幼女「もらえる経験値、人>魔物では?」   作:北川ニキタ

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25話 壊れる音がする

 あまりのリアルに光景に忘れてしまいそうになるが、ここはあくまでもゲームだ。

 この世界で死んだら、ログアウトして、元の退屈な世界に帰るだけ。

 むしろ、あの「悪いAI」の狂ったデスゲームから解放されるんだ。このままこの世界に囚われ続けて、人格破壊プログラムを実行される危機に怯えるぐらいなら、このまま死んだほうが、彼にとっては、良いことなんじゃないの?

 

 一か八か、ルスカーさんが助かることに賭けて、屋敷に持って帰って、それでどうする?

 お父様やお母様に説明して、教会から神官を呼んでもらう?  また、あのクソデブみたいなのが、また法外な金を要求してくるかもしれない。

 そもそもそんな悠長なことしていて間に合うの?

 

 わたしは、背中で苦しそうに息をするルスカーさんの重みを感じながら、立ち止まった。

 

 むしろ。

 確実に、彼を「解放」してあげたほうが……。

 

 わたしが、この手で、ルスカーさんを殺すべきでは?

 

 ……だって。

 そうすれば、ルスカーさんの分の経験値も、わたしがもらえる。

 レベル35。

 さっきの豚鬼将軍(オーク・ジェネラル)(レベル39)よりは少し低いけど、それでもこんな高レベルにはそうお目にかかることができない。貴重な経験値には違いない。

 

 じゅるり。

 やばっ、よだれが!

 わたしは慌てて、血まみれの手で口元を拭う。

 

 いけない。

 だって、あくまでもこれは、自分勝手なエゴでそうしたいわけじゃないんだから。

 まさか、あのレベルアップの快感をもう一度味わいたいとか、そんな個人的な欲望を満たすためなんかじゃ、断じてない。

 

 そう。

 わたしは、【救世主】なんだから 。

 この狂ったデスゲームを終わらせるべく、ラスボスを倒して、捕らわれた一億二千万人のプレイヤーを救うっていう、崇高な使命があるんだ 。

 そのためには、わたしが、誰よりも早く、誰よりも効率的に、強くならなきゃいけない。

 ルスカーさん一人の命で、わたしが強くなって、それが巡り巡って結果的に一億二千万人が救われるなら……。

 

 このまま放置してルスカーさんが死ぬぐらいなら、わたしがこの手で殺してあげたほうが――。

 そのほうが、よっぽど「世界のため」なんじゃないの?

 

 うん。

 そうだ。これは、けっしてわたしのわがままじゃない。

 これは、未来のための、必要な「犠牲」。

 わたしは、救世主として、この辛い決断をしなきゃいけないんだ。すべては、みんなを救うためなんだから。

 

 わたしは、完璧な理屈に、こくりと頷いた 。

 

「……ぐ、ぅ……お、じょう……さま……?」

 

 背中から、か細い声がした。

 ルスカーさんが、血の泡を吹きながら、苦しそうにわたしを見上げている。

 その瞳には、痛みと、そして、わたしがなぜ立ち止まったのかわからない、純粋な困惑が浮かんでいた。

 

 わたしは、そんな彼に、できるだけ優しく、天使のように微笑んでみせた。

 そして、そっと、彼を地面に横たえる。

 

「ありがとう、ルスカーさん」

 

 あなたの経験値(いのち)は、わたしが、世界を救うために、無駄なく使ってあげるからね。

 

 わたしは、血に濡れた短剣を、逆手に握り直した。

 そして、もう何の躊躇もなく、彼の心臓めがけて、振り下ろした。

 

 ――ザクッ!!

 

 生々しい、肉を断ち切る音。

 ルスカーさんの身体が、びくん、と一度だけ大きく痙攣する。

 わたしの顔に、彼の温かい血しぶきが、雨のように降り注いだ。

 

 シン、と静まり返った森。

 わたしは、返り血を浴びたまま、目を閉じて、その瞬間を待った。

 そして――

 

『レベルがアップしました』

『レベルがアップしました』

『レベルがアップしました』

『レベルがアップしました』

『レベルがアップしました』

『レベルがアップしました』

『レベルがアップしました』

『レベルがアップしました』

 

 キターーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 脳髄が、とろける。

 あのクソデブの時のような、強烈な、暴力的なまでの多幸感。

 レベル34から、一気に8つも上がっていく、数字の奔流。

 全身の細胞が、歓喜に打ち震える。

 ダメ。

 これ、ダメなやつ。

 気持ちよすぎて、おかしくなっちゃう……ッッ!!

 

「ははっ……♡ あ、あは……あはははははっ♡」

 

 笑いが、止まらないよ。

 わたしは、ルスカーさんの血で真っ赤に染まったまま、その場にぺたんと座り込んだ。血まみれの短剣を、自分の頬にすり寄せる。

 ああ、まだ、あの感触が残ってるよ。

 

「最高……っ♡ なにこれ、最高すぎ……っ♡ わたし、レベル42……! あはっ♡ アリスちゃん、マジ最強すぎぃー! ドヤァ! んふふふふふふふふふっ♡」

 

 わたしは、もはや人目もはばからず、快感に身をよじった。

 もっと欲しい。

 もっと、もっと、この快感を味わいたい!

 このために、わたしは生まれてきたんだ!

 

 ん?

 というか……これ、なにかがおかしいような……?

