猿も木から落ちるレベル   作:緑ちょこ

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遅くながらも第12話投稿です。渋谷事変から死滅回遊へと移行する境なので短めです。色々と気になる点はあると思いますが、ご了承ください。


第12話「ヘルクレス」

神話や物語などに登場する蛇の魔物、そう言われてパッとイメージする物はなんだろうか。首が複数本あり、巨大かつ毒を持ち、圧倒的な再生能力を持つ八岐大蛇? それとも髪の毛が無数の蛇で作られ、それでいながら美貌を持ち、視線で射抜いた者の体を石化させてしまうメデューサ?

 

人の数ほど、そのイメージと言う物は変わるだろう。呪霊もまた、そのイメージの数だけ存在し、人を呪っている。さて、ここでは問題なのはどんな呪霊も『人のイメージ』に影響されている訳だ。真人ならば『人間の歪』から、花御は『大地の特大』から、陀艮は『大海の未知』から、それらは数十億と人間がいるから生まれるわけで、低級呪霊やそうでない1級、特級でさえも同じ、変えられない因果だ。

 

「寒ッ、つか、なんだよアレ(・・)

 

「八岐大蛇⋯⋯にしては遥かに小さいね」

 

幼稚園児サイズの胴体に取ってつけたかのような短くて太い不細工な尾。その先端から七つへと分かれた首がある。

種族独特による全身を纏う鱗に、衰退した視力を補うかのように進化し、温度を感知する器官。チロチロと先割れした舌を口の外へとさらけ出すように伸ばすその呪霊は──、

 

「ナーガラージャ⋯⋯か。私の知識にはないが、恐らくは蛇の類だと思われる。毒や石化、異常な再生能力があると見えるだろう。落とした首も、独立して動くかもしれない」

 

「真人と戦ったから、その辺は大丈夫だ。皮肉だけどな」

 

────『ナーガラージャ』。羂索の言葉からそう呟かれて出された呪霊は蛇を元に生み出された推定2級、1級以上の呪霊。小さいな体ながら、その濃密な呪力は爬虫類の鱗を、頑丈な鎧を精密に形作っている。

 

ともあれ、問題なのは目の前の敵の強さではなく、九十九と虎杖の下半身が凍らされ、容易く動かせないという欠点だ。幸い、上半身だけは氷結から逃れられている為、敵の攻撃を迎え撃ち、反撃するような形で戦うしかないだろう。肝心の敵も、サイズ感は小さく、掴んでしまえば圧死も望める。が、

 

「⋯⋯待て、あいつの胴体、人間の顔に見える」

 

「だからなんだ、としか言いようがないが、そうだね。擬態か⋯⋯」

 

『あるいは』と言葉を続けようとする九十九。が、瞬間、空間に歪みが生じる。地が、壁が、地震のように揺れる。その振動は九十九由基の肉体にも刻まれ、視界が、思考が、体が、揺れる。足は動かない。腕も動かない。頭は回らないし、術式も発動できない。唯一動くのは口だけ、だから、

 

「虎杖くん! 確証は無いが、君なら砕けずに氷から脱出できる! 迎え撃ってく────ッ!」

 

鋭い痛みに紡がれかけた声が中断される。牙が食い込み、身体を、他者の領域を犯すかのように何かの液体が流れ込む。7本の頭を持つ蛇の呪霊。無論、蛇だから毒を持っていてもおかしくはない。その可能性は九十九由基自身、そう言っていた。が、その毒の効果までは推測できない。呪霊だから呪力を乱すだとか、純粋に人間の体に毒だとか、そもそも呪霊の血液自体が人体には毒なので、仮に術式絡みや体質などで毒であればなお問題だろう。

 

「ふんッ! ──りゃあァ!」

 

「っ、ナイスフォロー!!」

 

全身に力を入れ、氷を粉砕する。動けるようになった虎杖が今も九十九の首に噛みつき、毒液を注入している呪霊を投げ捨てる。頭の一本を掴み、首の肉片こど引きちぎり、自分の頭よりも下に、低い位置に引っ張ったそれに膝蹴りを放ち、前方へと吹き飛ばす。蛇相手に打撃が有効とは思えない。鱗もあり、その強度に比例して呪力もまた並々。防御力がそう柔いとは思えない。

 

「倦怠感、吐き気、目眩と頭痛。呪力には乱れがないが、純粋にコンディションが悪くなる。君なら問題はないと思うが、気をつけてくれ」

 

