蒼炎のアサーナトス   作:唯尊

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第二話 魔法少女

 

 それは突然の出来事だった。

 

 中学3年生の冬、空手部最後の練習を終えた響苛はひとつ年下の後輩の少女、祖月輪衣里奈(そがわ いりな)と共に下校していた。

 

 明るい瑠璃色の髪を緩くウェーブのかかったウルフカットにした体育会系の少女は、今年の春に付き合い始めた恋人だ。身長148cmの小柄な少女は、活発な笑顔と元気が魅力的で、陸上部のエースとして県で記録を残す程の実力者だ。

 

「先輩!U-15カデット選手権優勝おめでとうございます!!」

 

既に夜空は暗く雪が振る中、手を繋ぎながら歩いていると、花が咲き誇る様な笑顔で衣里奈は祝福してくれる。

 

「ありがとな。試合中もドイツまで来て応援してくれたろ?おかげで最後まで力を出し切れたよ」

 

彼女の所属する陸上部は、既に主だった大会を終えており、通常のトレーニングメニューに戻っている。それでも両親に懇願して飛行機に同伴してもらい、1週間前にドイツで開かれた世界空手道カデット選手権大会にU-15で出場した響苛の元に、現地まで応援に来てくれたのだ。

 

「正直、自分でも未だに信じられないよ。初参加の世界選手権で優勝するなんて……」

 

自分はU-15で出場した日本代表選手10人の内で、唯一金メダルを取得したのだ。今春の全国選手権で優勝して日本一になり、さらには中学生世界王者にまで登り詰めたのだ。

 

 11年間死に物狂いで稽古したとはいえ、この頂きに辿り着けるとは思わなかった。

 

「それと、今までずっと稽古漬けだったからな…。悪いな、デートとか全然行けなくて…」

 

付き合い始めて既に8ヶ月が経とうとしていたが、まだこれが2回目のデートである。恋人になってからの最初のデートは6ヶ月も前の事だ。  

 

 それでも、こうして部活帰りに手を繋いで帰る事は出来たし、頻繁に連絡も取り合っていた事から、互いの距離は緩やかながら縮まりつつある。

 

「いいんです。私は先輩と毎日会えて嬉しいですし、好きな事に人生を賭けて取り組んで、結果を出してる先輩は本当に素敵で……いつまでも近くで見ていたいんです」

 

天使の笑みを浮かべながら衣里奈は繋ぐ手をぎゅっと握る。今までは普通に握り合っていたが、今夜は恋人繋ぎで歩いている。

 

「そう言えば、先輩は進学したら劉霞大附属に行くんですよね?」

 

「あぁ、あそこなら空手に幾らでも費やせる。設備も整っているし、理学療法士やスポーツトレーナー、メンタルケアカウンセラーも付いてくれる。一度学校見学に行ったが、流石強豪校だ。推薦貰えてるし学費は特待生だから免除される。まさに最高だ」

 

嬉しそうに語る響苛に対し、衣里奈は何か覚悟を決めた様子で告げる。

 

「先輩。私……高校は劉霞大附属を受験します!」

 

 その言葉に思わずギョッとする。

 

「え…いや、お前……あそこ偏差値65だぞッ?医学部並みの難関校だし俺の共通模試の結果でも一般入試でギリギリ入れるレベルだってのに…」

 

全国共通模試で3位を叩き出した自分でも、1番難易度の低い学科でそれなのだ。日々の稽古でクタクタな状態でも勉学にはしっかり励んだし、スポーツで求められるIQが高い事もあって学年トップを維持する事は出来たが…。

 

「衣里奈……お前今回の期末テスト、全教科赤点ギリギリだったろ…」

 

衣里奈はギクッとした表情になり、目を明後日の方向に向ける。

 

「こ、今回だけです!それに前回の中間みたいに先輩が教えてくれれば、もっと点数は上がります!それに…」

 

そこで衣里奈は顔を赤くすると、

 

「先輩と……その………いつも一緒に居たいですし…」

 

「………」

 

お互い気恥ずかしくなりながら、無言のまま歩き続ける。きっと衣里奈と同じ様に、自分の顔も赤くなってるのだろう。

 

