勇者と魔王の遊戯〜責務から逃げた勇者と魔王の旅ーしかし、その旅は世界の運命を変える始まりであった〜 作:大乃正生
玉座の間では、歓迎会の準備が着々と進められていた。
兵士たちが料理を運び込み、長いテーブルの上に次々と並べていく。
並べられている料理はどれも豪華で美味しそうである。
肉料理に魚料理。サラダもあり、デザートには様々なスイーツに色鮮やかな果物まである。
「わぁ……!美味しそう!」
料理を見て目を輝かせ、声を上げるアレック。
「まだ食べるなよ」
「わ、分かってるよ!」
興奮気味なアレックにアルディーナが言う。
アレックは恥ずかしそうに少し顔を赤くして、手に取っていた料理を元の位置に戻す。
そんな二人の様子にヴェスタリアは小さく笑っている。
「…なぁ、これなんだ?」
アレックが近くにあった料理を指差してアルディーナに聞く。
脂身が多いお肉で、オレンジ色に近い見た目だ。
「ん?…おぉ!《水牛鬼》の肉ではないか」
「《水牛鬼》?」
「あぁ」
首を傾げるアレック。
「水がある場所に生息する《水牛》という動物がいる」
「ただの牛とは違うのか?」
「普通の牛とは違う。水を大量に飲むのだが、どういう原理か飲んだ水を油に変えるのさ」
「??…じゃあ、アブラウシとかじゃねぇのか?」
「それは……知らん」
アレックの素朴な疑問に、アルディーナは腕を組んでキッパリと答える。その態度にアレックはずっこける。
「ただ油に変えるのではない。脂質…つまりは、霜降りになるのさ」
「ふ~ん」
「柔らかくてジューシー。それが、水牛だ」
「……美味しそう……ん?じゃあ、水牛鬼って?」
アルディーナの説明を聞き、涎を垂らしていそうなアレックが質問をする。
「水牛鬼は魔獣だな」
「ま、魔獣……」
ドン引きしているアレック。
「アレックが想像しているのとは違うぞ」
「え?」
「ゴブリンのような人類の敵は魔物だが、魔力を持つ獣が魔獣だ」
「へぇ~…」
「そして、水牛鬼は高級肉だ」
「高級肉…!」
「あぁ、水牛鬼は海底の奥深くにいて捕まえにくい。しかし、ちゃんと調理すると噛めば噛むほど旨味が出てくる肉になる。調理に失敗すると、食えないほど不味くなるがな」
アルディーナの説明にますます目を輝かせるアレック。
料理の話をしている二人の会話を笑って聞いていたのだが、兵士が王様に耳打ちをしているのに気付いたヴェスタリア。
「…ん?」
魔力を耳に集中させて聴力を強化し、何を話しているのかを盗み聞きするヴェスタリア。
「陛下、あの者たちが…」
「まだ確定ではない」
「しかし…!」
「…あの者が言っていた特徴と合うが…断定はできない」
王と兵士の会話を聞いていたヴェスタリアは、怪訝そうな表情を浮かべた。
「あの者…特徴…」
王と兵士の言葉を復唱するヴェスタリア。
そんなヴェスタリアの近くに来たアルディーナ。
「…聞こえていたか?」
「…聞いていたよ」
アルディーナとヴェスタリアは、王と兵士に鋭い視線を向けた。
王と兵士はまだ話している。
「陛下、水中都市はどうするおつもりですか?」
「…」
「陛下…!」
「お前が、お前たちが気にすることではない」
「…失礼いたしました」
頭を下げて兵士は下がっていった。
「やはり、ただの歓迎会ではないな」
「そうだね」
アルディーナの言葉に頷くヴェスタリア。
「どういうこと?」
二人に近づき話しかけるアレック。
アレックの口元に茶色いソースが付いていた。
「あぁ、この歓迎会は…おい、食べただろ」
「た、食べてないよ」
「じゃあ、このソースはなんだ?」
「うぇ、ソース……」
勝手に食べたことがバレて、アルディーナに怒られているアレック。
ヴェスタリアはその横で苦笑いしながらも、王からは目を離さない。
王と兵士の間で交わされた、謎めいた会話。
その真相を知る者は、まだ誰もいない。