真灯真美は魔王である   作:灯乃葵

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まず最初に、更新が大幅に遅れて申し訳ありませんでした。大学の準備が忙しくて、こっちに手が回せなかったのです。これからはこんなことがないようにしますので、何卒ご容赦ください。


10 至上の愛らしさ

季節は秋。あの夜から数ヶ月が経っていた。その間、バーテックスの襲撃は一度も無く、おかげで真美と社は夏休みを存分に楽しむことができ、とても穏やかな日々が続いていた。

そんなある日の昼下がり。授業中、真美は隣の社からこっそり一枚の手紙を渡された。手紙には社の丸っこい文字で『この後屋上集合!』と書いてある。すぐに目線で聞いてみると、社も微妙な顔で頭を傾げるだけだった。

というわけで、授業終了の鐘が鳴ると同時に真美は社の襟首を掴んで教室から出た。今のが今日の最後の授業だったのですぐにホームルームのはずだが、そんなのは知ったこっちゃないのである。

 

「ま、真美ー、首が苦しいのですよー!」

「語尾変わってるわよ。それで?どうして屋上に行かなきゃならないの?」

「えっへへー、教えてほしい?ね、教えてほしい?」

「別に興味があるわけじゃないけど。今から帰ってもいいのよ?」

「それは困るからだめ!」

「じゃあ早く教えなさい」

「もう、わかったよぉ。あのね、さっき『至急連絡があるので~』って大赦からメールがきたの」

「そういえば、社って大赦と繋がりがあったわね。忘れてた」

 

そんな風に言い合っている内に屋上に辿り着いた。真美はようやく握ってた襟首を離して屋上を見回す。しかし、真美と社以外誰もいない。社もそれに気付いたらしく、真美からできるだけ距離を取りながら言う。

 

「あ、あれー、おかしーなー(棒読み)」

「.......はぁ」

「待って真美なんで私の頭を掴むのいたああああああい!ちょ、やめ、にぎゃあ!」

「どーうーしーてー人を呼び出しておいて来てないのかしらー?」

「わ、わかんない!」

「ったく、連絡役が使えないなんて。大赦もバカなんじゃないの?」

「否定。大赦、有能、感謝」

「そうだよー、大赦のおかげで私たちの生活は成り立ってるんだよ?ね!」

「肯定」

「......ちょっと待って」

「疑問」

「そうだよね、どうしたの真美って.......え?」

 

二人揃って自分達の間の少し下に視線を向ける。そこには小学生ぐらいの年であろう女の子が立っていた。肩で切り揃えられた金髪に深い碧眼。まるで西洋人形のように整った顔立ちをしていてとても愛くるしい。

真美と社は顔を見合わせる。今の二人にとって視線での会話など楽勝なのだ。話し合いの結果、社は近付くとしゃがんで視線を合わせてできるだけ優しく声をかける。

 

「あなた、お名前はなんていうの?どうしてここにいるの?」

 

すると少女は頭を可愛らしく傾げて、少し考える素振りを見せた。そして言いたい事がまとまったらしく口を開いた。

 

「私、守木熾純。会話、所望」

「私たちと?初めましてだよね?真美の妹?」

「この長い黒髪に黒い目とこんな見目麗しい洋風美少女に繋がりがあるとでも?」

「だよねー......じゃあ、もしかして?」

「大赦の?」

「肯定。私、新規」

「新規?うーん、その話し方ちょっと分かりにくいなぁ。もっと可愛く「あたしは守木熾純です」って言ってみて。はい、りぴーとあふたみー」

「了承。あたしはかみゅっ!」

 

沈黙。開始五秒で噛んだ。今まで感情を見せなかった幼い少女が顔を真っ赤にして俯く姿は中々に保護欲をそそられる光景だった。そんな光景に社が「きゅーん」となった顔をして熾純を抱き締めた。熾純の小さな身体がその大きな胸に挟まってるのも気にしない。真美も頬を染めて視線を逸らした。

 

「.......私、会話、所望。包容、解除、要求」

「ねぇねぇ熾純ちゃんって何歳なの?あ、私のことはお姉ちゃんって呼んでね?アメちゃん食べる?イチゴ味だよ!」

「拒否、空ふあむっ!?」

「話聞かないで無理矢理押し込むとかあんた鬼ね」

 

むぐむぐと口元を押さえながらアメを舐める熾純。そんな姿も小動物みたいでとても愛らしいと真美は思った。どうやらアメに満足したようで、期待に満ちた目で小さく口を開けた。