「…まぁ、ウチの中学もこの辺じゃそこそこの進学校だし、お前も勉強は苦手じゃないんだから、頑張り次第でどうにかなるだろ……俺も時間があれば教えてやるから」

 

恥ずかしさを誤魔化すためにぶっきらぼうにそう言うと、衣里奈はパッと顔を輝かせる。

 

「はい!頑張ります!!」

 

嬉しそうに言う衣里奈を見て、響苛も幸せな気持ちになる。空手の辛い稽古の日々も、彼女が居たからこそ頑張れたのだ。

 

------俺は彼女に誇って貰えるような男でいたい。

 

 2人きりの甘い時間を歩きながら過ごす内に、横断歩道の信号待ちに出くわす。

 

 時刻は夜の7時を回っており、街灯が目の前の国道を照らし、多くの車がそこを行き交っている。雪が穏やかに降る中、響苛は冷える片手に温かい息を吹きかける。やがて信号が青になり、その向こうにある道路橋を目指す。

 

「…先輩」

 

ふと衣里奈が話しかけてくる。横断歩道を渡りながらそれを聞く。

 

「なんだ?」

 

「もし……ひとつだけ何でも願いが叶うとしたら、先輩は……何をお願いしますか?」

 

 予想外の質問に少し驚いたが、衣里奈の表情が深刻そうに見えたので、真面目な質問だと分かる。

 

 響苛は少し考える間を置くと------、

 

「俺は………ずっとお前と一緒にいたいよ」

 

恥ずかしい気がしないでもないが、本心を伝える。

 

衣里奈はそれに目を見開き------、

 

「……私もですよ、先輩」

 

 こちらを向き微笑む。その時の彼女は、どこか安心した様子に見えた。

 

「まぁ、願いってのは自分で叶えるからこそ価値があるんだ。他人に叶えてもらうのはあまり好きじゃないな、俺は…」

 

「そういう所、すごく先輩らしいです」

 

 クスクス笑う衣里奈との間に、再び甘酸っぱい雰囲気が流れる。丁度、道路橋の真ん中辺りを歩いてる所だった。

 

「------じゃあ、その人とは今も仲が良いんですか?」

 

「あぁ、小学生の頃からの付き合いだ。ボクシングやってる奴でパンチがスゲェ強烈なんだぜ?読書が趣味で、そっちでも俺と気が合って…」

 

氷点下を下回る温度でも、衣里奈との話題は尽きなかった。

 

 こうして話し合っているだけでも、自分にとってはかけがえのない大切な時間だ。彼女との会話に出てきた話はどの話題もよく覚えている。新しくオープンした喫茶店……公園で見かけた散歩連れの可愛らしい子犬……新作アニメの魅力……陸上の話や空手の話。これから話したい事は互いにまだまだあった。

 

「そうだ。この道路橋を渡って少ししたら、美味いケバブ売ってる店があるんだ。よかったらこの後------」

 

------パガンッ!!

 

 突如、背後から何かが破壊された様な音が聞こえた。

 

 驚いて背後を振り向くと、前輪の駆動系に異常を起こした引っ越しトラックが、コントロールを失い猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

 

 自分は回避出来る。この距離なら己の研ぎ澄まされた反射神経と運動能力で衝突を避けられる。だが…、

 

------まずい。衣里奈は避けられない!!

 

 完全に衝突コースのど真ん中にいた衣里奈は、あまりに突然の出来事に反応できておらず、半ば立ち竦んでいた。

 

「-----衣里奈ッ!!」

 

「キャッ…!?」

 

身体が反射的に動いた。気付けば衣里奈の着ていたコートを掴み、自分の方に引き寄せる様にしながら歩道の奥へと放り投げる。

 

 かくして、彼女の安全は確保された。

 

 しかし……その果敢な行為が、数見響苛にとって、文字通り命取りとなった。

 

 衣里奈を助けた事によって、回避行動が間に合わなかった響苛は、コンマ数秒後------一瞬……いや、一瞬よりも僅かに長い時間、体験した事もなければ、想像すら出来ない程の衝撃と激痛に襲われた。

