猿も木から落ちるレベル   作:緑ちょこ

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遅くながら投稿です。1万文字には至りませんでしたがご了承ください。

2025/11/15 誤字修正

2026/1/2 誤字修正


死滅回遊編
第13話「魔物」


「23区はほぼ壊滅」「官房長官を含めた総理代理全員が安否不明」「はっきりと無事と断言できるのは奥多摩の町村、青梅市・あきる野市、八王子市・町田市の一部、各島嶼だけだ」「政治的空白⋯⋯!! 文字通りの空白だぞ!!」「そんな中、どう少なく見積もっても500万人の都民の疎開プランを組まねばならん」「今は⋯⋯でしょ? 放たれた呪霊の数は1000万は下りません」「各地のラブホテル・キャンプ地、廃村まで最低限のインフラでいい。使える物は全て使え」「都内全域を避難命令区域に設定するんですか!?」「経団連ブチギレ?」「皆、死んでたらロビイングもクソもないでしょ」「その後、立入禁止とする。正に人外魔境(・・・・)さ」「円安止まんねぇ〜輸出する分にはいいんだっけ?」「明治に張り直した皇居を中心とした結界と幕末に東京遷都候補地だった薨星宮直上を中心とした結界。これらを無理矢理、県境まで拡張する」「官邸機能は大阪へ⋯⋯!!」「呪霊の存在を公表する!? マジで言ってんの!?」「このままでは呪霊が各地に大量発生する!! 多くの術師が都内の避難民の警護にあたっている今!! この時にだぞ!!」「呪霊はあくまで東京のみに発生するものとして公表する」「この規模での権力の真空、他国の軍事介入もあり得る」「一般人の呪力の漏出を東京へ促し、呪霊の発生を東京に限定するというわけですか⋯⋯」「だから関空ができた時、伊丹を移転候補地として推したんだ俺は!!」「逆によかったじゃん? 霞が関が元気だったらできなかった判断でしょ」「陰謀論者湧きすぎ」

 

人外魔境(・・・・)

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「ご苦労乙骨」

 

「労う気ないんだからさっさと本題に入りましょう。これで僕がアナタ達の命令に従うと分かったでしょう」

 

襖のような遮蔽に身を隠す人物の一人が声を出す。言葉上では労っている素振りを見せようとも、実際は年齢に見合った、あるいは立場に見合った威厳、権力を示そうとしているに過ぎない。こうして東京が人外魔境などと呼ばれ、避難命令区域に指定されたのも先生が腐ったミカン(・・・・・・)と称していた上層部が原因なのだから。

 

「ヒッヒッ。呪霊をいくら殺した所で何の証明にもならんさ」

 

「じゃあ"縛り"でも何でも結んだらいい。五条先生の教え子とか関係ないですよ。彼は渋谷で大勢の市民に被害を与えました。それが宿儺の仕業であれ、抑えきれていなかったのが悪い。だから──」

 

老婆か何か、正確な年齢は分からないものの、老獪な声が嘲笑うように乙骨を挑発する。食い気味に縛りの話を持ち出し、胸の内にある善意で発した言葉と共に決意の表明を表す。

 

「虎杖悠仁は僕が殺します」

 

誰にも悟られぬよう、殺意だけを言葉に乗せて、声に出す。知られてはならない。見破られてはならない。分からせてはならない。こいつらは五条先生が封印された理由でも、人外魔境の原因でもあるのだから。

 

 

 

呪術総監部より通達。

(いち)、夏油傑生存の事実を確認。同人に対し再度の死刑を宣告する。

()、五条悟を渋谷事変共同正犯とし、呪術界から永久追放かつ協力をする行為も罪と決定する(・・・・・・・・・・・・・・)

(さん)、夜蛾正道を五条悟と夏油傑を唆し、渋谷事変を起こしたとして死罪を認定する。

()、虎杖悠仁の死刑執行猶予を取り消し、速やかな死刑の執行を決定する。

 

「これはまずい事になったな」

 

()、虎杖悠仁の死刑執行役として特級術師、乙骨憂太を任命する。

 

「虎杖⋯⋯お前が、お前は、どうして」

 

