勇者と魔王の遊戯〜責務から逃げた勇者と魔王の旅ーしかし、その旅は世界の運命を変える始まりであった〜 作:大乃正生
アレックが発動した魔法は真っ直ぐにヴェスタリアへと向かっていく。
「良いぞ、アレック!」
余裕な表情でアレックを褒めつつ、同威力の魔法をアレックの魔法に当てて相殺する。
相殺された魔法は破裂し、辺りに煙が現れる。
「…へぇ…魔法が消されるのが前提で…」
感心した声を出すヴェスタリア。
アレックは元から、この煙が狙いだったのだ。
「……少ない手数で良くやるな」
アレックの技に、ヴェスタリアだけでなくアルディーナも感心していた。
「……ッ!」
煙が発生したと同時に、アレックは姿勢を低くして勢いよく走り出す。
ヴェスタリアの背後を取るつもりなのだ。
しかし、背後を取らせるほどヴェスタリアは優しくない。ヴェスタリアは周囲の小石を五個ほど拾っていた。
その小石をアレックに向け、飛ばす。
曲げた人差し指の真ん中辺りに小石を乗せ親指で弾くのだ。
「あたっ!?」
綺麗に飛んだ小石は、アレックの額に命中する。実際には痛くないのだが、咄嗟に痛いと声を出してしまう。
「声は我慢しないとな、アレック!」
そう言うと、まだ煙が晴れきっていない中、ヴェスタリアは突っ込み、アレックの腹に掌底を叩き込む。
「うぐッ!!」
呻き声を上げ、吹き飛ぶアレック。
「勝負あったな…おっ?」
しかし、アレックは腹に掌底を叩き込まれた瞬間、咄嗟にヴェスタリアの服の裾へ糸を絡ませていた。
その糸を引っ張るが、所詮は糸。ヴェスタリアの裾を動かす程度で糸は切れてしまう。
「くっそ〜!!この糸でヴェスティを引き寄せて殴るつもりだったのに!」
「…戦い方は悪くないな。が、あの糸は魔法で行わないとな」
「!!…魔法でもできんのか!?」
「あぁ。が……アレックにはまだ早いな」
「ちぇっ……」
ヴェスタリアとアレックの模擬戦が終わり、反省会をしているとアルディーナが二人の元へ来る。
「やるな、アレック。同年代の相手で、糸がもっと丈夫なものだったなら、上手くいってアレックが勝てたかもな」
「本当か!?」
「あぁ、本当さ」
「…僕も言ったが、さっきの糸は良いアイデアさ」
アルディーナに褒められ、もう一度ヴェスタリアにも背中を押されて満面の笑みで喜ぶアレック。
「それじゃ、今日は遅いしこの村で一泊して…明日朝一で出発するか」
ヴェスタリアの言葉に、アルディーナは静かに肯定し、アレックは聞いているのかいないのかはしゃいでいる。
そんな時に
「あの、旅のお方」
村の老人が声を掛けてきた。
「ん?…なんですか?」
「皆様はどちらへ向かわれるのでしょうか?」
「あぁ、空島に行くつもりです。なので、アリーラピールに向かっています 」
「空島……ですか」
「えぇ、まぁ…」
「…あるのかは知りませんが…アリーラピールならばあちらの道を。こちらは、水の都市アストレアになっています」
「あぁ、ありがとうございます」
老人は、親切に道を教えてくれたのだ。
「水の都市?」
「…あぁ、水の都とも言われててな。水の上と水中に町があるんだよ」
「水中に!?」
ヴェスタリアの説明に目を輝かせるアレック
「…花の都とも言われているな。水が多いからなのか、多種多様でなおかつ見たことのない花が咲いている」
「花も……オレ、そこ行ってみたい!」
「…空島は?」
「ソッチも行きたい!!」
「おいおい…」
アレックの強欲な言葉に、ヴェスタリアは苦笑いを浮かべる。
そんな無邪気なアレックに、老人は微笑んでいる。
「アストレアとアリーラピールなら、アストレアの方が近いですよ」
老人の言葉に、ヴェスタリアは悩んでいたがアルディーナの「良いんじゃないか。特別空島に行かなくてはいけない理由なんてないんだからな」と諭され……
「…そうだな、じゃあ…朝一でアストレアに向かおうか」
「やったぁ!」
こうして、勇者と魔王と弟子は空島ではなく水の都市、アストレアへ向かうことになるのであったーー。