真灯真美は魔王である   作:灯乃葵

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今回はほんわか回です!初彼女たちとの絡み回です!


05 少女の愛情

「ん、うう.....ふあぁ、ねむねむだよぉ」

 

朝。星城社は大赦から与えられたアパートの自室で目を覚ました。社は冷蔵庫から牛乳瓶を取り出すと、ベランダに出て牛乳を一気に飲み干した。

 

「ぷはっ!やっぱり朝はこれだよね!」

 

今日は土曜日で、当然ながら学校は休みだった。補習のために休日通学する生徒もクラスにはいるようだが、社はそれなりに成績は良いので関係ない。

社が転入して、最初の戦いが終わってから1ヵ月が経っていた。その間に敵からの攻撃は一度もなく、そして、社と真美が会話することもなかった。というよりも社が近付くと真美が一目散に逃げてしまうのだった。

社自身話したいことはたくさんあるし、大赦からも関係修復を促すメールが何度も届いているのだが、真美から徹底的に避けられてはどうにもならなかった。

と、その時だ。部屋の方からファンシーな音楽が流れてきた。部屋に戻って乳瓶を机に置いて、携帯を手に取った。見ると、画面には『犬吠埼風』と表示されている。

 

「もしもーし、社でーす」

『あ、おはよー社姉ちゃん!今日はよろしくー!!』

「んん?何かあったっけ?」

『姉ちゃん!?料理教えてくれるって約束したじゃん!』

「したっけ?」

『したよ!あたしの女子力上げるために教えてくれるって約束したのに!』

「んー、まぁわかったよ。あ、代わりに樹ちゃんもふもふさせてね?」

『そりゃもうお望みとあればいくらでもどうぞ!』

 

 

「暖かくなってきたわね」

 

真灯真美は先ほど自動販売機で買ったココアを飲みながらそう呟いた。

朝早く起きてからの散歩は真美の長年の習慣だった。さすがに学校がある日はしないが、休日は8時ぐらいに起きてからひたすら歩き続けていた。

 

「.......なんでやし、じゃなくて星城さんが出てくるんだろ」

 

人前であんなに感情を出したのはいつ以来だろうか。あんなに本気になったのはいつ以来だろうか。

そして、涙を流して優しく抱き締めてもらったのはいつ以来だろうか。

バーテックスや魔王システム。いろいろなことがあったが、何故か真美が思い出すのは自分を抱き締めてくれた社の事だった。

 

「そういえば、あれから一度も話してないなぁ」

 

別に話したいわけじゃないけど、と真美は言い訳のように付け加えた。しばらくそのまま歩いていると、近くの砂浜に辿り着いた。

この砂浜が真美の目的地で、理由はここに少し前からいる真美より年下の少女だった。

ポニーテールにした赤色の髪に意志の強さを感じさせる顔立ち。年は恐らく中学生ぐらいだろう。彼女を初めて見つけたのは2ヶ月程前からで、この砂浜でいつも武術の練習をしていた。そのをこうして真美はよく眺めていた。

名前は知らない。というか、知ろうとすらしていない。それでも真美が少女に興味があるのは、単純におもしろいからだった。

 

「はあ!てい、やあ!」

 

勇ましく声を上げながら少女が舞う。いつもながら異様に様になっている。

ふと視線を感じて後ろを振り向くと、車椅子に乗った黒髪の女の子がいた。手には正方形のパックを持っている。

髪をまとめている青いリボンが印象的な少女で、顔立ちはまさしく大和撫子といった風だ。その女の子は瞳に不安そうな色を乗せて口を開いた。

 

「あ、あの、友奈ちゃんに何か.......?」

「誰?」

「えっと、友奈ちゃんは私のお友達であそこにいる子です」

「ふーん」

「それで何か友奈ちゃんにご用があるんですか?」

「別に。ただ見てただけ。何か悪いならやめるけど」

「いえ!そういうわけではないんですけど」

「そう」

 

そこで会話が途切れる。というよりは真美が途切れさしたというべきか。長年のボッチ生活で培ったこのスキルは自動発動なのだ。黒髪の女の子もどうしたらいいかわからないのだろう、微妙な顔をしてから、涙目になって俯いてしまった。内心「やばい」と思う真美だが、当然ながら慰めたりはできない。

 

「はぁ」

 

一度息を吐くと、真美は手のひらを少女の黒髪の上に置いて、優しく動かした。端的にいえば撫でた。

 

「ふあっ」

「悪いわね。我ながら愛想がない性格だから、どうしてもあんな言い方しちゃうのよ」

 

そのまま撫でていると、少女が気持ち良さそうに目を細める。なんだか猫みたいと真美は思った。

 

「東郷さーん!って、何か気持ち良さそうなことしてる!」

 

不意にそんな元気な声が飛んできた。見ると、あの桜色の少女がにこやかな笑顔でこちらに走ってきた。真美は少女の頭から手をのけると言った。

 

「ほら、お友達が来たわよ。それじゃあね」

「あの!よかったら私のぼた餅食べてみませんか?」

「ぼた餅?」

「はい、お菓子作りが趣味なんです」

 

少女が手に持つパックを開けて、その中にたくさんあるぼた餅を見せてくる。だがこれ以上関わるのは面倒なので、真美は無視して家への道を歩き出した。

背後から少女の声が飛んでくる。

 

「ぼた餅、いつか食べてもらいますからね!」

 

