第18話「人外魔境新宿決戦」
「なぁ、伏黒」
「⋯⋯なんだよ」
万に騙され、逃げられた後の虎杖らの雰囲気は最悪だった。伏黒がこうして命を懸けてまで死滅回遊へと参加した理由が、消えてなくなったのだから、ここまで絶望に陥るのも仕方ないのかもしれない。
「あの話ってホントなの? 五条先生が伏黒の姉貴と戦ってるって」
「さあな。でも『誰か』が戦ってるのは間違いない。俺もこの目で見てねぇから五条先生じゃないとは言いにくいけど、そうじゃない事を祈る」
俯きながらどこか暗い表情でそう語る伏黒。呪術戦において情報が重要だと言ったように、術師の間では風船のように膨らみ、破裂した後のゴムのように、五条悟の話は周囲へと響き渡っている。どこからともなく現れて虎杖を助けたこと。そして伏黒の姉貴⋯⋯万とも連戦をしていること。実際は捕まえた泳者が言っていた事なので当てにはならないが、実際に見たと言う者は沢山いる。
「俺ぁ、どっちでもいいよ。五条先生じゃなくても、助けに来てくれたって事だから」
と、吹っ切れたような顔をしながら一人、小さな声で呟く虎杖だった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
万が所持する『構築術式』は禪院真依が持っているそれと同じ物である。呪力を消費して物質を構築し、己の思考・想像の元によって万物を生成する。聞くだけでは最強の能力のように思えるかもしれないが、実際は燃費が悪いので呪力量が少ない者にとっては最悪だ。それこそ無限の呪力を持つ者なんかが扱えば強いのかもしれないが、そんな者はそうそういない。
「しぁ──やィ!」
液体金属で作られているであろう先端が二股に裂けている槍が2度、五条悟の体へと突き出される。が、無下限呪術によって完成された無敵バリアがある故、その物理攻撃は意味を成さない。だからこそ万相手には『学生五条』でも勝てる、雲泥の差があると言うものだ。
「恵には悪いけど、死んでもらうわ」
「な────に」
呪詞も掌印も行わずに放たれる『赫』が万の艶めいた肉体──心臓がある左胸を貫く。絶句の言葉を告げるまでもなく、大量の出血を元に五条の前で跪く。
「恵はさ、たとえ敵になったのが本当に姉貴でも、殺せねぇんだよ。あいつはそれほど甘いし、それほど優しい。だからここで死んでもらう」
「か、ぁ、ふ」
跪いた状態でグラグラと上下に揺れる万の肉体。多くの血を失ったが故の方向感覚の損失。加えて言うと、かつての時代でもそこそこ名前のあった万でさえ、反転術式の習得には至っていない。もっとも、仮に習得できていたとて、燃費の悪い構築術式とでは併用ができず、結局は死んでいただろうが。
「⋯⋯伝言だとか物送りがあんなら持って行ってやるぜ。お前の愛は宿儺へとしっかり伝わってたってな」
「ぁ、ぐ、なら。な、ら⋯⋯これ、彼に⋯⋯後生大事に使って、ね」
学生五条と万の戦いは決着をつけた。領域を展開される前に押し切り、その上で呪具を生成させるという目的まで。
「さて、後は宿儺を殺すだけだ」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「夜蛾は殺せたの?」
「⋯⋯逃げられた。正体不明の男の介入でな」
羂索に乗っ取られた上層部の前に立つは楽巌寺嘉伸学長。その者が語る言葉は夜蛾が生存か否か、もっとも、何者かの介入によってそれは失敗したようだが。
「なら早めにする事だね。──柊陽彩の死刑執行を」
上層部は姿を隠したまま笑う。たとえ思いの内がバレていようと。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
12月24日、新宿にて。
「九綱、偏光、烏と声明、表裏の間」
呪詞、掌印、舞、楽。術式を儀式として昇華させる事で120%の効力を発揮する歌姫の術式。重ねて呪詞と掌印を省略せずに行う五条悟の術式は、
『虚式・茈』
200%の虚式・茈。当たるか当たらないか、先手が刺さるか否かで試合の命運が変わると言っても過言では無い一撃。少なくとも、当たってしまえば宿儺でさえも無事ではない。現に──、
「勘違いしてるみたいだから言っとくけど。────そっちが
「クソガキが」