(ろく)、与幸吉を呪術高専及び総監部を裏切り、渋谷事変に加担したとして死罪を認定。同様に協力者であった柊陽彩も死罪に認定。呪胎九相図らを懐に起き、反乱を起こそうとした事によって──、

 

────死刑執行役に特級術師『九十九由基』を任命する。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「で、死んだん? 真希ちゃんと真依ちゃん」

 

「今は禪院家の心配を。上層部の矛がいつ向いてくるか分かりません」

 

特別1級術師、禪院直哉。口軽に死の有無を聞く男の声に込められた感情はそう深くはない。三日月のように歪んだ口も、海に浮かぶ小舟のような瞳も、それらを形作る胡散臭い表情も、そのどれもが身内の体、その心配を案じている。

 

「上層部の矛⋯⋯ねぇ。そんなもん刃向かってきたらいてこますだけや。────上やとか知らん。彩くんを死罪だなんて、許されへん」

 

「⋯⋯私の口からはなんとも」

 

直哉の口から続けて発せられる言葉は知り合いの──彩陽柊の断罪、その報われ方だ。やってもいない罪を問われ、死刑という残酷さ。あのような青年が、あのような少年が、こんな事になってしまってはよろしくない事だ。

 

そんな特別1級術師の考え、悩みを知っているのは禪院家でも数少なく、非術師の女⋯⋯いわゆる召使いの類ぐらいしかそれを知っている者はいない。なにより直哉自身が心を開いているのが身近な所にいる女性や自身の父親──禪院直毘人や彩であるからだ。

 

「遅いぞ。何をしていた。禪院家が消えるかもしれん時に⋯⋯!!」

 

「ごめんちゃい♡。でも禪院家が消えるかどうかなんてどうでもええやろ? 現当主⋯⋯親父は生きとるし、僕らもピンピンしとるやん。上層部にへっぴり腰て⋯⋯アンタらそれでも術師なん?」

 

彩の介入があったとて、生まれ持ったその者の魂が変わる訳ではない。彩の言葉である程度は性格に綻びが生まれたとて、直哉の本質は変わらない。気に食わない者はとことん挑発し、自分のポリシーからかけ離れた存在は忌避して蹂躙する。が、

 

「禪院家が危ないねんで? 堪忍したってや。」

 

禪院甚壱の拳が、禪院扇の刃が、直哉の体目掛けて振るわれる。拳は空振り、刃は寸止めされたものの、それぞれの怒りは収まっていない。禪院家が、呪術界がこうして大変な時期であるが故、飽くまでそういった類の理由だ。元々、直哉は周りから好まれていない。彩の介入によって性格が改善された者たちは直毘人と直哉だけだろう。そのおかげで召使いや下っ端らの扱いも多少なりとはマシになったものの、甚壱や扇などは意志を曲げない。逆にただの子供の言葉で考えを簡単に変えてしまった彼ら親子をいいと思っていないのだ。

 

全員(・・)まとめて守ったる」

 

囁くようにして放たれた直哉の誓いが彼ら、禪院家の耳に入る事はなかった。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「あれ? 一人じゃないんだ」

 

「そうだろうとも。死罪を受けた者同士⋯⋯手を繋ぎ合うだのは当然と言える事だからね」

 

与幸吉、虎杖悠仁に脹相、血塗、壊相と言った九相図兄弟。そして──、

 

「俺はあんたを恨まないよ九十九さん。ただ、こいつらはどうかな」

 

「恨む恨まれ⋯⋯そういう問題じゃないだろう? 君なら分かってくれていると思っていたが、考え違いだったようだね」

 

────柊陽彩。6人の術師、受肉体はそれぞれ上層部から死罪を決定された罪人だ。九相図はその存在自体か忌避すべき、危険な存在だからといったシンプルな理由で、虎杖、彩や与は純粋な裏切り行為として決断を下された。無論、五条悟も同様に。

 

「虎杖を、弟達を逃がす」

 

「言わなくても分かってるし、そうするつもりだ。となると、俺たちは三人⋯⋯」

 

『いや』と彩の喋りを何者かの言葉が横から入って──、

 

「いや、四人や。僕も含めてでいうとな」

 

