猿も木から落ちるレベル   作:緑ちょこ

18 / 25
1万文字に足らずですが投稿です。


第17話「現代最強の呪術師」

時間は少し前にまで遡り、時は渋谷事変の真っ只中にまで戻る。

 

「や、久しぶり」

 

「⋯⋯どうやった、とか聞かねぇのな」

 

「んー、聞いてもどうせ答えてくれないでしょ」

 

『猿の手』によって釘崎野薔薇を治療し、瀕死状態であった彩。そこへと襲いかかる低級呪霊を薙ぎ払ったのもまた、『猿の手』の3つ目の願いによって解放された五条悟だった。

 

「"縛り"だ。俺が良しとするまで人前に出るな。理由は後で話すが、そうした方が未来のためになる」

 

「その未来に僕や彩はいるの?」

 

「俺も悟も⋯⋯釘崎も伏黒も、虎杖だっている」

 

顎に手を置きながら少し考えた後、「なら決まりだね」と声を紡ぎ、彩へと手を交わす。心の内で作成・承認を意識すれば他者間での"縛り"は容易く行える。そうして、五条悟の身柄は一時的に彩の元になったのだった。

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

羂索との戦いからどれほどの日数が経過したか分からない。ゾーンとも言える状態に突入した彩はどれほどの日数が経過したか、それこそ正確な数字が分からないほどの長さ、気絶していたらしい。羂索が天元の結界を乗っ取り、コロニー内に呪霊を解き放った結果が今、広がる荒野のような背景。だがそれよりも優先すべき事が目の前にはある。

 

「覚えているか? 面白いものが見れると言ったろう。小僧」

 

「⋯⋯伏黒??」

 

体へと紋様が浮かび上がる伏黒恵に、いつもとは違う様子を見せる伏黒恵に、困惑を隠せずに声を出す虎杖。瞬間、伏黒恵もとい伏黒に受肉した両面宿儺の膝蹴りが腹部へと突き刺さり、虎杖の体を遠くに吹き飛ばす。それこそ、通常の人間ならば死体すらも残らぬほどの威力で。

 

「いつの時代もどこからともなく虫が湧く。『鵺』」

 

顕現するは受肉体である元の伏黒恵が所有する『十種影法術』の式神である『鵺』だ。圧倒的な技量と呪力で使役された鵺の大きさは神話に登場する龍をも超える物で、帯電に留まらず、放電にも留まらず、自分の体よりも下の者に降り注ぐようにして落雷を生み出す。その後、天使もとい華による邪去悔(やこぶ)の梯子によって宿儺の抹殺が狙われるも、起死回生のハニートラップによって封じられ、失敗に終わる。羽をもがれ、弾き飛ばされ、落下し、地面へと嫌な音を立てながら落ちた華を前に、虎杖は顔を歪ませる。が、

 

「宿ッ儺ああァア゛ア゛!!!」

 

建物を踏み締め、破壊すると共に宿儺へと接近する虎杖。その身体能力は天与呪縛をも超える文字通りの鬼神。投じられた瓦礫を宿儺は為す術なく受ける他なく、限りなく衝撃を受け流した後に回避するものの、更なる虎杖の追撃が襲いかかる。が、それさえも瓦礫を蹴りあげる事によって宿儺は防ぎ切る。

 

「羂索め、気色の悪いことをする」

 

自分にしか知らない事情を、その場にいる誰かには聞こえるような声量で呟く宿儺。そして、

 

「オマエは!! オマエ達は!! どうして普通に生きられない!! どうして不幸を振り撒かずにはいられないんだ!!」

 

走りながら叫ぶ虎杖。圧倒的なフィジカルで攻撃されたとすれば、たとえ宿儺でさえも肉体の激しい崩壊は免れないだろう。もっとも、当たればの話であるが。

 

「俺から言わせれば、オマエらこそ何故そこまで弱い。何故弱いくせに生に執着する。つつけばたちまち崩れてしまう生き物が永く幸福でありたいなどどうして口にできる。貴様らは身の丈にあった不幸を生涯、噛み潰していればいいのだ」

 

