サイトや作品ごとによって5000文字から5万文字と幅広く変わっている物と私は存じており、基本的には1万文字が目安だったりするのかなーって思ってたりするんですが、実際のところは分からないのですよね。
しかし!! これを読んでいる方にとって!! ご希望の目安があるのなら!! それに沿って書いちゃったりしちゃったり!?
ともあれ、感想を伝える機能で教えさせてもらっても問題がなければ幸いです!
しかしながら、今回は後半部分の文章が一人称? とやらに挑戦しているので読みづらいかもしれませぬ。何卒、暖かな気持ちでご閲覧くだされ。
「⋯⋯ぁ、ふ」
暖かな朱が喉へと駆け上り、口内へと溜まったそれが微かに外へと吐き出される。
温もりの発生源は右胸に突き刺さる1本の槍。
辿るのさえ途中でやめてしまいそうな程に長い柄の末端には人間の肩のような物が繋がっており、どうやら呪具の類ではなく左腕だと言う事が目で見て判明した。
「やれやれ、せっかくの術式も図体も結局はサポートに過ぎなかったか」
「いやぁ、そいつが弱い訳じゃないんだよ? ただ俺が強すぎるってだけ♡」
あの巨体の姿がないという事は呪霊操術によって懐に戻されたのだろう。単体ならば倒せていたかもしれないが、戦闘力ではあのツギハギ面の呪霊の方が遥かに強いだろう。
「ぁ、ふ。は、は、ぁ」
固まった血液が喉を覆い、あるいは器官に入った血液が原因で酷く呼吸が乱れている。右胸を貫かれるという重傷から考えてもって数分か数十分と言った所だろうか。
命があと僅かと分かっていながらも彩の思考回路は冷静だった。
痛みによって吹き飛びかけた頭を落ち着かせる為に改めて状況を何度も何度も確認し、脳内で反芻させた。
後は合図を出すだけだ。
「ぁ⋯⋯ふ、すぅゥゥ──『止まれ!!!!』」
咆哮と同時に真人、羂索の両者の体が金縛りにかかったように動かなくなる。
目の前で起きた結果と数千年の記憶を持ってして羂索が導き出した答えは『呪言』の二文字だ。
まずい、抜かった、してやられたと。羂索の脳内で情報が目まぐるしく回り続ける。
呪言、その咆哮が廃ビル内で響き渡り、直後に乾いた炸裂音が聞こえた。
瞬間、真人の左手に感じていた血液の温もりが突然と消えてしまい──、
「
「⋯⋯は?」
真人、羂索と共に呪言の効果は既に消えている。
瀕死状態、不完全な模倣かつ格上相手への呪言だ。強制力のある『止まれ』であったとしても効果時間はそう長くはない。
しかし、羂索は目の前の事態に呆気ない声を上げざるおえない。
なにせ、重要な情報を知ってしまった術師を、瀕死に追い込んだ敵を逃した上、目の前に現れた術師が上裸だからだ。
故に記憶を辿って脱衣が必須あるいは必要な術式が存在していたかどうかを脳内
「ふんッ!!!」
「ぐっ! 真人ォ! 何をしている!」
──呪霊を出す動作が間に合わない。動作なしでも出す事は可能だが、目の前の術師相手にそれは悪手だ。しっかりとした過程を元に結果を導かなければ出現した呪霊は酷く弱体化した状態で粉砕されるだけだ。
左腕、肘より若干の上部分が粉砕された。手首が健在ながらも可動域を制限された。真人に声をかけてなんとかするしかない。真人は何をして、
「ぶ、いや⋯⋯夏油。待っ──ばべぇ」
膨張、破裂、爆散、爆発。
真人の頭部が壊された。それもヒットポイントを分けた二つの頭を同時にだ。いつ? 何を? この現象を羂索は知らない。
「クソ猿がァ!」
「愚直だ。しかし、今日のところはこのぐらいにしておこう。さらば」