「押忍!」

 

反転術式を回して首の傷を治療する。毒の類も無効化できない訳ではないが、成分を分析できなければそれも困難だ。可能なのは血流や神経に反転術式を回し、毒の影響を少しでも和らげる事ぐらいだ。そんな事をこなしがら、飛ばされた呪霊の方を見て九十九は考える。状態異常(デバフ)は毒の影響だとして、先程の振動はなんなのだろうか。虎杖が動揺をしていない所を見るに、あれは実際に起きた振動ではなく、九十九に限定した何かしらの能力であると見れる。気になる点は虎杖も指摘した人の頭部のような胴体だが──、

 

1(One)

 

「──しィ!」

 

一言も喋らなかった、喋りそうになかった呪霊の一言。過剰反応するかのように放たれた攻撃。九十九の蹴りで地面の瓦礫が蹴り上げられ、呪力を、否────質量(・・)を纏う破片が呪霊の元へと飛散する。散弾銃のように飛び寄せたそれが、呪霊の胴体へと直撃する。人体における頭部のような見た目をしたその胴体の、言ってしまえば頭部の左目とも言える場所に風穴が空いた。それだけに留まらず、右目、唇、鼻と衰退した建物のような損傷を与える。が、

 

「ぐっ⋯⋯ぅ!」

 

毒の効果が加速し、倦怠感が強くなる。続け、視界が歪む。体が左右に揺れている。否、方向感覚を失った不安定な体が、左右に揺れてしまう。毒の影響もあるが、先程に味わった振動と同様の感覚だ。が、今度は肉が捻れ、骨が軋むかのような衝撃と共に、痛みが全身へと迸る。思考が乱れ、肉体を動かす事ができない。胴体の傷が完治したのだろう。蛇の呪霊が地面を這いながら、こちらへと近づいてきている。どのような構造で、どのような原理でそれを行っているのか。九十九までまだ道半ばであるはずの場所で斜めに跳躍し、緩やかなそれが急加速。今度は開かれた口腔がはっきりと目に映り──、

 

『黒ッ閃ンンンンン!!!』

 

真横から、咽び泣くようなか細い声と共に腕が伸びる。指、手首、腕とパラパラ漫画のように視界に移るそれは九十九の真右、否。蛇の呪霊から見て、真左から襲いかかってきた全力の右ストレートだ。虎杖が放ったそれが、黒い呪力を飛び散らせ、蛇の首を消し飛ばしながら再度、吹き飛ばす。

呪霊が壁へと叩き込まれた瞬間、九十九の体を拘束していた振動が解除される。やはりあれは、

 

「虎杖くん、話が長くなるから手短に。呪霊が数字の8⋯⋯Eightを唱えた時、対象者が石化または死に至る。だから持続的に呪霊の頭を、可能なら早めに殺すべきだ」

 

「了解す!」

 

九十九の言葉に頷き、大きな声で返事を返す虎杖。その視線は変わらず、呪霊の方を向いていた。が、壁へと衝突し、破壊された事によって噴煙が巻き上がっている。故にその姿は見えないが、

 

2(Two)

 

「あと発動条件は胴体の頭部に睨まれること!!!」

 

姿を隠していた噴煙が消え、蛇の呪霊の姿が露わになる。人の頭部に見えた胴体、その左目の瞳孔が開かれ、赤い瞳が九十九を睨む。再生途中の他の蛇頭を待たず、2本残っていたそれらがカウント(・・・・)を行う。それは文字通りに九十九由基の死、それまでのカウントダウンであり、この戦いのタイムリミットでもある。時間をかければかけるほど死へと近づき、時間をかければかけるほど不利になる。なぜなら──、

 

「マジんが〜!?」

 

『『『『『『7(Seven)』』』』』』

 

虎杖によって跳ねられた蛇の頭が、胴体を生やし、整列するかのように元の体を持つ同族に並んで、改めて告げるようにカウントを行う。九十九由基の死まであと1歩(・・)

 

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

(ブラザー)⋯⋯戦いに水を刺され、怒る気持ちはわかる。が、責めるなら俺を責めてくれ。超親友(ブラザー)は、虎杖悠仁は何一つ悪くない」

 