宿儺の右腕を消し飛ばす程に、茈の威力と範囲は高かった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
前提として、この戦いには両者共に明確な勝ち筋がある。
領域展延を扱って無下限を削り、掴んでからの『捌』の発動または『摩虎羅』による完全適応での勝利。宿儺には勝利までのルートが二つほど存在する。が、捌がそこまで効き目がなかったのは指や神仏を捕食する前の宿儺の攻撃で実証されている。ならば選択肢は1つで、摩虎羅の適応によって五条悟を完封すること。
そして摩虎羅による完全適応が宿儺の勝ち筋なら、五条悟の勝ち筋は? という話になる。無下限バリアによって斬撃の類は無効化できるので、気をつけるべきは摩虎羅と領域展延。つまり、この戦いは──、
『赫』
「チィ──『解』」
────圧倒的に五条悟が有利。向こうが術式を直接的に使えない以上、五条悟は自由に攻撃を放つ事ができる。現に、宿儺の領域展延を使用した打撃を寝転がる事によって回避した五条は即座に『赫』を発動した。が、対して『解』によって相殺を行った宿儺にはそれ程の速度はない。ギリギリ、目前で赫が爆発したと言った所。なぜなら領域展延と術式使用の、いわゆる二つのモードを切り替えながら戦っているからだ。それ故に多少のズレ、若干の遅延が発生している。
『『領域展開⋯⋯』』
同時に開かれる口。結ばれる掌印。つまるところ、
『『
──同時に展開される領域。髑髏を強調させた鳥居の景色を見せる宿儺の伏魔御廚子と外郭の背景を宇宙空間のような黒と光に埋もれさせる五条悟。どちらも同時に展開しているが故、互いの領域の必中効果を消し去り、押し合いをしている状態になる。原作では外側からの斬撃で五条悟の結果を破壊し、伏魔御廚子が五条悟へと襲いかかるシーンであるが──、
「────」
結界術の基礎である『外側からの攻撃に弱い』と言う固定概念。呪術界における『天才児』の五条悟は無量空処に組み込まれている結界のプログラムを変更し、『内側からの攻撃に弱いが、外側の攻撃に強い』領域を生み出す。五条の無量空処が持続すると思っていなかった宿儺の思考に驚愕が走り、上半身の筋肉が強ばる。そして、
「
「──か、ふ」
蒼による高速移動『アキレス』によって背後へと回り込み、唯一動く下半身で後方へと逃げようとした宿儺の背中へと拳を叩き込む。痛みによって呪力操作を乱すも、ダメージ自体は領域を決壊させる程ではない。無下限バリアの維持に呪力を回しているが故、拳へと混ぜ込んだ蒼の打撃は出力が低い。ならばどうするのがベストか? 答えは常にシンプルだ。
『赫』
「ぶ」
指先から離れ、宿儺の懐で爆発する赤色の光。術式反転『赫』によって脇腹を削り取られ、出血と損傷を元に領域が崩壊。決壊直後のペナルティで宿儺は数十秒間、術式が焼ききれて使用不可能となる、と同時に無量空処も崩壊。無下限バリアによる防御をやめ、赫へと出力を注いだ結果がこれだ。して、両者の領域が崩壊し、互いに術式を使用できなくなった。赫の炸裂によって距離は離れ、攻撃手段は肉弾戦のみ。だが──、
『『
瓦礫が囲う領域外に出た瞬間、技名の詠唱が重なる。本来は術式が焼き切れるはずなのに、最強の名を冠する両者はその術式を行使する。片方は不可視の斬撃、片方は収束の圧死力。鮮やかな青は瓦礫を飲み込みながら、なおも斬撃を吸い込み、無力化する。その後も効果は続き、五条の体を引き寄せる。
『蒼』
更なる蒼を頭上へと展開。宿儺よりも上の位置へと引っ張られるように、否。事実、引っ張られて加速する五条。対して宿儺は地に足をつけながらバックジャンプで距離を取る。上空へと上がり続ける五条は轟音の中で口を動かし続けて、
『赫』
最初に自分を横方向へと引き寄せた蒼へと新たな光を投じる。引き寄せる、収束の光ではなく、対極に位置する『赤色の光』は押し出し、発散の力を秘めた術式反転だ。
『脱兎』
五条の狙いに気づいたのだろう。地へと近い蒼に赫を混ぜ、茈へと変化させてからの方向無指定の範囲攻撃。だからこそ自分は高い所へと飛び上がり、安全な場所へと逃げたというもの。だからこそ宿儺は無数の『脱兎』を出現させ、津波のように自身の体を運ばせる。無論、その用途は移動としてだけではなく、姿を隠す煙幕の役割を持つ。五条から見て前方、左、右の三方向に脱兎達が分かれる。脱兎で覆い隠されているが故、六眼にすら呪力反応は掴めない。正真正銘、どこに宿儺が潜んでいるか分からない。