羂索は腕を前へと振るった。夏油傑ボディだからフィジカルも技術も高いはずだ。しかし、目の前で術師が消えた。後ろか? 上か? 部屋を見渡すが再生しかけている真人以外に何者もいない。いない、消えた、取り逃した。まずい。
「ぐああああァァァ!!! 役立たずどもめ!!」
破壊、崩壊、破損。
目的を阻む術師どもが気に食わない。協力していながらも役に立たない呪霊どもが気に食わない。激怒、激昂、憤怒。
数千年に渡って世界を誑かしていた術師が一人。羂索の脳内に怒りが刻まれた日だった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「多くは聞かん。彼奴は何者だ?」
ズボンについた埃を片手で振り払いながら上裸の呪術師──東堂葵がそう口に出す。
その声に含まれる感情は疑心などではなく、純粋なる疑問から出た言葉だと思わせる直線さがあった。
「何者もなにも、かつて特級呪術師に認定されていた夏油傑と特級相当の呪霊、真人だよ。夏油傑の方は別の者に体を。真人の方は虎杖と戦った事がある」
嘘を含めず、真実を言うべきだと彩は直感した。変に偽ったとしても東堂は見抜き、疑念が無駄に強まるだけだろう。
しかし、既に契約は結んでいる故、五条悟を含めた他術師に現在の会話内容が流れる事はないので、今問題視すべきは路地裏とはいえども外にて半裸状態であるその変態性と言うべきだろうか。
もっとも、契約を結んでいるのは呪詛師──羂索らの事を公言されたくないが故だ。東堂葵が今回の件について協力してくれた理由は他の所にある。
「彩⋯⋯お前も
「いやいいよ。間近で見えなくても⋯⋯俺らの元を離れたとしても虎杖は強くなる。そうだろ?」
「⋯⋯ああ、よくぞ分かっている! 流石だ彩!」
遡れば1日、2日前程度になるだろうか。原作にて冥冥と東堂葵が虎杖らやパンダらを含めた術師たちを準1級術師へと推薦させるはずだったものの、この世界ではとある内容を元に彩が肩代わりしていた。
その内容は至ってシンプルで、東堂に代わり、彩が虎杖らの推薦を行う事を条件に彩の今後の術師活動を陰ながら東堂に支援してもらうという内容だ。一見、条件が見合っていないように見えているものの、東堂にとっては虎杖の推薦任務に着いていけるという蜜月を味わえる事から両者、同意の元で交わされた約束なのだ。
ともあれ、
「数日後にメカ丸が裏切りの形を持って姿を消す。そしてさっきのツギハギ面と戦う訳だ。んで、その場所を俺は知ってるし、普通に戦ったらメカ丸は死ぬ。そん時も今回同様に協力してくれよ」
「ああ、分かっている。言われなくとも勿論さ彩」
「そんじゃ、俺は用があるから。またな」
分かれ道を境に二手に別れた彩と東堂。現在、不義遊戯にて入れ替わり、逃走地点として設定した路地裏からあの廃ビルはそう遠くない。羂索ともなれば呪霊を周囲へ散りばめ、監視している事に違いないだろう。故に、早急にもここから離れなくてはならない。
ちなみに廃ビルの場所は奇跡的にも高専から5kmほど離れた近場の所だった。もっとも、九相図兄弟らを仲間に招き込めなければここまで上手く進んでいなかっただろう。
第一に廃ビルへと入るには面倒な手段を踏む必要があった。
呪霊の血を含んだ者あるいは羂索の血を身体に刻んだ者以外はその場所が歪んで見え、侵入する事は愚か、知覚する事すらもできないというド畜生結界が張られていたのだ。
それを予め、九相図兄弟の血液を脹相の赤血操術によって無理矢理にぶち込んでもらい、一時的に呪霊と認識するようにしてもらったのだ。
しかし、その事で発生した別の問題がある。それは、
「案外、早く終えたようだな。ちなみに準備は既に終えている」