 

「甘味、美味。再度、所望」

「うんいいよー。今度はメロンだよー」

「歓喜」

 

社があーんと開けられた熾純の口の中にアメを放り込む。今度は時間をかけてむぐむぐとアメを頬張る。それを愛らしそうに眺めながら社が言う。

 

「ね、熾純ちゃん。そういえば私の名前教えてなかったよね。私は星城社。よろしくね!こっちの無愛想なお姉ちゃんは、」

「殺すわよ?真灯真美。よろしくね、熾純」

「伝聞、話題、魔王?」

「そうよ。私は最強の魔王なんだから」

「同類、私、最強、勇者」

「へー、熾純ちゃんって勇者なんだぁ.......って、勇者?」

「肯定。適正、歴代、最高、最強、勇者」

「ふーん。社、それってすごいの?」

「すごいよー!適正が高ければ高いほど、勇者としての地力が高いってことだからね。精霊も高性能なのが渡されてるんでしょ?」

「否定。私、精霊、取得、無し」

「ふえ?じゃあ武器とか結界とかどうするの?」

「実演」

 

熾純が指を振る。すると今まで熾純を抱き締めていた社が突然弾かれたように後ろに吹き飛んだ。そのまま飛んでいき、柵にぶつかって動きが止まった。少し自慢気に熾純が言う。

 

「私、専用、結界、『神域』」

「おお、攻撃としても使えるってわけね。わりと便利じゃない」

「期待、所望」

「そうね、期待してるわよ。最強の勇者さん」

 

真美は熾純の金髪を優しく撫でる。気持ち良さそうに目を細める熾純を見ながら真美は考える。

 

「(こんな小さな子まで戦いに巻き込んで、しかも実験台にするなんて。大赦は本当におかしいんじゃないの?)」

 

社から聞いたこの戦いの真実。それは真美の予想と方向性は合っていて、規模がまるで違った。

曰く、今の四国がこんな状況に陥ったのはバーテックスが原因であるということ。バーテックスには通常の兵器群の力は通用せず、唯一対抗できるのが神である『シンジュ』様から力を授かった勇者だけだということ。

そしてーーーーーーバーテックスが『シンジュ』様の元に辿り着いたその時、世界が終わるということ。

 

「(大赦、か。ちょっと会う必要があるかもね)」

「魔王?」

「なんでもない。後魔王じゃなくて真美って呼んで」

「了承」

「そうだ、これから歓迎会しましょ!社もいいわよねー?」

「お、おっけーい」

「疑問。場所」

「そんなの決まってるじゃない」

 

真美はウインクして朗らかに続ける。

 

「ウチでやるのよ」

 

 

「真美、居住?」

「そうよ。私の家。あ、熾純は主役だからそこら辺に座っててね。社ー、準備するわよー」

「はーい。何作るの?」

「とりあえず材料は買い込だから、作れるだけ作りましょ。熾純はこれでも食べててね」

 

レジ袋の中からチョコのお菓子を取って熾純に渡す。しかし熾純は頭を傾げて不思議そうにお菓子の箱をペタペタ触っている。まさか、と思いながら真美は聞く。

 

「熾純、まさか食べたことないの?」

「肯定。所見、食物?」

「えーと、ちょっと貸してね」

 

お菓子を受け取ると、真美は熾純の目の前でお菓子の切り取り線を破って中の袋を取り出して見せた。それを見た熾純が「驚愕!」と碧の瞳をまん丸にして声を上げた。真美は袋からチョコを取って熾純の口に放り込むと、屋上の時のように口元を押さえながらむぐむぐと食べ始めた。

 

「おいしい?」

 

真美が聞くと、熾純は嬉しそうに頷いた。

 

「肯定!所望!多数、所望!」

「はいはい。あーんして」

「了承!」

 

パクッ、とチョコに食い付く熾純。まるで雛が餌をせがんでいるようで可愛らしい。思わず頭を撫でる真美。端から見ると黒髪美少女と金髪美幼女が戯れていて、かなり魅力的だった。

だが、忘れてはいけない。この場には後一人面倒なのがいることを。

 

「ぐすっ.....いいもんいいもん。私にはくりゅーがいるもん。ねー、くりゅー」

 

これ見よがしに床にしゃがんで指で地面を弄る社。少し可哀想だったので、真美は笑いながら手招きした。

 

「ほらこっちおいで社。撫でてあげるから」

「まーみー!!」

「感触、最高、継続、希望」

 

