
悲しみでもない。
憎悪。
ただ純粋な、黒く濁った憎悪だけだった。
他の感情が、全て焼き切れてしまったかのような顔。
その目。
その表情。
その雰囲気。
ラプンツェルは、過去に何度か見たことがあった。
侵食を受けたニケ。
思考転換を起こしたニケ。
そして――ヘレティック。
人類を守る存在だったはずのニケが、壊れ、変質し、別の何かへ変わっていく瞬間。
あの、取り返しのつかない変貌。
「まずい!紅蓮!!」
ラプンツェルが叫ぶ。
だが。
紅蓮は反応しない。
まるで声など届いていないかのように。
次の瞬間。
その姿が消えた。
地面が砕ける。
衝撃波だけが遅れて広がる。
そして。
紅蓮は、タイラント級の眼前に現れていた。
「……シね」
低い、冷たい声。
感情の熱すらない。
まるで、処刑を告げる死神の声。
刹那。
紅蓮の刀が閃く。
キィィィン――!!
甲高い金属音。
次の瞬間。
タイラント級の残っていた腕が、根本から切断される。
巨大な鋼鉄の腕が宙を舞い、地面へ落下した。
タイラント級が、悲鳴にも似た機械音を発し、その巨体からは想像もつかない速度で後方へ跳躍する。
まるで本能的に理解したかのように。
『コレは危険だ』と。
だが。
タイラント級は止まらない。
切断された断面から、装甲が蠢く。
ガコン、ガコン、と各部の装甲が移動し、変形し、新たな腕部を形成していく。
異形。
まるで生き物のような再構築。
そして。
次の瞬間。
全身の装甲が開く。
無数の火砲。
ミサイルポッド。
砲門。
怪物は、全武装を紅蓮へ向けた。
ーーーーーー
「……なにあれ、圧倒的じゃない」
アニスが、呆然と呟く。
彼女の視線の先では、紅蓮が暴風のように戦っていた。
「あぁ……あそこまで強いのか」
指揮官も低く呟く。
圧倒されていた。
タイラント級。
本来なら、部隊単位で周到な準備をして挑むべき怪物。
それを、紅蓮はたった一人で押している。
だが。
マリアンだけは違った。
彼女は指揮官の隣で、不安そうに紅蓮を見つめていた。
戦っている。
勝っている。
それなのに。
何故か、酷く危うく見える。
まるで、壊れながら戦っているように。
同じように。
スノーホワイトもまた、冷や汗を流していた。
ほんの一瞬だけ見えた、紅蓮の顔。
あれは、人の顔ではなかった。
感情が抜け落ち。
何か別のものに塗り潰されたような顔。
戦士ではない。
怪物へ変わる寸前の顔だった。
「スノーホワイト!!」
ラプンツェルが駆け寄ってくる。
スノーホワイトはハッと我に返る。
そして即座に指示を飛ばした。
「急げ!紅蓮が戦っているうちに戦闘態勢を整える!」
その声に、指揮官が頷く。
「わかった!各員!装備を点検しろ!点検が終われば配置に着く!」
「ラジャー!いつでもいけます」
ラピが即座に応答する。
「オッケー!リロードするからちょっと待って!ネオン!予備の弾薬頂戴!」
アニスがグレネードランチャーへ再装填を始める。
「はいはい!」
ネオンが予備弾薬を渡しながら、ふと紅蓮を見る。
そして、ぽつりと漏らした。
「これ、私たちもう出番なく無いですか?」
その言葉に。
指揮官とアニスも、改めて紅蓮を見る。
そこでは。
もはや“戦闘”と呼ぶには苛烈すぎる光景が繰り広げられていた。
飛来するミサイルを、紅蓮は、それを全て空中で両断し、伸びる触手のような腕部は振るわれる度に、切り落とされる。
爆炎の中を突き進み。
砲火の中を駆け抜け。
斬る。
斬る。
斬る。
その姿は美しく。
同時に、恐ろしかった。
……まるで、自らの損傷など最初から存在しないかのように。
痛みも。
限界も。
何もかも無視しているようだった。
指揮官が喉を鳴らす。
アニスは苦笑混じりに呟く。
「…確かにね。もう出番は無いかも」
誰もが、勝てると思い始めていた。
だが。
その空気を、鋭く断ち切る声が響く。
「だめです!!あのまま戦闘を続けさせては!」
