勇者と魔王の遊戯   作:大乃正生

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第三十話 「エレナ・カワードvsヴェスティ」

 

エミリーが「さぁ!第一試合開始だぁぁぁ!!!」と声高々に宣言したと同時に、花火が上がる。本戦の開始を合図するその花火によって観客の歓声は上がり続けていた。

 

そんな観客たちの見つめる先の演舞場。その演舞場内にてエレナ・カワードとヴェスタリアはお互いに三メートルほどの距離を取り対峙している。

 

「私のゴブちゃんのエサにしちゃうんだから!」

 

「物騒すぎる...」

 

「ゴブちゃんは人食べないもん!」

 

「どっちだよ!?」

 

エレナがヴェスタリアを指差し、決め台詞を言った時に引き気味に答えたヴェスタリア。そのヴェスタリアの反応に不満そうに頬を膨らませて訂正するエレナ。

 

エレナはそんなことを言いながらも、ゴブリンの召喚を止める気配がなく、エレナの周りにはゴブリンが大量にいた。

 

「私のゴブちゃん軍隊には誰も勝てないんだから!」

 

元気いっぱいと言った様子で、ヴェスタリアを指差し宣言する。エレナの後ろの地面では、魔法陣が展開され、その魔法陣からは大量にゴブリンが召喚されている。

 

召喚されたゴブリンの一匹がヴェスタリアに向かって走りだす。

 

「行けぇぇ!ゴブちゃんッ!!」

 

走り出したゴブリンに声援を送るエレナ。そのエレナを応援する様に観客の男たちも、エレナに声を掛ける。

 

「やっちまえ嬢ちゃん!」

「そのイケすかねぇ男をやっちまえ!」

「イケメンがなんだって言うんだよ!」

「いけぇ!」

「でも、ゴブリンはないわ...」

 

エレナに声援がかかり、得意気なドヤ顔でヴェスタリアを見ているエレナ。ヴェスタリアは頬を掻き苦笑いをする。

 

「...アウェーすぎる...」

 

「ふふん、みんな私とゴブちゃんの味方だもん!」

 

「ギャギャ!!」

 

ゴブリンさえも、笑っているように見える。

 

ヴェスタリアは腰を低く落とし構えをとり、走ってきたゴブリンのお腹を掌で叩き、エレナの場所まで吹き飛ばす。

 

「グギャッ!?」

 

「ゴブちゃん!」

 

一旦の距離を取り、どう倒すかを悩んでいるヴェスタリア。ゴブリンを一瞬で消炭にすることも可能だが、それだとエレナが悲しみそうだと思いその行動に出れないでいる。

 

ホーリーレイなどの、調整が簡単かつ魔物を一瞬で無力化できる技はメルルに正体がバレる可能性がある。

 

「どうしたものか...」

 

演舞場に入った時は、項垂れ地面を見ていた。今は、実況席に背中を向けている状態。まだ、バレていない。

 

「くっ...余裕そう...ゴブちゃん、いけるよね!?」

 

「グギギっ!!」

 

ゴブリンの鳴き声が響く。

 

「開幕早々仕掛けたエレナ選手のゴブリン!しかし、それを難なく叩き返すヴェスティ選手〜!!素晴らしいですね、メルルさん!」

 

「...あぁ、ゴブリンは一体一体の強さはそこまででも、あそこまでの群れになるとな...」

 

「いや、一体だけでも私たち一般人にとっては脅威なんですけど...と、とりあえずまだまだ決着は分かりません!!」

 

「いや、この試合...」

 

エミリーとメルルの実況解説の途中、メルルが何かを言おうとした時歓声が響く。メルルの方を見ていたエミリーが演舞場に視線を戻す。

 

その時、ヴェスタリアが掌をゴブリンへ向ける。

 

次の瞬間、ゴブリンたちの足元が淡く発光した。光は一気に強まり、視界を白く染め上げる。そして光が収まった時、ゴブリンたちの手足は光の魔力によって拘束されていた。

 

「ゴブちゃん!?」

 

「すまないな、君の召喚獣を殺すことはしたくない」

 

「な、な、なんと!!ゴブリン全ての手足が光った魔力で拘束されている!!...?ゴブリンが少し、弱っているぞ!?一体なんなんだ!!?」

 

「あれは、聖なる属性が付与された魔法の可能性があるな」

 

「なんと!?聖なる属性!?それって...」

 

「あぁ、勇者の権能を持ったものが主に使う魔法だな」

 

エミリーとメルルの言葉に、冷や汗を流しまくるヴェスタリア。

 