『虚式・茈』
ならば範囲攻撃によって蹴散らすのみ。なんて野暮な事はしない。そも、出力が低い茈では左右の脱兎を破壊するだけに留まる。致命傷を与えれず、無駄に呪力を消費するだけだ。さてはて、ならどうして茈へと変化させたのか。その答えもまた、至ってシンプルだ。五条悟は、現代最強の呪術師は、確実なる殲滅を諦めていない。否、出力が低けれど、それを可能にさせる力がある。
『出力最大・蒼』
無理矢理に呪力を調整し、呪詞・掌印なしでの出力最大『蒼』。発生する巨大な蒼の引力は無限の質量を持つ茈さえも吸い込んでしまう。方向性を指定していない茈が炸裂し、その衝撃を蒼が覆い被さるように吸収する。その直後、蒼の内側から青紫の光が外へと顔を出す。はち切れんばかりの破壊はすぐさまに限界を迎え──、
『拡張術式・
「──な」
────無下限呪術の奥の手を現れる。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして紫微星と言うのは占い『紫微斗数』に置ける運命を表す星の一つであり、プライドが高く、重い責任感と共に同じ程の思想、野心を持ち、カリスマ性があるリーダーのような者に浮かびやすい。
「ク、ソ。まだ手を隠しておった、か」
紫微星。別の名を『帝王の星』。帝王とは誰にも干渉されず、それでいて誰にでも干渉する者。その道の頂点に立ち、全てを統する者。その名を冠する拡張術式『紫微星』により、宿儺の四肢を消し飛ばす結果となった。この技の恐ろしい所は発動者である五条悟自身でさえも方向を指定できず、それでいて破壊力を制御できないという点だ。つまるところ、今回、宿儺の手足が破壊されたのは単なる偶然ということ。逆に言えば頭にでも当たっていれば、勝負はここで終わっていたのだが。
「呪いの王たる者がなんて顔してんだよ」
背後からの挑発の声。宿儺目線、自爆型の茈と同じように見えているが故、五条もまた、自分と同等か、それ未満の損傷を受けていると考えた。だから、
「────はァ!」
腕を振るうと共に斬撃を放つ。それは五条本人を殺す為ではなく、五条から放たれる攻撃を相殺しようとするが為だ。が、実際に攻撃を放った場所には誰もおらず、空を切るばかり。焦り、冷静な思考が乱され、周囲全体へと雑な斬撃を放つ。が、先程と同様に攻撃は訪れない。そして、
「ほぉら! はッ!!」
「うぶっ⋯⋯かぁ、ふ」
痛みが訪れると同時に視点が移り変わる。先程までは周囲を警戒する為に目を働かせていたというのに、まるで時が飛ばされたかのように地に顔が蹲っているではないか。後頭部に感じる鋭い痛みから推測するに、恐らくは背後から殴りつけられ、押し倒されたのだろう。ならば背中ががら空きだから、今すぐ距離を離さなくてはならない。が、
「逃がさねぇッよ!!」
「がァァァァ!! ク、ソ」
地に倒れ、空へと向けられた背中へと食い込むように叩き込まれる拳。打撃が直撃すると共に、宿儺の肉体内部へと蒼が生成される。臓器を揉みくちゃに荒らしまくり、引き起こされる激痛が行動の遅延と思考の乱雑を生み出し、逃走を困難にさせる。片手で掌印を結び、後は頭部へと赫を叩き込めば戦いは決着するが、
「────羅」
「っ──はっ!」
方向性を持った『赫』は黒い影へと溶け込み、消えた宿儺の向こう側にある地面へと直撃する。衝撃が下方に発生し、コンクリートや土と共に空中へと打ち上げられる。高所から周囲を見渡すも、青い瞳は宿儺の姿を捉えない。ならば蒼によって一度、綺麗な更地へと変えてしまうか。そんな事に頭を回していた時──、
『伏魔御廚子』
「むりょ⋯⋯チッ、間に合わねぇ!」
─────伏魔御廚子。どこからともなく囁かれ、展開される領域に五条が封じ込められる。神業領域という、押し合いにおいて最強のプログラムを組み込める宿儺。しかし、此度の領域は結界を閉じる通常の領域。領域内のスペースは広いものの、本来あるはずの瓦礫の類が一つもない。なにより、上空にいる五条さえも領域に引きずり込むと言う事は横長と言うよりも縦長である事が分かる。
