秋空の下、止まらない夢   作:冴月

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 ちょっとまずいかもしれないと、香澄は思った。

 

 秋近づくにつれて次々発売される、さつまいも、柿、栗、葡萄をふんだんにつかったお菓子やアイス、菓子パンなどのデザート。さんま、鮭、キノコなど旬の食材を使った料理の数々。

 そのどれもが魅力的で、美味しそうで。ついつい買ってみると、美味しくて、最高で。また次、また次へと手が伸びいていってしまう。

 

 昨日も、練習帰りのコンビニで安納芋アイスを買ってしまった。

 練習帰りにりみ、たえ達"仲間とコンビニに寄って買い食いする"という、行為そのものに多少憧れのような、夢のようなものがあったというのは言うまでもないが。そんなこと以前に、魅力的なデザートに手が伸びてしまった。口に入れた瞬間に広がる濃厚な安納芋の風味が広がり、バニラのような甘さと風味が非常に美味しかった。

 ……ちなみに、一昨日はペースト状の栗が使われた菓子パンを香澄は食べていた。大きく口を開けて食べた瞬間に栗の風味が一気に拡がって、もっとかぶりつきたくなる味だった。

 

 

 家に帰ったら、秋の味覚がふんだんに使われた夕飯を食べる。さんま、鮭、キノコご飯なんか出してくれた日には、普段大食いでは無い香澄でもご飯をおかわりしてしまう。

 

 夕食後も、夏休みに帰ってきてたお姉ちゃん達のお土産を食べる。24個入りや30個入りと沢山入っている季節の饅頭とか、クッキーのやつだ。一応、香澄は少しずつ食べるようにしている。

 

 そして、学校での昼休み。有咲、りみと別クラスから合流したたえとでお弁当を囲む。

 今日は雲一つない青空で、燦々と輝く太陽が空に昇っていた。秋が広がる澄んだ空模様、夏期の様に肌がヒリつく程の光度はない。爽やかに流れてくる風と相まって、とても心地よい。先週まで夏の残暑を引き摺っていて半袖の人ばかりだったが、長袖もすっかり馴染むような気候になっている。

 そんな気持ちいい、天気のいい日は、よく行き慣れた屋上でお弁当を開く。みんなでおしゃべりして、束の間の休息を楽しむ。ちなみに、本日は香澄の持ってきたさつまいもペースト入りチョコチップクッキーがみんなに添えられている。

 

「……ねえ」

 

 有咲は、唐突に食べかけていた卵焼きを再び弁当箱に戻した。有咲のお弁当は、おばあちゃんが作った非常にシンプルかつ、和風なもの。卵焼きの黄色がよく映えている。

 呆れたような、じっとりとした視線を向けながら有咲は話をする。

 

「あんた、なんか最近食べ過ぎじゃない?」

 

「ん?」

 

 と、指摘された意味がわからないと言った様子で、モグモグと咀嚼を続けている香澄。みんなに配ったクッキーの他、いつの間に買ってきたのかヤマブキパンの菓子パンまでお弁当の横に転がっている。さつまいもペーストが入った、秋の新作スイートポテト・デニッシュだった。

 

「ふむ。確かに、最近の師匠は良く食べている気がするな」

 

 ───いつ実戦(ライブ)があってもいいように備える、流石師匠だ。

 

 と、相変わらず師匠(香澄)にキラキラとした目線を向けるりみ。りみの弁当は大きなおにぎり二つで、「師匠に負けないようにしなければ」と、大きな口を開けて齧り付いている。今日はお金にちょっと余裕があるようで、真ん中に海苔が貼り付けられたように巻いてある。でも、中の具は無いみたいだった。

 

「いい食べっぷりで、羨ましいくらいっす!」

 

 と、身を乗り出しながら自分の事のように言ってくれるたえ。たえの弁当はきゅうり関連がちょっと多めに入ったお弁当だった。ご飯によく合うきゅうりの漬物に、きゅうりとハムをあえたサラダ。なんと、きゅうりとお肉の炒め物だった。本人が好きというより、たえのお母さんがきゅうりを消費しようと工夫しているようにも見える。

 

「食欲の秋とは言うけれど、ちょっと気をつけなさいよ。来月には、秋フェスのライブがあるんだから」

 

 それだけ言って、有咲は卵焼き最後の1口を放り込む。若干だが、口元が綻ぶのが見えていた。

 

 

 

 フェス、とは言っても商店街の集客イベント事だった。

 より秋が深まってくる11月。そんな休日に開催される"オータム・グルメ・フェス"、通称秋フェスが、香澄達にはあった。商店街中の飲食店が出店を出し、秋の味覚を一斉に売り出す。

 更に、地域密着かつ振興イベントでもある為、ライブイベントも開催されるらしい。商店街中がハロウィンの模様になり、カボチャやらお化けやらで飾り付けられる。

 そんな秋フェスに、香澄たちは参加することになっている。香澄達Poppin’Partyは、以前商店街のお祭りに出たことや、近くの学生達の知名度。あとは、商店街でも人気店のヤマブキパンが懇意にしている事など、主催側から推薦されたのだった。

 

 そんなライブイベントで、香澄達はミニライブを行う。多分、5~6曲くらいで、観客の数は……時間帯にもよるが、1000人以上かもしれない。

 

「まぁ、食べ過ぎてお腹壊しちゃうとか、太って衣装が入らないとか。そんなこと無ければいいけど」

 

 ──ご馳走様でした。

 

 ちょうど食べ終えた有咲は、弁当箱の蓋を閉じて言った。

 ちょうどおなじくらいに弁当を食べ終えた香澄は、ヤマブキパンの新作パンをみんなにちぎって分ける。ちょっとだけ。有咲に言われてほんのちょっとだけ。自身の体型が気になった香澄だったが、パンを口に入れた瞬間に感じた幸せでそんなことは霧散したのだった。

 

 

 

 

 




秋のうちには描き切りたいこの頃。
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