 そんな疑問が浮かんだ瞬間だった。

 

「あ……」

 

 その時。

 快感の余韻に浸っていたわたしの視界の端に、人影が映った。

 木陰で、立ち尽くす、セーラの姿が。

 

 彼女は、わたしの「下がってて」という命令を忠実に守り、ずっと遠くで待機していたはずだった。

 でも、わたしがルスカーさんを心配する声を聞いて、駆けつけてくれたのだろう。

 うん、全部、見られてしまったみたい。

 

 きっと、わたしが、瀕死のルスカーさんに、何の躊躇もなく、とどめを刺すところも。

 そして、その亡骸の上で、恍惚の表情を浮かべて、笑い転げている、わたしの姿を。

 

 セーラは、何も言わなかった。

 ただ、その翠色の瞳を、信じられないものを見るかのように大きく見開き、顔を真っ青にして、小刻みに震えていた。

 その表情は、恐怖でも、怒りでもない。

 ただ、ひたすらに、困惑している。

 自分が信じていた、あの天使のように優しかったアリスお嬢様が、今、目の前で起きている惨劇と、まったく結びつかない、という顔をしている。

 

 ……あ。

 やば。

 

 見られちゃった。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

【天使】セーラ様の視点でアリスお嬢様を見守るスレ【かわいい】

 

851 名無しのダイバー

ふぅ……。今日もアリス様とセーラさんのやり取りに癒された

レベル上げをピクニックと言うなんて、アリス様の健気さが限界突破してるだろ……

 

852 名無しのダイバー

>>851

わかる

魔王に命を狙われているのに、みんなを救うためにがんばるアリス様、ホント健気すぎて全力で応援してる

 

853 名無しのダイバー

ルスカーさん、完全にアリス様の保護者の目をしているw

アリス様、前のめりに頑張りすぎるところがあるから、それを抑えるルスカーさんとでいいコンビになりそう

 

854 名無しのダイバー

アリス様、ゴブリン瞬殺してて草

すげぇえええええええ! ルスカーさんも困っていて草

 

855 名無しのダイバー

レベル上がらなくてテンションだだ下がりのアリス様、かわいすぎか?

「一年にレベル1」って聞いて絶望してるw

きっと、みんなを守るために、すぐにも強くなりたいんだろうなあ……健気すぎ

 

856 名無しのダイバー

「格上狩り」ってワード聞いた瞬間に目が爛々と輝くの、マジで健気w

「これでみんなを守れる!」って思ったんだろうな

ルスカーさん「死にますよ、普通!!」

アリス様「(キラキラした目で)強いモンスターどこー?」

このコントすき

 

857 名無しのダイバー

ルスカーさん「この森にLv30超えはいません(キリッ)」

オーク・ジェネラル(Lv.39)「グォォォオオオ!!」

 

ルスカーさんwwwwwww

 

858 名無しのダイバー

いや、笑い事じゃねえぞ!

レベル39!? アリス様とルスカーさんでも勝てねえだろ!

やべえよ、これ!

 

859 名無しのダイバー

アリス様が「わたしが前に出る」って! かっこいい!

でも無茶だ! 天使が死んじゃう!

 

860 名無しのダイバー

セーラさんが下がった!

そうすべきなのはわかっているけど、おかげで戦いがどうなっているのかわかんねぇ!

 

861 名無しのダイバー

ダメだ! セーラ視点、木々が邪魔で戦闘がまったく見えん!

音と地響きだけ!

どうなってんだ!

 

862 名無しのダイバー

アリス様もルスカーさんも無事でいてくれ!

 

863 名無しのダイバー

緊張して、こっちまで手が震えてきた

 

864 名無しのダイバー

「ルスカーさん、そっち行った! 避けて!」ってアリス様の声が聞こえた!

まだ戦ってる!

 

865 名無しのダイバー

今、ものすごい衝撃音しなかったか!?

 

866 名無しのダイバー

なんとか……なんとかなってくれ……!!

 

867 名無しのダイバー

うわあああああ! アリス様の「ルスカーさんっ!」って悲鳴!

だめだ、もう……

 

868 名無しのダイバー

……静かになった……。

 

869 名無しのダイバー

終わった……のか?

 

870 名無しのダイバー

セーラさんが動いた! 駆けつけるぞ!

頼む、二人とも無事でいてくれ……!

 

871 名無しのダイバー

うわ……血の海じゃねえか……

オーク・ジェネラルは倒れてるな……

ルスカーさんも……倒れてる……

 

872 名無しのダイバー

アリス様は!?

 

873 名無しのダイバー

いた! 血まみれ……!

アリス様がルスカーさんを運ぼうとしてる!

健気……(涙)

ルスカーさん、これ助かるのか……

 

874 名無しのダイバー

アリス様が立ち止まった……

ルスカーさんを地面に下ろしたぞ……

 

875 名無しのダイバー

は?

 

876 名無しのダイバー

は?

 

877 名無しのダイバー

は?

 

878 名無しのダイバー

は?

 

879 名無しのダイバー

今、何した?

アリス様、ルスカーさんに短剣……  え?

 

880 名無しのダイバー

なんで?

なんで、とどめを……?

介錯……か? 苦しませないために……?

6歳児が……?

 

881 名無しのダイバー

アリス様、いったいどんな思いで……

……え?

笑って……ないか?

 

882 名無しのダイバー

笑っているな……

なんで……?

 

883 名無しのダイバー

俺たちの天使が、そんな……

 

884 名無しのダイバー

アリス様がセーラに気づいたぞ……

どうなるんだ、これ……

 

まとめサイト【グノーシス速報】より引用

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