マリー、俺と付き合って下さい。   作:カブトムシの相棒

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主人公のプロフィール(1)


名前:榊サクタロウ

年齢:16歳

身長:199㎝

体重:89㎏

学園:ゲヘナ学園

所属先:風紀委員会(辞めようと思ってる)

誕生日:9月21日

補足:ゲヘナ随一の狂気を孕んでいる生徒。先生が人型の男性だと知り、○○……っている。




では、本編です。


聖女と狂人。

 

 

────不死身、と云う言葉がある。

 

 

いきなりだが榊サクタロウは()()()になった。

 

 

説明を聞くのは面倒だと思うので、此処は一発端的に話そうと思う。

 

 

4歳、両親が蒸発。地方の孤児院に暮らし始める。

 

7歳、施設でイジメが発生。彼が他の人と違い”男”というだけで差別を受ける。毎日殴られ蹴られの生活。それが10歳まで続く。管理者は見て見ぬ振りで誰も助けてはくれなかった。

 

11歳、自分の誕生日を境に施設を脱走。此処に居ては心が壊れてしまう、そう思っての行動だった。

 

11歳~12歳、只のクソガキが生き残るには世の中は甘くない。直ぐに飢餓の限界がきて、D.U.のとある路地裏で倒れた………そこからが、彼の本当の人生だった。

 

 

 

 

12歳……彼は『黒服』と云う男に拾われた。まるで彼を待っていたかのように、路地裏で待ち伏せしていた。黒服は目を覚ました彼に纏わる現状を説明した。

 

・榊サクタロウの捜査は誰もしていない。打ち切りに近い形で、無い者として扱われた。

・自分はかなり危ない状況だった。栄養点滴を打たなければ間違いなく死んでいた。

 

黒服は当時12歳の幼子に残酷な現実を言い放った。もう誰も、己を探してなんか居ない……その辛さは、計り知れない苦痛だった。

 

────そんな中、黒服がとんでもない提案を提示する。

 

 

 

 

『────契約をしませんか?』

 

 

 

 

内容は……()()()()()

 

 

 

『貴方は最高です。あの【暁のホルス】とは別ベクトルで輝かしい神秘を持ち合わせています。だがかなり複雑で淀みが深い………ククッ!光輝くその中に在る淀みと云う矛盾、実に興味深い』

 

 

 

専門用語を巧みに言い回しながら、じっくりと彼を見つめる黒服。

 

 

 

『実験時間は3年と2ヶ月、と云った所ですか。随時変更は有り得ますが如何でしょう?無論、その中でも契約金と居住食は提供いたします。悪くない話ではないでしょうか』

 

 

 

こんな話、マトモな人間なら頷かないだろう。

まだ早いし内容も別だが、あの『小鳥遊ホシノ』ですら頷かないのだ。

 

だが…………既に様々な壁にぶち当たった彼の精神は────

 

 

 

『……一つだけ、聞かせて、下さい』

『おや。なんでしょう?』

『────強く、なれますか?』

 

 

 

もう、マトモでは無かったのだ。

 

彼の心の内には、もう取り返しの付かない【狂気】が目覚めていた。

 

誰も助けてくれない。

誰も探してくれない。

誰もご飯をくれない。

 

親でさえ、己を居ない者として扱っていた。殴っても来た。

話しかけたら、無視もされた。望まれない子として産まれたのは知っていたけど、余りにも、酷かった。

 

孤児院でも似た様な生活だった。イジメが酷いのに、周りの人間は見て見ぬ振り。教員もだ。腐ってるにも程があった。

 

 

 

『クックックッ……────勿論です』

 

 

 

そんな彼の想いを、黒服は肯定した。

 

 

 

『……ほんと?』

『えぇ、ですが……強く成れるのは貴方の根気次第です。それでも、お受けいたしますか?』

『……うん。死んでも、死なない』

『ッ!ククッ……では────契約開始です』

 

 

 

そうして、彼の────地獄が始まった。

 

 

 

 

 

ここからは『黒服』の調査ノートを基準に進行(大分緩やかに執筆)。

 

 

 

 

 

▽調査ノート(日記風)

 

 

 

 

想定通りの展開となった。被験体が居た孤児院から人身売買を行い、被験体の身柄を己に譲らせて頂いた。まさか100万そこらでこんな原石を頂けるとは思わなかった。どうも被験体は嫌われていたらしく、簡単に事が進んだ。だが好都合、研究が進めやすい。『榊サクタロウ』……キヴォトスで観測された唯一の男性生徒。神秘の垣根は最弱に等しいも、化ければ想定に収まらない怪物に成り得る逸材だと考察。強く成りたいと思う心の強さ、それが意味する事は何なのか。身長体重、性格の変化も見極め、研究を進めていきたい。

 

 

12歳、神秘の身体経路検査による調査で新たな発見。榊サクタロウの神秘は【超再生】だと判明。ただし不規則性が強く、痣が残り易いとの事。第二次性徴期は既に始まっている故、被験体の成長過程も合わせ最初は無理をせず様子を見守る。痩せていた身体も環境の変化もあり、随分と肉付きが良くなった。勉学にそこまで興味を持たないが、流石に最低限の学びは得て貰う。忙しい身を削らせ、被験体に自らBDノートを教授させる。教えが良いのか、吸収が速い。近い未来で脳を破壊しても記憶は残るのか、そういった所もデータを取るとする。

