エミリーに釘を刺されまくっているメルル。背を伸ばし、今は大人しくしているメルル。
「今からは、第四試合!!Dグループの試合!グループ訳での試合はこれで最後!次からは、勝ち上がった者同士の戦いになる!」
「どんな試合になるか、見ものだな」
客席からは、少しの不満のような声が聞こえてきていた。
Dグループの突破者は、アルディとゼファ。
ゼファは獣人。メルルは受け入れられているが、それはメルルの立場込みでのこと。
ゼファや、獣人族そのものへの偏見は完全には消えていない。
しかし、不満の声が大きくならないのはメルルがいるからである。
そんな、客席の雰囲気を感じ取りながら、少し悲しそうにしながらも前を向き演舞場に入っていくゼファ。
それと対称的に、落ち着いた状態で余裕を感じさせながら入っていくアルディ。
「お!選手たちの入場だぁぁ!!」
「…ほう、半獣人…私と同じだな。対戦相手は…」
メルルはアルディを見たときに、全身の鳥肌が立ち、少しだけ震え恐怖を感じた。
それは、獣人の力量を測る能力が優れているのはもちろん。
メルルの、卓越した力量や観察眼。
そして、団長になるほどの経験があったからこそ、力をある程度隠しているアルディの本当の危険度を見抜いていた。
「な、なんなんだ…アイツは…」
アルディを見ながら呟くメルル。
「ん?…あー、アルディという方ですね!あの人、予選でも凄かったですよ!天候すら操って、雷のドラゴン出してましたね!」
「…え…?」
エミリーの言葉にメルルは目を見開き、冷や汗を流し恐怖した。そんな魔法を扱えるなど、人間ではない、と。
演舞場に現れた二人。正確に言うと、アルディを注視するメルル。注意深く見て、人類の敵なのかを見極めようとする。
そんなことを知らない、ゼファとアルディはお互いを見つめている。
「…来ないのか?ゼファ」
「…っ!!!」
相対しているアルディを見て震えているゼファ。ゼファの本能が「戦うな」と警報を鳴らしていた。
「なんなんだよ…っ!!」
「来ないのなら、こちらから行くぞ?」
ゆったりと歩き、ゼファに近づいていくアルディ。一歩ずつ近づくごとに、震えが大きくなるゼファ。
そして
「お、オレの負けで…っ」
「獣人族とは、こんなにも腑抜けなのだな」
降参、と言おうとするゼファの言葉を遮りゼファを煽るアルディ。
「…っ」
「ガッカリだ」
「オ、レは…っ!」
「全ての獣人がそうなのだろうな。あそこに座る、騎士団団長とやらも」
「…っクソがぁぁぁ!!」
アルディの煽りに、恐怖よりも怒りが上回り、アルディへと突っ込んでいくゼファ。
ゼファを見て、口角を上げるアルディ。
「いきなり、走り出したぞ!?いったいどうしたのだ!?」
「…悪手、としか言えないな」
エミリーたちには、アルディの煽りは聞こえていなかった。なので、ゼファがいきなり突っ込んだようにしか見えなかった。
「う、おおぉぉぉ!!」
雄叫びを上げながら、ゼファはアルディの腹を殴るがアルディは一切動じない。
一ミリも動かないアルディ。しかし、アルディの後ろはゼファの拳圧によって、地面は抉られる。
「な、なんという威力のパンチだぁ!?拳の風圧で、客はオールバックになっている!地面も抉れている!!けど!アルディには全く効いていないぞ!!?」
「あの威力の拳を…魔力の反応もなかったぞ…」
「なにぃぃ!?魔力で守った訳ではない!?なのに!なぜ!!平気なのだぁ!!??」
エミリーが興奮しながら話すが、メルルは冷静にアルディを見続けていた。
「では、こちらからいくぞ?」
一言、言ってからアルディは腰を落とし、ゼファのお腹に左の手のひらを当てる。
「耐えてみろ」
その一言の後、アルディは魔力を込めた手のひらをぐっと押し込む。魔力や魔法で強化していない肉眼では何をしたか見えない。
そのため、観客たちは困惑していた。
「な、なにしてるんだ…?」
「お、俺に分かる訳ないだろ!」
「腹、触るのが攻撃なのか…?」
「予選の魔法…?を使えば一瞬なのに…」
ゼファも戸惑っていたが、いきなり激痛がゼファを襲う。
「ぐ…ああぁぁ!!!」
アルディは、魔力を込めた手のひらで”強化された振動”を起こしていた。
その振動は体の奥深くまで届き、内臓や筋肉を容赦なく揺さぶった。
数十秒の間苦し気な声を上げていた。そして、痛みが引いたが立ち上がることができないゼファ。
「この戦い方が、お前の目指す道だ」
「う…ぐっ…オレの目指す道…っ?」
「あぁ。頑張れよ」
簡単な言葉を最後に、先に帰っていくアルディ。
「え、えぇっと…勝者、アルディィ!!」
ヌルっと終わったため、締まりが悪くエミリーは困った顔をしていた。
そんな横で、メルルはアルディから目を離さないようにしていた。