────禪院直哉。特別1級呪術師として禪院家に君臨する若き術師。次期当主とも言われている彼の登場は正に百人力と言った所だろう。問題は死罪を受けた彩たちを、その罪を精算しに来た執行人の強さであるが、

 

「僕は虎杖くん達を、九十九さんは三人をお任せします」

 

「いいね。効率的なのはいい事だ」

 

乙骨憂太と九十九由基。どちらも呪術界隈に4人⋯⋯否、3人と少ない特級認定を受けた術師だ。その強さは国家転覆をも可能としうる圧倒的な戦力、物量を持った怪物と言えるだろう。故に1級術師が二人に1級相当の脹相と与幸吉⋯⋯都合四人では足元にも及ぶまい。足場を破壊すると共に、虎杖らの方向へと蹴り出した乙骨を後目に、彩はそのような思考を回す。原作では乙骨は『虎杖を殺害する』という縛りを、殺害の実行と同時にアウトプットの反転術式で治す事によってほぼ無効化したといった次第だ。

 

「────」

 

すぐさまに襲ってこない九十九を視界の端に起きながら、思考の海に全身を浸す彩。彼の中で『シュミレーション』と呼ばれている瞑想の類であるそれは自分が持ち得る全ての情報(データ)を元にあらゆる可能性を文字通りに『シュミレーション』するといった物だ。原作知識があるが故、登場人物のある程度の性格や思考回路といった物は分かる。だからこそ、九十九由基がこうして死刑執行人の役を担っている理由が分からない。乙骨が縛りを擬似的に破く事ができるのは知っているし、余程のことがない限りは不慮の事故なんかが起こらない事も分かっている。が、

 

「さすがにそれは都合良すぎるか⋯⋯」

 

心で述べたように、乙骨は反転術式のアウトプットを用いる事で『虎杖悠仁殺害』の縛りを打ち破る事ができた。しかし、アウトプットが可能か否かは完全なる才であり、最強と呼ばれる五条悟でさえもアウトプットはできず、夏油傑もまた、アウトプットは愚か、反転術式すら扱えていないようだった。つまるところ、五条悟が持っていないのにも拘わらず、作中で明確な描写がない九十九由基が都合よく反転術式⋯⋯そのアウトプットを持っている訳がないということ。それを踏まえた上でもう一度、もう一度だけ考えてみよう。

 

「どうすんだ、これ」

 

数十分にも渡って、彩は頭をフル回転させている。が、目の前の光景は変わらず持続していた。術式である星々の怒りも、式神である鳳輪も、その両方をも使わず、純粋な格闘によって脹相と直哉と戦っている。なるほど、術式も使わずに1級術師二人と戦えるのはさすが特級だ、なんて客観的な思考から生まれた言葉では決してない。重要なのは九十九由基ほどの自由人がこうして死刑執行人として働こうとし、わざわざ出向いているのにも拘わらず、確実に殺せる手段であろう術式を使っていないということ。それ即ち、九十九由基は縛りを結んでいないか、縛りを無効化しているかのどちらかである。

 

「でも無理だよなぁ」

 

縛りを破った際に降りかかるデメリットというのは様々だ。自分に課した縛りならばメリットが消えるだけで済むものの、他者と結ばれた場合はそうはいかない。縛りを破ったとして、大きな報いが来るかもしれない。とあれば縛りを結んでいない方が可能性は高いものの、九十九がそんな事を行うはずもない。つまるところ──、

 

「──らァ!」

 

考えても答えが出ない。故に考えないのがベスト。今は九十九を敵として扱うべきだと。そう思いながら地面を蹴り上げ、急加速した体が九十九の背中を捉える。直哉と脹相、二人と戦って無防備な背中に右拳を──、

 

「ぐぁ!?」

 

「彩!! ──ぐッ!」

 

「甘いね」

 

──当てれない。増幅した重力が彩の細い体を叩きつけ、地面へと伏せさせる。彩の心配を案じた脹相の防御に崩れが生じ、肝臓へと九十九の拳が叩きつけられる。直哉は未だ、片手で抑えられ、あしらわれている。術式を使わなかったのは純粋に必要ないから、そういう理由だったのだろう。特級の強さ。これがそういう事なのだろう。だから、