ラプンツェルだった。
あまりにも必死な声。
その場の全員が驚く。
だからこそ。
スノーホワイトは即座に異常を察した。
「…紅蓮に何かあったのか」
低く問う。
沈黙。
重苦しい空気。
ラプンツェルは一瞬だけ迷う。
だが。
意を決したように口を開く。
「…紅蓮は、おそらく今、思考転換を起こしかけています」
その言葉に、空気が凍った。
思考転換。
ニケにとって、それは死よりも恐ろしいもの。
人格の崩壊。
精神の破壊。
そして、自我の喪失。
ラプンツェルは続ける。
「あのまま戦闘を続けさせたら、もう戻れなくなるかもしれません」
誰も言葉を発せなかった。
紅蓮は勝っている。
だがその代償として、自分自身を壊している。
その時。
今まで黙っていたマリアンが、そっと指揮官の袖を引く。
震える声で。
けれど、はっきりと。
「指揮官。あの人……あのままじゃ、手遅れになります」
そう告げた。
ーーーーーー
「分隊!タイラント級を総攻撃! 奴を破壊する!!」
指揮官の怒号が、戦場へ響き渡った。
その声には、恐怖を押し潰すような強さがあった。
もう退けない。
ここで止めなければならない。
タイラント級を。
そして――紅蓮を。
「ラジャー! 火力集中!!」
ラピが即座に応答する。
ライフルを構え。
呼吸を整え。
迷いなく引き金を引く。
乾いた銃声が連続し、放たれた弾丸がタイラント級の関節部へ突き刺さる。
「任せて! もうひと遊びよ!!」
アニスが笑う。
だがその額には汗が滲んでいた。
グレネードランチャーを構え、一気に撃ち込む。
空気を裂く炸裂音。
擲弾が次々と怪物へ叩き込まれ、爆炎がその巨体を包み込む。
「私の究極の火力を御賞味あれ!」
ネオンが叫びながらショットガンを乱射する。
凄まじい反動で小柄な身体が跳ねる。
それでも撃つ。
撃ち続ける。
散弾が装甲を削り、剥がし、火花を撒き散らす。
「指揮官は私が守ります!」
マリアンが前へ出る。
マシンガンが咆哮する。
放たれる弾幕は、まるで豪雨だった。
絶え間なく。
一瞬たりとも止まらず。
怪物へ浴びせられる。
カウンターズの全ての火力が、タイラント級へ突き刺さる。
集中した火力は、まさしく暴力だった。
紅蓮との戦闘で、既にタイラント級は満身創痍だった。
装甲は裂け。
内部構造は露出し。
再生機構にも限界が見えている。
そんな状態で浴びせられる総攻撃。
流石のタイラント級も、耐え切れなかった。
後退し、巨体が揺らぐ。
装甲が弾け飛ぶ。
関節部が爆発し、火花と破片を撒き散らす。
タイラント級が咆哮する。
耳障りな機械音。
それは怒りのようでもあり、困惑のようでもあった。
『何故だ。何故、自分がここまで追い詰められている』
そんな理解不能を叫んでいるような咆哮。
「よし! このまま押し切れ!!」
指揮官が叫ぶ。
勝機は見えていた。
そしてその瞬間。
彼の脳裏に、少し前の会話が蘇る。
ーーーーーー
紅蓮とタイラント級が激突していた頃。
ラピとアニスが前線で攻撃を続ける中。
指揮官たちは瓦礫の陰へ集まっていた。
指揮官。
マリアン。
スノーホワイト。
ラプンツェル。
緊迫した空気。
その中で、ラプンツェルが静かに口を開く。
「思考転換を止める方法はいくつかあります」
その声音は落ち着いていた。
だが、その奥には焦燥があった。
「ですが、一番効果的なのは、強制的にニケを眠らせることです。……つまり、シャットダウンさせるということ…」
指揮官が頷く。
「あぁ、それは知っている」
彼は懐から一本の注射器を取り出す。
万が一のために常備されているもの。
「だが、これは使ったことがない。副作用のことも知っているはずだ。第一、どうやってあんな状態の彼女にこれを打ち込む?」
指揮官は苦々しく言う。
注射器の中身は強制休眠剤だった。
ーーーーーー
強制休眠剤。