 

 中学生の身体に時速70キロで体当たりしてきた10トントラックは、勤めていた引っ越し会社から法外な過酷労働を強いられ、心身共に消耗し切っていたドライバーによる過失運転と法定速度違反、それに加え、会社が車検により運転を禁じられたトラックの無断使用と積載可能重量を無視した積荷を命じた事による重量オーバーはトラックの耐久力を超過、制御不能にするには十分だった。

 

 かくしてそれは、響苛の全身に深刻なダメージを与え、橋から突き飛ばす結果となった。

 

 メジャリーガーにバットで打たれたボールの様に、面白い程遠くへ弾き飛ばされる。

 

 暗く冷たい川へと頭から落ちていく中、衣里奈の絶叫が世界に響いた。

 

「センパァァァァァァァァァァァァイッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も見えない------。

 

「先輩!しっかり------ください!!」

 

声だけが聞こえる。目が潰れているのか、自分の視界は真っ暗なままだ。

 

「そんな------ねぇ-----------ないの!?」

 

聞き覚えのある声だ。聞き違える筈のない------最愛の少女の声。

 

「……本当に、出来るの?」

 

誰かと話しているのか。聞こえるのは衣里奈の声だけだ。

 

 手を動かそうにも、感覚がない。足も、背骨も、唇もだ。

 

「分かった……なら------------するよ」

 

 呼吸を試みるが、体内で変な音がするだけだ。おまけに何かが体内から溢れ出してきて、気が狂いそうな程苦しい。自分の内側に強い違和感を感じる。もしかしたら内臓の位置が滅茶苦茶になってるのかもしれない。激痛が脳の処理限界を超えているのか、麻痺によりいまいち痛覚を把握できない。徐々に思考がスパークしていく。

 

 これが"死"なのだろうか……恐ろしく暗く、冷たく、無機質で淡々としたものだった。

 

 そして、意識が完全に途切れそうになる------。

 

「お願い-----------。先輩を------------------してッ!!」

 

 

最後に彼女が何を言ったのか、ついに分からぬまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

目が覚めた時、眩しい陽光が響苛の目に入る。

 

 それが朝日だと理解した時、自分は見知らぬ部屋のベッドに横たわっている事に気づく。

 

 身体を起こそうと試みる。

 

「目が覚めたようね」

 

冷たいメゾソプラノの美声が聞こえる。

 

 声が聞こえた方に視線を向けると、青髪ロングの美人------七海やちよがこちらに槍を突き付けていた。鋭利な刃が響苛の首元を狙っている。

 

「貴方には幾つか質問があるけど、良いかしら?」

 

「………」

 

 普段は落ち着いた雰囲気のイメージがあるが、今の彼女の瞳には剣呑な光が宿っていた。警戒と敵意が混じった目だ。

 

 響苛は黙ったままその瞳を見つめ、一瞬、僅かに目を逸らした瞬間------。

 

------バキイッ!

 

「ッ!?」

 

ベッドから跳ね起きた響苛の手に槍が跳ね除けられる。強烈な'弾き'に槍がやちよの手から離れ、その隙を逃さず響苛は飛びかかる。

 

 刹那の出来事に反応が遅れたやちよは抵抗する前に押し倒され、地面に組み伏せられる。首筋には手刀が当てられていた。

 

「質問に答えるのはアンタの方だろ…」

 

 低い声で恫喝する響苛の瞳には、猛獣じみた衝動と殺意が込められていた。

 

 やちよは完璧に組み伏せられ身動きが取れない。手足の許しを一瞬にして全て封じた。殺人と戦闘の訓練を積み上げたプロの動きだ。

 

「動くなよ?この状態なら軽く5回は仕留められる」

 

「………」

 

しかし、やちよに動じた様子はない。冷淡な眼差しのままこちらを見てくるだけだ。

 

「速いわね。流石は一流といった所かしら」

 

「余裕だな。それとも虚勢か?モデルの仕事で身につけた技術か」

 