「お陰様で。んじゃ、汚れた体を清めさせてもらうわ」
路地裏から少し離れた先に位置したオンボロアパート。
扉を開けた先で出迎えてくれたのは脹相であり、本人の言葉から
なにせ、発生した問題について心配してくれたのは九相図兄弟の三人ともだったからだ。
質素な磨りガラスの扉のノブに手をかけて捻り、開くと共に冷たい空気が解放され、全裸の肌見を酷く突き刺す。
脹相のおかげで貫通した右胸は既に止血されているものの、怪我が完治した訳ではないので微かな冷たさであっても傷に染みる。しかし、本当に地獄なのはこれからだ。
上げた足を下ろし、安全を確認するかのように爪先だけを黒い水面に触れさせる。冷たさは勿論ながら、少し接触しただけにも拘わらず、指先に若干の痺れを感じる。
人体には害があるだろう。無論ながら、命の危険でさえも。
されども、やらなくてはなるまい。どの道、後数十分もすればこの命は途絶える。
なにせ、廃ビルの通行証として身に刻んだ血液は九相図兄弟らの物だ。受肉体ながらも呪霊と人間のハーフである彼らの血液は人体にとって猛毒だ。それも九相図らの中で一際、実力が高い脹相の物であれば尚更だ。
「スゥゥ⋯⋯仕方ない。──うりゃあ!」
息を深く吸い込んだ直後、その場にて小さな跳躍と共に"それ"へと飛び込む。黒と赤が交差する禍々しい液体が飛び散り、地面へと付着した瞬間に蒸発するように消滅する。
アパートの風呂場──浴槽に溜まっているそれは九相図兄弟ら三人の血液だ。それも、彼らの特性を利用して呪霊としての濃度が高い高純度血液。猛毒だ。数十分も経たずに身を溶解し、骨すら残すまい。
「──っっ! ずぅ! ぁあ!」
言葉にもならない悲鳴が口いっぱいに溜まり、限界に達したそれが外へと解き放たれる。風呂場が故に音が反響し、キッチンにて待機している彼らの耳にも悲鳴が聞こえる。
人ならざる者の体液が皮膚に染み込み、貫かれた右胸を無理矢理にこじ開けて体内へと侵入する。彼らの意志とは無縁に動き、彼らの思考とは関係なく犯し、彼らの思惑とは反対に溶かし、彼らの考えとは対極に──、
「──がァァァァァァ!!!!」
弄ぶ。皮膚を溶かし、脂肪を溶かし、筋肉を溶かし、神経を溶かし、血管を溶かし、肉を溶かし、内臓を、臓器を、臓腑を、命を溶かす。
激痛が体中に迸り、喉が裂ける程に声が上がる。叫びたくて叫んでいる訳ではない。
意図して大声を上げている訳ではない。痛みが、苦しみが、賭け値なしの暴力が肉体を襲っているから、仕方なくそうしているだけだ。
先程の咆哮で喉は裂け、浴槽に溜まったそれとは別の自分自身の血液が呼吸を乱す原因として器官の入口を邪魔している。
激痛によって悶える肉体が四肢を暴れ動かし、浴槽の岩肌のような材質が鑢のようにして肉を削ぎ落とす。
この世のものとは思えれないこの光景を見れば、ある一定の術師ならば言わずとも分かる物がある。人ならざる者の血液を溜め、浴びるように浸かる。本来の過程とは違えど、その本質は同じであるが故に呪術師なら分かる。
「⋯⋯ぁ、ふ、ふぅ⋯⋯ふ、ぅ。はぁ⋯⋯」
──浴。家宝を守る為の手段として呪具化させる儀式。
厳選した生物または呪霊の血液を特定の容器に満たし、指定の獲物をそれに浸す。
原作では終盤、伏黒恵へと受肉した宿儺が伏黒の心を沈ませ、なおかつ本来の両面宿儺の肉体へと近付けるために用いた限定的な儀式だ。
本来は呪具を作る為に、そして応用として使用された際は両面宿儺のような受肉体を完成させる為に
その事から彩は一つの仮説を立てた。
術師あるいは人間が浴を行えば呪物を受肉していないながらも受肉体と同様の性質を手に入れれるのではないのかと。