それは、ニケという存在にとって、最後の安全装置とも呼ぶべき薬剤だった。
本来、ニケは極めて高い精神耐性を持つ。
どれほど凄惨な戦場に立たされようとも、どれほど理不尽な死を目撃しようとも、人類を守るために戦い続けるよう設計されている。
だが、それでもなお。
積み重なる絶望は、心を蝕む。
仲間の断末魔。
瓦礫の下から伸びた、助けを求める手。
守れなかった命。
届かなかった願い。
そして――もう二度と会えないと理解してしまった、大切な人。
そうした“耐え切れない感情”が限界を超えた時、ニケの精神は、自らを守るために変質を始める。
思考転換。
それは単なる暴走ではない。
人格の崩壊。
価値観の反転。
愛情が憎悪へ変わり、守護の意思が破壊衝動へ塗り潰される現象。
人類のために戦っていたはずのニケが、人類そのものを敵と認識し始める。
その末路がどれほど悲惨かを、人類は何度も見てきた。
だからこそ存在する。
強制休眠剤という、“最後の楔”が。
薬剤を投与されたニケは、強制的に意識を停止させられる。
脳波を沈静化し、暴走しかけた精神活動を無理やり眠らせることで、思考転換の進行を食い止めるのだ。
だが、それは決して万能の救済ではない。
むしろ、その行為は――ある意味で、心を切り捨てる行為に近かった。
精神が壊れかけるほどの感情。
思考転換を引き起こすほどの記憶。
薬剤は、それらを“危険因子”として扱う。
そして、眠りから覚めた時。
ニケはしばしば、その記憶を失う。
どこまで消えるかは分からない。
昨日の出来事だけの場合もある。
数年分の記憶が抜け落ちることもある。
時には、自らの存在理由そのものを忘れる個体すらいた。
だが、多くの場合、失われるのは――“最も強い感情と結びついた記憶”だった。
戦場で倒れた戦友。
焼け落ちた故郷。
守れなかった約束。
そして。
心から愛した人の記憶。
だからこそ、この薬剤は忌避されていた。
それは命を救う薬であると同時に、“その者の人生”を奪いかねない薬でもあったからだ。
本来ならば、使わずに済むなら、それが一番いい。
十分な拘束設備。
安全な後送。
時間をかけた精神安定処置。
そうした環境が整っているなら、誰もこの薬を選ばない。
だが、戦場には“待つ時間”など存在しない。
仲間を撃ち殺す前に。
敵へ堕ちる前に。
取り返しのつかない境界線を越える前に。
誰かが、決断しなければならない。
たとえ、その代償として――
その者が、大切だった記憶を失うとしても。
だから、強制休眠剤を使う瞬間、そこにいる誰もが引け目を感じる。
それは単なる医療行為ではない。
誰かの過去を、涙を、愛を、痛みを、
“奪うかもしれない”と理解した上で下す、残酷な選択だった。
ーーーーーー
紅蓮は、タイラント級と互角以上に渡り合っていた。
速度。
破壊力。
殺意。
どれを取っても異常。
近づくだけでも命懸けだった。
そんな彼女へ接近し、注射を打つなど。
不可能に近い。
そこで。
指揮官は、ふとマリアンを見る。
先ほどの言葉。
“手遅れになる”。
それが引っかかっていた。
「マリアン。さっき、手遅れになると言ったな。……それは何故だ?」
問われたマリアンは、一瞬俯く。
言葉を探すように。
そして、小さく口を開いた。
「……上手く言えないんですけど」
震える声。
「……あの人と、少しずつ、何か繋がりみたいなものが出来るのを感じます」
その瞬間。
指揮官の表情が変わる。
ヘレティック同士は、互いの存在を知覚できる。
つまり。
元ヘレティックであるマリアンが、紅蓮を“感じ始めている”ということは。
紅蓮が、ヘレティックに近づいている証だった。
時間がない。
もう、本当に。
「……ソイツが例のニケか?」
スノーホワイトが静かに問う。
指揮官は頷く。
「あぁ。彼女が元ヘレティックのニケ。マリアンだ」
「そうか」
スノーホワイトはそれ以上追及しなかった。
ただ、ゆっくりと立ち上がる。
