猿も木から落ちるレベル   作:緑ちょこ

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遅くながらも第6話投稿です。青年と老人との掛け合いが何気に好きだったりする私なのですが、なかなかに見られる作品がなく、悲しい限りです。ともあれ、今回は影が薄いメカ丸くんも大活躍! 与幸吉ファンの方々も喜ばれるはずでしょう。

2026/2/19 誤字修正


第6話「小ぶりの心と情熱的な炎」

影真似呪法の真髄は影を媒体に情報(データ)を食わせ、指定対象の動きや術式を模倣する事にある。呪力さえ見合えばその模倣は細部まで完璧に再現され、オリジナルを超える程の性質を宿す時もごく稀に起きていた事だ。

 

「来てみたのはええものの、非術師(力無し)しかおらんやんけ。さっきまでビンビン感じてた高密度の呪力はどこへ行ったんや? 強者は隠れる事をせーへん。形だけやったんか」

 

オガミ婆が死亡した後も恭弥の意識が継続されているのには理由がある。大前提として孫の体には降霊術によって降ろされた恭弥の情報(データ)が存在した。魂が強力ながらも肉体を奪う事はできなかった恭弥であったものの、その大きな欠点を己の術式と縛りによって不自由なく実現させた。

 

降霊術の術式を無限の呪力で改変し、対象者を彩へ変えれたのはオガミ婆の孫が彩へと『影真似の術』を使用したからだ。孫の肉体に保管された情報には恭弥の魂、記憶までもが含まれており、彩へと連動した結果、その情報が彩の脳内にまで流れる結果となる。

何度も言うように影真似呪法と猿真似呪法は異なる物でありながらも模倣の条件はどちらも情報(データ)だ。

故に、恭弥の人生とも言える魂と情報を送り込まれた彩は模倣の域を超えた降霊(・・)を可能とさせた。

 

そして話は最初に戻り、オガミ婆が死んでもなお、降霊が継続している理由であるが──、

 

「手荷物抱えたまんまは動きづらいったらありゃせんな。ま、ハンデとしてはこんぐらいがええんかもしれんけど」

 

無限の呪力によって可能とするは無限の反転術式。そして禪院恭弥は他者への反転術式の使用──反転アウトプットが可能だった。十種影法術を持たずして生まれた癖に才能が左右させる反転術式とそのアウトプット。相伝に恵まれずして呪術の才能を与えられた恭弥を禪院家は妬み、忌み嫌ったのだ。

呪術廻戦を読んだ事のない恭弥に禪院家の性格の悪さを知るわけもなく、生まれた環境を恨み、同時にNARUTOの世界に転生させなかった神を恨んだ。

 

そうして禪院恭弥が呪詛師として名を馳せるのは家を追い出されてから間もない直後の事だった。

 

「なんやお前。何見てんねん」

 

「ふむ。私の術式とは別⋯⋯それよりも邪魔されたら面倒だ。中に入ってるのは別らしいが、ここで死んでもらうよ」

 

袈裟男の左手には黒い渦のような物が握られていた。下へと掌が向けられ、握り拳だったそれがゆっくりと開かれる。

光を通さない黒き物質が地面へと落っこちて──、

 

「闇より出でて闇より黒くその身を穢れに包みたまえ。『黒坊主』」

 

袈裟男──羂索が発する呪詞の終わりと同時に彩の、恭弥の視界が黒へと覆われた。

煙幕を放ってからの遠距離攻撃や急接近後の刺突・斬撃といった闇討ち(・・・)は呪詛師の中でもっとも扱われる一般的な奇襲手段だ。故に呪詛師として行動していた恭弥は戦いにおいて重要な事=視界の確保だと胸に刻んでいる。

 

呪詛師として密かに活躍しながら、仲間意識を持たない恭弥は無論、オガミ婆のような同族を何人も殺していた。だから、

 

「そんなセオリー通りの動き、対策しとらん訳ないやろ」

 

光の存在しない全くの暗闇。それは駅にいた一般市民らも同様に感じていた不安だった。しかし、恭弥の足元に存在する影は暗闇に呑まれながらも、その存在を消す事はない。

なにせ、それは本物の影ではなく、無限の呪力によって再現された偽物の影。禪院家相伝の十種影法術なのだから。

 

そして影は立体的な形を作り、恭弥の頭上へと現れる。グネグネと粘土細工のように形を変えた影は大きな瞳へと変化する。

何度も言うように影真似呪法は影を媒体に、情報さえあればなんでも模倣する。たとえ、それが人体機能の一部だとしても。

 