『位相、黄昏、智恵の瞳』
無下限バリアがあるが故、領域内の斬撃は五条へと干渉する事はできない。無下限呪術によって足場を作り、空中へと留まりながら『蒼』の呪詞を唱え始める。領域内に瓦礫がないと言う事は隠れる場所がないということ。一瞬にして瓦礫を消した、その手段は分からない。大事なのは隠れる場所がないにも拘わらず、未だ宿儺は姿を見せていないという事だ。
『術式順転・蒼』
標的はいない上に狙いを定める対象もない。それでも『蒼』を出したのは上空へと己を引っ張り続け、地に足をつけないようにする為だ。ここまでの戦いで五条の中には一つの結論が浮かび上がっている。宿儺が領域内に姿を見せていないのは、外にいる訳ではなく、五条の
「領域の破壊⋯⋯まさか外側にいるのか!?」
地面へと着地する事によって隠れている宿儺から攻撃を受けると、五条悟は地を警戒していた。それ故に伏魔御廚子の領域、天井スレスレにまで高く浮遊していた。だからこそ警戒し切れていなかった。上にはもはや人がいる空間がいないというのに、真上からはガラス細工が割れるような音が鳴っている。驚きの肉体反射で地へと降り立ち、空を見上げる。領域が完全に破壊されないのに、ベリベリと黒い外殻の一部が削れて──、
「は──ッ!」
「上は囮──かッ!!」
やはり影の中で待ち伏せしていたらしい。どういう仕組みかは分からないが、領域の崩壊は囮だったらしく、地面から飛び出すように現れた宿儺の拳を上段蹴りで相殺し、防ぎ切る。驚きのあまり、呪力操作が乱れ、無下限バリアが弱くなっているらしい。領域展開をしながらの領域展延でさえ、今の五条を削れる程だ。
「何を勘違いしているのか知らんが、囮などと狡い事はせん。だがこういうのはどうだ。────『
「は! 呪いの王が1対2かよ!!」
結ばれる掌印と共に現れる式神。鵺の顔に蛇のような尻尾と謎の触覚。女型に近いフォルムをしながらも筋肉質な体は近距離特化の攻撃型式神と言った所だろう。嵌合獣『顎吐』は鵺を主に『
「ぁ⋯⋯は?」
『3対1だ』
ガゴンッ
「ぐぃ、ぶ、ふ」
────異界の神将『摩虎羅』だった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「がぁ、ク、ソぉ! シン陰ぇ!」
どこからともなく、否。空から降ってきた方陣から再生するかのようにして現れた摩虎羅によって打撃を叩き込まれ、領域の端────外殻まで飛ばされた。距離を取れた事自体は今の五条にとっては幸いであるが、何よりも腹部へと刻まれた損傷が大きい。穴が貫通している訳ではないものの、一つ間違えれば臓器が押し潰されていた。
「顎吐は問題じゃない。あの様子だと、早く倒すべきは摩虎羅だ」
吹き飛ばされてすぐに簡易領域を展開したおかげで摩虎羅によって拳を叩き込まれた腹部以外に傷はない。その損傷も反転術式によって再生を開始している。そして摩虎羅を倒すべきと言うのは単に適応されるからではない。そも、こうして簡易領域を展開している時点で摩虎羅を倒すべきなのだ。なぜなら、
「クソ、やっぱり無下限バリアが
摩虎羅が五条へと触れられ、攻撃できた時点で無下限呪術あるいは無下限バリアに適応されているのだ。そして問題なのは単に無下限バリアを突破されただけではなく、破壊されているという点にある。現にこうして簡易領域を展開しているのは伏魔御廚子による斬撃を警戒しての物。今まで破壊されていなかったが故、どれほどの時間を要するか分からないものの、しばらくの間は無下限バリアを使えない。
「ッぶねぇ!」
腰を折り、上体を逸らした事によって斬撃を回避。簡易領域によって守れず、飛んできたと言う事は宿儺自身が放った『解』に間違いない。それに付け加え、摩虎羅と顎吐を場に出しながらの御厨子の併用だ。史上最強の術師が、十種影法術と言う術式に慣れつつある。加えて、
「連携がっ! やべぇ!!」
背後から振られる顎吐の胴回し蹴り。全方向に張る『バリア型』ではなく、一部分にだけ『無限』を具現させる事によって攻撃を防ぎ、前から放たれる『解』も同様に防御。防ぎきっているものの、そのどれもが無下限バリアの
『秘伝・落花の情』
