Ave Mujica
仮面で素顔を隠した人形達のバンド。
デビューしてから短い期間で武道館ライブを成功させた実力と、多くのファンを魅了するビジュアルの良さを両立している。そんなAve Mujicaは一人の少女と、彼女の意思に賛同する四人の少女達の楽園であり箱庭であり世界である。
けれど彼女だけが知らない。
仮面をつけ、Ave Mujicaの一員に成り変わった彼女は知らないことが多すぎた。
「……ごめん、もう一回最初から」
「はぁ…この話、これで六回目」
私はこの前の出来事の答えを求め睦ちゃんをカフェに誘った。ケーキとコーヒーを頼み、いつも通りに砂糖を入れ、彼女の話を聞き始めたがそれはあまりにも受け入れ難い内容だった。
「私と初華は、二人で協力して悪魔から祥をずっと守ってきた。私の能力で初華に武器を与えて」
「私の能力で祥子ちゃんに訪れる厄を先読みしてるんだよ」
お姉ちゃんと睦ちゃんが祥子ちゃんを守ってきたことは理解できた。いや、正直お姉ちゃんがどうしてそんな危険なことをと思ったが、私よりも祥子ちゃんを優先したお姉ちゃんだ。驚きはしたが受け入れることができた。だけど…
「私は天使の悪魔。人間じゃない」
「私は未来の悪魔!初華ちゃんも未来最高!って言って?」
目の前にいる若葉睦とモーティスの本当の姿が、人間を襲う側の悪魔であることは受け入れることができなかった。
彼女達の正体を聞いて全身から嫌な汗が流れ始める。見た目はどこからどう見ても私達と同じ人間だ。お姉ちゃんを殺した悪魔は、人の形からかけ離れていた。けれど、いつか私も殺されるかもしれない。いつ裏切られるかも分からない不安が私の心を圧死させる。
「…なんで、悪魔の二人が、祥子ちゃんを守るの?悪魔は、人間を殺すんでしょ?私のお姉ちゃんを、殺したみたいに…」
「お姉ちゃん?」
「もう!訳の分からないこと言わないでよ初華ちゃん!私達のこと認めてくれたじゃん?一緒に祥子ちゃんを守っていこうって」
「私はそんな約束してない!お前達悪魔なんて、みんな消えちゃえばいい!」
差し伸べられた彼女の手を払いのけて、私は喫茶店から逃げるように飛び出した。
私からお姉ちゃんを奪ったのと同じ悪魔が目の前にいる。
憎くて、消したくて、殺してやりたくてたまらない悪魔が目の前にいる。
それなのに、無力な私はどうすることもできない。
彼女の助けがなければ、この前の悪魔との戦いできっと命を落としてる。そんな無力な自分に苛立ちを抑えられないし、本当の自分を隠すことなく告白した姿が眩しすぎた。だからこそ、今だに仮面をつけ続ける私が醜くて、穢らわしい。
「もー!酷いよね初華ちゃん。お会計せずにどっか行っちゃうし、ずーっと訳の分からないこと言ってるし」
「お金はいい。初華に奢ってもらったことあるから。だけど最近の初華は、なんか変」
飛び出していった初華の文句を言いながら、モーティスはパクパクとケーキを頬張っている。よく食べるなぁ、なんて思いながら今までの初華を思い返した。
私達が悪魔であること、幼い頃から祥を守ってきたことは知ってるはずなのに、まるで初めて聞くような反応だった。よくよく考えれば不自然な点は前からあった。バンドの練習で注意されることが明らかに増えていた。初華の実力ならもっと上を目指せることを見越しての注意なのかもしれないけど、私が見ても分かるくらいに彼女のギターはレベルが落ちていた。
「…私達が見てるのは初華だけど、初華じゃない?」
「それって私達と初華ちゃんが同じってこと?」
それも違うような気がする。イレギュラーな存在である私達は、自分自身のことで知らないことがまだまだ多い。もしも私達と同じだったとして、初華達は互いに記憶の共有が出来ないってことなのだろうか。けれどもその考えは少し違うような気がする。この前の悪魔との戦闘で見た初華は、確かに私が知る初華だった。身体の動かし方は初華そのもの。でも私の武器を別の武器に変えるなんて、そんな能力初華には無かった。
「誰かが初華に成り変わってる?」
「なんのために?」
「私にも分からない…だからちゃんと話したい」
「えー…私も睦ちゃんも、今の初華ちゃんに嫌われてそうじゃない?」
「だからこそちゃんと話す。初華の協力がないと、私達だけじゃ祥を守れない」