ともあれ、作られた擬似の瞳に映ったのは全身を黒タイツに包んだかのような真っ黒な人型のそれだ。呪力の感じ方から呪霊だと思われるそれは黒坊主と呼ばれていた。推測するに他人の視界を奪う結界または霧などの気体を発生させ、その度合いによって己も強化するといった類の呪霊だろう。

しかしながら、術式で作った瞳がその影響に含まれていないのはなぜだろうか。同じ暗闇、同じ影だからだろうか? 兎に角、考えても詮無い事だ。今はただ、

 

「死ねやァ!」

 

目の前の敵を殺そう。右手を貫手に、左へと振るった手刀と連動する足元の影が遅れて形を作り、手よりも細長く変化したそれが日本刀の鋭い一閃のように黒坊主の左手首を切り落とす。恐らくは血液であろう黒色の液体が地面へと垂れ流れ、後ろへと後退りする。が、

 

「が、ふ⋯⋯」

 

「何してくれてんねんお前ェェェェ!」

 

目の前の敵に集中していたが故、恭弥の警戒は背後へと近づいていた粟坂二良に気づかない。懐から抜き出された短刀が今も反転術式をかけられて生き長らえているオガミ婆の孫のうなじを突き刺し、貫通した刃が喉元を中心にグルグルと回転しながら、周囲の肉をミンチに変えてゆく。

遅れて気づいた恭弥が振り返り、蹴りを放つもあべこべの術式を持つ粟坂の体にダメージを与える事はできない。

 

比較的にフィジカルが弱い彩の肉体はどれだけ呪力で強化しようとも天井組らの超越した身体を得られないのだ。猿真似呪法を使用すればあるいはだが、他者の術式を扱う事を嫌っている恭弥にその選択は浮かび上がらない。

そも、十種影法術だって自分の術式ではないのに、影を扱うからという理由で自分の物と考えている時点で破綻した論理なのだ。

 

「──は、ぁ。⋯⋯はぁ、クソ。離れないと」

 

孫が粟坂に殺され、降霊術の効果が消滅する。意識が戻った彩が肉体を動かし、階段を駆け上るが──、

 

「んなことしなくたって逃げないよ」

 

「クソ!! 間に合わなかったか!!」

 

背後から聞こえた声に耳を傾け、左手に装着された時計を直視する。時刻は8時40分──五条悟が渋谷駅へと到着する時間ピッタシだ。副都心線ホームから現れた五条を逃すまいと花御の術式によって植物が具現され、出口となりうる全ての通路が塞がれる。

 

彩にとって自分の役割は邪魔な小枝を切り落とす事であって、特級呪霊らという大木を斬るのは五条悟の役目だと思っている。実際、彼は市民がいなかったら、いたとしても易々と倒せているから問題はない。が、

 

「逃げないとまずいって。巻き込まれるって!!」

 

0.2秒とはいえ無量空処をここで喰らうのは危険すぎる。受けた側を味わい、情報(データ)を得るという点では悪い事だけじゃないかもしれないが、それはそれで無下限呪術を扱う日が近づくという点で彩は内心、凄く嫌がっている。だから、

 

「拡張術式・猿猴捉月」

 

情報が少ない故、その模倣は不完全だ。しかし、戦い方やその呪力量を真似できなくとも、植物の壁を切断しうる斬撃を扱う事は可能だ。つまり、今彩にやれる事は障害物である植物を壊し、一般市民が逃げれるようにすること。ちなみにその任務(ミッション)には自分が生きて逃れる事も無論ながら含まれる。それ故、全部の通路を開く事はできない。そうなると必然的に目立った場所にある出口を壊す必要がある。

 

それは、

 

「ハチ公前は呪霊がいなかったはず。あそこが最適か」

 

ハチ公前へと続くハチ公口。一際目立っている上にエスカレーターと階段の2種類の道がある。人数が人数故に混雑はするであろうものの、そのサイズを考えればそこまで問題視する必要はない。重要なのはハチ公口前には呪霊がいる。

それも原作では見覚えのない呪霊。低級呪霊ならば覚えていないのも当然と言えるが、発せられる呪力量は1級のそれだ。それに付け加えて術式でも持っていたらおしまいだ。

 

「今の俺の呪力量で足りるか⋯⋯?」

 