「────」
襲いかかる無数の斬撃をオート迎撃で迎え撃ちながら、反転術式で肉体を治し、迫り来る式神の攻撃をも弾き返す。御三家に伝わる秘伝の技術、『落花の情』は最強の呪術師が使用する事によって完全無敵の防御術へと昇華する。だが領域の持ち主である宿儺もまた最強の名を冠する術師だ。致命傷は避けれど、微かな傷が体へと生まれる。
『赫!!!』
押し出し、反発の力。顎吐の顔へと直撃し、爆発したそれが強く吹き飛ばし、距離を遠く突き放す。落花の情では庇いきれぬ部分を擬似無下限バリアで防ぎ、その間に反転術式を回して回復。合間合間に挟まれる『解』を体を捻じる事によってリソース消費せずに回避。無下限バリアの復活を待ちながら、なおも耐久の姿勢だ。が、顎吐の攻撃を心配する必要がなくなった今、攻め時でもある。だから、
『蒼!!!』
前方へと加速し続ける大きな青い塊は攻撃の為ではない。五条自身の体を引っ張り、素早い速度での急接近を可能とする技のひとつだ。地から足を外し、無下限の応用によって軌道を修正しながら前へと進む。方向は『解』が飛んできた、宿儺がいるであろう場所だ。
『位相』
加速。未だ視界に宿儺は入らない。
『黄昏』
加速。影の中に潜んでいる事を視野に入れる。
『智恵の瞳』
加速。領域の端が目に入り、加速の終わりを迎えると共に、後追い詠唱によって蒼のサイズが拡大する。蒼の対象に入らないよう、別の蒼によって固定。左手の人差し指を青色の光『蒼』へと向けて、
『虚式・茈』
赫と蒼の同時発動。出力を控えながらも破壊の限りを尽くす茈が放たれ、蒼へと飲み込まれる。──『紫微星』、拡張術式が発動されて──、
ガゴンッ
「痛ッてぇ、でもそれは
────不可視の斬撃。無下限バリアをも貫通する一太刀が地面から現れた摩虎羅から放たれ、紫微星を破壊しながら突き進むも、切断されるは胴体ではなく右腕のみ。宿儺が隠れていたのは恐らく、五条悟の無限を看破する為の手段を得るためであろう。して、摩虎羅はその手本を見せてしまった。そして、
『解』
「当たんねぇよバァーカ!!!」
無下限バリアが破壊され、摩虎羅が手本を見せたこのタイミング。宿儺が襲いかかってくるのは今しかないだろう。いつの間にか五条の影に隠れていた宿儺が背後に現れ、『解』を放つも来るのが分かっていたかのような動きで飛び跳ねての回避。飛び跳ねた勢いのまま無下限の応用で宙に留まり、罵倒を吐き散らす。天上天下唯我独尊な姿は態度だけに留まらず──、
『虚式・茈』
「────」
五条家の相伝術式である『無下限呪術』の奥の手は順転と反転を混ぜ合わせ、生み出した仮想の質量を押し出す『虚式・茈』の他に存在しない。
そして五条悟が初めて茈を成功させたのは数十年前⋯⋯伏黒甚爾との戦闘中に行った呪詞・掌印なしの茈。加えて、宿儺戦において使用した茈のどれもが範囲特化の攻撃だった。
200%の茈も例外ではなく、呪いの王であったとしても、全力で防御に回れば防ぎきれてしまう程だった。
学生時代の五条悟が放った『ただの茈』は天与呪縛によって強化されたフィジカルギフテッドである伏黒甚爾さえも回避できず、鍛えられた肉体をも貫通する、正真正銘の『無限の質量』を放つ攻撃であった。故に、
ガゴッ、ガガガガガ
「この世に『完璧』な奴なんかいねぇんだよ」
仮想の質量は『調和』と『循環』をも破壊する。天に呪われし男をも屠った一撃が摩虎羅の頭上⋯⋯方陣へと直撃し、『適応』の機能を破壊する。十種影法術の奥義『摩虎羅』の破壊によって術式の機能が停止され、顎吐の消滅と脱兎による煙幕及び貫牛による相殺が不可能となる。これにて人外魔境新宿決戦は──、
「僕の勝ちだ」
「くだらん」
────五条悟が1歩、勝利へと歩みを進めた。
「紫微星」
無下限呪術における拡張術式。奥の手である『虚式・茈』を『術式順転・蒼』によって吸い込み、内部にて炸裂した衝撃を無作為に解き放つ技。その威力は破壊が向かう方向を決めれぬように、五条本人でさえ制御できない諸刃の剣。五条自身の無下限バリアをも貫通し、自爆してしまう可能性もあれば、敵の頭部を削り取る一撃必殺の技にもなりうる存在。高リスク高リターンの技である。技の由来は紫微斗数と呼ばれる星占いに存在する星の一つ『紫微星』から。