東堂がそうやって謝罪の意を込めながら、それでいて他者を庇う言葉を発したのは初めてだった。原作知識を持っていると言う事も関係しているのかもしれないけれど、こうして過ごした2年の間で東堂葵のイメージは変わっていない。性癖の趣味が合う人間を好み、ドンピシャだった虎杖を求め、術式が直接的に殺傷能力がなくとも、間接的に術式を強くする。どこまでいっても、誰と比較しても東堂葵は最高の呪術師だと言えるし、人間性においても『見下されたと俺が感じたらその時点でコングは鳴ってんのさ』精神で幼い頃から他者とは一線を画す、いい意味で狂っていた人物だ。だから、

 

「何度も言ってるだろ。不義遊戯でお前を殴っちまった事で帳消しだって」

 

本当はそんな事を思っていない。虎杖が入れ替わり、結果的に復讐を遂げる形にも、力を強める形にもなったのだから、結果オーライだ。それだけではなく、仮に不慮の事故で殴っていなかったとしても、彼に謝罪なんかなんて求めちゃいない。求めれる立場じゃないし、謝罪なんて薄っぺらい物だ。

 

「東堂は虎杖と九十九さんの補助へ。場所は恐らく真人がいた場所から遠くない。俺はぶっつけ本番だが、やるしかない」

 

「了解した。(ブラザー)も無理をするなよ」

 

手振りで方向を指し、言葉を返してきた東堂へ『うい』と短き一言で理解の意を示す。本音では羂索などと戦いたいものの、その役目は自分ではない。吉野順平の死だとか、五条悟の封印だとか、色々と解決できていなかった問題は多い。五条の場合は結果的に獄門疆を奪えたから、予定よりも早い解放が望めるだろう。そういった面ではこれで良かったと言えるかもしれないが、吉野順平の場合は──命であれば事が変わる。

 

「猿猴捉月・『オガミ婆』」

 

厳密には名前が違うのかもしれないが、拡張術式を扱い、その名を口に出す。最悪の未来⋯⋯本当に最悪の最悪が起きた際に行おうと胸の内に潜めていた最終手段。それは吉野順平の死が大きく関わっている。彼の場合は、力不足で救えなかったが──、

 

「原作より損傷が酷い分、できるかもしれない」

 

今回は違う。誰かの為に考える頭は足りているし、それを行う事ができるだけの力もある。しかし、ぶっつけ本番と言ったように希望があるだけで確実性はない。だが、これを行えば明るい未来を拝めるかもしれない。失敗したのだから、道を違えてしまったのだから、やらなくては。

 

『拡張術式・猿の手』

 

右腕が膨張し、服装の袖が、その下にある皮膚が、肩から弾け、爪が剥がれ、代わりに牙のような長く鋭い物へと生え変わる。無くなった皮の代わりに外部から生身の肉を保護するように生える毛は剛毛で、一太刀の斬撃も受け付けない鎧のように、それでいて茶色かつ生気を感じさせ、生命体の体、その一部である事を認識させる。

 

「猿だって、月に行けるんだぜ」

 

腕が、伸びる。人間でもなければ、呪霊でもない。霊長類の────猿の手が。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

1948年から1961年の間、アメリカでは霊長類を乗せた宇宙飛行が何度か行われた。それは生命体が宇宙飛行を行っても命に支障がないか、想定外の問題は起きないかなどの不安材料を払拭する為であった。

 

初めて宇宙飛行を行った霊長類はアカゲザルのアルバートだった。1948年6月11日にV-2ロケットで打ち上げられたアルバートだったが、高度63キロメートルの時点で窒息死した。

 

続いて1949年6月14日に再度、V-2ロケットによって打ち上げられたのはアルバートIIだった。最高高度は134キロメートルにまで達し、宇宙空間の下限である高度100キロメートルを超えた最初の霊長類だった。

 

アルバートIII。アルバートIV。アルバートV。アルバートVI。パトリシア。マイク。ゴード。エイブル。ベイカー。サム。ミス・サム。ハム。イーノス。ゴライアス。スキャットバック。ボニー。No.3165。No.384-80。

 

彼らは全員が猿で、そのどれもが宇宙に行かんとし、失敗あるいは成功をした正真正銘の宇宙飛行士だ。

でも彼ら自身は宇宙に行く事を求めていなかったかもしれない。だけど、誰かが彼らに、猿の手(・・・)に求めていたのだから。

 

「釘崎の肉体を治せ」

 

1(One)

 