正体不明の呪霊を倒した上、植物の障害を破壊できる斬撃を放つのに呪力を温存。文面だけで見れば恐ろしい程に難易度が高いだろう。しかし、やるしかない。

 

「イメージするのは少年院の宿儺。戦い方や振る舞いはどうでもいい。呪力の質を鋭く、斬撃として飛ばす」

 

どうやら呪霊はハチ公前の植物を延々と眺めているだけのようだ。ゆっくりと近づき、背後から御厨子を直撃させれば確実に殺せる。1歩、2歩、3歩。目視で確認する限りは3m──目の前だ。

 

腹から捻るように発生させ、体全体に纏うように流す。術式が刻まれている脳、形のない魂を強く意識する。

人差し指だけを残して右手をグーの形へ。指先に呪力を集中させて──、

 

『解』

 

放たれた斬撃は横一文字のシンプルな物。ハチ公口の前に立っていた人型呪霊の体を貫通し、植物の真ん中にジッパーのような隙間を作る。逃げ道は確保できた。問題は呪霊の討伐だ。

 

「オ゙、オ゙オ゙ォ────アソビましょおぉ?」

 

何故だか分からない。しかし、斬撃を当てる事でやっとその姿を認識する事ができた。目がくり抜かれ、穴から涙のように血を流す頭部は幼女のように美しい金髪と赤い唇を持ち、それを支える胴体は異様な程に膨張している。問題は胴体と頭を支えている手足であるが──、

 

「傀儡操術か⋯⋯?」

 

体から生えるようにまとわりついたマネキンのような手足が無数にも生え、地面に伸びたそれがその巨体を支えるようにして蠢いている。それにつけ加え、解によって切断された胴体が呪力によって再生せず、ひとりでに傷口へと登った手足がホッチキスのように繋ぎ止める。無機質ながらも生命が与えられているかのように独立して動く手足は正しく傀儡のような歪さだ。対話が可能か否かは兎も角、傷を止める知性と正確な人語を発する声帯らしき物は持っているらしい。

 

ともあれ、

 

『捌』

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙」

 

肥大化したマネキンらしき腕を振るうも動きが遅く避けやすい。パワー耐久特化型の、いわゆる脳筋キャラらしい。耐久という面では脆く、柔い訳ではあるが、念には念を込めてだ。彩の頭を狙って横に振るわれた右腕を左側へと傾きながら行ったダッキングで回避し、空振りした肘あたりを掴み、接触が発動条件である捌を使用する。触れなくてはならない縛りあるいは仕様か否か、その威力は対象の硬度を無視して切り刻む。しかし、

 

(ゆう)遊遊遊アソォビましょゥおぉおォ!」

 

「──チッ!」

 

膝から切断され、地面へと落ちかけた手首を腕から伸びた繊維──否。それは断面から伸びたそれはフィギュア程の小さな手足だ。掴み、縛り、引っ張り、結合。無理矢理に肉体を引っ付かせる。瞬間、不協和音のようなビブラートを声に出しながら、全身を纏う手足の全てをこらちへと伸ばす。

支えを失った肉体はそのまま地面へと落下するが、

 

「ワタシのォ──オウジ様」

 

「王子、様」

 

彩の肉体へ手足を縛り、引っ張り、固定し、落下の途中でその体を静止させる。近づき、耳元で囁かれた言葉に意識が向いてしまう。まるでラルゥの術式のような、心を虜にするかなような甘い囁き。体が動かない。縛られているからではなく、体を動かそうと放たれる脳波が遮断されているかのような、行動前に打ち消されているかのような違和感。

 

「がぁ⋯⋯う、ぐ」

 

現在の時刻は9時15分。体に染み付いた体感時計がズレている。改造人間が電車に乗って流れ込んでくる頃だ。着々と時刻が近づいてきている。

 

──五条悟封印と言うタイムリミットが。

 

「クソ⋯⋯クソクソ!!」

 

彩が両面宿儺と言う強力な存在を模倣できていたのは縛りという理由がある。大前提として少年院までの宿儺であること。そして領域展開と(フーガ)の使用を禁じた上、戦い方や思考回路等の術式使用における操作性向上の情報を除く、純粋な術式のみの模倣。それ故に両面宿儺の術式である御厨子を難なく模倣する事ができた。であれば、開を使えないのなら、開の発動条件である解と捌の使用はなんの利益を、なんの特典を得られるか? その答えはシンプルだ。

 

