秋空の下、止まらない夢   作:冴月

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あけおめでございます。
今年度もよろしくお願いいたします。






 ふと気がつくと、足元に広がるのは落ち葉の絨毯だった。

 足で踏む度鳴る枯葉の音。駆ける度鳴る乾いた葉音。二人で走る道には、色とりどりのカーペットが広がっていた。

 

 ランニングを始めた時、果たして続けていけるのかと不安だった香澄だった。

 最初に経験したあの倦怠感と、なんとも言えない気持ち悪さ。胸がムカムカするような気分は、数週間ランニングを続けた香澄には存在しなかった。

 

 カサカサ、カサカサ。たえと二人で、アスファルト覆う紅葉を走る。多分、離れ離れになるその時まで、この日課続けられちゃうんじゃないかと、香澄は思った。

 

 早朝、明るくも、暗くもある時間に起きるのも慣れた。ちょっとだけ寝坊してしまって、電車2人遅れてしまって。たえから鬼コールを食らうこともあったが、必ず埋め合わせで運動はした。

 

 そして今日も。3人で、舗装された道を駆ける。

 軽やかな音でウサギのように走るたえと、両手両足同じ方を前に出し、ニンジャみたいに走るりみ。そして、ちょっと息が上がりながらも確かな足取りで走る香澄。

 

 始めた頃よりも長く、速く、確かな足取りで。落ち葉が増えてきた神田川沿いの木々をくぐり抜け。更に緑と池と、自然溢れる新江戸川公園(今は肥後細川庭園、というらしい。)まで走る。

 ちょっと戻って、また真っ直ぐ行くと。いつも通学で降りている早稲田停留所が右手に見える。更に荒川線沿いに進み、甘泉園公園に向かう。そこが香澄達の終点になっていた。

 

 片道だいたい1.2km程。往復する為、約2.5kmのランニングコース。毎朝たえと、時々りみも一緒に走った。

 

 

 雨や、あまりにも風が強い時は有咲の蔵で運動をした。身体を伸ばすストレッチのようなものから、ヨガ、筋トレまで。気がついたら、一緒に参加していたりみに足を抑えてもらって腹筋したり、腕立てをしたりした。

 

「スクワットってね、全身運動なのよ」

 

 という有咲の一言で、大スクワット大会になったりもした。多分、3日間くらい筋肉痛を耐えながら歩いていたと思う。偶々体育がない時なら良かったが、体育がある時は絶望だった。面白がったりみに指で突つかれた時なんかは、大音量で悲鳴を上げてしまった。尚、有咲はスクワットをやらなかった。

 

 ご飯の時間も、しっかりダイエットだった。

 沙綾とりみによる綿密なカロリー計算と栄養バランス計算によって、朝、昼、夜の三食が決定している。

 

 白米が玄米にしたり、味付けを薄くしたり。タンパク質を多めにしたり、食物繊維とビタミンも多くとったり。夜ご飯はかなり少なくして、朝、昼ごはんは活動するエネルギーを得る為にしっかり取る。

 何をどのくらい食べたのかをより明確に、より簡潔にするべく。なるべく同じものを食べるようにするのが、今回のポイントだった。

 

 そんなダイエッター香澄のとある昼食は、沙綾とりみが香澄の母親に働きかけて作られたものだった。

 鶏のささみ肉とブロッコリー、そしてゆで卵。麦ご飯がその下に敷かれていて、彩にプチトマトが数個、アルミホイルの小さいカップに入っている。

 尚、ささみとブロッコリーは塩茹でしたものである。味付けは塩コショウのみだ。

 

 最初の1日目は、いつもと違う新しさみたいなものもあって全然飽きずに楽しめた。以外と続けることができそうだと、ささみを噛み締めながら思った。

 

 3日目くらいから、味の濃いものが食べたくなった。このおかずで麦ご飯を食べるには味が薄過ぎるし、それに飽きた香澄だった。ハンバーグとか、唐揚げとか。そういったものが無性に食べたくなり、有咲ちゃんのおかずと交換してもらおうかと思ったが、りみに窘められた。

 

 4日目は、有咲達が食べてる普通のお弁当をじっと見てしまったりした。

思わず食べる手が止まってしまうほどの眼力と、涎を幻視してしまうほどの表情だったと有咲に言われた。

 

 5日目は、自宅に残っているお菓子に右手が出そうになるものの、(ライブの為、皆の為……!)と左手で押さえた。そんな自分自身と葛藤している姿を見られて、たまたま帰ってきていた2番目のお姉ちゃんに大爆笑された。「香澄、ダイエットでもしてるの?」と、ケラケラ笑われた。

 

 食べたくて、食べそうになって。食べたくて、食べたくて。でも、無の心で乗り越える。"飽き"という概念を捨てる。みんなの協力があるからこそ、頑張れる。

 

 2週間も過ぎれば、このダイエット生活にも慣れが出てきていた。

 食事に関しては素材の味を噛み締めるようになったというか。"飽きる"という概念そのものが無くなったというか。よく噛み、食材から溢れる旨みをしっかり噛み締めるようになった。

 

 運動に関しても、大分余裕が出てきたように思う。だんだん足も回るようになり、足取りが軽やかになり、ペースがかなり上がった気がする。

 ちょっと距離を伸ばしてみようか、なんて話がたえから出てくるくらいには、慣れが出てきた香澄だった。

 ちなみに夜家に帰ってからも、無理のない範囲で筋トレを始めた香澄だった。腕立てに腹筋、スクワットという、よくある三種目をとにかく毎日やるようにしている。

 

 ランニングも、食事も、筋トレも。兎に角、"毎日行う"というのがミソなんだという。それを実際こなしてきたであろう、たえちゃんとブランク上がりから無事復帰した沙綾ちゃんが言うのだ、とても説得力がある。

 

 ギターも、バンドも、音楽もそうだ。毎日練習する事で、個人個人が上手になって。各々が上手になると、Poppin’Party(ポピパ)がより高みに。ひとつ上のステージへ上がっていく。

 

 ───明日もまた、頑張ろう。

 

 最近出した羽毛布団に包まりながら、香澄は眠りにつく。

 

 

 




次回最終話予定です。
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