例で言えば無機物に命はないので有毒物質を取り込んだとしても問題はない。故に浴による呪具化が可能な訳だ。
ならば命を脅かす要素を極限まで削り取った呪いを生身の肉体に刻み込んだら? 彩の仮説と同様の効果を得られるのではないのかと。
そしてその命を脅かす要素を減らす手段⋯⋯それこそが脹相の赤血操術だ。血液を操作する事が可能ならば呪いとしての濃度を高める事も、それを減らす事もできるのではないかと。
思いの他に実験は成功し、呪力を多く含んだ血液と少なく含んだ血液の両方を作る事ができた。
現在進行形で浸かっている浴の血液は呪力を少なく含んだ軽めの血だ。なにせ、呪力に慣れなくてはならない。
幸い、幼い頃から呪力操作をしていた事から杞憂に過ぎないと実演して分かった。
ともあれ、
「ふ、ぐぅ。はぁ⋯⋯濃度を上げてくれ脹相」
「⋯⋯今は非常に落ち着いた状態だ。遅からずして、その身に呪いは刻まれる。本当にいいのだな? 徐々に上げなくとも」
「問題ない。というかそうしてもらわないと困る。話したとは思うが、明日か明後日に重要な術師が襲われる。早急にも力をつけなくちゃならない」
「了解した」
赤と黒が交差していた血液に振動が生まれる。浴槽の真ん中が回り、渦を作り、赤と黒が完全に一つとなる。
濃度が上がり、頭がクラクラする程の呪力が空間に満ちる。
本来ならば呪霊を発生させる原因の一つであるそれが、呪いを刻む矛先を彩の肉体へと向ける。
「ぐ、ゥ⋯⋯あがァァァ!!!」
悲鳴が一つ、苦鳴が二つ。アパートの中から発せられ、路地裏へと響き渡る。
徐々に、徐々に、呪いが体を蝕んでゆく。
今日という一日はそう短くない。呪いが蔓延り、貪り食う逢魔時が訪れ、夜もまた、長く続くのだから。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
浴を受けてから1日が経過した。幸いながら、メカ丸へと襲いかかる真人らの手は未だ来ず、これにて日程が明日である事が確定した。
浴によって変化した肉体を制御するのにも時間が必要だ。彼らの手が後手を回っているのは非常に幸と言えるだろう。
ともあれ、本来の術師としての活動を休止している訳ではない。脹相らは自宅にて匿っているからいいものの、こちらの事情を知らない上層部はいつものように気にもしない顔で任務を放って来るのだ。
しかし、通常とは違う点が一つ。本来ならば着くはずの補助監督が存在しない。それは彩が帳を本業のそれと遜色違わずに扱える理由とは関係なく、上がそう指示したが故だ。
普段から勝手な行動を起こしている彩へと目をつけたのだろう。あるいは既に上層部は検索に乗っ取られているのかもしれない。
兎にも角にも、任務の内容は極めて珍しく、意図的に彩を殺そうとしているのは明白だ。なにせ、東堂葵も同様に別の任務へと着いているのだ。それも同じく、補助監督をなしで。
「しっかし、1級ながらも真人と戦うのはキツイからな。任務と称して用意した処刑人は真人未満、脹相以上と言った所か」
街中から遠く離れた獣道を突き進むこと1時間。到着した現場は山奥の中に位置する廃屋だ。
屋根を支える木造の柱が朽ち果て、瓦が地へと散乱し、襖はそのほとんどが破け落ち、ガラスの破片がコーティングのように畳に突き刺さっている。
部屋の中心に鎮座するコタツとは別の、テレビ台の上に置かれたブラウン管テレビが建物の年代、その大凡を決定させた。
恐らくは山奥で一人暮らししている内に孤独死し、放置されていた遺体を羂索自らの手で魔改造したと言った内容だ。