そのまま真美は社と熾純を撫で回し、陽が沈むまで続けられた。結局、熾純の歓迎内は次の日に持ち越され、二人は真美の家に泊まることになった。

というわけで、真美と社が買い込んだ材料を少しだけ使い、きつねうどんを作って食べた。食べ終わったお椀を洗いながら真美は後ろでテレビを見て騒いでいる社と熾純に言う。

 

「あんたたちー、風呂入ってきなさーい」

「はーい、おかあさーん」

「母親、了承」

「誰が母さんか。後で私も入るから、先入っといて」

 

真美の家の浴室はかなり広い。これは観月が幼い真美と一緒に入浴できて、なおかつ充分に遊ぶことができるように広くしたのだ。だがよくよく考えてみればマンションの入浴を改造する為にはどれだけ金を費やしているのだろう、と思わなくもない。

 

「よーし、洗い物終わり」

 

風呂場から社と熾純の楽しそうな声が聞こえてくる。タンスから自分と社、熾純の寝巻きを取って風呂場に向かう。洗濯機の上に寝巻きを置いてから服を脱いで篭に入れた。と、篭の中に見慣れない白い布があったので引っ張り出してみる。そして真美は納得した。確かにこれは見慣れない。何故ならこんな大きさは手に取ったことすらないからだ。それはーーーーー社のブラだった。サイズを見ると真美より3つも上。途端に世界に憎悪を感じた真美は力の限りの振りかぶって白色の布を篭の中に叩き込んだ。

だが、まだ悪夢は終わらなかった。

 

「.......」

「お、真美ちゃんやっときたー!」

「きゅ、救助、要請」

「きゃん!もう、くすぐったいよしーちゃん!」

「.............」

 

浴場で熾純が社の大きな胸に埋もれていた。その光景を見てさらに殺意が沸く真美。濡れたタイルを滑りながら桶を手に取って、フルスイングで社の頭をどついた。「にぎゃっ!」と猫みたいな声を上げて社が吹っ飛ぶ。

 

「ま、真美ぃ!?なんでどつくの!?危ないよ、痛いよ!!」

「黙りなさい。その肉塊抉るわよ」

「......真美ってば。もっと牛乳飲まないと」

「殺すわよ」

「真美、真美、発育、不良?」

「そんなことを言うのはこの口?ねぇ、この口?」

「みゅうし、みゃみ、にゅうきゃく」

「いきなり入ってきて傍若無人に振る舞うとは!この魔王め!」

「じょうい!にょうい!」

「本当に魔王なんだけど、悪い?」

 

適当に吐き捨てると、真美は社と熾純と入れ替わりに座ると、手にシャンプーを出して髪の先までさっさと洗う。真美の長い黒髪はリンスまで使おうとするとかなり時間がかかるので、ちゃんと洗うのは週に一度ぐらいだった。しかし女子力が高いことで有名な星城社からしてみれば信じられないらしく、湯船から驚きの声を出した。

 

「なんで真美の髪ってすごく雑な洗い方なのにそんなに綺麗なの!?」

「体質よ体質。あ、そういえば熾純、お家の人にちゃんと連絡した?」

「連絡、不要」

「もう、いいわけないでしょ。後でちゃんと電話するのよ。わかった?」

「.......了承」

「て 真美も早くこっちきてよー!」

「はいはーい」

 

タオルを手にかけて白い煙を出すお湯に片足を入れる。途端に心地良い温かさがじんわりとやってくる。あまりの気持ちよさに思わずため息が出たくらいだ。肩までつかりながら真美は半分夢見心地で呟いた。

 

「どうして今日はこんなに気持ちいいんだろ.......」

「そーれーはー!」

 

ギュッと左右から柔らかい感触に挟まれる。その正体は言わずもがな社と熾純である。二人が隙間なく引っ付いてるのとは別の理由で、真美は温かくなるのを感じた。

 

「私たちがいるからだよぉ!」

「社、私、真美、両隣、温暖」

「そうねー、そうかもね。ありがと」

「きゃっはー!真美ってば時々デレちゃうんだからーもうかわいいーなー!」

「可憐、可にぇん!」

「.......熾純顔真っ赤だけど大丈夫?」

「問題、皆無!私、依然、入浴、かにょぶくぶくぶくぶく」

「きゃああああああ!熾純が沈んだ!社、冷水持ってきて!!」

「熾純ちゃんが死んだ!この人でなし!」

「死んでないわよ!てかそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」

 

