明日が休みなので、まぁいいです。
そしてクリスマス回とかは無く、続きの更新です。
年内にもう一話上げれるか上がらないか……マイペースにまったりやっていくので、これからもよろしくお願いします
◎
純田まなはもう死んでる
目の前にいるまなちゃんはそう言った。
死んでる?
どうして?
目の前にいるのは確かにまなちゃんだ。異形の姿になったとしても、それは変わることのない事実だ。
私の憧れだったまなちゃん。私の目標だったまなちゃん。孤独な私を太陽のように照らしてくれたまなちゃん。そんな彼女がもうこの世にいないという事実に、私は込み上がってくる吐瀉物を抑えることができず地面に蹲り吐き出した。
「……ゔっ、げほっ……おぇっ!!」
「まなちゃんはお前のせいで死んだ。勝手にAve Mujicaに入って、sumimiが無くなって……一人ぼっちで!それでも、周りに悟られないよう頑張って笑顔を貼りつけて!」
愛らしい笑顔を浮かべるまなちゃんはもういない。
私を見下すまなちゃんは、怒りを露わにし自分の感情を爆発させる。
「お前がまなちゃんを殺したんだ!まなちゃんが苦しんでる時も、お前はムジカで幸せそうに笑ってた!まなちゃんを一人にしたのに、お前一人だけ幸せそうに!」
そう言われても仕方ない。まなちゃんが怒るのは当然だ。sumimiとして活動していたお姉ちゃんを、祥子ちゃんはAve Mujicaのドロリスとして勧誘した。Ave Mujicaが有名になればなるほど、お姉ちゃんはドロリスとして縛られsumimiの初華でいられる時間は減っていった。大好きな祥子ちゃんと一緒にバンドが出来てお姉ちゃんは幸せだったと思う。だけど、お姉ちゃんにとって大切なのは祥子ちゃんがいるAve Mujicaだけじゃない。
『まなちゃんってどんな人?』
二人が育った島で再会したあの日、私はお姉ちゃんに問いかけた。どうして私の名前を名乗っていたのか、本土に行ってからはどんなふうに過ごしていたのか。色々聞きたいことはあったけど、何より気になったのはお姉ちゃんが私の推しである純田まなちゃんと一緒にアイドルをやっていたことだ。
『まなちゃん?まなちゃんはね、凄いんだよ!歌が上手で、いつも明るくて、凄い努力家で』
そんなことお姉ちゃんに言われなくても分かりきってた。まなちゃんを見てきた時間も、まなちゃんに向ける熱意も私の方がずっと上だ。お姉ちゃんがsumimiで一緒に活動していても負ける気は全然しない。
『そういう事じゃない?うーん、なんて言えばいいのかな……まなちゃんは私のことを見つけてくれた大切な人、かな?』
『見つけてくれた大切な人?』
『うん、祥ちゃんに会いたいっていう身勝手な理由だけで東京に行った私を、sumimiの三角初華にしてくれた大切な人。私一人じゃsumimiにはなれなかったし、ムジカが解散して大変だった時も、まなちゃんはいつも私に寄り添ってくれた。感謝してもしきれないよ』
そう話すお姉ちゃんの顔を見るだけで、まなちゃんのことをどれだけ大切に思っているかは明白だった。
お姉ちゃんが一人じゃなくて良かった。出会ったのがまなちゃんで本当に良かった。
『今はまだムジカで忙しいけど、絶対sumimiを疎かにしない。私とまなちゃんは二人でsumimiだから』
口元に付いた吐瀉物を拭い、感情剥き出しのまなちゃんを睨みつける。まなちゃんのクローンなんでしょ?
お姉ちゃんがまなちゃんのことを大事に思ってたことくらい分かってよ!確かにお姉ちゃんは妹の私よりも祥子ちゃんを取るような酷い人だよ。だけどまなちゃんと一緒にsumimiをしていたお姉ちゃんは、Ave Mujicaの時と同じ、ううん、それ以上に輝いてた。
「絶対に許さない。殺す!殺してやる!私がこの手でお前を殺してやる!!」
「まなちゃんの顔でそんな酷いこと言うな!」
突然叫んだ私に、まなちゃんは驚きを隠せずに後ずさった。
「これはお姉ちゃんとまなちゃんの問題。二人がちゃんと話し合っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。でも過ぎたことはどうすることもできない!過去は変わらない!だったら!これからの未来を少しでも良いものにしなくちゃダメなんだよ!」
「他人事みたいに言うな!元はと言えばお前が」
「他人事だよ」
「……え?」
私は拭った吐瀉物を握りしめる。
「私は三角初華だけど三角初華じゃない。まなちゃんが知ってる三角初華はもういないの。私も、あなたも、本物じゃない。私達が争っても何の意味もない。だからここで終わらせる。これ以上まなちゃんを苦しめることはさせない!ヴォミットガントレット」
吐瀉物が私の両手を覆い隠し、袖の長い手袋のような物に形を変えていく。
「睦ちゃんに合わせてちょっと高級なカフェ選んだのに……食べたものダメにしたんだから責任取ってもらうからね!」