もう会うことはないと思うけど、と真美は小さく呟いた。

 

 

「風ちゃーん。社お姉ちゃんですよー」

『お、きたきたー。はーいすぐ開けまーす、と!』

 

元気な声が帰ってきてから数秒待つ。ガチャという音と共に扉が開いた。

扉の先にいたのは、社より年下の少女だ。橙色に近いツインテールに勝ち気そうな顔立ち。社の妹分でもあるこの少女は犬吠埼風という。

 

「社姉ちゃん、今日はよろしくお願いします!」

「ふっふっふっ、この偉大なるお姉さまに任せておきなさーい!」

「きゃー、社お姉さまかっこいいー!」

 

風からの頼み事はおいしい肉じゃがの作り方を教えて!ということらしい。社はそんな約束いつしたかは全く覚えていないが、風曰く「私にまかせなさーい!!」と豪語したらしい。

キッチンに必要な材料を準備し、エプロンを装着する。包丁を構えながら社は言う。

 

「じゃあさっそくつくろっかー。社のお料理教室はじまりはじまりー」

「まずはどうすればいいですか先生?」

「じゃがいもとにんじんの皮向いて、一口サイズに切ってね」

「りょーかいです!」

 

コトン、コトンと風が人参を包丁で切っていく。その間、社は何故か部屋をきょろきょろしてから口を開いた。

 

「風ちゃん。樹ちゃんはー?」

「まだ、寝て、ますよ。あ、起こし、てもら、えますか?」

 

切っているのに集中しているのか途切れ途切れの風の返事を聞いてから社は風の妹、樹を起こすために部屋のドアを開けた。そして、一気に樹のベッドにダイブした。

 

「いーつーきーちゃーん!」

「ふにゃあ!?わ、え、なになに、あれ、社お姉ちゃん!?」

「もふもふだなぁ、ふわふわだなぁ.......あれ、樹ちゃん、少しおっぱい大きくなった?」

「きゃああああああ!やめてえええええ!」

「むふふ、お姉ちゃんのおっぱいに挟まったらもっと大きくなるよー!」

「むくぅ!?ふわ、ふかふなむう!?」

 

自分の巨大な胸に小学生を埋めて狂喜する高校生の図はそれが同姓でもかなりアウトだが、今この状況では誰もその事実を指摘しないのが樹の運の尽きである。結局、社の蹂躙劇は風が人参とジャガイモを切り終わって社に次の行程を聞きにくるまで続いたのだった。

 

 

「肉じゃがかんせーい!」

「あたしもできたー!」

「えーと、どっちが作ったのかすぐにわかっちゃうね」

 

姉より少し薄い橙色の短い髪と気弱な瞳でどこか小動物的な印象の現在小学六年生の樹は素直にそんな感想を漏らした。その言葉通り、机に置かれた肉じゃがは片方はまさしく肉じゃがでもう片方は端的にいうと謎の黒い物質と化していた。樹は箸を取ると、黒い物質は完全に無視して社の肉じゃがを食べ始めた。

 

「んむ!おいしい!すっごくおいしいよ社お姉ちゃん!」

「ありがとー、もっと食べていいよー!」

「ぐぐ、なんで私のはこんなに真っ黒になるの.......!」

「最初だから仕方ないよー。まぁ、これはちょっとないけどね」

「うがぁ!!これも女子力の差だ!社姉ちゃんのその双丘が強大な女子力を隠し持ってるんだ!」

 

社の胸を指差して激昂する風。そういえばまーちゃんも悔しがってたなぁとふと思ってから社は言う。

 

「これ重いだけなんだけどなぁ」

「け、けどお姉ちゃんも大きくなったんでしょ?この前喜んでたよね?」

「.......気のせいだった」

「あ.......ごめんね」

「よしよし」

「うわあーん、社姉ちゃーん!樹がいじめるー!」

「ええっ!?」

 

社はふざけあう二人を眺めながら、本当によく笑うようになったな、と思った。風と樹、この姉妹とは昔から交流があったが、こんな風に親密な関係になったのはほんの一年前からだ。きっかけは二人の両親が事故で亡くなった時、大赦から気にかけて上げなさいと指令がきたのだ。だが社は指令が来なくても二人を気にかけていた自信はあった。

最初、ここに料理を持ってきた時は二人とも作り笑いにすらなっていない、痛々しい表情が浮かんでいた。だがそれにめげずに毎日毎日料理を持っていき、風に家事をいろいろと教え込み、樹をこれ以上ないぐらいもふった。こうして社が献身的なまでに構った甲斐あり、二人はちゃんと心を開いてくれた。そして、今では社のことを『姉』と呼ぶほど慕っている。

 

「社お姉ちゃん」

「どうしたの、樹ちゃん」

「あのね、学校の宿題でわからないとこがあるから、社お姉ちゃんに教えてもらいたいなぁ、て」

「うん、いいよー。お姉ちゃんに任せなさい!」

「ちょっと樹!ここにすっごく頼りになるお姉さまがいるじゃん!」

「だって、お姉ちゃんも上手だけど、社お姉ちゃんはもっとわかりやすいんだもん」

「うああああ!樹に嫌われたああああああああ!!」

「ほら樹ちゃん、教えてあげるから宿題もってきなさいな」

「はーい」

「うにゃあああああああああああああああああああ!!!!!」

 

少女たちの楽しそうな声が部屋中に響き渡る。それは端から見れば、ただの仲が良い家族そのものだった。




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