 

大祓砲(ウルトラキャノン)

 

「ぐぅ、ふんッ!」

 

装甲傀儡、メカ丸の左手から放出された光線が九十九の横っ面へと襲いかかる。しかし、直哉ごと吹き飛ばすようにして振り上げられたハイキックがそれを弾き飛ばす。瞬間、直哉の体がその場から消えて──、

 

『『投射呪法』』

 

ドロリと地面に溶けた彩の体から伸びた細長い腕が、九十九の左足を掴む。振り上げられた右足を、狐のような笑みを浮かべた銀髪の男が掴む。そして同時に囁かれた『投射呪法』と言う言葉。投射呪法で作り終えた動きをトレースできなかった場合、他者に使用した際でも同様に、その者の動きが約1秒間、完全に停止する。それに付け加え、同時に使用する事で重ねがけに成功した投射呪法は──、

 

「3秒、3秒でええとこやろ。詳しい数字は知らへんけど」

 

約3秒間の間、九十九由基の体を縛り付ける。呪力チャージを開始した傀儡。血液を限界まで圧縮する呪胎。呪詞を行う猿。それらの攻撃は──、

 

「だらァ──!!!」

 

「番いの流星──『解』」

「大祓砲」

「穿血」

 

加速を続けた果てに、足を振り下げる狐の声と共に放たれる。固定された九十九の首に直哉の蹴りが直撃し、投射呪法の停止が解除されたと同時に地面へと叩きつけられる。不可視の斬撃が左の足首を切断し、大祓砲が右足の太腿を焼き払う。圧縮された血液が、穿血が丹田を貫き、大出血を肉体へと刻む。

 

「が、ふ⋯⋯は、ぁ。ナイス、ファイト」

 

九十九由基が結んでいた縛り。『自身がピンチに追い込まれない限り、術式の使用を禁じ、彼らにやられたら必ず屈する。その代わりに死刑執行人を担う』は今、破られた。誰の手でもなく、猿の手で。九十九由基と言う一つの星を握りしめ、次は月をも掴まんとして。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「いやぁビビったよマジで」

 

「はは、ごめんね。少年院の話を聞いて、君なら大丈夫かなって」

 

特級二人との邂逅から数時間。乙骨にこっぴどく倒された虎杖の意識が戻ってから数十分。九十九由基と乙骨憂太⋯⋯彼ら死刑執行人の事情を聞き、和解した後である。ともあれ、九十九由基の敗北と乙骨憂太の勝利という形で事態は丸く収まった。

 

「さて⋯⋯問題はどうすっかな。そのー、天元様に助言を貰いに行く。その二、別の協力者を仰ぐ。その三⋯⋯どちらも行う」

 

「私としては天元の所に行くのは気が進まないが⋯⋯君が言うのなら選択肢としてもアリだろうね」

 

彩の言葉に嫌そうな顔をして声を上げたのは九十九由基だった。原作知識を持っているが故、彼女がそう顰めっ面をするのも分からなくはない。が、どの道は天元の元へ行かなくてはならないのだ。術式の消滅を可能とする天使(・・)に会いに行かなくてはならないし、彩として天元は守り切りたい。その為にも繋がりを作っておかなくてはならない。

 

「九十九さんが言ったように、天元様に会いに行くのはほぼ必須だ。⋯⋯というか、天元様にも会うし、協力者も手に入れる。まずは──」

 

「────天元様に会いに行く」

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「なんもねぇ」

 

「これが本殿?」

 

「いや、私達を拒絶しているのさ。天元は現に干渉しないが六眼を封印された今なら接触が可能だと踏んだんだが、見通しが甘かった」

 

広く広大な、なんて言葉には入り切らない膨大な敷地。否、正確には何もない無(・・・・・)と言えるだろう。天元が根を張り、守っている結界⋯⋯その中心がここだと言うのだからこうも真っ白く、こうも広すぎるのは当然と言えば当然だ。

 

「戻ろうか。津美紀さんには時間がない」

 