彩の声に伴い、猿の手から謎の声が発せられる。猿の鳴き声を何十にも重ね、無理矢理に作られた人語はカウント(・・・・)を行った。まるで、死へのカウントダウンを行っていたガーナラージャのように。しかし、そんな物騒な考えとは裏腹に起きる現象は奇跡的な物だっだ。反転術式でも治しにくい臓器などの繊細な部分が、編み物のようにして釘崎の内部に生み出される。もっとも、彩にとってはそれが行われているか否か、そんな事は分からないのだが。

 

「ごッふ⋯⋯ぐ」

 

口端から、なんて囁か物ではない物量の朱が口から地面へと吐き出される。3つ(・・)の願いを叶えてくれる猿の手、その代償だ。彩がこの拡張術式を作るに当たって参考に、元ネタにしたのはウィリアム・ワーマイク・ジェイコブスと呼ばれるイギリスの小説家の作品、『猿の手』から考えられた物だ。

 

「ふぅ、ふ⋯⋯ふぅ」

 

呪力を血液へと変換し、失われたそれを代用する。それでも臓器に走った損傷は治らない。釘崎の体を治すに当たって、彩が傷を受け入れたのだから。ともあれ、猿の手と呼ばれる小説にはタイトル通りに『猿の手』と呼ばれる物が出る。経緯を話さず、その効果だけを切り取れば他者の願いを3つまで叶えてくれる魔法のランプ的なあれだ。しかし、問題なのはここからで、望んだ願いは酷く曲がった状態で叶えられる。

 

「そんな事にはならなくて、良かったけどな」

 

左手で腹に触れ、肉体を襲った痛みに耐えようとする。原作では愛する人の死者蘇生を行おうとしたら、腐った肉体のゾンビのような状態で蘇るなどの最悪の結末に陥った。だから不安ではあったのだが、自分の肉体が蝕まれるだけで済むのなら問題ない。

 

「釘崎野薔薇の魂を釘崎野薔薇の体に降ろせ」

 

2(Two)

 

降霊術に重ねて猿の手の能力。間違った捉われ方をされぬよう、しっかりとした言い方をしたのが吉だったか否か、なんにせよ、釘崎の体が一瞬だけ動いた。僭越ながら左胸に手を置くと、そこには確かに生きようと動く鼓動の音が走っている。もう問題はあるまい。もう、問題は。

 

「──ご、ぼ」

 

視界が歪む。意識が薄れる。肉体が倒れる。代償が襲いかかる。血が、呪力が、失われる。────猿の手は意地悪だ。酷く曲げた願いを叶えさせたり、少なくとも性格がいい訳がない。だから一度目の願いの代償を体質によって限りなく減らした彩を猿の手は許さない。血液が失われると共に呪力も喰らい、失った分の血液を即座に取り戻させず、それでいて現状での戦闘能力を奪う最悪な代償。口から吐かれた血液は酷く黒く、鮮やかな赤色と違い、体の奥底にある重要な物である事を示している。

 

「がぁ、はぁ⋯⋯う、ぐ」

 

『ギャギャギャギャ』

 

腹に両手を伸ばし、蹲って体を小さく縮こませる。苦しみながらも周囲を警戒していた視界に映ったのは低級呪霊だった。術式もなければフィジカルもない、容易く祓う事ができる低級呪霊。それが今の彩にとっては脅威だった。だって、呪力が底を尽きているのだから。

 

『ギャーギャギャ!!!』

 

「がぁ──!」

 

腹を横から蹴られ、弾き飛ばされ、転がって壁へと背を打つ。息を吐きながらも前を見るは両腕が鋭い刃へと変換した、低級呪霊の中でもまだ殺傷力を有す者だった。しかし、呪霊はそれを振るわない。まるで、蹴鞠やサッカーボールを蹴り転がすように。帰宅路の道中に落ちている小石を蹴り回すように。その者にはは弄ぶ事しか眼中になかった。

 

「⋯⋯分からない。⋯⋯代償が、⋯⋯ほどかも」

 

血反吐を吐きながら言葉を呟く獲物に呪霊は興味津々だ。殺してしまう前に、なんと言っているか。なんと泣いているか。聞いてみようではないか。長身の体の腰を折り、中腰になった呪霊が耳を向ける。瞬間、

 

3(Three)

 

「────」

 

瞬間、呪霊が消し飛んだ。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

『『『『『『7(Seven)』』』』』』

 