御厨子の元となった包丁はなにより斬る事だけではない。調理に扱わないものの、道具としての役割を持つ刃は──、

 

(てい)

 

「アソ、ビ」

 

斬らず、その刃を点として突き刺す。替えがきく手足ではなく、左胸──心臓を穿つ。

電池が切れた玩具のように体から力を失い、マネキンの手足が地面へと崩れ落ち、呪力となって散る。

 

締は彩が得ている宿儺の術式の情報と想像力を持ってして作ったオリジナルの拡張術式だ。締めると書いて(てい)と呼ばれるそれは『斬撃』ではなく『刺突』としての役割を持ち、攻撃範囲が狭い事を縛りに貫通力とその射程距離を増加させたスナイパーライフルのような物だ。現に呪霊の胸を貫いた後も残っていた後残りである締が壁へと穴を開けてある。

 

ともあれ、消えない所を見るに、胴体と頭部は人間の亡骸だったようだ。それも、無理矢理に肉体を弄られ、呪霊が中に入る住処として。

 

「は、ぁ、はぁ。道は⋯⋯辛うじて通れる。後はそれを伝える手段だ。あ、あーあー──『逃げろ!!!』」

 

他人に行動を強制させる反面、『逃げろ』によって巻き起こされるその行動はただ逃亡のみ。その命令には知覚した攻撃を回避する等のオートアシストも含まれている故、直接的に殺害する手段にはなり得ない。つまるところ、五条悟や特級呪霊らを除き、非術師相手にはこの上なく効果てきめんな呪言な訳だ。しかし、生身の喉で放った音には限りがあり、届かない距離もある。その為に構築術式で予め作成した簡易拡声器によって全体へと呪言を届けさせる。

 

「後は逃げるだけ。悟なら俺の気配は察知してるだろうから逃れれば領域展開をするだろうしな」

 

彩の目的は自分が戦線離脱する事によって完璧に叶える事ができる。が、思う節目があるのだ。吹き抜き上の彼らは既にここへと落ちてきており、植物の根で首を絞められ、あるいは炎で焼き焦がされて死んでいる。自分の力が足りていれば彼らも救えたのかもしれないと。

 

「どれだけ強欲で、どれだけ傲慢なんだ俺は。俺の両手は小さい。拾うのに限りがある。だから、仕方ないんだ」

 

五条悟を除いて誰にも知られていない秘密。過去に犯した罪が彩の心を、首を絞めてゆく。本当に力不足が原因なのかと。よく考え、行動すれば今の自分でも助けれていたのではないのかと。そしてそれは遠回しに、意図的に彼らを見殺しにしていた事を意味する。市民を守る呪術師ながら、その市民を犠牲と割り切って身内を守る、大罪に。

 

「⋯⋯考えても仕方ねぇか。過去のことだからな」

 

が、彩の心は既に擦れ切れていた。過ぎてしまった事だからと割り切ってしまう程に。目の前の死に涙を流さない程に。犠牲者に背を向けて逃げる程に。輝く未来の為に泥臭い今を歩める程に。

 

 

──彩の心は魔に染まっていた。

 

 

 

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

10時25分頃。井の頭線渋谷駅アベニューロにて。

彩は目的と言えるやりたかった事全てをほとんど成した故、手持ち無沙汰となりながら街を歩いていた。しかし、ただ何も考えずに歩いていた訳ではない。陀艮との戦いで禪院直毘人や七海建人、禪院真希らが消耗し、死に至る危険性を考え、その戦いに参加する為にこうして足を運ばせたのだ。だが──、

 

「オマエ達──ちと鈍すぎるな」

 

投射呪法による加速からの急接近。対象に触れる事によって術式を強制し、作り上げた動きをトレースする事ができなかった陀艮の肉体停止。身動きの取れぬ無防備な顔面へと右拳が振り下ろされる。

 

直撃し、痛みを元に食した人間の骸骨を吐き出す陀艮。この直後、人語を発してから脱日が如く、呪胎を脱する訳だ。

故にここで仕留める。天井を支える柱を障害物に影の裏に沿ってゆっくりと動き、その油断している背後に攻撃を放つ。

 

狙うは頭部。放つは一撃。込めるは全力。

 

「龍鱗。反発。番いの流星──『解』」

 

呪詞完全詠唱の解だ。不完全な模倣であれど、威力が高まるのは間違いない。横一閃──首を跳ね飛ばして──、

 