掠めた斬撃によって右肩から血を流し、片膝を着きかける虎杖を前に宿儺は口を開く。そこから紡がれた言葉にあるのは純粋な価値観の違いだけだ。悪意なんてものは、彼ら────呪いにとっては娯楽の一つに過ぎない。だからこそ人と呪いは共生できないのだ。

 

「オマエも噛み潰してみろ。不幸(おれ)をよ」

 

「来てみろ」

 

ゆったりと進む虎杖の歩みに降り注がれる無数の斬撃。が、鬼神の肉体につけれる傷は皮一枚の軽い傷だけであり、血を流すだけで重傷ではない。故に痛みこそあれど、覚悟を決めた鬼神の歩を止める手にはなり得ない。伏黒恵の抵抗によって出力が落ちている御厨子であれば、それこそ不可能というもの。

 

「やはり何事にも仕上げは必要だな」

 

斬撃を味わいながらも突き進み、振るわれた拳によって生じた痛みに顔を傾げる宿儺。首を傾け、骨を鳴らして動きに支障がないかの動作確認を行い、目の前の虎杖を視界に入れる。今の弱体化した宿儺であったとしても、殺すべき敵が目の前の鬼神だったとしても、出力をもっと上げれば容易く行われるだろう。だから──、

 

「──頑張ったね、悠仁。もう休んでいいよ」

 

「せん、せ、ぇ⋯⋯」

 

「ケヒッ! 貴様か!!」

 

────現代最強の呪術師の存在。特級術師4人の中でも類稀な力を持つ男が今、この場に顕現する。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「せん、せ、ぇ⋯⋯俺、たくさん頑張ったんだよ。兄貴を名乗る意味わかんねぇヤツが現れて、実はそいつが本当に兄貴で、でも実際は違くて、母親が乗っ取られてたとか、俺の中に宿儺の指が最初からあったとか⋯⋯すっげえ辛かったんだよ」

 

涙を流し、息を殺し、崩れ落ちた状態で白髪の男のズボンに縋るようにしがみつき、渋谷事変や死滅回遊、その者が封印され、いなかった時の事を話す。

 

「辛かったし、頑張った。でも、釘崎は救えなかった。だから俺、生きるのも辛くて⋯⋯」

 

少年の顔に鬼神と呼べる表情は浮かんでいない。あるのは過去の力不足な自分に対する『後悔』と『悲痛』で、呪いの王と呼ばれる両面宿儺と戦えるような器には到底見えず、軟弱な子供のような認識の方がぴったりと当てはまっていた。

 

「ああ、分かってる。悠仁は最善を尽くしたし、他に道はなかった。だからもう休んでいい。後は──」

 

言葉の紡ぎの間に呼吸を挟みながら、宿儺へと右手の人差し指を向けて、

 

「────僕が全部なんとかする」

 

「⋯⋯分かった!!!」

 

白髪の男の細長い腕に背中を叩かれ、絶対なる安心感を元にどこかへと走り去る虎杖。その様子を青い瞳の内側に収めながら、男は笑って、

 

『術式反転・赫』

『解』

 

一筋の赤い光と不可視の斬撃。その二つの詠唱が同時に放たれ、重なる言葉に覆い隠される。瞬間、両者の攻撃が衝突した事によって暴風が起こり、白髪の男────五条悟と両面宿儺の距離が遠ざかった。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「16本分の力で勝てるか? いや、奴も封印から解かれ、なまった体を動かす機会すらなかったはずだ。完全ではないにしろ、互いのコンディションはほぼ互角か」

 

「今の不完全な(・・・・)僕で奴を殺せるか? 摩虎羅さえ完封してしまえば後は何とかなりそうだけど、その摩虎羅が問題⋯⋯五分五分ってとこかな。そもそも、出してくるかすら分からないけど」

 

暴風によって大きく距離を離された両者は元の場所へと走り出しながらも思考を口から零していた。原作では完全体の宿儺と五条が戦い、負けたものの、指の本数が完全体には程遠い今なら、勝てる可能性はあるのかもしれない。が、術式反転である赫がたたの斬撃である『解』で相殺された事も問題だろう。順転のそれよりも2倍は威力が高いはずのそれが、呪詞もなしの『解』と同等の威力。つまり、それ程の出力で宿儺も術式を使用したという事であるが。

 