6体へと増えた呪霊が、全員が口を開く。数字の7をカウントする呪霊の胴体は人の頭部のような見た目で、その瞳が開かれる度にカウントが進んでゆく。カウントが進む条件は睨まれること、九十九はそう断言したが、

 

「訂正だ虎杖くん。睨まれたらじゃない。──睨まれた上で、動いたらカウントが進む。残念ながら、私はここから動けない」

 

「⋯⋯了解す。大丈夫です。もう動きは見たから」

 

地団駄を踏む、なんて物じゃないが、九十九由基はその場から動く事ができない。今振り返れば肉体に振動が襲いかかったのは動いた後だった。ともあれ、宿儺の器だからか否か、あるいは呪いとも言えるカウントの対象は単体だけなのか、幸いにも虎杖はその影響下にいないが故、自由に動く事ができる。特級である九十九が動けない状況が幸いと言えるかは不確かであるが。

 

「──たァ!」

 

無からその姿が顕現する。脊椎骨のような胴体に小さな翅が無数にも生えたようなフォルムは丸まる事によって大きく変わり、サッカーボールのように蹴られた式神が直撃した呪霊の頭と胴体を破壊。完全に再生する事なくその場にて塵へと変わる。

 

しかし、自分とその式神『凰輪(ガルダ)』にしか術式を適用できなかった過去の九十九とは違う。彩の入れ知恵であったとしても、昔の弱かった九十九(・・・・・・・)ではないのだ。

 

星々の怒り(ボンバイエ)ッ!!』

 

凰輪が破壊した瓦礫が飛び散り、呪力を纏う。宙に留まった小石に仮想の質量(・・・・・)が宿り、方向性を持って放たれたそれが弾丸のように、否。流星雨(スターレイン)のように降り注ぐ。星々の一つ一つが呪霊の頭を、胴体を貫き、破壊する。もしも仮に『星』や『惑星』への畏れから生まれた呪霊がいたとしたら、それはかつてないほどに強力で、かつてないほどに恐ろしく、かつてないほどに美しい事だろう。

 

「黒閃! 黒⋯⋯閃ッ!!!」

 

先程の一撃も含めれば3度。これだけでも2連続の黒閃。虎杖の一撃一撃が呪霊の体を消し飛ばす。残りは頭を2本残している本体と1本しかない分身の2体。それに焦ったか否か、本能的に九十九の方へと飛びかかる分身だったが──、

 

宇宙空間(アウタースペース)

 

「──」

 

分身の体が地面へと叩きつけられる。まるで何者かが上に覆いかぶさっているかのように、重い重力が呪霊を拘束する。圧倒的な物理法則が、秩序の塊が、呪霊の体を地面のシミへと変える。勝てないと直感した本体が、蛇の呪霊──ナーガラージャが背を向けて逃亡する。呪霊操術を持って操られ、戦っていたナーガラージャだったが、その強い支配よりも恐怖が上回ってしまった。このままでは死んでしまう。このままでは自分が世界から消え──、

 

「黒閃」

 

──てしまう。黒い火花が飛び散り、呪霊の肉体は消し飛んだ。残り1歩届かず、九十九由基は行き、呪霊は死んだ。

 

呪霊を討伐し、休憩していた九十九と虎杖の二人が地上での騒動に気づいたのは生き埋めから復帰した数十時間後の事だった。

 

 

 

 




「ナーガラージャ」
特級仮想怨霊の一体。元々は蛇の王であるナーガ、その神であるナーガラージャが発生の原因であり、人々が蛇に対するイメージが集合した結果、毒に再生、再生による擬似分身や石化と行った能力を持つ強力な呪霊となった。

石化の条件は頭部の瞳に睨まれた状態で足を伸ばし、歩を歩ませること。8回目のカウントで条件が完全に満たされ、その肉体に石化が蝕む。

「猿の手」
3つの願いを叶えてくれると言われている文字通りの猿の手。元ネタの方は望んだ物とは違う曲がった結果となる意地悪な物。拡張術式として再現したそれは自分が大きな代償を消費する代わりに、願いを叶えるといったもの。ただし3つ目の願いを叶えた際の代償の大きさは分からない。


「宇宙空間」
その正確な効果は不明であるものの、作中の描写では上から下へ押し潰されるようにして呪霊が消滅した。恐らくは重力が関係するなんらかの拡張術式。
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