5人で栗五目ご飯を食べ、ヤマブキ季節のお菓子パンを食べた後。オリジナル曲の復習を行い、次回の秋フェスでやるカバー曲の練習をした。
確実に5人集まれるのは、土曜日の午後と、日曜日だけ。5人のSNSグループで譜面の共有をして、それぞれ個人練習をして挑む。
これまでそれなりの曲数をやってきた彼女達ではある為、個人練習を始めてから、習得するまではそれなりに早い。
故に、次の秋フェスでの演目は、カバー2曲にオリジナル3曲。カバーで観客の心を掴んで、オリジナルでとどめを刺す(りみ談)という作戦だ。
その為に、まずは個人で練習する。不安なところをできるようにして、指を慣らして。体を慣らして。そうして完成へと近づける。
けど、バンドは個人ができてもチグハグなモノが生まれてしまう。ちょっと走りすぎていたり、合わせすぎていたり。曲としての完成度もそうだし、カバーをするとかだと、演奏するにあたってのアレンジみたいなものも入れてみたくなる。
そういった所を、みんなで合わせて練習をする。練習して、改善して、アレンジの意見を出し合って。こうしたらいいんじゃないかとか、ああしたら良かったんじゃないかとか。難しくもあるけど、楽しくもあるこの時間を、5人は営んでいる。
「……にしても、食べ過ぎじゃないかしら」
練習の休み時間。お菓子を食べたり談笑したり、スマホを弄ったりしていた。
そんな中、たえと夕方の妖怪アニメについて熱く語っている香澄を見て有咲は呟く。
「ふむ、あまりにも美味しそうに食べるのでつい色々あげてしまったが。確かにそうだな」
まぁ、料理人冥利に尽きるが。と、忍者であるはずのりみは続けた。
「香澄ちゃん、最近特に食べてるもんねぇ」
コップに入れられた麦茶を、一気に飲み干す沙綾。ドラムはやはり、運動量が違うのか、額から汗を1滴流していた。
話題の渦中である香澄はというと、余ったヤマブキパンを片手にたえと談笑していた。
時々、残っているお菓子もつまんで、ちょっと顔を綻ばせている。
「ちょーっと食べ過ぎよねぇ、あれ。衣装入らないなんてこと、無ければいいけど」
秋フェスまで、後1ヶ月くらい。曲の練度は言うまでもなく良い報告だが、別の部分で懸念点が生まれている有咲だった。
「なら、ベンケイ殿。なぜか、ちょうど、都合のいい事に、ここにライブ衣装があるぞ」
りみは、いつの間にか貴重な一張羅を取り出していた。
各々のイメージカラーを基調にしたチェック柄のポロシャツに、2層に重なったフリルのスカート。腰の辺りには、大きなレース素材のリボンがふわりと付いている。
衣装決めの時に5人で行った大型ショッピングモール、そこで運命的で、奇跡的に、見事に5色並んでポロシャツがかけられていたのだった。
偶然のような奇跡のような、そんな出会いをした事から即購入。袖の部分とかにレースを付けたりとかして、皆でライブ衣装に作り上げるに至った。
スカートは市販のチェック柄フリルスカートに、みんなで苦心して、長い時間かけて、イメージカラーのリボンとフリルを縫いつけた。完成してからは、ライブハウスでの
そういえば、テレビだかラジオで、ガールズバンド時代とか何とか話をしていた。それもあってかよく行くライブハウスには女性客が多く、この衣装の評判は結構良さげである。
そんな思い入れのある衣装が、入らなくなったとしたらとんでもない。
これは確かめねばなるまい。有咲は、「はい、休憩終わりー」と言う一言と共に、始まりの合図として手を1回叩いた。
「じゃあみんな。ここからはライブ衣装着て練習するわよ。普段の服と勝手が違うし、動きやすさとかも違うしね」
そう言って、今着てる普段着を脱いで着替えをする有咲達。何度も、何度も着てきた衣装だ、ちょっと着替えにくかったとしてもその手つきは早い。
りみ、たえ、沙綾、有咲は早々に着替え終わった。誰かがどこからか引っ張り出してきた姿見で衣装を確認したり、クルクル回ったり。ちょっと動いて気崩れないか確認をする。
4人が各々、自分の確認をしている中。何故か1人だけ、着替えにてこずっている人物がいた。
端っこの方で、こちらに背を向けながら、何やら唸っているようだ。
「かすみん、そんな唸ってどうしたのよ──」
ぽん、と肩に手を置いて。顔色を伺うように覗き込む。覗き込んだ途端、ビクッと驚いたように身体を強ばらせたが、一体どうしたんだろうか……。
「あ、あははー……。は、入らなくなっちゃったー、なんて……」
スカートのホックを、必死に閉めようとしている香澄が居た。手が震える程にギューッと引っ張るものの、ホックは絶妙にかからない。
この、届かない数センチメートルがとても遠かった。勢いをつけて引っ張るものの、その距離は変わらない。寧ろ、ホックの方が壊れそうだった。後ろから覗き込んでいる有咲を見上げるその表情は、なんだか引き攣っている。
「ちょっと、やめなさいって! 衣装が壊れるでしょ!」
そう言って、香澄の手を急いで取る。その手は、なんだかいつもよりもふっくらしているような気がした。
「師匠、ちょっと失礼」
有咲の後ろからぬっと現れたりみが言う。
「え、りみりん何を……ひゃあ!?」
後ろから、香澄の顔を手で挟む。右側と、左側。両方から挟まれた香澄の頬は、可愛らしく真ん中にぷにゅっと寄っている。そしてそのまま、頬を回すように揉まれている。
「ふむ……。なるほど……」
何が"なるほど"なんだろう。有咲と絶賛揉まれ中の香澄は、同じことを思う。
おおよそ30秒。ひとしきり揉み続けたりみは、うんうんとなにかに納得したように頷く。
「師匠、さては太ったな?」
「ぴっ」
秘密にしていたことがバレてしまった時に、良く「ギクッ!?」という表現があるけれど、まさにそれだと有咲は思った。
ビクッと体を震わせて、声にならない声を上げた香澄。揉まれた頬に手を当てて、自分でも揉んで太ったを確かめている。
りみはすかさず追い討ちをかける。
「以前よりふっくらした頬肉、ご飯の食べる量の増加。そして何より……」
ビシッと人差し指で香澄を指す。そして高らかに宣言する。
「その一向に掛けることの出来ないスカートのホック! 師匠、あなたは太っている!」
「うっ……ううっ……!」
がくり。
スカートを閉めようとしていた手を離す。まるで銃に撃ち抜かれたかのように、その身体を崩れ落ちさせるのだった。