「アイツの呪力効率は正確には未知数⋯⋯だけど、僕を除けば2番目に高いはず。それでもやっぱ、六眼を持っている僕が有利だ」

 

呪力をより消耗している宿儺を迎え撃つべく、宿儺よりも先に先程の場所へ戻るべく、順転である『蒼』の応用によって高速移動を何度も重ね続け、半ば瞬間移動的な挙動で加速し続ける。虎杖の存在があったが故、宿儺への不意打ちはできなかった。だからこそ、今必要なのは予想していなかった攻撃。宿儺の想定よりも早く、次なる攻撃を放つ。そう考えながら、目的地に到着し、

 

「位相、波羅蜜、光の柱⋯⋯」

 

細長い指を流れるように動かし、開かれっぱなしの口からは垂れ流すかのように呪詞が詠唱され続ける。呪術戦では『情報(データ)』が何よりも重要視される。相手の術式を知る事で自ずと弱点や戦い方を推察できるからだ。が、レベルが上がれば上がる程にそれは意味を成さず、単なる技術力の応戦になる。相手の攻撃を回避したり、相手よりも先に動く事ができる『瞬発力』は低ければ命取りになり、次から次へと出てくる新たな技を前に対応する『適応力』が高ければ策を講じる時間を作れ、そして何より、呪術戦において重要なのは──、

 

『術式反転! 出力最大!! 赫!!!』

 

「嵌めたな!!」

 

極太の光線のように広がり、突き進む赤色の光。空間へと差し込む一筋の『赫』は呪詞と掌印を省略していないが故、圧倒的な破壊力を有している。それこそ、いくら出力を上げようと、『解』では相殺できぬ程だ。ともあれ、ようやくの思いで目的地目前にまで向かってきていた宿儺は五条の姿を目視するや否や、地面を蹴り上げて後方へと飛び跳ね戻る。宿儺がここまで素早く戻ろうとしていたのは五条悟が有する攻撃手段の一つ⋯⋯『虚式・茈』の発動を危険視したからだ。全盛期ならいざ知らず、16本分の指の力を持つ宿儺では対処できるかどうか怪しい。が、実際に放たれたのは赫だった。もっとも、奥義とは言えずど、その威力は依然、現代最強の名を冠するに値する物だろう。

 

「────るゥ!」

 

そう、呪術戦において重要なのは『殺傷力』である。こうして両の掌を前へと突き出し、掴んで止めようとするしか選択がない今の宿儺のように、呪術戦においては対象者を殺せる力、殺せる知恵が重要だ。その点、破壊力といい、速度といい、範囲といい、五条悟の放った出力最大の『赫』は完璧な『殺傷力』を持っているだろう。なに、高い『殺傷力』が生きてくるのは何も敵を殺す事だけではない。対象の肉体部位を破壊し、それこそ術式を発動する隙をも与えず、呪詞を唱える暇すらも与えず、完膚なきまでに五体をバラバラにさせてやる事だ。

 

『位相』

 

どうやら宿儺は掌に御厨子の『解』を流しながら受け止めているらしい。が、表面を少しづつ削り取るだけで効果は薄く、その前に限界を迎えて壁に当たり、爆発するのが先であろう。移り変わる景色を視界の端に宿儺は思考する。絶え間なく流れ続ける雑音の中に混じったのは恐らく五条悟の詠唱だ。このままでは何かしらの壁に衝突し、肉体にダメージを刻み続けるか。五条悟から新たな攻撃をされ、赫の暴発によって体が破壊されるか。

 

『黄昏』

 

赫の衝撃で押し出され続ける宿儺を追うのは蒼の応用によって何度も空中で加速しながら、呪詞の詠唱を行う五条悟だ。未知の技である可能性は拭えないが、宿儺は呪詞の内容から『赫』か『蒼』のどちらかが来ると推測する。方向性を持たせて赫を放ち、暴発をさせれば破壊力は凄まじいものの、宿儺に防がれれば結局は水の泡だ。よって範囲攻撃である蒼だと断定する。

 

『智慧の瞳』

 

