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人が1人死んだくらいじゃ世界は何も変わらない。
外の世界では、戦争とかテロで多くの人が死んでいるのに、何も変わらないのだから当然だ。
私の大切なパートナーで、ずっと私の憧れで、やっと本当のことを打ち明けられると思っていたのに、まなちゃんが死んでも私の世界は変わらなかった。
「ストップ。初華、また同じところでミスをしていますわ」
「…ごめん、祥ちゃん」
「本番はもうすぐです。今のままでは困ります」
「うん…」
今日も私は、Ave Mujicaのドロリス 三角初華のフリをして生きている。
純田まなが死んだことで、sumimiは活動休止となった。
あの日、まなちゃんからまなちゃん自身の話を聞いた私は、お互いに全てを打ち明けこれから2人、偽物同士でsumimiとして頑張っていこうと思っていたのに、そんな願いは呆気なく砕け散った。
現実を受け入れることができなかった。食事は喉を通らない。それでも生きるために無理して食べたが、結局吐き出してしまった。まなちゃんがこの世界にいないという現実が、私の心にぽっかりと穴を開けてしまったようで、生に対する執着はどんどん薄くなっていった。
しばらくお休みをもらっていたけど、Ave Mujicaのライブも迫り、私は練習に参加するようになった。
しかし心ここに在らずで、みんなには迷惑をかけてばかりだ。
「ではもう一度同じところから」
「サキコ、ストップ〜。私喉乾いたし、そろそろ休憩したいんだけど?」
「祐天寺さん分かってますの?私達には時間がありませんのよ」
「それは分かってるけど、今のままじゃモチベ上がらないっていうか…ウミコも休憩したいよね?」
「いえ、私は平気ですが」
「…空気読みなよウミコ」
「どういう意味ですか」
「祥、私も少し、休みたい」
「睦まで……分かりました。それでは少し休憩にします。10分後に練習を再開しますわ」
「やった!それじゃウイコ、飲み物買いに行くの付き合って」
「あ、うん…」
にゃむちゃんに強引に手を引かれ練習室を後にする。
部屋の扉が閉まるとき、奥にいる睦ちゃんと目が合ったような気がした。
「はー!冷たいのが疲れた身体に染み渡るー!
ウイコ、本当に飲み物いらないの?」
「うん…」
「あっそ」
祐天寺さんから飲み物を奢ってあげると言われたけど、私はそんな気分になれなくてお断りした。会話も途切れ、私達の間には気まずい雰囲気が流れていたけど、あのまま祥子ちゃんがいるスタジオにいるのも居心地が悪く、少しだけ祐天寺さんに感謝もしていた。
「…にゃむちゃん、私練習しなきゃいけないから、先に戻ってるね」
だけど、結局ここも居心地が悪くて、私は1人になるために嘘をつくことにした。
「ねぇ、サキコっていつもあんな感じなの?」
「え?」
困惑する私を逃さないように、祐天寺さんは少しずつ距離を詰めてくる。
「ウイコ達が2人で住んでるのは知ってる。サキコって少しわがままって言うか、あまり周りの意見を聞かないじゃん?ウイコと2人きりの時もそうなのかなって思ってさ」
祐天寺さんは兄弟姉妹の多い大家族で、面倒見が良く、観察眼や洞察力が優れている人だ。素っ気ないときもあるけれど、根は優しい人なのだとなんとなく感じていた。
「確かに我が強いところもあるけど、祥ちゃんとても優しいよ。むしろ家でもムジカのことばかりで、頑張りすぎなんじゃないかって心配しちゃうくらい」
お姉ちゃんならそう答える。私は作り笑いを浮かべて答えてみせた。そんな私に、祐天寺さんの冷たい視線が突き刺さる。
「ふーん……でもさ、あたしがこんな事言うのもあれだけど、今ムジカを優先するのって正直どうなの」
「どう…って?」
「ウイコは今、ムジカにいるべきじゃない。私はそう思ってる」
まなちゃんのことを気にしてくれているんだと思ったけど、私は三角初華になりきらなきゃならない。だから、余計なお世話だと思ってしまった。
「なんで?確かにさっきの練習はミスしちゃったけど、ライブまでには絶対弾けるようにするし、私がいなきゃムジカはどうなるの!?」
「ウイコがサキコをどう思っているのかも、ムジカをどれだけ大切にしてるかも何となく分かってる。でもウイコが大事にしてきたのはそれだけじゃないでしょ?」
祐天寺さんの言ってることは正しい。お姉ちゃんが大事にしてきたのは祥子ちゃんやAve Mujicaだけじゃない。