「よくも花御を殺したな!!」

 

──くれない。呪胎から脱した陀艮は背に小さな羽を、飾りではないそれによって空中へと一気に上昇。人差し指に集結した水を地へと投げられ、洪水のように溢れ出す。

 

「なんつー物量だよ」

 

薙刀を壁へと突き刺し、柄の上に乗る事によって流される事を回避。七海の姿は見当たらないものの、原作の描写からしてどこかへ隠れて機会を伺っているのだろう。直毘人は水にまで投射呪法を反映させ、一歩も動かずとも洪水を防ぎきっている。

 

「呪霊よ。アニメーションが1秒に何フレームあるか知っているか?」

 

「呪霊ではない」と拒否しながら直毘人の発する戯言を聞き流す陀艮。しかし、その行動は悪手だ。直毘人の言葉は単なる戯言のそれではない。いわば術式の一部開示。己の能力向上を強制するバフ効果を発生させる。

不粋(ぶすい)だとは思わんか!」

「我々には名前があるのだ!!」

 

瞬間、上空から振り下ろされた七海の一撃を右腕にて防御。威力をいなしきれず、地面へと叩き落とされる。

真希の振るう薙刀の攻撃を柄を掴む事によって防ぐものの、背後から接近された直毘人の手によって1枚の薄っぺらなカードへと変換される。それ即ち、投射呪法によって行動を強制されるということ。

 

カードのまま投げられ、七海が追撃するものの、寸前の所で行動強制の効果が切れ、両腕によって防ぎ切られる。

 

「1級が2人も揃って祓えんとは由々しき事態だな」

 

水流の防壁。このままの流れでは原作通りに領域を展開されてしまう。ならば勝機は油断している今がチャンス。なぜなら彩の斬撃を回避できたのは偶然だ。避けようとして避けてない故、未だ気づかれていない。だから、

 

「──なっ!」

 

「ほう」

 

「構築術式プラス赤血操術──合わせ技だ」

 

銃身から放たれた朱の弾丸は螺旋の回転を描きながら加速し、陀艮の左肩を弾き飛ばす。構築術式によって作成した簡易ライフルと赤血操術で硬化させた血液の弾丸。

ただし、肩を破壊するだけで弾丸の役割は終わらない。

 

意識外からの攻撃を喰らった陀艮は無論ながら、その方向を必ずと言っていいほどに見る。

 

──斜め後ろ。天井へと片手でぶら下がる彩の姿を。

 

「でかしたぞ彩。後で褒美をやらなくてはな」

 

「貰えるもんは有難く受け取っとくよ。爺ちゃん」

 

視界、意識と共に彩へと移した陀艮は術式の制御を乱し、その水流の防壁──水壁に綻びを生じさせる。無論、特別1級呪術師たる禪院家当主──禪院直毘人がその隙を見逃すはずも、理由もない。

 

「────」

 

打撃。背へと打つ拳が陀艮の体を穿つ。痛みを元に呪力を散らせ、直撃と同時に投射呪法によって肉体を固定させる。

大きな、されどたった1枚カードを直毘人は両腕で抱き合わせ、

 

「外す訳はなかろう?」

 

「無論! ──穿血!!!」

 

両手を合わせて放つは弾丸──否、血液の光線。赤血操術における必殺技的な立ち位置を立っている穿血は本来、長い溜めが必要だ。しかし、己の両手首を傷つけ、流れ出た血液を呪力の膜で覆い、集める事によってその欠点を改善させる。

乙骨あるいは彩でしかできない赤血操術、穿血の使用法。

 

「──がァ、ぶ、ぅぐ」

 

「ほれ、弱点を狙うのは得意だろう」

 

「ええ、私の特権です。五条さんには叶いませんが」

 

穿血によって貫かれた喉に手を当てる陀艮。背後には敵がいるというのに咄嗟的に防御を疎かにしてしまった。触れられ、投射呪法によって停止され、投げられたのは直毘人の煽りとカード。七海はそれに応じるように刃を振るい──、

 

「はぁァ──!」

 

「ぶ、ぶふッ! きさ、貴様。⋯⋯貴様らァ!!」

 

頭部へと叩き込まれ、攻撃によって地へと叩き落とされる。

陥没した地面に横たわりながら、悪態をつきながら手印を結ぼうとするも、

 

「──影真似の術」

 