「そんな所よ…。それより、何をしようと無駄よ。貴方に私は殺せない」

 

「あ?」

 

「あの時の戦い……覚えてる?あんな強大な怪物から、あれだけの攻撃を受けたのに、こうして平然としている私が…私の身体が、貴方の力でどうにか出来ると思う?」

 

「………」

 

「そろそろ退いてくれない?嫌なら力づくで退かせるけど」

 

「…チッ」

 

舌打ちしながらやちよの上から離れる。

 

 あの時、魔女との激しい戦闘の様子は鮮明に覚えている。人間なら踏み潰された路上の蟻と同じ様になっている程の攻撃を彼女が受けたのはこの目で見ている。今更自分が徒手空拳で無力化できる道理はなかった。

 

「フンッ……で?何を聞きたい」

 

 面白くなさそうに鼻を鳴らす。やちよは服に付いた埃を払いながら立ち上がる。白のロングスカートと黒のブラウス、その上に青いジャケットを羽織った今のやちよは、先程の槍を出そうとはせず、毒気が抜かれたよに一息吐く。

 

「その前に確認するわ、昨日、貴方は自分の身に何が起きたか覚えてる?」

 

「昨日……あの化け物の話か?」

 

無言のまま首を縦に振られる。

 

「俺は……」

 

どうやら記憶にある怪物……魔女に殺されかけたのは昨日の事らしい。

 

「…俺は、あの魔女に殺されかけて…」

 

「かけたじゃないわ。"殺された"のよ。身体が原型を残さない位木っ端微塵にされてね…」

 

「………」

 

「その様子じゃ、記憶は曖昧かしら?」

 

「……いや」

 

だんだんと思い出してきた。

 

 あの時、確かに自分は常軌を逸した激痛と共に意識を消失し、絶死のダメージを身体に負った筈……だった。

 

「あの時は…身体が妙に熱かった。それと……」

 

「それと?」

 

「……あの魔女をぶっ殺す事しか考えていなかった。それ以外の事は何も…」

 

「………」

 

嘘を吐いてる様には見えなかった。おそらく当人に死んだ自覚はないのだろう。やちよは小さく溜息を吐くと、本題に入る。

 

「それじゃあ質問するわね。貴方……『魔女』の存在を知ってるの?」

 

響苛は緩く首を横に振る。

 

「詳しくは知らない。調査の際に耳にしただけだ。バカみてえに強えバケモノだとか…、直接目にしたのはコレが初めてだ」

 

「調査?なんの調査かしら」

 

「………」

 

沈黙。暗く凍った表情のまま拒絶の意思を感じる。

 

「…まぁいいわ。じゃあ次の質問…」

 

 気を取り直して話を進める。この質問はそこまで重要ではないからだ。

 

「『魔法少女』、『キュゥべえ』という言葉に聞き覚えはある?」

 

「…?」

 

眉を顰め、意味不明な単語を聞いたかの様な反応をされる。

 

------どうやら魔女に操られてる類ではなさそうだ。それならさっき組み伏せられた時点で、あの時の力で攻撃されていなければおかしい。

 

(この様子だと、本人にも自分の正体が解ってなさそうね…。キュゥべえと関係がある様には見えないし、私たち魔法少女と縁がある様にも見えない……一体何者なのッ?)

 

 いくら考えても目の前の男の真相に辿り着けない。

 

 どう聞き出したら良いものかと言葉に窮していると、響苛が小さく手を挙げる。

 

「今度は俺から聞いていいか?」

 

「…何かしら?」

 

警戒を緩めぬままやちよは促す。

 

「アンタ、あんなバケモノ相手に互角にやり合っていたよな?その際、人間離れした動きを見せたり、何もない所から槍を生み出したり、あの巨体と力勝負で渡り合っていたり……どう考えても普通の人間じゃないよな?何者だ?」

 

 それはこちらが1番聞きたいのだが……まぁ、お互い分からない事だらけなのだ。正直自分の方が開示出来る情報は多い。やちよは嵌めていた指輪を目の前に翳すと、眩い光と同時------青く輝くソウルジェムに変換する。

 

「な!?」

 