「...ヴェスティ...ヴェスタリア...まさか、な?」

 

メルルの一言と、鋭い目線がヴェスタリアの背中に突き刺さる。怖さから振り向かずにこのまま勝つつもりのヴェスタリア。

 

「うぅ...ゴブちゃん!頑張って!」

 

「ぐぎ...」

 

「無駄だよ。その拘束は解けない」

 

「う、うぅ...」

 

ゆっくりと近付いていくヴェスタリア。エレナは俯き、顔がよく見えないが泣いているような雰囲気であった。

 

近付き、距離が一メートルを切った瞬間にエレナがニヤリとし、ナイフをヴェスタリアの顔面に目掛けて突き刺そうとする。

 

「おわわぁっと!!?ナイフを隠し持っていた!?あんなに元気な可愛い子だと思っていたのに腹黒だぁ!?」

 

「いや、戦いならば当然だろう」

 

「...というより、なぜヴェスティ選手はあの奇襲を読んでいたかのように、エレナ選手の片腕を簡単に掴んでナイフを弾いたんですか...腕の速さが凄すぎて見えなかったんですけど!?!?どうなってんの!?」

 

「どうなっているも何も、素早く手を動かして止めただけだろう」

 

「それが見えなかったから...あぁー!もう!!良いです!」

 

「なんなのだ...?」

 

エミリーとメルルの会話の間にも戦いは進んでおり、エレナはヴェスタリア相手に近接での戦いを挑んでいた。

 

ナイフを顔面に目掛けて突き刺そうとした手を止められたエレナは、即座に足払いをする。それを避ける為に跳んだヴェスタリア。

 

「意外と動けるんだなっ...!」

 

「それほど、でもっ!!」

 

跳んで空中にいるヴェスタリアのお腹を、掴まれていない腕を使い殴ろうとするが掴まれている手を引っ張られエレナも空中に投げ出される。

 

「ゴブちゃん!!」

 

「コイツらは動けなぁぁ!?」

 

「その子たちに言ったんじゃない!」

 

空中にいたエレナの周りに魔法陣が展開され、新たにゴブリンが現れる。最初に呼ばれたゴブリンと今呼ばれたゴブリン、合わせて十匹になっていた。

 

「けど、ゴブリンは無駄だ!」

 

「それは、連携次第!」

 

ゴブリンを目隠しとして、素早くヴェスタリアの背後に回るエレナ。ゴブリンの手を足場にし、地面に加速する。着地する位置がヴェスタリアの後ろであった。

 

空から落ちてきたゴブリンを、できる限り傷付けないように拘束していたヴェスタリア。その時、背後から一気に加速してヴェスタリアの背中に抱きつき転ばせるエレナ。

 

「なっ!?」

 

「気付いてないと思った!?私に近付くための、縦方向以外に”君が動いていない”ことに!」

 

転ばされたが、すぐ起き上がる。しかし、その時に実況席が目の前に来る。

 

「!...ヴェスタリア!!」

 

「あっ...」

 

「?...ヴェスタリア??...あの選手はヴェスティですよ?」

 

メルルと目が合い、名前を呼ばれ動揺するヴェスティ。しかし、今は試合中。メルルから目を離しエレナを見るが、エレナはヴェスタリアに突進し転ばせた後、起き上がったヴェスタリアの勢いに後ろに倒れ、後頭部をぶつけそのまま気絶してしまう。

 

「きゅう...」

 

「え、えーと...第一試合勝者、ヴェスティ...?選手!!」

 

最後の最後にハプニングが起こり、拍手もまばらであった。

 

「逃げるなよ!!ヴェスタリア!!!」

 

「あっ、ちょ...メルルさん!?」

 

因みに、メルルが逃げるなよと叫んだ時に闘気のようなもので会場が震えていた。

閑話休題

 

実況席から走り出して、抜け出すメルル。そのメルルから逃げる様に即座に控え室に入り、認識阻害のマントを被るヴェスタリア。

 

「あぁ...やってしまったな。ヴェスティ」

 

「他人事だと思って...!」

 

「他人事だからな」

 

「ぐぅ...魔王軍よ、来い...!コイツの平穏を壊してくれ...!」

 

「勇者が何を言っている」

 

マントを被りガタガタしているヴェスタリアの横で呆れた様子のアルディーナ。メルルは怒りの様子でヴェスタリアを探しているが、見つけられずにいた。

 

「どこに行った!ヴェスタリア!!」

 

「第二試合始まるので戻ってくださ〜い!!」

 

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