拒絶されている。九十九由基の言葉は正しくも真実ではなく、正確に言うのならば『九十九由基が拒絶されている』という事だ。ともあれ、会えないのならば無駄足で、徒労にしかなり得ない故、帰る他あるまい。乙骨の言葉に足並み揃えて振り返り、何もない空間にただ一つだけ残る、長い廊下を渡り帰ろうとしていた。が、

 

「────帰るのか? 初めまして。禪院の子。道真の子。受胎九相図。因果から外れし異分子。そして⋯⋯宿儺の器」

 

「私には挨拶なしかい? 天元」

 

先程まで見ていた場所⋯⋯真っ白な無から人型が姿を表す。声を出し、人語を理解し、言葉を投げかけてくる。

 

「君は初対面じゃないだろう。九十九由基」

 

「⋯⋯何故、薨星宮を閉じた」

 

「羂索に君が同調していることを警戒した。私には人の心までは分からないのでね」

 

正論に言い返せず、別の問いを返す九十九。立て続けの質問に表情も変えず、天元は答えに応じる。羂索の同調⋯⋯あやふやな表現に一同が首を傾げるも、質問が行われる隙もなく口が開かれる。

 

「かつて加茂憲倫⋯⋯今は夏油傑の肉体に宿っている術師だ」

 

「慈悲の羂、救済の索か⋯⋯皮肉にもなってないね」

 

「天元様はなんでそんな感じなの?」

 

会話に混じる気もない虎杖の口から発せられた言葉は天元の容姿に関する物だった。意図してか否か、場の悪い空気は入れ替えられたかのように清く、それでいて面白おかしい雰囲気だった。

 

「私は不死であって不老ではない〜」と天元の説明が続き、九十九が意味深な発言をした後、それぞれが質問を行い、それぞれが言葉を交わす。天元の護衛は脹相、九十九、彩の三人に壊相と血塗は待機。秤金次の協力を仰ぐ人選は虎杖、伏黒、パンダ。禪院家に帰り、呪具などを集めるのは直哉と真希。

 

「さて⋯⋯どうなるかね」

 

人々の欲望が入り交じる世⋯⋯その上に浮かぶ月の元で猿は笑い、声を出す。これから起こりうる全てを。

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

あれから数十日後⋯⋯死滅回遊が始まり、秤が仲間になったり、真希、直哉らが扇などの藻屑どもを殲滅し、直哉が禪院家当主になったり、鹿紫が仲間になったり、外の世(・・・)では様々な事が起き、原作(・・)が忠実に展開されていた。真依、直毘人や七海建人などの一部術師の生存などを除き、忠実に進んでいた。そしてそれは薨星宮でも同様で、羂索によって巻き起こされる攻防が始まっていた。

 

「穿血!!!」

 

圧縮される血液が噴出し、さながら水流カッターのように羂索の頭を狙う。が、低級呪霊を出しながら体を捻る事によって羂索は攻撃を回避。横へと動かされる手首で穿血の軌道が曲げられるものの、噴煙によって直撃したか否かまでは分からない。しかし、噴煙の中から現れた羂索の姿によって杞憂は消える。もっとも、攻撃は直撃しておらず、地面から飛び散る煙と瓦礫を利用され、投じられた地面の破片によって目隠し⋯⋯同時に複数の呪霊を出され、こちらへと向かってきているといった次第であるが。

 

「超新星」

 

手首から流れ、前方へと向けて放たれた小さな血液が爆発。瓦礫と呪霊の両方を弾き、止まる事を知らないエネルギーの拡散が肩の上を掠める。それでも接近してくる羂索の右肘が迫り、脹相は左腕の肘で防御するものの、すぐさま向けられた左肘によって頬を殴られ、首が左へと曲がる。後方へと弾き飛ばされながらも宙へと浮く超新星の爆発によって羂索を攻撃するが、

 

「やれないか」

 

「やれないよ」

 

薄っぺらい布のような呪霊で懐を防御。羂索の体にはなんの損傷もない。して、羂索の無事で脹相による問い詰めが始まる寸前であったが、

 

「君、脹相じゃないだろう? なんの為に姿を偽り、誰がそうしているのかまではこの忌々しい結界が故に分からないが、本人ではない事は分かる」

 

