幼女「もらえる経験値、人>魔物では?」   作:北川ニキタ

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23話 レベルあげの秘術

 レベル上げしなきゃ……!

 じゃなくて、みんなを一刻も早く救うために、レベル上げをしなきゃ!

 心の中でぶんぶんと首を振る。

 もちろん、みんなを救いたい気持ちは本物だ。本物だけど、そのためには私が圧倒的に強くならないといけない。

 そして、そのためには……そう、効率的なレベルアップが不可欠!

 弱い魔物をチマチマ倒すより、強いのをドン!と一発……いや、さすがに数発かな?で仕留めて、経験値をガッポリ稼ぐのが一番の近道だ。

 まさに気持ちは聖女。みんなを救わなきゃ。

 聖女アリス、いっきまーす!

 

「あの、ルスカーさん! もっと……その、もっと強いモンスターが出る場所って、この森にあるんでしょうか? みんなを守る力を、一刻も早く手に入れたいんです!」

 

 私は両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、潤んだ瞳で彼に訴えかけた。

 どうよ! この完璧な聖女ムーブ! こんな純粋な想い無視できないよね!

 ルスカーさんは、私の真剣な迫力に少し驚いたように目を丸くしてから、ふむ、とどこか醒めた視線をしてから口を開いた。

 

「そうですね……アリス様の意気込みは分かりました。ですが、モンスターというのは、そう単純ではありません」

 

「と、いいますと?」

 

「まず、モンスターには種類ごとにおおよその強さ……レベルが決まっています。もちろん、個体差や稀に成長してレベルが上がることもありますが」

 

 あ、それ知ってる!

 レオル先生の授業でやったところだ!

 私の知識が炸裂する。確か、魔物が一定レベルを超えると、より強力な上位種に「進化」するんだっけ。

 

「例えば、この森にもいるゴブリン。彼らはレベル5と決まっています」

 

 ルスカーさんが、周囲に危険がないか観察しながら説明を続けてくれる。

 私はここで、優秀な生徒のフリをしつつ、鋭い質問を差し込む。レベル上げの情報収集は徹底的に、だ。

 

「あのっ! それじゃあ、レベル6とか、7になったゴブリンはいないんですか?」

 

 私の食い気味な質問に、ルスカーさんは一瞬、おや、と目を見開いた。

 ふふん、聖女はただ守られるだけじゃないんです! こういう知的なところもアピールしないとね!

 内心でドヤ顔をキメる私に、彼は納得したように頷いた。

 

「……良い着眼点です。レベル5が、ゴブリンという種族の一般的なレベルです。ですが、稀にその殻を破る個体が出現します。それが『進化』の兆候です」

 

「進化の、兆候……」

 

「ええ。レベル6、7と成長した個体は、いわば『進化待機状態』。そして、レベル15まで成長するとホブゴブリンへと進化します」

 

「なるほど……!」

 

「ですが、稀に長く生き延び、戦闘経験を積んだ個体は、ホブゴブリン……レベル15のそれ、ですね……を超える進化を遂げることもあります。例えば、強力な個体変異であるゴブリンロードや、魔力を高めてゴブリンシャーマンになる個体もいるとか」

 

 ルスカーさんはそこで言葉を切り、やれやれと首を振った。

 

「まぁ、この森ではまず見ませんが。……つまり、強い魔物を探すというのは、高レベルの魔物が生息する区域を探す、というのと同義なんです」

 

 なるほどなるほど。

 私はこくこくと、物分かりの良い生徒のように頷いてみせる。

 ふっふっふ……つまり、高レベルモンスターの狩場を聞き出せば、一気にレベルアップするチャンスってことね!