なにせ、縁側の外から部屋を眺めているだけなのに、コタツの上に胡座をかいている"ソレ"が敵意を剥き出しにこちらを睨んでいるのだ。
「運が良ければ2級。悪けりゃ1級程度か?」
遺体を改造しただけの仮称『人口呪霊』が術式を所持しているとは考え難い。そも、どのような方法で人の亡骸から呪霊に近いそれを作り上げるのかさえ分からない。
付け加えて言うのなら、目の前にいるソレは絶対に改造人間などではない。
体から溢れ出している呪力の質が生きている生物のとは別のナニカだからだ。
「敵意を剥き出しにしてる癖に襲ってこないっつー事は改造されて放置されただけって感じか。ま、結界でご丁寧に隠されてたみたいだが」
見た目は人間と差し支えない物だ。
2本の足は下半身から生えているし、頭部が異常に肥大化している訳でもない。
しかし、
「ボォオオゥウオオ!!!」
「うお! ビビったぁ⋯⋯」
声を上げながら机を叩く腕は4本だ。両面宿儺と同じ異形⋯⋯呪術において複眼や複腕と言うのは異例だ。
天元も宿儺も複眼であった事から人も呪いも卓越した強者だけが至る事が可能とする文字通りの人外だ。
蝗GUYのような特殊な例もあるものの、今回ばかりはそうでない。
なにせ、通常2本の腕に仲間入りするかのように脇から生えている2本⋯⋯都合4本の腕とは別に体を支える足、その膝部分からもまた、腕が生えているからだ。
突如の咆哮と癇癪のような動作に驚いたものの、攻撃動作に入らないが故に身体を支配するほどの恐怖は抱かない。
それよりも重要なのは仮にもこれが『任務』という事だ。なんでも屋が犬や猫を探すのとは別で、術師が呪霊や呪詛師を祓い、殺すのが任務なのだから。
故に──、
「うぅ──らあァ!」
「ぶぅォォォォォ!!!」
殺す。祓う。仕留める。
前傾姿勢の状態から右足を強く踏み込み、土を飛び散らすと共に跳躍──胡座をかいている状態の人口呪霊へと蹴りを放つ。
呪霊の喉仏へと直撃。左足の爪先が食い込みながら、破壊力を発生させて吹き飛ばす。
強く吹き飛んだ蹴りの威力に反し、呪霊から発せられる声は悲鳴と言うよりも雄叫びのそれ。痛みを感じているよりも、リラックスしていた状態を壊された事による怒りを露わにさせている。
もっとも、敵意を放っていた状態が彩にとってリラックスしていると言えるものかは不明だ。
兎に角、吹き飛ばされた先にあった棚に背を打って悶えながら、膝から生えた手とその胴元である足を駆使して立ち上がる。
しかし、
「
立ち上がった呪霊が喉を触る。摩る、擦る。
両手で、4本の手で、トータル20本の指で蹴られた喉仏を確認する。
外傷がないか、痛みを和らげようとしているのか、そのような類の物ではない。しかし、確かに指は喉を触る。
触って、摩って、擦って──削り取る。
それは、まるで異物を感じた箇所を取り除こうと一生懸命に藻掻くように、20本の指を持ってして自身の喉をえぐり取ろうと働いている。が、
「──ほ、ひゅ」
20本の指が同時に炸裂。喉を触れていた指の先端──第一関節部分が弾き飛んだ。否、弾かれたのは指だけではない。
それに加え、指が弾けたのは呪霊自身が余計な行動をしたからだ。弾け飛び、炸裂し、破裂した。
「安らかに眠、れっ!」
微かな肉と薄皮で保っていた喉に暴風が迫る。
否、それは飽くまで拳の加速によって発生した僅かな風。
しかし、迫る死を前に呪霊は確かに恐怖した。
着弾、高速のジャブが肉を削り取り、その勢いのままで貫手の形へと変化する。
拳を振るった際に発生した風で凧揚げのように頭部が浮かび、揺れる。しかし、手刀へと以降した彩の左手がそれを楽しむ時間を与えない。