分かってる。
けれどもそれがなんだ。
それがどうした。
私はお姉ちゃんが大切にしていたものを奪った。お姉ちゃんが必要としていた場所を奪った。そんな私が、自分の大切なものを失ったことに対して悲しんでいいはずがない。私は、私が終わるその時まで、三角初華を演じなければいけない。
「……うまく隠してるのかもしれないけど、分かるよ。大切なものを失う悲しみは、私も少しだけ分かるから」
そう言うと祐天寺さんは立ち上がりスタジオの方へ歩き始める。
「にゃむちゃん?」
「サキコと話してくる。ウイコ、今のままムジカ続けるのは絶対にやめな。もう少し落ち着いてから」
ーなんで邪魔するの
祐天寺さんの優しさを、受け止める余裕なんて、今の私には無かった。
「やめて!余計なことしないで!時間が経てば解決するの?このもやもやした嫌な気持ちは消えて無くなってくれるの!?そんなわけない、この気持ちはいつまでも消えて無くならない!」
「…ウイコ」
お姉ちゃんがいなくなってから今日この日まで、悲しみが消えたことなんて一度もない。それでもお姉ちゃんが大切にしてきたムジカのため、お姉ちゃんとの約束があったから、三角初華を必死に演じることでなんとか生きてこれた。だけど、まなちゃんまでいなくなっちゃったら、私はもう、私でいられない。
「嫌だよ…大好きな人がみんないなくなる。
さみしいよ……さみしいの!でも私は三角初華だからAveMujicaをやらなくちゃいけない。それができなきゃ、私が生きてる意味なんてないの!」
「そぎゃん馬鹿なこつ言うな!」
私の叫びよりも大きな声をぶつけられ呆気に取られていると、身体が少しずつ温かくなり祐天寺さんに抱きしめられていることに気づいた。
「生きとる意味のなか人間なんて一人もおらん! 誰だって誰かに必要とされとるったい! ウイコの気持ちば全部分かるわけじゃなかばってん、少しは分かる。だけん、そぎゃんこと言うたらいかん。ウイコは生きていかなんとたい!」
誰かに怒られることなんて、ここ最近なかった。
私が吐き出したものを全て受け止めるかのように、祐天寺さんは強く、だけど優しく私を抱きしめてくれていた。
「……なんで?なんで、こんなこと……」
「さっきも言ったけど、大切なもの失う辛さは、私も少しは分かってるつもりだから」
そう話す祐天寺さんの声は、少し弱々しかった。
何があったのかは聞けない。私達はただのバンドメンバーで、そこまで親しい間柄じゃないから。にも関わらず、私を優しく包む祐天寺さんに、私はお姉ちゃんの姿を重ねてしまっていた。
恥ずかしい思いをした。
バンドメンバーに抱きしめられ、その胸の中で泣き、落ち着きを取り戻すまで私は抱きしめられたままだった。
「落ち着いた?」
「うん…その、ごめんなさい…いろいろ」
「…別に。なんて言うか、ほっとけなかっただけだし……それに、私は愛することを恐れないアモーリスだからね」
「ふふっ、何それ」
少しだけ心のもやもやが晴れたような気がした。
だけど祐天寺さんに甘えちゃいけない。私は三角初華を演じなければいけないから。でも、たまには甘えてもいいのかもしれない……。
「ねぇ、にゃむちゃん…その……」
「ん?」
あれ?どうやって甘えればいいんだっけ?
確かお姉ちゃんは頭を撫でてくれたり、膝枕してくれたりしたけど、それを祐天寺さんにお願いするのはなんだか恥ずかしいと言うか、万が一祥子ちゃんに見られたらなんて言い訳すればいいのか……
「話は終わりましたか?」
「うわぁ!」
「あ、ウミコ」
背後から声をかけてきたのは八幡さんだった。
祐天寺さんは気づいていたみたいだけど、周りが見えなくなってた私はその存在に気づくことができなかった。
「もう時間でしょ?そろそろ戻るところだったから」
「それもありますが、お2人に聞きたいことがありまして」
「き、聞きたいこと?」
「はい、お2人は今週末何か予定が入っていますか?」
「ムジカの練習以外とくに予定ないけど」
「私も…」
「そうですか。それは好都合です」
「は?何が好都合なの?」
「お2人が練習室を出た後3人で話したんですが、今週末に豊川さんの別荘で合宿をすることになりました」
「「合宿!?」」
「はい、南の島で5人仲良くお泊まり合宿です」
お久しぶりです。生きてました
定期的な更新は難しいですが、完結目指して書き続けます
感想もらえると嬉しいです
読んでいただきありがとうございました