勇者と魔王の遊戯〜責務から逃げた勇者と魔王の旅ーしかし、その旅は世界の運命を変える始まりであった〜 作:大乃正生
メルルは、次の試合がアルディーナだと分かると、前のめりになるようにして演舞場を見つめていた。
「お、メルルさんそんなに乗り出して…楽しみでした?」
「…あぁ…」
「?…メルルさんすらも注目の対戦!!これは、目が離せませんね!」
メルルの態度に疑問を持つが、気にしないようにして実況を始めるエミリー。
エミリーから話しかけられていたが、心ここに在らずといった様子。
メルルは演舞場を睨むように見続けていた。出てくる選手を、アルディーナを見極めるために待っていた。
ところ変わり控え室では。カガミがアルディーナを見つめていた。
「…」
「ん?…どうした?……確か、カガミと言ったな」
「…お主、邪の気配がしおる」
「…ほう?」
「気を悪くしたのなら悪かった。もし、困ったことがあった時、私で良ければ話を聞かせてもらおう」
「そうか、その時は頼む」
アルディーナは、カガミからの言葉に軽く返しながら演舞場に入る。
演舞場に入っていくアルディーナの背中をカガミは見つめたまま、後を追いカガミも演舞場に入っていく。
演舞場に現れたアルディーナとカガミ。メルルは目を細め、睨みつけるようにアルディーナを見ていた。
「…ふっ、モテる男とはツライものがあるな」
「何を言うておる」
「いや、気にするな」
メルルからの視線に気付いたアルディーナが冗談混じりに言うが、カガミは気付いていなかった。
「では、始めようか」
カガミはアルディーナの言葉を不思議に思いながらも、始める意思を見せ、構える。
両手を合わせ、アルディーナを見据える。
「あぁ、始めるか」
それに応えるように、アルディーナから闘気のようなオーラが溢れ出し、戦闘の意思を見せている。
「…やはり…」
アルディーナから溢れ出ている闘気の中に、邪悪なものを感じ、より一層警戒するメルル。
「アルディ選手にカガミ選手、互いにやる気に満ちている!!何もしていないのに、暑くなっている気がするぞ!!!」
エミリーは、カガミとアルディーナの闘気を雰囲気で感じ取っていた。
閑話休題
「いざ、参る!!」
カガミが右足を上げ、地面に右足を叩きつける。すると、地面が隆起し爆発が起こったように砂埃が舞う。
首に巻いてある数珠を宙に浮かせる。そして、砂埃を死角にして土の中や、空高くに数珠を隠す。
「ふむ、隠しているつもりか?」
「……ッ!?」
アルディーナからの、小さな一言。けれど、その一言は確実にカガミの動きを見抜いている発言であった。
カガミは一瞬動揺するが、揺さぶりのための嘘の可能性を考え、冷静に数珠を動かす。
空高く飛ばした数珠を、アルディーナの頭に一気に叩き込む。風圧により、より一層砂埃が舞い、観客は何も見えなくなる。
「おい!何も見えねぇぞ!」
「おっさん、いい加減にしろ!!」
「勝負ついたか??」
「なんとかしろよ運営!」
「もう観戦するってレベルじゃねぇぞ!!」
観客席からは野次が飛び続けている。
「見えない!見えないぞぉ!!これじゃあ、どうなったか分からない!!…しかぁし!どうせ、負けていないんだろう!?今までの試合もそうだったからな!砂埃の中の選手は無傷だったからな!」
「……」
エミリーの言葉に、観客たちは笑うがカガミは冷や汗を流していた。
今まで数珠を避ける者はいたが、アルディーナは動かなかった。つまりは、直撃したはずなのに手応えがなかった。
「ふむ、意外と硬いのだな」
数珠を持ち、感触を確かめるように触っているアルディーナ。カガミは、アルディーナに触られている数珠を動かそうとするが、動かせなかった。
数珠を素手で掴み、そのまま握り潰さんばかりの力で止めていた。
「…全く、化け物のような膂力だな……!」
カガミは、余裕が少しずつ減ってきているが、虚勢を張りアルディーナを睨みつけている。
「ふむ、返すぞ。坊主」
アルディーナは一言言うと、軽く返すように数珠を投げる。軽く投げたように見えるが、かなりの速球でカガミに迫る。
「ぬ……!?」
カガミは反応できていなかったが、自身の周りに浮かせていた数珠が即座動き、自動で防御する。
アルディーナが投げた珠は、カガミの顔面目掛けて飛んでいたが、自動で動いた珠と飛んできた珠が当たり、凄まじい衝撃音と共に、二つの珠は粉々に砕け散った。
「…やはり、ある程度の動きは覚えているのか。その珠は」
数珠の仕組みの一部を当てられてもカガミは焦ることもなく、バレることは想定済みであったように、構えを解かずにアルディーナを見据え続けているカガミ。
「その珠は、魔法を防いでいたな。ならば、これも防げるか?」
そう言うと、右手を顔の横辺りまで持ってきて、指を鳴らす。
指を鳴らした時、アルディーナの周りに雷が現れる。バリバリと音が鳴り、槍の形を形成している。
「その珠で、防いでみよ」
「雷の槍!!!予選では、雷の龍を作り上げたアルディ選手だが、今回は槍!!派手さでは負けるが、今回のは圧倒的な殺意を感じるぞ!!」
「……」
雷の槍を作り上げた時に、エミリーが前のめりになっていた。メルルは、雷の槍を見つめ、自分ならどう動くかを考えていた。
「かなりの速さで、雷の槍が突っ込んでいくぞ!!」
雷の槍は空気を裂きながら一直線に走っていく。 通過した地面は黒く焦げ、石畳は砕け散りながら、 雷の槍がカガミへと真っ直ぐ突っ込む。
カガミは、アルディーナの雷を数珠で受け止めるが、受け止めていた珠が弾け飛ぶ。
「!…耐えきれぬか……ッ!」
珠が弾け飛び、宙に飛んでいた他の珠はカガミを守るのに間に合わず、雷が直撃する。
「直撃だぁぁぁ!!!」
「勝負がついたな…」
倒れ伏すカガミに近付いていくアルディーナ。
「お主…人間か?」
「…なに?」
「私の数珠を破壊するなど……人間にできる芸当ではない」
「私は、人間さ…心はね」
「!……ふっ、そうか」
アルディーナが差し出した手をカガミが握り返し、二人は並んで控え室へ戻っていった 。
「アルディ……底が見えなかったな…」
「はい?…メルルさん、何か言いましたか?」
「いや、なんでもない。………二試合とも、一歩も動かないとはな」
メルルは、アルディーナを見つめ続けていた。