左から右へ、横一文字に振るわれた一閃が頭部と胴体を繋げていた唯一の糸を切断する。
瞬間、呪霊の頭部に残っていた意識あるいは本能が途絶え、獣じみた思考に終わりを迎えさせる。が、肉体は未だに終わりを知らない。
「────」
振るわれる4本の拳。そのどれもが指を失い、紫色の血液を風になびかせ、滴り落としている。
赤色ではないそれを見て、やはり完全な人間ではない事を彩は知り、安堵する。
拳骨が迫りながらも心が落ち着いた。だって──、
「しぃィや、らうらァァァ!」
これから殺す生物が人間じゃないだなんて、素晴らしいじゃないか。
だって、人を殺すなんて嫌だろう? 後味が最悪だ。手が汚れ、穢れ、邪魔くさくなるだろう? でも、人間じゃないなら狩猟と同じ、家畜と同じ、畜生だ。
迫り来る4本の拳に、2本と数で劣っていながら、その速度で埋め合わせをした打撃を振るう。
当たり、裂け、砕け、下半身から力を失った呪霊がその場にて崩れ落ちる。
──嗚呼、最高だ。そうだろう? 人を人たらしめるのは理性があるからだ。それをより強く、人を人と証明してくれるのは呪いという人外がいるからだ。
浴で身に呪いを刻み、半分でも人を脱却したのなら。
もう人としての道を歩めないのなら、せめて、九相図らの負担を減らし、人として歩けるように道を整えよう。
「俺は、呪いだ」
顔に、体に、手に、足に、全身に。紫色の血液を浴びながら彩は笑みを浮かべる。鬼神を演じるなら鬼神らしく、呪いを演じるなら呪いらしく。際限なく魔に染まろう。
魔の器として相応しきながら、人を殺さぬという一点の偽善を掲げ、陰ながら支えよう。
それこそが転生者として生に意味を持たず事ができる、唯一の方法なのだから。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「手伝う?」
「やめて、俺の玩具だよ」
袈裟男──夏油傑の言葉にツギハギ面の男が言葉を返す。
はて、確か名前は真人とか言っていただろうか。名前や肩書きなどといった個人性を作るに至らない不完全要素に興味はないものの、祓った後にその姿形を報告するには名前があった方が相応しいだろう。
メカ丸こと与幸吉は密かにその気持ちを心に浮かべながら、意志を持って傀儡を操作する。
無為転変で修復された体は皆のそれと変わりがなく、平凡な生身の肉体だ。若干の動かしづらさはあるものの、ハンデとしては十分だろう。
大量の傀儡を目の前に出し、真人の薙ぎ払い攻撃と同時に目くらましの役割を作らせる。後は用意していた特別製の傀儡に身を任せ、自分の全てをぶつけるだけだ。
「ははっ、いいんじゃない!?」
分かっていたものの、やはり通常の攻撃では意味を成さないらしい。爆発と共に出現させた傀儡の衝撃ではその身を崩すに至らず、陸へと上がった真人がそのツギハギ面をにやけさせながらこちらを睨んでいる。
【拡充比正常。知覚フィードバック遮断】
長年に渡って溜め込んだ呪力は膨大かつ強力。⋯⋯それでも特級相当である真人を倒し、夏油傑の手から逃げる事が叶うとは思えない。帳が降りているのだろう。電波が繋がっていない故、連絡手段も存在しない。
やはりここは五条悟へとなんらかの方法で連絡を繋げ取り、渋谷の計画を伝えることが打開策になりうる。
「チャージ1年!! 焼き払えメカ丸!! 『
ダムを形作る壁に向かって放ち、移動を可能とする足場を減らす事をまずはメインとして行おう。
どうやら回避されたようだが、呪力蓄積以外にも攻撃は可能。腕を振るい、後手に回させ続ける! 夏油傑が襲ってこないのなら、参戦しないのなら! こちらが有利だ!!