「バレるのが早いな。バレたとて、明かすつもりは毛頭ないが」

 

会話を入り交えながらもこちらへと迫る槍型呪霊をちょい溜めの穿血で撃ち落としながら言葉を紡ぐ。脹相ではない脹相⋯⋯この場においては偽脹相と呼ぶものの、その目的は至って単純だ。脹相や九十九が疲労せず、それでいて限りなく羂索の手数、情報(・・)を引き出すこと。ただ手の内を消費させるだけでなく、敵の情報(・・)を知る事もまた大事なのだ。

 

「なら殺した後、その体に聞かせてもらおう」

 

原作とは外れた展開で、原作通りに呪霊によって左足を拘束される偽脹相。困惑している顔に羂索の右拳が忠実に直撃──、

 

「がぁ!?」

 

────しない。偽脹相ははなから拘束される事を分かっていて、羂索の右拳が振り下ろされる事を分かっていて、その上で動きを後追い(トレース)させているのだ。拘束され、動かせぬ左足を逆手にとり、決してバランスを崩させぬストッパーの役割を持たせる。大雑把ながらも全ての力を注ぎ、振り上げられた右足、伸びきったそれの爪先が羂索の顎の先端に触れる。本来、あらゆる攻撃は掠った物より中心に直撃した方が威力を高く発揮する。しかし、対象の脳を揺すぶり、思考を乱す事だけに重点を置いた顎先への攻撃だけに限り、直撃よりも掠めた方がその効果をより高く発揮する。

 

『超新星』

 

左足首から滴る血液に形が付与され、宙にて不安定に留まるそれが偽脹相の声によって爆発。最初の時点で行った『超新星』は呪詞こそなけれど、その技の名前を口に出して行われていた。それ故に威力と範囲は高く、呪霊の猛攻を防ぐに至っていた。反対に道中に挟まれた無詠唱の超新星は範囲も狭く、威力もそう高くはなかった。が、今回は意識が揺らいでいる羂索へ、技を口に出しながら放った『超新星』だ。だから、

 

「づ──っつぅ! 小癪な!!」

 

爆発した超新星は偽脹相の左足を呪霊ごと消し飛ばし、破壊によって生じたエネルギーが呪霊の肉片を弾丸へと変え、羂索の腹へと数発、穴を開ける。多少の血液を流しながらもすぐさま反転術式を行い、止血と治療を開始する羂索。対して左足が弾け飛んだ偽脹相であるが、

 

「術師の"特級"が何を意味するか知ってるか?」

 

「──!」

 

原作では羂索が言われていた言葉。それを意趣返しのように、実際はまだ羂索の口から出ていない物なのだが、ともあれ、意趣返しとして口切りに選ばれた言葉を元に、偽脹相は続けて声を発する。

 

単独での国家転覆が可能であること(・・・・・・・・・・・・・・・・)。五条悟は言わずもがな、夏油傑も呪霊操術で異形の軍隊を持つ事ができるわけだからね。さて⋯⋯()の中では話が大きく逸れたが、ともかくだ。仮に万物を再現する事ができる術式が⋯⋯」

 

『あるとすれば』と言葉が紡がれ──、

 

────特級の枠には収まらないだろうね。と、羂索の瞳に映った偽脹相⋯⋯否。偽羂索(・・・)は笑った。髪型も瞳も身長も表情も立ち振る舞いも、果てや口調までが完璧に同じな偽羂索。不完全な部分なく、余すことなく全てが模倣(コピー)された偽羂索の体は凝固した血液によって作られた擬似的な義足⋯⋯超新星によって損傷した左足を除き、発せられる呪力さえも同じだった。まるで、鏡に映る自分を見るかのように。それでいて鏡に映っている本物の自分ではない事が分かっていて、脳が理解していても体が否定し、魂から拒絶するかのような醜悪な感情が羂索の胸の内で回り続ける。数秒の沈黙を元に羂索は口を開いて、

 

「──魔物め」

 

目の前に立ち伏せる自分を見て、最大の嫌悪を、最高の憎悪を込めて、そう言葉を放つのだった。

 

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