猿も木から落ちるレベル   作:緑ちょこ

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術師として活動している虎杖悠仁の後日談です。その後の変化や宿儺との関わり方など、その辺の描写を重視しているが故に戦闘描写はほとんどありません。

2026/1/8 遅れながら後書きを更新。



「虎杖悠仁と言う術師」

1級呪術師の中では珍しく領域展開を扱え、反転術式を習得済みな上での術式2個持ち。毒物への耐性がありながらも強靭な肉体を持ち、数多の困難を経験した事によって固め作られた精神は一切の揺らぎを顔に出さない。

 

「任務お疲れ様でした。──虎杖1級術師」

 

「押忍。山さんもゆっくり休んでくれよ」

 

虎杖悠仁と言う呪術師は呪術界隈を支える1級の中でも類を見ない強者だった。心身共に壊れにくく、汎用性の高い赤血操術は戦闘において、補助にも攻撃にも防御にも役に立つ。魂を知覚している事によって放たれる打撃は特殊な呪霊にもダメージを与え、それらを混ぜ合わせた御厨子は魂の境をも切り裂き、受肉体にも通用する。加えて──、

 

「極めて多忙だな」

 

「仕方ねぇ、動ける人間が少ねぇんだから」

 

────自分自身も受肉体という事。呪いの王の器として生きて、体に呪いを宿しながらも共生している。かつて新宿にて大暴れをした両面宿儺、その技術と知識をも借りれる立場である。宿儺自体は何やら条件をつけて協力しているようであるが、まんざら悪い気もしていないようだ。

 

「もう一件で今日は終わりにする。行き先は──」

 

『八王子』

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

東京都八王子市に位置する八王子城跡では不思議な噂がある。かつて城を攻め入れられ、僅か1日で落城。城内にいた多くの子供、女性が自刃し、『御主殿の滝』へと身投げをしたと言う。滝は3日3晩、血によって赤く染まったとされているものの、度々、現在も赤く染まった滝を見たという報告が相次いでいる。

 

元より東京と言う場所は土地が土地であるが故、至る所で呪術的霊障の報告が雨のようにされている。墓地の跡地に建設されたとされる『東京タワー』は風水で言うところの『裏鬼門』に位置するとされ、非常階に現れる女の霊や建設を行っていた作業員の男の霊などなど、様々な心霊スポットが存在している。しかし、

 

「待て小僧。ここからは先はどうやら生得領域が広がっている」

 

「生得、領域⋯⋯なんだっけ、ソレ」

 

本格的な山へと繋がる架け橋を渡ろうとした虎杖の動きを止めたのは掌に浮かぶ小さな口。──他でもない呪いの王であった。

 

『生得領域とは術師あるいは呪霊、その者の心の内側だ。領域展開のように封じ込める力は少ないが、不完全であるが故にある一定の強さを持つ呪霊であれば誰でも具現できる。小僧の領域も生得領域に近い方であるようにな』

 

生得領域。宿儺が語ったように封じ込める力の弱い領域が生得領域として認識されている。必中効果がある訳でもなければ術式が付与されている訳でもない、まるで帳のような結界⋯⋯それが生得領域だ。しかし、呪霊によっては脱出自体が困難になるような物であったり、技術力が高ければ高いほど生得領域の扱いは難しくなってゆく。たとえば──、

 

「わっ! なんだよこれ、目がおかしくなるぞ!!」

 

「これが此度の敵の心境という事であろうよ。それでも戦いにはなんの支障も出ん。なんの問題もない」

 

慌てふためく虎杖に冷静な宿儺。能動的に、どちらかと言えば本能的にという表現が正しいかもしれないがともかく、行動が早い虎杖に対して宿儺は何を行うにもまずは推測から始まる。たとえば、今回の任務にあたって戦う呪霊の生得領域、その効果を確かめ、その上で他に弊害はないかを探す、戦いの邪魔になる物を見つけ出す。

 

「おい、何をちんたらとしている。もはや入ったのだから行くしかあるまい。帰り道は既に塞がれている」

 

「はいはい分かったっつーの。グラサンでもかけときゃ良かったかなぁ」

 

八王子城跡に居座る呪霊の生得領域、その効果は『環境の色変』である。御守殿の滝の歴史といい、3日3晩を赤に染まった滝の話といい、生得領域に入った途端に虎杖らの視界は真っ赤へと変わった。女子供の恨み辛みによって生まれた呪霊なのだろう。この生得領域はその憎しみを目にわかる表現へ変化させた、呪いの集合体のような物だ。

 

「にしてもなんの気配もねぇな」

 

「霊障の報告こそあれど、被害者のどれもが人間による物。実害は──」

 

『ない』と、宿儺がそう言いかけた直後だった。

 

「苦よ消え去れ。──嗚呼、(ほまれ)なり」

 

「────っ!!」

 

架け橋を渡り、土なる地面へと足をつけた瞬間に現れたのは架け橋の下──小川から這い出た無数の赤き腕であった。顔がないにも拘わらず、腕は苦痛を訴えて声を出し、足首を掴んで拘束する。すかさず御厨子によって切断を促すも、皮一枚、残ったままで掴む力は落ちきらない。