 

『最終問題です!次の三つのうち、日本神話に登場する神様はどれでしょう!』

「あ、ねぇねぇこのクイズでみんなで勝負しようよ!」

 

椅子に座りテレビを見ながら、少し季節外れのスティックアイスを食べていた社が名案!というふうに言った。その後ろで将棋を差していた真美と熾純は手を止めると、ほとんど同時に自らが勝利した時に要求するものを口にした。

 

「いいわよ。じゃあ私が勝ったら社、あんた罰ゲームだからね」

「同意、私、勝者、社、命令、受理」

「あれ?なんだか私vs真美&熾純ちゃんになってる?」

「それが世界の選択なのよ。諦めなさい」

 

そんなこんなでクイズスタートである。テレビの画面には三つの選択肢が出ているが、真美には全く見覚えのない言葉だった。自分から勝負を仕掛けてきたくせに、社も不思議そうな顔で首を傾げている。だが金髪碧眼の美幼女は何気ない顔でテレビの前に立つと真ん中の名前を指差した。

 

「正答、指定」

「へあー、熾純ちゃん自信あるね!」

「なにこれ、なんて読むの?てんてら?」

「否定、正答、『天照』」

 

結局悩んでも悩んでもわからなかったので、真美は一番上、社は一番下を選んだ。そして正解が発表されたが、案の定熾純が選んだ『天照』だった。真美と社は思わず拍手するが、正解した熾純は喜んだりはしゃぐのではなく、何故か頬を膨らせてむくれていた。その様子に二人で顔を見合わせて、恐る恐る社が聞く。

 

「し、熾純ちゃん?どうして怒ってるの?」

「否定」

「いや、絶対怒ってるじゃん。顔怖いわよ熾純」

「否定」

「(ちょっと社!あんた熾純に何したのよ!ものすごい不機嫌じゃない!)」

「(わ、私知らないよ!真美こそ勝手にお菓子でも食べたんじゃないの!?)」

「(そんな社みたいなことするか!と、とりあえず機嫌を直さないと!)」

「(おー!)」

「真美」

 

ヒソヒソ小声で話し合っていた真美の袖を熾純が引っぱる。そのお人形さんのように整った顔には、今度は怒りではなく不安のような色があった。

 

「真美、『シンジュ』、信頼、信用?」

「『シンジュ』様のことを好きかってこと?それなら、まぁ感謝はしてるわよ。私たちの世界を守ってくれたんだからね」

「真美、再度、質問」

「なに?」

「真美、魔王、不満?」

「.......えーと。そうね」

 

真美は今までのことを思い出してみた。

確かにいろいろと辛かったが、それ以上に楽しい思い出ができたことは確かだ。何より、自らに定めた『誓い』に圧迫感を感じなくなった。それは真灯真美が過去に対してしっかりとけじめを付けたという証明なのだろう。

だから、真美は熾純の質問にこう返答することにした。

 

「後悔もあるけど、それ以上に感謝もある。だから私は『魔王』になれたことに後悔はしてない、かな」

「.......返答、感謝」

「ところで社。また空気にしたのは悪かったからあんたまでむくれないでよ」

「どーせ私は真美にも熾純ちゃんにも大事にされてませんよーだ」

「私、勝利、商品、命令、受理!」

「あ、そういえばそうだったわね。なにさせようかしら」

「慰めたりしてくれないの!?鬼畜過ぎるよ!」

 

 

深夜。守木熾純はどうにか布団から抜け出すことに成功していた。理由は両隣からガッチリと魔王と勇者に挟まれていたからだ。

熾純はベランダに出ると、手に握っているスマホを掲げて画面に花開く蓮の花に触れた。舞い散る花弁が少女を包み、一人の勇者を降臨させる。

 

柵に飛び乗り、空中に向けて飛び下りた。すると今まで夜空だったはずの空間が歪み、形を変えていき、色鮮やかな木々が乱立する樹海と化した。

そしてーーーーーー樹海の向こう側から巨大な白の体躯が進軍してきた。今回の敵は【蟹座】。下半身は夥しい突起が生えた三角垂になっているが、上半身は一般的な蟹だった。といっても数倍醜悪なのだが。

熾純は一度瞳を閉じて、大きく息を吸って、開けると同時に息を吐いた。熾純の周囲に現れた九本の剣を【蟹座】に向ける。

 

「神罰、開始」

 

そして、激突が始まった。




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