「黙って。見てなさい------」

 

やちよは驚く響苛を黙らせ、次の瞬間------魔力の輝きがソウルジェムから溢れ、やちよを包み込む。

 

 響苛からすれば刹那の出来事だったが、気が付いた時には、目の前に水と月の巫女をイメージした礼装を身に纏い、三叉槍を手にする魔法少女の姿となったやちよがいた。

 

「これが、私の正体よ」

 

 伶俐な表情を崩さぬまま、やちよは己の真の姿を晒す。

 

「これはッ…」

 

響苛は驚愕した表情を顔に貼り付けたまま固まっている。間違いなく、昨夜に己を窮地から救ってくれた存在だ。

 

「私は魔法少女…七海やちよ。絶望を振り撒く魔女を狩り、願いと希望の為に戦う存在よ」

 

「………………………は?」

 

しかし空気が一転、それまで未解決殺人事件の真相を20年越しに聞かされた被害者の身内みたいな顔をしていた響苛は、なんとも間の抜けた締まらない声と表情を出した。

 

「何よ。昨日あれだけ常識外れな力を見といて、まだ信じられないの?」

 

やちよが少し不満そうに言う。

 

「いや…力に関しては疑問はないが…」

 

「?」

 

「…アンタ、年齢は?」

 

「19よ」

 

「…大学生だよな?」

 

「貴方と同じ大学よ。当たり前じゃない」

 

「……………」

 

「……………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「------------その年で魔法"少女"はキツくないか?」

 

 

 

瞬間、響苛が猛烈な勢いで後方に吹き飛ばされる。

 

 やちよから渾身の前蹴りを喰らった響苛はピンボールマシンから発射された玉の様にふっ飛んでいき、背後の壁に激突------そのまま内側まで身体がめり込んだ。

 

「ぐげぇッ……こ、このアマ……!いきなり何しやが------!!」

 

------------ズガァァァァァァンッ!!

 

「………」

 

 壁から抜け出した響苛が怒鳴る前に、やちよが投擲した槍が顔の右側に轟音を上げて突き刺さった。あと2センチ左にズレていれば、響苛の顔は砕け散っていただろう。

 

 ふと正面を見ると、やちよが新しい槍を生成しながらゆっくりと此方に近付いてくる。

 

「ごめんなさい、聞こえなかったわ。もう一度言ってもらえるかしら?」

 

臓腑にまで響く深く冷たい声音が響苛を貫く。

 

「…俺はそういうの本当に嫌だからな…。何度でも言ってやるよ!その年で痛いコスプレして魔法少女とか見ていられな------」

 

------------ドゴォォォォォォォォォォォォッ!!

 

 今度は顔の左側に突き刺さる。魔女殺しの槍が顔の左右に2本。首の動きが完全に封じられ、目線だけを恐る恐る上に向ける。

 

------目の前に夜叉がいた。ふーッと冷たく息を吐きながら唸る女の声は、魔女と対面した時とは比べ物にならない程の恐怖と絶望を与え、心なしかやちよの両目が、活剥生呑の怪物の様に光っていた。

 

彼女は3本目の槍を生み出すと、響苛の眼前に槍を突きつける。

 

「見ていられな------なに?」

 

 このまま先程と同じ台詞を口にしよう物なら、今度こそ間違いなく、首なし遺体がひとつ出来上がるだろう。

 

「………すまん。ショックで気が動転していたんだ。忘れてくれ」

 

数見響苛は、目の前の絶対恐怖に膝を屈し、今後、彼女の前で二度とこの話題を持ち出すまいと心に固く誓った。

 

 背後の壁は、惨めな程ズタズタにされていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、ようやく怒りがおさまったやちよは、魔法少女についての情報を可能な限り共有する。

 

「------これが、私たち魔法少女の世界よ」

 

「…絶望から生まれる『魔女』が人々の心を乱し、不審な殺人事件や事故は魔女の仕業が多い。魔女は普段は結界内に隠れていて、一般人には見えず。誰も対処できない。唯一魔女に対抗できるのが『魔法少女』であり、素質のある少女が『キュゥべえ』と呼ばれる妖精と取り引きする事により、魔法少女となる」