「…はいはい、睦ちゃんは祥ちゃんが大切だもんね〜」
「祥はもちろん大切。でも初華もムジカのメンバーだから大切。お願いモーティス。初華がどこにいるか教えて」
「本当に悪魔使い荒いんだから。ちゃんと私にも感謝してよね。うーん、どこかの公園で休んでて……誰かとお話ししてる……どこだろうここ」
モーティスの未来視を待ちながら、今までの初華との関係を悔やんだ。私は初華のことをあまり詳しくは知らない。どうして祥を守ることに協力してくれたのか。どうして悪魔である私達を受け入れてくれたのか。
「……もっと、ちゃんと話しておけば良かった」
「分かったよ睦ちゃん!初華ちゃんの居場所、ここからそんなに遠くな……」
「モーティス?」
「あーもう!こんな時にまた悪魔!?」
「分かった。急いで祥のところに行こう」
初華には申し訳ないが、今は祥の方を最優先する。
あの日、祥と交わした私達の約束を守るために。
イライラを吹き飛ばすように無我夢中で走り続けた私だったが、体力の限界を迎え息を整えるために近くにあった公園で休むことにした。
木陰のベンチに座り、公園をぐるりと見渡す。
子連れの家族や、学生のカップルなど、みんな自分達だけの幸せな時間を過ごしており、私の存在が気づかれることはなさそうだった。そのほうが楽でいいと思いながらも、自分以外の人間が幸せなことに怒りを抱く自分がいる。大切な人を失う苦しみを、こいつらにも味合わせてやりたいと思ってしまう醜い自分が
「初ちゃ〜ん!」
そんな私の悪しき考えは、所属するもう一組のパートナーの明るい声にかき消される。
「まなちゃん!?」
彼女は純田まな。三角初華が所属するもう一つのグループ。sumimiの片割れであり、私の憧れだ。
「ま、まなちゃん。周りに人いるし、あまり大きな声出さない方が」
「あ!そうだね。ごめんね。久しぶりのオフだから気分転換にお散歩しようと思ったら、初ちゃんっぽい人を見かけたからつい」
なんて言いながらはにかむまなちゃん。
ダメだ。神々しくて直視できない。初めてまなちゃんを見たのは、テレビでやっていたのど自慢大会。歌唱力はさることながら、その顔の良さに私は一瞬で虜になってしまった。まなちゃんみたいなアイドルになることが夢だった。それが今、本当の自分を偽って彼女の隣に立っているなんて、幼い頃の私が知ったらどんな顔をするだろうか。
「初ちゃんはどうしてここに?今日は睦ちゃんとお出かけする予定があるって言ってなかったっけ?」
まなちゃんの口から睦ちゃんの話をされて、思わず固まってしまった。身近な存在が悪魔かもしれない。私が意にそぐわない行動をした時、まなちゃんが危険な目に遭うかもしれない。そう思った私は思い切って彼女に聞くことにした。
「……まなちゃんは、もしも自分の親しい人の正体が悪魔だったら…どうする?」
「え?何度知ってるの?」
「…………え?」
その瞬間、まなちゃんの頭部が爆発音と共に弾け飛んだ。
途絶えていた意識が少しずつはっきりしていく。
私を起こすのは、木が燃える音、逃げ惑う人達の喚き声、そして鼻を切り落としたくなるくらい嫌悪感を抱く嫌なニオイ。
「あれ?もしかして死んでない?」
「まな…ちゃん?どういう、こと?」
爆炎広がる公園を背景に、頭部が弾け飛んで死んだはずのまなちゃんが私に向かって問いかける。
「やっぱり死んでない。初ちゃんも私と同じで色々弄られたってこと?でも私みたいなケースはレア者って言ってたような……まぁ、ここで殺しちゃえばいいよね」
「まなちゃん!」
「知ってたんでしょ。まなが人間じゃないってこと。だからあんな質問したんだよね」
違う。私が言いたかったのは睦ちゃんのことで、まなちゃんが人間じゃないなんて思っても見なかった。
「先手必勝だよ、初ちゃん。まながまなであり続けるために……死んでもらうね」
本当にクソみたいな世界だ。私の大切なものを次から次へと奪っていく。
痛みを怒りで掻き消してゆっくりと立ち上がる私の前で、自分の頭部をもう一度弾け飛ばしたまなちゃんは、自由落下爆弾に人の身体がくっついた化物に姿を変えていた。
読んでいただきありがとうございます
とりあえずすんなり投稿できるのはここまで
ここから先はゆっくり頻度となりますのでご了承ください
それではもう少しでエンディングのはずなのでZAの世界に行ってきます