押し出しの力が弱まり、変化し続ける景色の速度が減少した。背後で発生した呪力の高まりから呪詞はもはや唱え終えたらしい。ならば他に打つ手はなく、もはや巻き込む他に道はあるまい。己の片手でもう片方の手の指を握り、細切れへと変化させる。反転術式で治す必要はない。どの道、この後の衝撃で肉体は半壊するだろう。だから、

 

『出力最大!! 蒼!!!』

(かみの)(フーガ)

 

────破壊するのみ。自分の体諸共を焼き付ける業火の矢を解き放ち、世界を焼き払え。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「──ッホ、ごほっこぼっ⋯⋯これ、マジか!」

 

呪詞を唱える隙はなかったはず。どうやればこれ程の威力の(フーガ)を放つ事ができたのか。そう考えながら、焼き焦がされた己の皮膚に反転術式をかけて肉体を回復させる。まさか、宿儺が自爆覚悟で(フーガ)を行うとは思わなかった。だからこそ、無下限呪術によって作り出された『無限の空間』に引っかからない熱量を防ぎきれなかったという物だろう。

 

「チッ、逃げられたか⋯⋯」

 

『これからどうするかな』なんて声に出しながら歩を歩もうとした瞬間、それは訪れた。

 

「──しィ!」

 

「領域展延か!!」

 

周囲の地面に撒き散らされた瓦礫と熱量の残り火。それらによって巻き起こされた土煙の中から現れるは伏黒の体へと受肉をした宿儺であり、(フーガ)の自爆によるダメージはあれど、左半身が焼け爛れているだけに留まっている。それだけに留まらず、かつて渋谷事変にて特級呪霊らが見せた技術である『領域展延』を使い、こちらへと殴りかかってくるほどだ。宿儺の体に纏う呪力の膜が無下限バリアへと衝突し、ゴリゴリと徐々に削れてゆく。が、

 

「くっ!」

 

遠隔にて発生する極小の蒼。収束の力が宿儺の体を引き寄せ、領域展延による無下限バリア消耗を免れる。が、極小が故に威力は控えめだ。無論、それは持続時間と耐久力も同様であり、出力が低い『解』でも破壊可能だ。しかし、それが狙いでもある。

 

『術式反転・赫』

 

五条悟の可憐な指から『赫』が解き放たれる。方向性を持った、否。球体として方向性を持って飛ばされた『赫』が蒼へと接触する。『順転』と『反転』⋯⋯それぞれを接触させ、仮想の質量を生み出す技。遠隔で作り出され、溢れんばかりの衝撃が発生する。が、その球体に明確な攻撃対象は指定されておらず──、

 

『虚式・茈』

 

交わり、変色し、解放される圧倒的な衝撃。例えるならデーモンコアに近い破壊力が宿儺の傍らで爆発し、その受肉体である宿儺を吹き飛ばす。同時に衝撃から逃れる意味も含めながら、蒼の応用による高速移動⋯⋯仮称『アキレス(・・・・)』によって宿儺へと距離を詰める。半壊した肉体のまま転がる宿儺を発見──、

 

「──かはっ!?」

 

「さっきのは肝が冷えたぞ。少しだけな」

 

────していない。青色の瞳に映ったのは『偽物』だ。それも、十種影法術の応用によって具現した『影の偽物』。影に溶けた宿儺の体は地面へと染み、無と化して消え、驚きが襲いかかると共に己の肌身へと触れる感覚を感じる。本来、無下限バリアを常時的に展開している五条悟は意識して無下限バリアを使わないようにしない限り、誰かに触れられる事はないのだから、つまり、今現在に五条悟のうなじに感じる圧迫感は、

 

『捌』

 

「────ずぅああぁ!」

 

喉仏を貫通する激痛。慌てて無下限バリアの出力を最大にするものの、領域展延と術式の併用はできないのだ。故に、こうして痛みを感じているのは直接的に肌身に触れられている他にない。左足で背後の人物──宿儺の下半身を蹴り出し、地面を汚す出血と共に距離を離す。振り返り、宿儺の姿勢を見ればやはりそうだと合点がいった。不意打ちによって五条の油断を誘い出し、領域展延によって無下限を削り出した後にうなじを掴み、展延の解除と同時に術式を使用。既に掴まれているが故に無下限バリアの発動は無に等しく、こうなったと言う訳だ。

 