そう言って私はまなちゃんに向かって走り出す。足の震えはもう止まった。何が何だか分からなくて怖がってる場合じゃない。今ここでまなちゃんを止めないと二人が悲しむ。そんなの絶対許せない。
「訳の分からないことごちゃごちゃ言ってないでさっさと死んで!」
まなちゃんが飛ばしてきた手榴弾を掴み、その形を小さな盾に変える。
「強欲…私の爆弾も自分の武器に変えちゃうんだね」
「一度手にしたのなら私のでしょ?それに、大好きなお姉ちゃん取られてるんだから、少しくらい強欲でもいいじゃん」
まなちゃんの顔面……はやっぱり殴れない。懐に潜り込み爆弾で形成された服の上から腹部を殴りつけると、しっかりダメージを与えられているようで、まなちゃんは表情を歪めていた。
「こういうの得意じゃないでしょ?まなちゃん、運動苦手そうだもん」
「…それは初華ちゃんだって同じでしょ」
「そんなことないよ。小さい頃から自然豊かなあの島が、私の遊び場だったからね」
爆発で加速させたまなちゃんの拳を紙一重で避け、無防備になった腹部に蹴りを入れる。よろけた相手の身体に躊躇なく次の拳を叩き込む。
日が落ちて星の光しかない島の中を探検した。凸凹の山道だって、木々が生い茂る森だって、私にとっては楽しい遊び場だった。
「相手がお姉ちゃんだったらどうなるか分からないけど……相手が悪かったね、まなちゃん」
「……何なのアンタ」
「……三角初華。それ以外の何者でもないよ」
小さくごめんなさいと呟き、武装した拳をまなちゃんの顔面に叩き込む。国民アイドルの顔に傷をつけるなんて畏れ多いけど、これ以上まなちゃんが無関係な人達の命を奪う方が私は怖かった。
「また二人でsumimiやるんだから……これ以上ゴシップ増やさないでよね」
しばらくして騒ぎを聞きつけた人が通報したらしく、公園内は公安デビルハンターや警察、救急隊員でいっぱいになっていた。
話を聞かれたけど、何が起こっているのかも理解できず巻き込まれただけと答えた。隣で眠っているまなちゃんは、つい先ほどまで意識があったけど目の前の現状に疲労してしまい眠っていると説明した。正直納得してもらえるかは微妙だったけど、人手が足りてないようで他の人命救助に向かっていった。
目の前で慌ただしく動く人々を眺めながら、最近のことを振り返ってみたが分からないことだらけだ。
大好きなお姉ちゃんが悪魔に殺されて、Ave Mujicaの三角初華としての人生が始まった。偽物の仮面をつけながらムジカ、sumimiの二つでお姉ちゃんを演じ続けた。大変だったけど、お姉ちゃんがいた場所を壊したくなかったから頑張れた。でもあの日、再び悪魔に襲われて、睦ちゃんの正体を知って、まなちゃんが……既に亡くなっていることも……
「さっきの話、本気?」
そんなことを考えていると、いつの間にか目を覚ましていたまなちゃんがこちらに顔を向けないまま問いかけてきた。
「さっきの話って…」
「……また二人でsumimiやるって」
「聞こえてたんだ」
キラキラと輝いていたsumimiの二人はもういない。
今あの場所にいるのは、そんな二人の思いと輝きを守りたいと思う偽物二人。
「お姉ちゃんはまなちゃんに感謝してた。自分を見つけてくれた大切な人だって……伝わってなかったかもしれないけれど、お姉ちゃんがsumimiを大好きだったこと、まなちゃんのことを大切に思っていたことは貴方に知っておいてほしい」
私から伝えても意味はないのかもしれないけれど、私が聞いたお姉ちゃんの本心。それをまなちゃんには知ってもらいたかった。
「……そう」
それ以外は何も言わず、立ち上がったまなちゃんはその場から立ち去ろうとした。
「どこに、行くの…」
「今日は帰る。しばらくsumimiはお休みだよ、初華ちゃん」
そう答えるまなちゃんは、少し寂しそうで、今手を離したらそのまま消えてしまうんじゃないかと思ってしまった。
「……ねぇ、何か私に、手伝えることない?」
まなちゃんは考える素振りを見せ、しばらくするといたずらっ子のような悪い笑みを浮かべた。
「Ave Mujicaで忙しい初華ちゃんの手を借りるなんてできないよ」
「それは!……祥子ちゃんに言えば……なんとかなる……かも」
「ふふ、あはははは!尻に敷かれてるね〜初華ちゃん」
「そ、そんなことないよ!」
「大丈夫だよ初華ちゃん。私も、また二人でsumimiやるために頑張るから」
「まなちゃん…」
「今度あったら教えて。私が知らない初華ちゃんのこと」
「うん、私にも教えてね。私が知らないまなちゃんのこと」
「……ありがとう、初ちゃん」
『次のニュースです。本日未明、アイドルグループsumimiのメンバーである純田まなさんが、都内で亡くなっているのが発見されました。損傷が激しく、現場付近にあった荷物と、血痕から採取されたDNA鑑定により純田まなさん本人であることが分かりました。繰り返します。本日未明、アイドルグループsumimiのメンバーである純田まなさんが
亡くなっているのが発見されました。