来世は平和な世界がいいと言ったがこれは違うだろ 作:曇らせスキー4545世
エアライダー記念とリハビリ兼ねて
私の前世は争いに満ちていた。
死んだ理由は分からないが、まああの争いに満ちていた世界だ。大方ろくな死に方もできなかったであろうことは容易に伺える。肉の一欠片でも残っていれば幸運な方だろう。
だからこそ……そう、だからこそ魂にこびり付いてしまうほどに私は平和というものに執着していたのだろう。それこそ、新たな生を受けてもそれを覚えていたほどに。
前世の記憶も保持し、今世に生まれた──目覚めた時にはまだ色々と失う前の姿に瓜二つ故、本当に転生したかすら疑わしいが──私が最初に行ったのは今世は前の世界の時のような闘争に塗れた世界ではないのかと調査することだった。
だが、調査してすぐに分かった。この世界、この星は呆れてしまうほどに平和だ。何故ならばファンシー極まる一頭身の謎生物がそこら辺にわんさかいた上に警戒心すらまるでないのだ。彼等を膝に乗っけられるほどに巨大で異彩極まる私を見ても警戒することもなくわにゃわにゃと鳴き声? をあげながら手を振ってくれるのだ。
きっとこの世界は闘争というものを知らぬ平和な世界なのだ。そうでもなければこんな見たこともない自身より遥かに巨大な生物を相手にほんの僅かな警戒も見せずに笑顔で手を振ってくる生物など存在するはずがない。
──神というものが実在するのなら私は今日、初めて心の底から感謝を捧げるだろう。
さて、念願叶って平和な世界に転生したのだ。ここは一つ幼い頃から仄かに抱いていた夢のカフェのオーナーというものをやってみるとしよう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
この世界にやって来た当初に書いていた日記帳を読んで、思わずふっと笑みがこぼれた。
「ものの見事に見た目に騙されまくってるな」
今はお昼時、カフェが最も忙しくなる時間帯。今日も従業員のワドルディくん達と忙しなく料理やデザートを作っては配膳していた。この世界の住人はあのような小さな体躯の一体どこに入っているのかと疑うほどに健啖家な者達が多い。
そもそも口がないのに普通に食事しているからそういう疑問を持つ事自体が間違いなのかもしれない。ワドルディくんとかその最たる例だし。
そんな事を考えながら厨房で鍋を振っているとゴゴゴという地響きの音と共に周囲一帯が真っ暗になる。はて、今日は何だろうかと鍋にかけていた火を止めてから店から出て上空を見上げると──
「今日は隕石かぁ」
少なくとも地表にぶつかれば大量絶滅を免れないほどの被害を叩き出すであろう巨大な隕石が4つも此方に向かってきていた。普通ならば逃げ出すか、或いは全てを投げ出して諦めるかの二択。だが──
「いや、何でもないよ。すぐに戻ろう」
わにゃ? と心配そうな鳴き声を上げるワドルディくんを連れてカフェの中に戻る。
別に生きることを諦めたからだとか、正常性バイアスが掛かっているからだとかそんな理由ではない。ただまあ、強いて言うのなら何人かの見知った顔の子達が野球バットを担いで嬉々として隕石の落下地点に向かっていったのが見えたのと、その見知った顔の中にピンク玉の常連さんがいたのだ。
此方と目が合った時に手を振っていたので振り返したが、とびきりの笑顔のまま隕石の落下地点に猛スピードで向かっていったのを見てカフェの営業に戻ることにしたのだ。
「今日は野球かぁ」
わにゃわにゃと集まってきた従業員の子達に厨房に連れ戻されて鍋を振るう中零れた言葉は遠く離れた隕石の落下地点から発生したであろう『グワゴラギィィィィン!』という今日一番の快音に打ち消された。
備え付けられた窓からちらりと外を見ると落下していたはずの隕石は落ちてきた時以上の速度で宇宙に跳ね返され、直線上にあった障害物──という名の他の惑星──をぶち壊して宇宙を突き進む。
「ふぅ」
もはや見慣れてしまった光景。けれどそれでも思わずため息はこぼれてしまう。それに反応した子がわにゃ? と心配そうに此方を見上げてきたが何でもないよと手を振ると暫く此方を見つめた後に自分の仕事に戻った。
この世界、前の世界よりも修羅の世界だぁ……。
もしも神が存在するのならば私は心の底からあらん限りの罵声と暴言を吐き散らかすだろうと、最早何度目かも分からぬ思いを胸に鍋を振るう。
きっとこの後目を輝かせながらとびきりの笑顔と共に入店するであろうピンク玉の常連が沢山食べれるように大量の料理を用意する為に。
そして願わくば今日の事件はこれで終わってほしいなぁと叶わぬ願いを胸に抱いて。
「あなた」――とおいところからポップスターにやってきたすっごくおおきくてやさしいおともだち! いつもおいしいりょうりをつくってたべさせてくれる! ふしぎなちからをもっててみんなのてだすけもしてくれるみたい。 でもとってもよわいからちゃんとまもってあげてね!