勇者と魔王の遊戯〜責務から逃げた勇者と魔王の旅ーしかし、その旅は世界の運命を変える始まりであった〜 作:大乃正生
全ての試合が終わり、表彰式や賞金の支払いなどが残っている。
しかし、大会に出ていたアムスやグレースは例外であり、ほとんどの貴族たちに戦う力はない。
そのため、優勝したヴェスタリアや準優勝のアルディーナを護衛として雇おうと思ったり、奴隷にしようかと考える貴族がいる。
戦いを見ることには興味はない。だが、武力として欲しい者は多く、貴族だけでなく多くの富豪たちが闘技場へ押しかけていた。
「表彰式は行いますが、少々お待ちくださいねぇ~!!」
エミリーが可愛らしく言っているが、苛立っている者が少なからずいる。
しかし、エミリーは気にしていないのか鼻歌を歌いながら表彰式の準備をしている。
エミリーが準備をしている横で、メルルはそわそわと落ち着きがない。
メルルは、早くヴェスタリアの所へ行き、アルディーナとの関係性を聞き出したかった。
聞き出したいが、今大会での解説をしていたため実況解説席から離れられずにいる。
「…エミリー、準備はまだ終わらないのか?」
「もう少しです!待っててくださいね、メルルさん!」
既に何回か聞いているメルル。ただ、じっと待つことが苦痛になっている。
そんなやり取りをしているエミリーとメルルや、苛立っている観客席とは違い控え室では戦いが終わり、騒いでいる選手たち。
「お前が優勝かぁ!」
「やるなぁ…」
「惜しかったな!」
「次に掛けようぜ!」
「俺があそこで…」
「お前にはチャンスなんかねぇよ!」
好き勝手に色々と話す選手たち。
優勝したヴェスタリアを褒めていたり、準優勝だったアルディーナを慰めたりと、表彰式までの間を過ごしている。
「アルディ、最初はどこから行く?賞金で、かなりの所に行けるだろ?」
「あぁ、どこでも行けるだろうが…」
「なら、空島に行こう」
「空島…ラピリアのことか」
「そう!そこ!!異世界らしさが溢れてるから、行きたいんだよ」
「良いんじゃないか?…異世界らしさ、ならば…アトランタスはどうだ?」
「あー……ラピリアの次に行こう」
ヴェスタリアとアルディーナは次に行く場所の相談をしていた。
そして、次に行くのは、ラピリアと言う名前の〈空島〉に行くことに決まった。
二人が話している間も、表彰式の準備は整えられており、本戦に出ていた選手たちは演舞場に出て行っている。
「私たちも行こうか」
アルディーナの言葉に頷いて、ヴェスタリアも演舞場に出ていく。
優勝したヴェスタリアが一番最後になり、アルディーナがその前。出ていくと、観客たちからの歓声が響いている。
そんな中で、ヴェスタリアの目の前にはメルルが立っている。
「…」
「は、はは……」
笑って誤魔化そうとするが、引きつった笑いしか出ないヴェスタリア。
そんなヴェスタリアを、目を細めヴェスタリアを見つめたままのメルル。ヴェスタリアは居心地悪そうにしている。
ヴェスタリアとメルルが微妙な空気を醸し出している間も表彰式は進んでいた。
「それでは、準優勝したアルディ選手!これが、賞金です!」
「準優勝でも、貰えるのだな」
「はい!まぁ、少ないですけどね」
エミリーがアルディーナに渡したのは〈金貨一枚〉。現代で言うと百万円である。
「そしてそして!!優勝したヴェスティ選手は、金貨三枚です!!…少ないと思いますか?仕方ないですよ…大会自体は頻繁に開催されてますし…」
「…いや、もう少し多い額が広告で見たような…」
「…?…広告…あぁ、あれ書いてある額全部は貰えないですよ?」
「え?」
「賞金の中から、演舞場の修理費とか、維持費とか諸々引くので!」
「……」
屈託のないエミリーの笑顔に反して、ガッカリするヴェスタリア。
しかし、そんなことは関係ないとでも言うかのようにエミリーとヴェスタリアの間に割って入るメルル。
メルルは、吐息が当たるほど顔を近付け、ヴェスタリアを睨んだ。
「ヴェスタリア…あの、アルディとか言うのとどういう関係だ?」
静かに問いかけるメルル。怒りも見えるが、それ以上に心配の色が見える。
「え、あ…いや、別に友人的な…感じです…」
「友人…?」
メルルの 眉がピクリと動く。そんなメルルを見て、昔を思い出すヴェスタリア。
昔、鍛えられていた時も少しのミスでもしたら、眉が少し動いてボコボコにされていた。そのことを思い出し、やらかしたかもと顔を青くする。
「あ、あの…し…」
「では、第…何回か忘れたけど、とにかく大会終わり~!!」
ヴェスタリアがメルルに何か言う前にエミリーが大会の終わりを告げたため何も話せず分かれる。
「あぁ~…怒ってるだろうなぁ…」
「確かに、怒っているようにも見えたな」
「確実だよ…」
ヴェスタリアはアルディーナと話しながら会場を後にする。
そんな二人を見つけ、エレナやカガミ、ゼファが話しかけようとするがいつの間にか消えていた。
「あれ〜?…私のゴブちゃん倒した人がいない…強い人だから結婚したかったのに…」
「…奇怪な…忽然と消えたな…」
「クソ…アルディ…さんに、鍛えてもらおうかと思ったのに…」
「ヴェスタリアめ…あんな、邪悪な気配を放つやつと友だと…鍛えなおさないとな」
二人はヴェスタリアの持つ認識阻害マントを一緒に被り、会場を離れていた。
会場付近では、メルルが獣人の身体能力を使い辺りを探していた。
ところ変わり、王国の出口付近。
ヴェスタリアとアルディーナは、全力ではないが早歩きでここまで来ていた。
「じゃあ、早速行くか。ラピリア!」
「あぁ、行こう」
「ちょっと、待ってくれ!」
王国を出ようとしたヴェスタリアとアルディーナを呼び止める者がいた。
「オレを鍛えてくれ!!」
振り向いた二人。そこにいたのは、泥棒と間違われていた子ども。〈アレック・フィンセント〉がいた。
「ふむ……誰だ?」
「「忘れてる!?」」
アルディーナの言葉に、同時に突っ込んでしまうヴェスタリアとアレックであった。