淡く発光する迷宮壁のおかげで真っ暗な中に取り残されることはなかったが、周りが見えていようが最早大した違いはない。
それでも見渡すと近くには俺の服と装備一式が落ちていた。
エリカを投げ飛ばす時に放り出したんだったな。
とりあえず服と装備を回収しようと手を伸ばす。
「くっ」
腕と足に激痛が走る。
無理をしすぎたか。
痛みに耐えながら服と装備を身につける。
最後に拾い上げた革袋から柔らかい感触が伝わってきた。
あぁ……そういや革袋の中に魔獣の肉を入れていたな。
選択肢ってやつだ。
皮袋から血の滴る肉を取り出して眺める。
食えば生きながらえる可能性は増す。
食って運よく迷宮の住人にならなければ、多少なり体力も回復してもうしばらく生きていられるだろう。
食って運悪く迷宮の住人になれば、迷宮から生命力が供給されるって噂だ。
つまり食えば生きられる。
ははは。
なんてな。
……俺は迷宮の通路の隅にそれを投げ捨てた。
悪くない気分だ。
さて。
1つ目の選択肢を放り捨てた俺だが、幸運なことに俺にはまだ選択肢が残されている。
ここでゆっくりと死ぬか、もしくは体力の残っているうちにもう一度迷宮の奥に突貫するか。
……そうだな。
まあ答えは決まっている。
壁に背を向けて俺は迷宮の奥へ足を一歩踏み出した。
ガコンッ!
背後からの音で俺は盾を構えて素早く振り返った。
だがこれは!?
……なんだこれ。
自分の目が信じられないものを映している。
尻!?
壁に尻が生えてる……だと!?
あまりの光景に呆気に取られていると、尻の生えた壁から石の欠片が剥がれ落ち、彫刻された文字が浮かび上がった。
迷宮の壁に細工できるのは
ということはこれは迷宮主の仕業か。
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【迷宮脱出遊戯】
1.壁に生えている尻は君のパーティー仲間の尻
2.どちらかに愛を注げば壁は消える♡
3.君が愛を注ぐまでパーティーの仲間は解放しない
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俺は石盤を3回読み直した。
そして……壁から生えている二つの尻をもう一度見直す。
え?
これ……まさかケインとエリカの尻なのか?
恐る恐る尻に顔を近づけて観察する。
……うん、尻だな。それは分かる。
だけどこれって……両方とも女の尻に見えるんだが……。
いや、白状しよう。俺は女の生尻を見た経験がない。なのでこれが絶対に女の尻だと断言できるわけじゃないんだが。
村にいた時は村の若い女性とそういう関係にはなれなかったし、村を出た後も今に至るまで俺は女性経験を積める機会を得られなかった。生まれ育った村を出る時に無理やりエリカが付いて来て、街でそういう店に近づくだけでエリカに殴られたからな。
だからこの尻が絶対に女の尻だと断言は出来ない……もしかしたらケインのケツはこんな風に女っぽかったのかもしれない。
いや……冷静になれ。
ミスリードされているかもしれないんだ。
目の前で壁から生えている尻がそもそもエリカとケインの尻とは限らない。
迷宮主の質の悪い罠で、ケインやエリカではない赤の他人の尻の可能性もある。
だが……ケインやエリカ、もしくは赤の他人の尻だったとしても、体の一部が迷宮に拘束されているこの状態を放置すればその先にあるのは死だ。
……くそったれ。
二人が助かったと思ったから俺自身の死を受け入れることができたってのに……。
壁から生えた尻の前で躊躇っていたが、いつまでもこうしていられない。
俺の体力がいつまでもつか分からないんだ。
この尻はケインとエリカで、壁に拘束されている前提で行動するしか無い。
そして、迷宮主の指示に従うのは癪だが……罠を解除するために尻穴に愛を注がなければならない。
つか、愛ってなんだよ!
ふざけんなよ、ちくしょう!
「くッ!」
だが、このワープポータルを使って還ってきた奴らが現実に存在している以上、指示に従えば俺たち三人も助かる可能性がある。
……深呼吸して息を整える。
今からすることに覚悟が必要だからだ。
俺は壁に近づいて……右側の尻に手を伸ばして触ってみた。
触ればもしかしたら何かが分かるかもしれない。
触れた指先が臀部に沈み込んでいく。
お、思ったより柔らかい。
すべすべしているぞ?
掌にしっとりと馴染む感触に、モミモミさわさわと意志に反して手が勝手に動き続ける。
染み一つ無い白いお尻に俺の無骨な手が触れ、その素晴らしさに俺自身がピクリと反応してしまう。
「待て! 待て待て待てっ!!」
待つんだ、俺っ!!