彩に色強く残る禪院恭弥の記憶、術式の情報。伸びる影が呪霊──陀艮の体を強く縛り、動きを封じさせた。

しかし、その伸びた影は彩の物ではない。戦いの最中、崩壊した瓦礫の中の一つ。柱の一部のそれだ。

 

「呪霊⋯⋯いや、陀艮と言うべきか。一人ながらもよく足掻いたものよ。これが対多ーでなければあるいは、あったかもしれんな」

 

「ジュ、ジュッシ⋯⋯が」

 

陀艮の頭部を貫く直毘人の手によって戦いは幕を引いた。しかし、

 

「はぁ、はぁ。⋯⋯はぁ、みなさん!」

 

──百年後の荒野でまた会おう。

 

戦闘の終わり直後の場所に到着した伏黒恵が声を発すると同時に、何者かの声が聞こえた。手持ち無沙汰になっていた禪院真希は愚か、1級呪術師3人が警戒していたにも拘わらず、誰一人としてその者の声を耳に入れる事が叶わず、聞き逃してしまった。強いて責めるならば、原作知識によって先の未来を知っていながらも油断していた彩⋯⋯その愚行さだろう。

 

「ー人目」

 

瞬間、圧倒的熱量が彩の肉体へと放出されるが──、

 

「秘伝・落花の情」

 

投射呪法の重ねがけ加速法によって瞬時に彩と噴出された熱量の間に直毘人割って入り、自動迎撃システムである『落花の情』を発動。致命的になりうる全ての熱に対して『投射呪法』を反映。指定物質の静止を強制させる。

 

「ふんッ!」

 

熱量を放った呪霊──漏瑚の後隙を突き、胴体回し蹴りを放つ。頭部に直撃し、地面との摩擦で噴煙を巻き起こしながら柱の一つへと吹き飛ばされる。

 

「がふ。⋯⋯一筋縄ではいかぬか」

 

真人が呪術的にトリッキーかつメタキャラ以外には強い術式特化型に対し、花御は頑丈な耐久型で、陀艮は呪力が果てしなくある故の耐久型。

 

方法や原理は違えど、その三者が1級と戦える程の防御力を有す。対して漏瑚は速度と火力に全振りした生粋のアタッカーだ。本人の闘争心、短気な性格を含めて瞬発力が自然呪霊の中でもずば抜けて高い。故に防御力は柔く、直毘人の蹴りで頭の端が削れ、その上で口から吐血する程に脆い。

 

「恵と真希、七海さんは五条の元へ。恐らくは呪物によって封印されてる。──獄門疆で」

 

「⋯⋯分かりました」

 

渋々、理解したような表情で顔を歪ませながら言葉を返し、手で示すようにして恵と真希の両者を手招きする。

口から流れる血を手で拭いながら立ち上がる漏瑚と今後の動きに身構えるようにして呪力を高める直毘人と彩。

 

場に残されたのは奇しくも特別1級呪術師と1級呪術師。奇妙な繋がりを持つ二人だった。

 

「今度会う時は落花の情も教えてくれよ、爺ちゃん?」

 

「ああ、構わんさ。して、こちらも何かしら貰わねばなるまい」

 

にやけ面を晒しながら敵を前にして楽談を行う両者。同族を殺され、なおも侮辱された気分に沈む漏瑚の怒りが頂点へと達した。

 

「もう我慢ならん! 巻き込むやもしれぬが決めた!! 領域展開──あ?」

 

怒髪天を衝くと言わんばかりに火山頭から煙を放ち、手印を結ぼうとしたその直後だった。疑問には思っていた。なぜこうまでして余裕な顔して会話などできるのかと。自分と彼ら二人の戦力差は文字通りに天と地ほどの差がある。

 

一方的に漏瑚の強さを知る彩であってもまともに戦えば勝てないと分かっていた。だから、

 

『通達ダ。五条悟が封印されタ』

 

──伝達、報告を担う小型傀儡。原作では死後も役に立てるように予め用意していたメカ丸の傀儡。与幸吉を限りなく再現し、情報を仲間に伝えながらも戦闘を補助する役割を持った傀儡がなぜ今となって声を上げたのか? 否。声を上げたのには意味はない。五条悟の封印、その通達も数十分の遅れが生じている。そも、この場には呪霊と術師二人しかいないのだ。

 

して、なぜその小型傀儡が漏瑚の手首へと引っ付くようにして顔を出しているのか? 答えはシンプル。直毘人が蹴りを当てた際に足首につけていた傀儡を高速で取り外し、その手首へと引っ掛けたのだ。