「領域展開」

 

「──! ぶぁ、ぶぁぶふふぶぁぶぁい(領域展開)!!!」

 

ここに来ての領域。五条が距離を離した直後に掌印に移行した宿儺の展開は早く、呆気にとられた五条悟は同時展開にならず、遅れての詠唱。重ねて反転術式による喉の治療。反応から行動まで、全ての動きが後手に回ってしまう。

 

『『伏魔御廚子(無量空処)』』

 

外殻と言える結界を閉じて展開する『無量空処』に対し、本来あるはずの過程⋯⋯結界を『閉じる』という行為を省略した上で展開する神業領域の『伏魔御廚子』。一見、同時に唱えられたと見える詠唱もまた、喉の傷を患っていない宿儺の方が早い。同時に展開されていないと言う事はつまり、先に展開した方の領域⋯⋯その必中効果が発動するということ。

 

「させん」

 

足裏から流す『解』は最低にまで出力を落とした威力1の斬撃だ。が、スケートのように加速し、五条の元へと接近する分にはなんの支障も問題もない。

 

「しッ────らァ!」

 

「くっ!」

 

左ジャブをフェイントに五条のカウンターを空振りさせる宿儺。前へと突き出した五条の右腕を狩るように体を曲げ、伸ばしきった左足による蹴りが無下限バリアへと直撃する。領域展延を使用している宿儺の攻撃によって鈍い音を立てながら、ゆっくりと、それでいて確実に削ってゆく。振り払う右拳によって宿儺の足を引かし、その隙に付け込むように短い助走をつける。そして、

 

「貴様⋯⋯」

 

『赫』

 

────歪な笑みを浮かべた男が飛び付き、爆発した。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

引き寄せ、収束の効果を持つ『蒼』の原理は至って単純で、空間を消失させる事によって無くなった部分を補充しようと周囲の空間が水のように空いた部分になだれ込み、空気やその場所にいる者ごと引っ張っているが故に可能な物。

 

「ぐ、ぶ。⋯⋯なん、と、小癪な」

 

反対の『赫』は過剰に増加された空間による押し出し、反発の力だ。無下限バリアは過剰に生み出され続けた空間⋯⋯つまるところ無限の空間を作り出す事によって実現している。何が言いたいのかと言うと、五条悟の術式『無下限呪術』の根本は『空間の操作』である。

 

「これで互いにまたイーブン────なんてなッ!!」

 

領域展開中に無下限バリアを解き、無数の斬撃を受けながらも宿儺の体へと抱きつくように飛んだ五条悟は術式反転・赫を発動した。方向性を持たさせず、出力を制限しない赫は近くにいた宿儺をも巻き込み、自分の左手首を消し飛ばす事を代償に、宿儺の体、その至る箇所を弾き飛ばした。結界、両者と共に領域が崩壊し、互いに術式が焼ききれてイーブン。が、実際は違う。

 

『出力最大!! 蒼!!!』

 

原作でも行われていた無理矢理の術式回復。己の脳を呪力で破壊し、すぐさま反転術式で再生させる荒治療。その命懸けの技術によって『収束』の最大出力が場に生み出される。

 

「貴様、はなからこれを──き、きぎ」

 

空中へと固定された青色の球体は宿儺を飲み込みながら、圧縮しながらも周囲の瓦礫を吸い込み、脱出を困難な物へと変化させる。もっとも、元より術式が焼き切れ、『解』をする事ができない宿儺にはどの道と言った所であるが。ともかく、五条悟の攻撃は拘束だけでは留まらない。

 

『位相、黄昏、智恵の瞳』

 

呪詞の後追い詠唱。出力最大と口で偽ったのはこれ以上の力の増加はないと宿儺へと油断させる為。呪詞の効果はそれだけではなく、圧縮の力を強くさせ、宿儺の体を折り曲げようとなおも収束の力を発揮している。そして、

 

『位相、波羅蜜、光の柱』

 

──ここに来ての赫の呪詞。未だ術式が焼ききれている宿儺に1つの選択肢が浮かび上がる。肉体を受肉体である伏黒の物から、かつて最強と恐れられた王の体へ変える事を。しかし、

 

貫牛(かんぎゅう)

 

『赫』

 