これはケインの
エリカかケインか……もしくは別の誰かだ。いや、生還者のことを考えるなら別の誰かという線はもうない。
この2つの尻はケインとエリカの尻なんだ。
俺は尻から手を離して掌を見つめた。
先程までの抗いがたい魅惑的な感触が掌に克明に残っている。
なんとも形容しがたい欲望が俺の心の底から湧き上がってきた。
……く、区別するために左側の尻も触るべきだろうか?
いや待てっ!
今度こそよく考えるんだ、俺っ!
尻を二つとも触ってしまえば……エリカとケイン両方の尻を触ったという事実が確定してしまう。
右側の尻だけを触った状態ではエリカかもしれないし、ケインかもしれないという不確かな状態のままで終われるんだ。
もし……左側の尻を触って俺自身が少しでも反応したら……
俺は、俺はケインのケツを触って反応したことが確定してしまう。
もう俺は右側の尻を触ってしまった。
今から思えば迂闊過ぎた。
このことに気づいていれば右の尻を触ることにも慎重でいられたはずなのだ。
そうだ。
擦り切れるほど読んだ冒険者心得本。
ベテランになったせいで最近は思い出すこともなかったが、村を出て近隣で一番大きな街で初めて訪れた冒険者ギルドで出会った受付のお姉さん。
本を渡されながら教えてもらった冒険者心得第一条。
『まずは見よ。然る後に行動せよ』
……だったか。
喧嘩っ早くて何も考えずに突っ込むバカが多い冒険者に一歩踏みとどまらせる実にいい心得だった。
もう一度右の尻に顔を近づけて観察してみた。
臀部が壁から飛び出しているが、股間はちょうど壁の中に埋まって見えなくなっている。
尻しか見えないから性別は判断できない。
そしてそのケツ穴からは透明な粘液のようなものがわずかに溢れている。
スライムが残していったアレだ。
きっと俺のケツ穴もこうなってるんだろう。
俺が顔を近づけた時に息がかかったんだろう。
尻の持ち主が俺の存在に気づいて少し身を
だが、捻ったくらいでは壁との隙間は生まれず、股間は壁の中に埋もれたままだ。
じっくりと右側の尻の観察を終えた俺は今度は左側の尻に顔を近づけた。
これでエリカとケインの尻を穴が開くくらい観察したということがほぼ確定してしまうが……大丈夫、許容範囲だ。辛うじて許容範囲だ。
◇◇◇◇◇◇
「だめだ、分からん」
結局尻を見ても俺には男女の区別はできないということだ。
分かったのは右側の尻のほうが少し大きいということくらいか。
普通に考えて女の尻と男の尻が同じということはあり得ない。
狩りで獲物を仕留めて解体することも多いが、雌と雄では腰回りの骨格が明確に違う。人間だってきっと同じはずなのだ。
解体知識を持ち出して骨格が違うはずだと言い出す自身の童貞ムーブに涙が出そうだが、だってそのはずなのだ。
「つまり、そういうことなんだろ」
男女の尻の区別がつかないように
右側の尻も左側の尻もどちらも見た目は「女の尻」なのだ。俺自身が少々反応しても仕方がなかったわけだ。
冒険者心得第一条に従うなら次は行動だ。
自分の左の掌に右手の指を押し当て凹む様子を観察する。
うむ、そうなんだよ。
人間の体は金属とか陶器で出来てるわけじゃないから押せばある程度凹むんだ。
壁から出ている部分が尻と尻穴だけであったとしても、尻肉を指で押しながら壁との隙間に指を入れれば壁に埋もれた部分に触れることができる。
だから指を尻と壁との隙間に押し入れて感触を探って、タマの袋があればケイン。なければエリカだ。
どういう感触だったらエリカだと断言できればいいんだが、俺は経験がないんだ。触るのはもちろん見たこともない。
「くっ!」
全てエリカに妨害されてきた青春だった。
いや、それはもういい。済んだことだ。
今は行動の時だ。
右側の尻に近づき指先を壁と尻の隙間に押し当てる。
触れた瞬間、ビクンっと尻が反応した。
……すまん。
だが確認させてもらう。
尻と迷宮の壁の間という微妙な場所を指で押して壁との隙間を作る。
うむ、ちゃんと凹むな。
指先から体温が伝わって来るが極力考えない。考えてはいけない。
指先で作り上げた壁と股間の隙間に人差し指を進める。
爪が壁の石を擦り、一方で指の腹は温かい体温とかすかな湿りを感じ取ってしまう。他人の尻を指先ですりすりしているという変態的な行為に、躊躇いを覚えないわけではないが二人の命がかかっている。俺も入れたら三人だ。
ビクンっと反応して揺れる臀部の持ち主に悪いとは思う。
思ってはいるが、止まるわけには行かない!!
進め!
俺の指先ッ!!