秋空の下、止まらない夢   作:冴月

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 あの日から、沙綾から普段よりも多い量のパンが差し入れされるようになった。

 いつも店内に置いてあるようなものから、季節のパン。ピザパンのようなものから、冷凍保存できるようなものまで。種類と彩り様々なものが、ヤマブキパンの茶袋に入れられ、香澄の元へと届けられる。

 

 沢山のパンを分けてくれる(試食をお願いされてる?)のは嬉しかった香澄なのだが、沙綾ちゃんに言われた言葉がチラついてしまっていた。貰う時に目を逸らしたりとか。パンを見ると思い出してしまい、食べづらかったりとか。

 沙綾が居ないのに、思わず恥ずかしくなって頬を赤くしてしまい、他のメンバーから変な目で見られたりもした。けど、一口食べればそんなものは霧散する。今ではもう、パンの美味しさに夢中な香澄なのだった。

 

 

 

 そんなパンに夢中の香澄だったが。現在進行形で米の誘惑を受けている。

 

「ねぇ、師匠ー。ウチのお米とそのハンバーグ交換しない?」

 

 と言った感じに。要は、いつも通りりみの炊飯器販売なのだが、いざ匂いに誘われ食べてみると、とても美味しい。

 艶々としていて、ふっくらとしていて。決してベタつかず、パサパサもせず。口に入れた瞬間に広がるお米の甘さと旨み。噛めば噛むほど次が食べたくなる味。なんというか、りみりんお米炊くのが上手いんじゃないんだろうか……。

 そもそも、りみに送られてくるお米のクオリティが高いのかもしれない。お米の銘柄までは聞いてはいないが、いわゆるブランド米、といいやつなのだろうか。

 そんなりみりんのお米に味をしめた香澄。最近では、元々のお弁当ののお米の量を減らし、おかずを多めにしてもらっている。

 

「おはよう師匠。今日のおかずはなんだ?」

 

 登校するなり朝一番、りみは聞いてくる。

 それもこっそり、静かに。

 

 まるで、いけないことを相談しているかのように。クラスメイトの談笑の中に溶けてしまうくらいの、秘密のお話。内容はなんて事ない、ただのお昼ご飯の話なのに。香澄には、密談のような。ちょっとロックな事のように思えた。

 

 

「今日はねー、焼き鮭と唐揚げ。あと、肉野菜炒めだよ」

 

「ふむ、いい。すごく良い。特に、焼き鮭というのが食欲をそそるな」

 

 米派のアイボウとも言える魚を、りみは気に入ったようだ。ハンバーグとか唐揚げよりも、鮭。やはりりみは和食よりの方が良いのだろう。

 

「1切れ丸々入れてもらったから、後で分けて食べようね。その代わり、その……」

 

「大丈夫だ。()()()()なら、いつも通りに」

 

 

 要は、昼休みにおかずを分けてあげるから、炊きたての白米と交換しよう。という事だった。

 傍から見れば、なんでもないおかず(?)交換。口下手な香澄にとって、夢みたいに憧れていたものだった。

 

 今となっては、多少慣れたかもしれない。けど、有咲ちゃんちのふわふわした卵焼きとか、たえちゃんちのキラキラしたきゅうりの料理とか。りみりんの白米とか。未だに、交換する度にドキドキするし、美味しいし、それに楽しい!

 

 特に最近は幸せ続きである。最高に美味しい白米で食べるお弁当は、こんなにも美味しいのかと。特に、秋の味覚たちが最高にたまらない。

 

「師匠はお米が沢山食べれて幸せ。ウチは、おかずを貰えて幸せ。つまり、こいがうぃんうぃんと言うやつでは?」

 

 確かにWinWinではあるだろうが、ちょっと心配になってくるWinWinでだった。

 

 いくら小声で話していても、隣の席からは会話の内容が丸聞こえである。りみの脇から覗いている炊飯器を盗み見た有咲は、白米に目を輝かせる香澄のことがちょっとだけ心配になった。

 

「……かすみん、いくらなんでも食べ過ぎなんじゃないかしら」

 

 全く隠れていない、隠し事をしている2人の様子を見て、再来月のライブが心配になる有咲だった。

 ちょっと前の昼休みに、香澄には釘を指しておいたのにも関わらず、この食欲旺盛さ。パッと見まだ問題はなさそうだが、まん丸になるのは時間の問題かもしれない。

 

「まぁ、相変わらず元気そうだし。とりあえずはいっか」

 

 香澄に甘い自分を自覚し、ちょっとだけ苦笑い。若干香る炊きたてご飯のいい匂いに、少しだけ誘惑されそうになりつつ。楽しみな放課後思いを馳せながら、タイクツな授業を過ごしていく。

 

 

 

 

 

 




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