「まずは、紅蓮のお陰で消耗しているタイラント級を撃破する」
低く。
確かな声。
「あの怪物が健在では、紅蓮を眠らせることなど不可能だ」
スノーホワイトはライフルを構える。
「その後、紅蓮へ近づき、眠らせる。……これしか無い」
ラプンツェルも頷く。
「えぇ。それしかありません」
そして、俯く。
祈るように。
「思考転換を起こしかけているとはいえ……まだ、私たちの声は届くはずです」
指揮官は、静かに注射器を差し出した。
「一本しかない。失敗はできない」
受け取ったスノーホワイトは、強く握り締める。
それを、ラプンツェルは悲しそうな目で見つめる。
自分たちの判断が間違っていないと信じるように。
そして。
「……紅蓮を、人類の敵にはしない」
そう告げた。
ーーーーーーー
そして今。
総攻撃を浴びたタイラント級は、なお立っていた。
全身の装甲は抉り取られ。
内部構造は剥き出し。
機体を震わせながら、苛立つように咆哮する。
それでも。
倒れない。
その姿は、まさしく怪物だった。
「全く、まだ倒れないの?」
アニスが顔を引き攣らせる。
「もう弾もありません……」
ネオンが汗を流しながら呟く。
ラピとマリアンは、黙ってタイラント級を見据える。
その時だった。
「セブンスドワーフ! フルアクティブ!! 貫けぇぇぇ!!」
スノーホワイトの咆哮。
次の瞬間。
眩い閃光が走る。
極大出力の一撃。
それは一直線にタイラント級を貫いた。
轟音と共に怪物の巨体が大きく仰け反る。
そして。
抉れた装甲の奥から――コアが露出する。
一瞬の隙。
だが、それで十分だった。
気づけば、タイラント級の目の前に、一人の影が立っていた。
紅蓮。
白い笠。
血のように油に濡れた刀。
その顔には、何の感情も浮かんでいない。
ただ。
瞳の奥にだけ、黒い憎悪が燃えていた。
「……シネ」
静かな声。
そして、一閃。
あまりにも美しい斬撃だった。
次の瞬間。
タイラント級のコアが、真っ二つに裂ける。
怪物の動きが止まる。
そして。
ゆっくりと。
まるで山が崩れるように。
タイラント級は、その巨体を地へ倒した。
轟音と砂塵。
終わった。
誰もがそう理解する。
だが――その場に立つ紅蓮だけは。
終わっていない。
彼女は一人。
刀を片手に立っていた。
虚ろな目で。
何も映していないような瞳で。
ただ、そこに立っていた。
もし次するなら 基本1話完結で考えてます
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D(リメイク)
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ルドミラ(続き)
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アイラ(続き)
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メアリー(続き)
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ジャッカル(続き)
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デルタ(続き)
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クロウ
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エード
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ヘルム
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マクスウェル
-
この中に無い!笑