『
回避──反撃だ。頭部を殴られただけだが、体が傾きかけた! パワーが強すぎる。殴られ続ければ装甲は破壊され、看破されてしまう。チャンスは4回⋯⋯まずは効果があるかどうか、否──、
【術式装填】
一気に片をつける!!
「撃て!! メカ丸!!」
発射、着弾確認良し。爆散し、溢れ出た呪力が左腕を破壊した。隙だ、攻撃を当て、吹き飛ばす。
直撃──森へと吹き飛んだ!! 焦るなメカ丸、焦るな与幸吉。
一歩だ。一歩ずつ確実に見極めろ。攻撃が確実に当たるその瞬間を!
「チャージ5年⋯⋯『
追尾弾だ。どこまでも追い、通常ならば致命傷になりうるはずだ。しかし、やはり避けきるか。拳骨も避けた。だが追撃の拳なら──、
「当たる!」
吹き飛んだ。ダメージはないとはいえ吹き飛んだ。森の奥だ。吹き飛び直後ならば油断をしているはずだ!!
いける!!
【術式装填】
勝てる!!
会うんだ!! 皆に!!
「領域展開⋯⋯はい、おしまい」
領域展開⋯⋯だが、俺にはこれがある。皆が、三輪がくれた勝ち筋が!!
「直接的触れなくたって領域に入れちゃえば関係ない。それはオマエも分かってただろ? ハロウィンまでざっと10日⋯⋯俺が呪力をケチって領域まで使わないと思ったか? 10日も休めば全快するよ。作戦に夢と希望を詰め込むなよ。気の毒すぎて表情に困るんだよね⋯⋯は?」
油断したな。油断した!! 突き刺した、確実に突き刺したぞ。
コレには
ストックは4本。
1本目は失敗。2本目は奴の領域から操縦席を守るために。
そして今3本目⋯⋯それは平安時代、芦屋貞夏によって考案された。
呪術全盛の時代、凶悪巧者な呪詛師や呪霊から門弟を守るために編み出された技。
一門相伝。その技術を故意に門外へ伝えることは縛りで禁じられている。
それは"領域"から身を守るための弱者の"領域"。
「シン・陰流『簡易領域』」
全て観てきた。
嬉しい誤算だ。簡易領域1本、呪力9年分を残して夏油と
「撃て!! メカ丸!!」
──破壊された。操縦席を粉砕された。侵入される。まずい、仕留め損なった?
だがまだ領域は1本、残っている!! 直にぶち込む!!
瞬間、手首が弾け飛ぶような感覚がして──、
「早まるなよメカ丸」
目の前に現れた人物の背中は大きかった。否、身長は小さいし、肩幅もそれほどでもない。名前を知っていながらも、どんな人物かさえ知らない。けれど、
「──ぐ、ぅうう! また、またかァ! またオマエかァ!!!」
確かに殴ったんだ。真人を、目の前の⋯⋯悪意を。
「浴」
厳選した生物または呪霊の血液を特定の容器に集め、家宝などの獲物を沈め、十月十日まで浸けさせる儀式。
対象の道具を呪具化させ、守る事が目的であり、原作では受肉体をより完全体へ近付けるために伏黒受肉宿儺が呪霊の血液を持ってして行った。
なお、呪霊の血液は死んだ際に蒸発して消えてしまう為、裏梅の術式で重要な箇所を凍らせながら行った。
本話では彩の仮説の元、生身の肉体に呪いを刻み、呪力量を増加させる等のバフ効果目的で行われた。
もっとも、九相図兄弟らの血液かつ脹相の赤血操術という超特殊的方法かつ彩のその生まれ、育ちが作用して可能としている為、宿儺の器でもない限りは不可能な方法である。