 

 私の期待に満ちた視線を受けて、ルスカーさんは少し困ったように眉を下げた。

 

「それで、本題ですが……」

 

「はい!」

 

 ゴクリ、と喉が鳴る。

 

「この『嘆きの森』に生息する魔物と、そのレベルは……大体このようになっています」

 

 ルスカーさんは、近くの地面に小枝でスラスラとリストを書き出してくれた。

 

・ゴブリン(Lv5)

 

・グレートウルフ(Lv10)

 

・ホブゴブリン(Lv15)

 

・トレント(Lv18)

 

・オーク(Lv25)

 

 ずらりと並んだ魔物の名前。

 オークがレベル25……ふむふむ。今の私なら、ギリギリ倒せるか、ちょっと危ないか、くらい?

 

「……ご覧の通りです」

 

 ルスカーさんが、肩をすくめてみせた。

 

「つまり、この森で最も強力な個体……オークの群れの長や、稀に見つかるホブゴブリンのリーダー格を含めても、レベル30を超えるような魔物は、ここには存在しない、というのが我々の結論です」

 

「…………え?」

 

 私の口から、素っ頓狂な声が漏れた。

 う、うそ……? レベル30はいない? それじゃあ……それじゃあ!

 

 経験値、まっずぅぅぅぅううう!!

 

 ルスカーさんの非情な宣告により、私の「高レベルモンスター狩りまくり☆ウハウハレベルアップ計画」は、開始5分で頓挫した。

 ……ひどい。こんなのひどすぎるよ。

 こんな序盤の森という名のチュートリアルみたいな場所で、どうやってレベルを上げろっていうのよ!

 

「アリス様……? 大丈夫ですか? やはり、ご無理を……」

 

 セーラが心配そうに私の顔を覗き込む。

 その純粋な瞳に、私は思わず泣き出しそうになってしまう。

 

「だってぇ……どんなモンスターでも倒せば、がっぽがっぽ経験値が入って、超絶気持ちよくなれると思ったのに……こんな雑魚しかいない森につれてかれるなんてぇ……」

 

「え……? けいけんち……がっぽ、がっぽ……?」

 

 セーラがついうっかりでたわたしの本音にぽかん、と困惑した表情を浮かべる。

 

 あ。

 しまったぁぁぁあああ!!

 だめだめだめ! 今の私は可憐な聖女アリス! 経験値稼いで気持ちよくなりたいとか、そんなはしたない俗っぽいこと言うわけない!

 

「ううん……大丈夫です。ただ、わたしの力が足りないせいで、みんなを危険な目に遭わせ続けるのが……悔しくて……」

 

 わたしはギュッとローブの裾を握りしめる。

 どう? この健気な聖女ムーブ! 仲間を想うあまり、自分の非力さを嘆く姿!  アリスちゃん優しすぎるよ。こんなのみんな、わたしの虜になるしかないじゃん。

 あーあ……まじでどうしよう。オークでさえレベル25って。倒しても経験値なんて雀の涙じゃないか……。

 ルスカーさんは、そんな私の葛藤を見て、少しだけ表情を和らげた。……相変わらず、どこか醒めた視線は変わらないけど。

 

「……お嬢様のお気持ちは分かります。ですが、焦りは禁物です。まずは、この森の現状を正確に把握しましょう。それが、全員を救う一番の近道です」

 

「……はい」

 

 私はしょんぼりと頷き、ルスカーさんとセーラの後ろをトボトボとついて歩き始めた。

 偵察の再開だ。

 さっきまでのやる気はどこへやら。私のテンションは、森の奥の湿度くらいジメジメと低下していた。

 

「――グルルァ!」

 

「!」

 

 茂みから、リストにあったグレートウルフが3匹、涎を垂らしながら飛び出してきた。

 

「アリス様、セーラさん、下がって!」

 

 ルスカーさんが剣を抜くより早く、私はやけくそ気味に腰の短剣を抜き放っていた。

 あーはいはい、ウルフウルフ。

 どうせレベル10とかでしょ、はいはい。

 

 ザシュッ!