 

「そうよ」

 

「魔法少女は自分の願いをひとつだけ叶えて貰う代わりに、魔女を討伐する使命が科される……間違いないか?」

 

「えぇ」

 

短い返答を繰り返される。

 

 自分は現在、七海やちよが管理する寄宿舎にて出された紅茶を飲んでいる。

 

 蜂蜜入りの紅茶は香りが強く。目眩がしそうだった。

 

 同じテーブルに座るやちよは優雅にティータイムを楽しんでいる。

 

 彼女から聞いた話だが…どうにも嘘くさい。『キュゥべえ』を見た事はないが、願いを叶えてくれる妖精だなんて都合のいい存在はどうにも眉唾に思えるし、魔女という存在の起源も不透明だ。彼らの目的は?何故魔法少女を増やそうとする?

 

そもそも彼らは何者だ?魔女と同様で一般人には見えない時点で怪し過ぎる…。というより…、

 

「…これで話は全部か?」

 

「……そうよ」

 

 対面して座るやちよに鋭い視線を投げかけると、若干の間の後に肯定される。その表情は暗い。

 

------嘘を吐いている。

 

 理由は分からないが、部外者の自分には話せない深層がまだあるのだろう。とはいえ、今日名前を直接聞かされた身である自分を信用する筈がない。何せ今の今まで完全に忘れていたのだから。

 

「それにしても無茶よ。たまたま力があったからいいものを……本当に何の力も無かったらどうするつもりだったの?」

 

まるで説教でもするかの様な口調だ。

 

「なんだよ。俺がいなきゃアンタも殺られてたんだろ?感謝しろよ」

 

「普通じゃないって言ってるのよ。あんな状況じゃ普通逃げるわ。言いたくないけれど真正面から立ち向かうなんて異常だわ貴方」

 

「喧嘩売ってんのかッ、敵を目の前に戦意喪失しやがった癖によく言う------」

 

「膝を突きたくもなるわよッ!」

 

突然、やちよは絶叫し、ティーカップを荒々しくテーブルに叩きつける。思わず身を固めた響苛は、身体を震わせるやちよを見遣る。

 

「また……また私は、誰かを犠牲にして生き残ったのかと…また…!」

 

やがて、やちよは両手で身体をかき抱き、俯きながらブツブツと呟く。表情までは窺えないが、血の気が引いた顔は耳まで真っ青になっていた。

 

 何やらただならぬ雰囲気に気圧されていると、やちよの震えがピタリと止まる。

 

 彼女は何かに気づいた様に左手の指輪を見るや否や、ソウルジェムに変換、輝くサファイアが点滅していた。

 

やちよはガタッと椅子を鳴らして立ち上がる。

 

「この反応……間違いないわッ」

 

「な、なんだいきなり…」

 

 いきなり生気を取り戻したやちよに困惑していると、鋭い目でこちらを一瞥してくる。

 

「また……魔女が現れたのよ!ここ…神浜でッ」

 

 

 

 

 





※主人公情報
 
名前---数見響苛(かずみひびか)

身長---187cm

体重---100kg

誕生日---4月9日

血液型---B型

 総合空手の高校世界王者。高校卒業後は自衛官候補生として陸上自衛隊に入隊。新教(新隊員教育隊)にて前期教育修了後、西部方面隊第8師団・第43普通科連隊で後期教育を受け、その後も同部隊で任務に当たる。

 勤務中。ある事件をキッカケに、過去に失った恋人の死の真相を追う事を決意。1任期2年で満期除隊。その後、神浜市立大学に入学。

 最終的な階級は陸士長。

 現在21歳。ダークレッドの瞳と黒のアップバングツーブロックの髪型、左耳に付けた金のピアスが特徴的。筋肉質で体重もかなりあるが、引き締まった体躯の為、比較的痩せて見える。

 高めのテノールの声をしている。顔立ちは端正で気迫があるが、眼つきが悪いせいで『人殺し顔』と揶揄られる。
 
 モッズコートとデニムパンツを好んで着用している。
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