 

「らぁ!」

 

「苦苦苦苦苦苦苦苦苦」

 

無理矢理に足を振り上げ、腕たちを一斉にちぎれさせる。悲鳴にも近しい声を元に塵と化し、その姿を消す腕の呪霊たち。しかし、

 

「消えてねぇ!」

 

「此奴らは飽くまで生得の一部⋯⋯領域の主は本元である滝にいるだろうな」

 

生得領域による赤色の景色は消えない。無論、たかが拘束だけの腕たちに生得領域を具現させる力は持ち合わせていない。もっとも、霊障が起きているのは度々であり、頻繁ではない事から維持をするのが困難であり、領域の主はそこまでの呪力量を持ち合わせていない事が分かる。あるいは別の可能性も存在するが──、

 

『解』

 

「嗚呼、誉なり誉なり」

 

「ふむ」

 

────飛ばされる斬撃を受け止める呪霊。その姿は人型でありながら、人間の頭部をその肉体へと無数につけている。生えているのか付けているのか、どちらなのかは定かではない。重要なのはなんの術式の発動、その前触れもなしに不可視の斬撃を防いだ事である。感嘆を元に虎杖の目の下に小さな瞳を作り、観察を行う宿儺。攻撃の合図を待ち、後ろへと下がる虎杖。そして、

 

「術式なし。攻撃手段は主に引っ掻きか噛みつき。頭部が残る限りは蘇る、ヤマタノオロチの類」

 

「了ッ解ィ!」

 

宿儺の助言と共に走り出す虎杖。仮称『城跡の呪霊』は未だに動きを見せていない。赤血操術によって肉体を強化し、なおも加速を続ける。

 

血刃(けつじん)

 

血液による鋭利な投擲物。手首を御厨子で切り裂き、飛ばしたそれが体にある頭の一つに食い込み、内部にて暴走して肉を蹂躙する。なおも城跡の呪霊は声も出さず、動きを見せる素振りすらもない。接近、肌に触れれる程の至近距離に虎杖が向かって──、

 

(はち)

 

「苦よ消え去れ」

 

────城跡の呪霊、否。『救済を求める死者』は終わりを迎える。死ぬよりも苦痛な生を前に、悲鳴を上げながら。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

八王子城跡にて霊障を起こしていた呪霊は件の任務の呪霊であっていたらしく、任務終了後からはなんの問題の発生もなく、観光スポットとして親しまれているらしい。肝心の討伐者本人である虎杖は、自分自身の行動を悔いているようであるが。

 

「あいつは、あの呪霊は⋯⋯多分悪いやつじゃなかった。ただ苦しめられて、楽になりたかっただけなんだ」

 

「俺はそうは思わん。犬や猫など、畜生共が実害を出してからでは事が遅い。あれはそういった類だ」

 

最後の最後まで城跡の呪霊は虎杖へと攻撃を行わなかった。後で歴史を改めて見て分かった事であるが、虎杖はなおも悔やんでいる。最後の囁きは訪れる終わりという楽さを嬉しんでいるような、それまでの地獄を恐れているような、虎杖にとってはそのような言葉に思えてしまった。

 

「⋯⋯仮に、仮に彼奴が実害のない者だとして。小僧がした事が最善かつ救済の手であっただろう。少なくとも永遠に苦しみを味わい続けるより、終わりを迎えた方が本人は楽であるからな。力の持つ俺に、そのような悩みは理解できんが」

 

1級呪術師の虎杖悠仁。またの名を『救済の術師』。できる事ならば呪霊にも救いの手を差し伸べ、できる事ならば全ての命を守りたい。呪いの王という存在と共生していながら、心を歪ませていない唯一の器。虎杖悠仁と言う術師はそういう人間だ。

 

「それでも俺が間違った事は変わんねぇし、忘れねぇよ。──でもありがと。少し、楽になった」

 

「ふん」

 

────次があれば生き方を変えてみるのも良いのかもしれん。と、呪いの王にそう思わせる程に虎杖悠仁はどこまでも『善人』であった。





「城跡の呪霊」
人型の体に人間の頭部が身体の至る所に無数に生えている。体から生えている頭部のどれもが左顔半分と右半分、それぞれが女性と男児の物で構成されているのに対し、人型の顔は真っ白な肌をした綺麗な完全なる女性の顔である。(生得領域内では視界内の全てが『赤』に見える為、簡易領域などを使えなくては意味がないが)

付け加えると呪霊の魂は八王子城が落城した際に自害した女子供の恨み、その怨念がチグハグになって生まれた。戦う意志を持って戦えばその強さは特級にも匹敵する。(少年院の呪霊より少し強いレベル)
ちなみに怨念の向けられている相手は城を攻め落とした敵よりも奇襲が来た際に意図的に城から逃げていた主。

「城地の生得領域」
八王子城跡へと続く架け橋を跨ぐ事によって強制的に領域内へと引っ張り込む。小川や他の獣道を通って滝へと辿り着く事はできない。小川から伸びた無数の腕は生得領域に付与された効果の一部。
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