────王に『敗北』の2文字は存在しない。術式が焼ききれ、本来は御厨子も十種影法術も使用不可能なはず。なんのからくりか否か、宿儺はそれをやって見せた。一直線に突っ込む事を縛りに強化された、否。存在することを許された式神の『貫牛』は名前に入っている通りに黒い牛の姿をした式神だ。宿儺の呪力で強化されたそれが、五条の元から放たれた一筋の光⋯⋯『赫』へと直撃する。無論、呪詞を元に行われた術式反転の技であるが故、式神の破壊は免れない。が、

 

「戻れ」

 

完全に破壊される前に式神を陰へと戻し、術式の一部である貫牛の消失を回避する。五条はというと、なおも宿儺を封じ込めている蒼の引力を使用して加速し、接近するが──、

 

『脱兎』

 

「なっ⋯⋯」

 

自分自身の姿を真似て作った影の偽物を生み出していた時点で五条は十種影法術の存在を危険視するべきだった。そも、御三家の相伝である術式なのだから、宿儺ほどの者が使えば脅威になるのは言うまでもない。溢れ出す兎は本来の脱兎よりも一回り大きく、小型犬ほどのサイズだった。もっとも、大きさよりも大事なのは質量であり、サイズが小型犬ほどと言う事はその重さもサイズ=重量であること。つまり、蒼の引力から抜け出す為の生贄にするにはあまりにも最適だったのだ。

 

『鵺』

 

伏黒の出す物よりも一回り、なんて小さな言葉で一括りにできないレベルのサイズ。怪獣と表現するのが一番な大きさの鵺が足に宿儺を挟み、上空へと飛行する。が、原作は遠距離攻撃手段を持たない虎杖だからこそ逃げる事ができた。追いつく事もできれば、茈のような広範囲高威力の遠距離攻撃をできる五条にはすぐに捕まえられるかもしれない。だから、

 

『布瑠部由良由良⋯⋯八握剣異界神将魔虎羅』

 

「マジか」

 

空から落ちてくるは異界の神将『摩虎羅』。無機質な肌の白さに目がある場所から小さな羽のような物が片方に二つ、都合4つ生えている。布切れと帯だけの下半身はまるで筋肉質な上半身を強調させて見せる、文字通りの勝負(・・)服のような見た目であり、右腕には薄い布で無理矢理に縛られた黒い刃がある。そんな事を瞳を通じて情報を得た後──、

 

「そいつがいたら俺を止める事はできんだろう。加えて⋯⋯」

 

『出力最大・霜凪』

 

「少しばかりの雪を添える」

 

五条の視界は常に真正面──摩虎羅に行っていた。その上での氷凝呪法の氷結による白い霧。降り注がれた雪のカーテンが五条の視界を覆い、摩虎羅だけに留まらず、上空から降り注いでいるが故に宿儺の姿をも隠し通す。

 

「追ったらッ⋯⋯! 間に合わねぇ! クソ、しゃーねぇ!」

 

場に残されるは十種影法術における完全奥義の『摩虎羅』だけだ。もっとも、五条はその存在を知っていながら、肝心の能力を知らない訳であるが、

 

「ま、消すよな。壊されたら困る(・・・・・・・)もんな」

 

どろりと地面へと溶けだす影は黒いながらも雪へと混じり、消滅する。白髪の男、五条悟一人を残して。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

会津(福島県西部)にて。

 

「白髪に青い瞳⋯⋯あんた、五条家の血筋?」

 

「それって重要? これから死ぬんだしさ」

 

レオタードのように薄着かつ肩の露出が多い服装の黒髪女。背中にある歪な翅はその者が一般人ではなく、術師である事を示唆している。もっとも、明らか一般人(バンピー)ではない事が分かる格好をしているのはまた、白髪かつ青い瞳を持つ男も同様だ。魔境と化している東京に術師といえど、女が一人と言う事は恐らく受肉側の者。ならば異彩を放つ髪色の男の方は──、

 

「だって俺、最強だし」

 

「生意気なガキね。殺してあげるわ」

 

────最強の高校生。宿儺と相対する現代五条に万と対峙する学生五条。十中八九は学生五条が偽物であるが、その真偽はいかに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。