「だって……だって……。美味しいんだもん……」
泣き崩れたまま、シクシクとすすり泣く(ているように見える)香澄。実際の所、ただ太っていることを指摘されているだけなのだ、傍から見ている沙綾とたえは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「まぁ、最近明らかに食べ過ぎよね」
香澄の代わりに、香澄の食べかけのヤマブキパンを咀嚼する有咲。勿論、これは太ってしまった香住から没収したものである。
上目遣い、潤んだ瞳。整った顔立ちの3点で見つめられる有咲。つい、甘やかしてしまいそうになるが、没収パンを一気に食べ切る事で、そんな雑念を振り払う。食べ切る瞬間、香澄が「ああっ……」と情けない声を上げていた。
というか、改めて見てみると全体的にふっくらしてる気がする。肉付きが良い、では済まない位には太っているように見える。……毎日あっていたから、あまり気にしてはいなかったが。
……あれ、なんだかお腹もちょっと出ているような……?
じっと有咲が見ていると、香澄は腕で自分を守るように隠してしまった。隠す、ということは太ってる自覚があるんじゃなかろうかと、有咲は思う。
「かすみんセンパイ、流石に控えないとダメな気がするっすね」
たえが、どう考えても自業自得な香澄を見てボソリと呟いていた。沙綾も、香澄の様子を見てなんとも言えない苦笑いをしている。
気づいたら、りみがヤマブキパンの入った袋を見せつけていた。右、左、上、下と色々な方向に動かすと、その動かし分だけ香澄の視線と顔が引き寄せられている。
「……かーすーみーん……?」
有咲が、いつもよりも数段低いトーンで香澄を呼ぶ。怒っているような、呆れているような声に、ハッとするように体を強ばらせる。
そのツインテールの房を大きく揺らしながら、腕を上から振り下ろし、香澄に人差し指を突きつける。
「お菓子禁止! 菓子パン禁止! あとおかわりも絶対禁止! とりあえず次のオータム・グルメ・フェスまでは、ぜーんぶ禁止! ダイエットよ、かすみん!」
ビシィッ! そんな擬音が聞こえそうな程で突きつけられた指と、有咲の命令。このポピパの裏リーダー的役割である彼女の勢いは、香澄を反射的に頷かせてしまった。
がーんと、時が止まったようにも、燃え尽きた灰のようにも見えた。香澄の姿は、固まったまま白い灰になったようにも見える。
そんな香澄を励ますように、たえから励ましの声がかかる。
「か、かすみーん、ほら、元気出そ? ランニングとか、一緒にやると楽しいよー?」
いつだったか、沙綾から返事を貰う時のように、急に先輩ぶるたえだった。
でも、実際に、ランニングとかの運動はたえが先輩になる。間違ってるようで、全然間違ってはない。
「痩せるには運動が1番だな」
「ダイエット用にご飯も考えなきゃね」
そんな香澄に一番食べ物の誘惑……もとい、甘やかし隊であった2人から、ダイエット計画設定は始まった。
とりあえず間食は無しで、早朝にりみ、たえとランニング。飲み物は水かお茶。白米の量も抑えて、低脂質低糖質で。卵とか、ささみとか。どうしてもお腹すいちゃって食べたいときは、炭酸水で誤魔化せるらしい。そうだ、香澄ちゃんのお母さんにも協力してもらおう──。
香澄を置いてきぼりにして、香澄の予定が決まっていく。腑に落ちないながらも、誘惑に負けまくった自分が悪いのだと思うと、なんとも言い出せない。
最終目標は、ライブ衣装が着れるような体型へ戻すこと。その過程で細かい目標を設定して、段々ととクリアしていくような感じにするという有咲の話である。
「おたえ、かすみんのダイエットスケジュールを決めましょ。大体の運動量とかをざっと計算して、短期目標を達成してくって感じにしたいわね」
「了解っす! 軽めの運動メニューとか、考えてみるっす!」
いつの間にか取り出していたノートパソコンには、表作成ソフトの画面が全体表示で写っていた。黒い太線で枠取られており、"かすみんダイエット計画"と銘打たれている。
「ウチらは、ダイエットメニューでも考えておくか」
「そうだね。とりあえず高タンパク、低脂質と低糖質を意識する事と……。あ、一食あたりのカロリー計算もしなきゃね」
「運動して消費するカロリーの方をなるべく多くしたい、ということか。ならあっちのグループとも連携をして……」
どうやら、立派な計画ができあがりそうだった。