 一瞬。ただの一閃。

 私が駆け抜けると同時、3匹の狼は正確に喉笛を切り裂かれ、声もなく崩れ落ちた。

 その鮮やかな剣技に、セーラが「ひっ」と息を呑むのが聞こえた。

 

「……お見事です、アリス様。その剣技、お嬢様がまだ子供なのが信じられないですね」

 

 ルスカーさんは感嘆の声を漏らす。

 わたしは、ニコリと完璧な聖女スマイルを返した。もちろん、剣についた血を優雅に振り払いながら。

 

「みんなを守るためですから。剣くらい振るいます」

 

 やっぱりレベル上がんないよー。グレートウルフしょっぱすぎ……。

 

 その後も、わたしたちはゴブリン(Lv5)の群れや、トレント(Lv18)に遭遇したが、そのすべてをわたしは剣技で塵芥に変えていった。

 テンポよく魔物を切り伏せていく私を見て、セーラは「お嬢様、流石です……!」と瞳を輝かせているけど、わたしの心は晴れない。

 チリも積もればって言うけど、チリがチリすぎて山になる気がしないんですけど!

 

 わたしが内心で毒づいていると、不意にルスカーさんが立ち止まり、険しい顔で周囲を見渡した。

 

「……おかしい」

 

「どうかしたの?」

 

「この森のモンスターは、本来もっとおとなしいはずでした。彼らがこれほど凶暴化し、積極的に人を襲うなんて、少し違和感がありますね……」

 

 彼は地面に膝をつき、土を指でなぞった。

 そこには、微かに紫色の瘴気のようなものが漂っている。

 

「もしかすると、この森の瘴気がいつもより濃いかもしれません。そのせいでモンスターが凶暴化し、生態系そのものが乱れ始めているのかもしれません」

 

「瘴気……?」

 

「ええ。この奥には行かないで、早めに撤退するほうが良さそうです」

 

 ルスカーさんが指差す先は、森のさらに深部。

 木々が鬱鷺と茂り、昼間だというのに薄暗く、不気味な空気が漂っている。

 

 ……ゴクリ。

 なんだか、急に空気が重くなった気がする。

 

 その時だった。

 

 ズウゥゥン……!

 

 地響きと共に、私たちの目の前の木々が、薙ぎ倒されるようにして吹き飛んだ。

 

「――グォォォオオオオ!!」

 

 現れたのは、さっきまで私たちが「この森の最大戦力」と認識していた、オーク。

 だが、その姿はルスカーさんのリストにあったものとは、明らかに異なっていた。

 

 通常のオークの倍はあろうかという巨体。

 その全身は、先ほどルスカーさんが語っていたのと同じ、不吉な紫色の瘴気に包まれていた。

 目は赤黒く濁り、口からは絶えず毒々しい色の涎をまき散らしている。

 

「なっ……!?」

 

 ルスカーさんが絶句した。

 

「オークの……上位変異種、豚鬼将軍(オーク・ジェネラル)だと!? 馬鹿な、この森にこんな高レベルの魔物が……! レベル39は超えるモンスターだったはず! アリス様! セーラさん! お下がりください! こいつは危険すぎます!」

 

 セーラが私を庇うように前に出る。

 絶望的な緊張感が、場を支配した。

 

 さっきまで「経験値がまずい」と、この世の終わりのようにしょげ返っていたわたし。

 だが、そのわたしの耳には、ルスカーさんの叫びが、まるで天啓のように響いていた。

 

 ……レベル? レベル、39……?

 

 ゴクリ、と喉が鳴る。

 

 経験値、まっずぅぅぅ! って思っていたけど――

 

 わたしは、さっきまでのしょんぼり顔をかなぐり捨てていた。

 

 超うま展開キターーーーーッッ!!

 

 そこにいたのは、想定外の獲物(ボーナスタイム)を前に、不敵な笑みを浮かべる一人の狩人 。

 わたしは短剣を握りしめ、瘴気をまとう巨獣を睨み据えた。

 アリスちゃん、実はめちゃくちゃラッキーガールなのかも! ドヤァ!

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