 

ともあれ、メカ丸は原作のように死亡していない故、小型傀儡はその伝達機能を失っていない。正確には伝達をする必要がない故、その機能は別のプログラムにて置き換えられた。

 

そのプログラムは些細ながらも戦闘に参加したいというメカ丸──与幸吉の囁かな思いから組み込まれた、情熱的な物。

既に煮えたぎる程に募った思いは熱を帯びている。それこそ、何者かの手によって更なる熱を与えられた際に、感情が爆発してしまう程に。

 

「──がァァァ!! 術師どもめがァ!」

 

「愉快愉快! 彩に手渡された時は何かと思うたが⋯⋯これ程に珍妙な傀儡は稀に見る物よ! ハハハハ!」

 

「そう笑ってもらえると幸吉も浮かばれ⋯⋯いや、死んでないから違うか。まぁいい。──砕け散れ」

 

呪力を電力にして動く傀儡は部品を散らすと共に呪力を纏った爆発を巻き起こす。小さきながらも呪霊に有効なそれが手印を結びかけていた漏瑚の両手首を破壊させた。

 

悲鳴を上げながらも悪態を着く漏瑚。

 

膝を叩きながら大笑いをたたき出す直毘人。

 

その両者の行動を気にもせず、自身の懐へと手を出す彩は──、

 

「ハハハ⋯⋯彩、オマエ。──惨いな」

 

「小型だから持ち運びやすいのなんのって。⋯⋯これ、今後全ての術師に常備させた方がいいんじゃない?」

 

「キ──サ、マラァ⋯⋯」

 

手榴弾のように紐で繋げられた無数の小型傀儡。懐から出された大量の爆薬を前に依然変わりなく悪態を着こうとする漏瑚であったが、圧倒的物量の呪力爆破を見に浴びながらアイデンティティを保つ事はできなかったようだ。

 

 




「黒坊主」
全身黒タイツのような黒さを持った人型呪霊。
その等級は特級相当であるとされるものの、場所を選ぶが故、扱い所が難しいトリッキーな手駒。
呪力を消費して黒い霧を発生させる術式を持っており、霧には触れた者の視界を奪う効果が付与されている。
また、周囲の暗さによってその体の大きさと呪力出力が変化し、度合いによっては霧にて対象の命をも屠る事が可能である。

「マネキン呪霊」
正式名称不明。故に命名は彩の絶望的なネーミングセンスによる物である。ともあれ、名前の通りにマネキンに対する恐怖から生まれた仮想怨霊である。その見た目は幼女のような顔に膨張したかのような胴体を支えるようにして蠢くマネキンの手足によって完成されており、見た目通りに術式はマネキンの手足を自由自在に具現させ、操作する事である。
彩の意識を奪いかけた謎の囁きに関しては不明であるものの、推測上では他者をマネキンに変えるなんらかの拡張術式だと思われる。
純粋に射程を伸ばせるかつ防御壁として扱える故、呪術師が使えばその術式はかなりの強力な物となるだろう。あるいはマネキンの認識は傀儡へと変化させ、傀儡操術と組ませるも良い。

「締」
両面宿儺が所持する術式『御厨子』を模倣した彩が不完全ながらも使用した拡張術式のー種。斬撃ではなく刺突として放つ事により、攻撃範囲を狭める縛りで威力を底上げし、貫通力に全振りしたスナイパーライフルのような物となっている。その破壊力はマネキン呪霊の左胸を貫いてなお、渋谷駅の壁に先が見えぬほどの穴を作る程。

「装甲傀儡メカ丸・モードブームソリューション」
通信や伝達に用いられた小型用の傀儡、その改良版。
与幸吉完全再現AIを削り取られたメカ丸の内部には熱量を感知した際に『五条悟の封印の報告』を自動的に行うシステムが搭載されており、それを合図に直後、呪力を纏った爆発を起こさせる。小型かつ爆薬と簡単なプログラムを刻まれている故、持ち運びやすい上に量産可能といった超コスパ最強アイテム。その威力は密着ながらも特級呪霊の手首を破壊する程。ちなみに花御や陀艮などの防御力カチカチ呪霊に対しては指をはじき飛ばす程度。それでいても混乱と消耗を促せるのでやはり強し。それこそ不義遊戯を持っている東堂に持たせてしまった日には特級呪術師『東堂葵』が完成されてしまう。
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