 

 

12歳~13歳、数々の攻撃を身体に与える。打撃、射撃等による攻撃は痣は残るも、1時間23分で綺麗に無くなる。斬り物による斬撃、刺突は治りが遅い。時間経過は2時間39分。だが、元々他のヘイロー持ちとは違い生身の人間と遜色が無いのも相まってその変化の現われは分かり易く、そして凄まじい。まだ神秘の輝きは幼いが、被験体の心根が力強く、己も様々なやり方が出来て作業はし易い。最初の方は激痛によく絶叫し喉を潰らせていたが、そんな中でも決して心は折れなかった。本当に大したメンタルをしている。激痛を伴っている最中でも〈能面〉の表情は、正に【狂気の権化】そのものに見えた。感情を表に出さないのだ。本人曰く、感情、表情の出し方が分からないと云う。こういう子供も居るのかと少し感心した。加え、更なる刺激を求め始めた。痛みと神秘の進化に伴い、被験体の狂気も沸々と膨れ上がって来ている。己は今、悪魔を作っているのかもしれない。

 

ここ最近、妙な出来事があった。被験体が己を『親父』と呼称してきた。だから何だと言うのか、これからも作業は進める。

 

 

13歳、打撃性の攻撃は完全に効かなくなった。被験体曰く、もう『痛みが感じなくなってきた気がする』との事。ほぼ毎日、様々な攻撃で身を削らせたからだろうか、身体が痛覚を失った様だ。だが好都合、これで実験のステージが一段階上がる事が出来る。

斬撃系の攻撃は4ヶ月前に時に比べると1時間30分も短縮し、1時間9分で完全に治る。素晴らしい変化、いや、進化だ。被験体は未だ成長を続け、現在180㎝を超えている。刺激ある日々と栄養食のお陰か、まだ伸びそうである。被験体の本質は【底なしの狂気】を軸に精神を保っているのだと判明。納得だ、その【狂気】が物作っている生命体が『榊サクタロウ』なのであろうなら、どんなに苦痛な事もその狂気で破壊してしまう。実に面白い話だ、これ程の実験を経験すれば常人なら自我を失うと云うのに、被験体は更に求めて強化を欲している。お陰で無駄な過程を挟まなくて済むので、本当に良いモルモットだ。

 

ある日、休憩日に被験体から【折り紙の手裏剣】を頂いた。理由を聞けば、どうやら『親父は手裏剣が似合いそうだぁ。あと、いつもの御礼なんだなぁ』との事。少し呆気に取られてしまった。己はいつも被験体に凄惨な実験を施しているのに、何故、こうも接しられるのか。余りにも不可思議で、少し不思議だ。

 

 

13歳~14歳、実験に失敗。更なる発見を前に出しゃばり過ぎてしまった。両耳の完全切断を行い、46秒で完全に再生できた成功例もあって、この実験は大失敗を喫した。右目を抉り再生するか調査したところ、中途半端に再生してしまい被験体が気持ち悪いと言って錯乱し、ナイフで自分の右目を幾度も傷付けてしまう。無論雑な斬り方だったので、再生も半端なモノになり、裂傷痕を残して右目は失明。これでは完全に実験が成功したとしても右目は再生出来ないかも知れない。だが、生存している限り問題はない。逆に言えばもう少し慎重に事を運ぶべきだったと反省できる。今回は互いに至らない部分があった。被験体の精神状態を疑うも全く意に介しておらず、左目が生きてるならOKと謳う。しかし面白い話だ。あんな弱々しかった幼子が、ここまでの狂気を孕んでいたとは……人間とは見ても分からない生物だと理解させられる。

 

被験体は最近、様々な自治区を周りたいと言っている。彼はD.U.の人気の無い場所で育った子供、他の者よりも濃い人生は送っているが、まだ13歳の幼子だ。流石にそろそろ外の空気を吸わせなければいけない時期かもしれない。1年と少し、過ごしてきたが……初めての願い事だった。偶には良いだろう、明日、己と共に百鬼夜行にでも出張るとしよう。

 

 

14歳、素晴らしい成果が得られた。指を反対方向に骨折させ、時間経過を待てば何と1秒も掛からず正常に戻った。加え、5本の指(両手合わせ10本)を一気に切断すれば、何と4秒で全て再生。この1年で一気に進化した。神秘の輝きも光と淀みのハイブリットが美しく照らしている。この変化は恐らく、外出を許可したからだろう。百鬼夜行を始めとし、山海經、ゲヘナ、ミレニアム、D.U.の都市地……かなり観光したからだろう。心境の変化で神秘の進化が得られた……実に興味深い。常に無を極めた能面の表情でいるので、何を考えているのか不明な()……感情は、果たして残っているのだろうか。そう確定できないのが、また不可思議性を博しており、興味深い。まるで別の生命体だ。

数日後、腕も試し7秒で再生。跡も無く、完全に傷が塞がっている。右足、太腿付近を爆破。中々傷口が複雑故、少し博打だったが難なく再生。日々年々、彼の進化が目覚ましいモノに成っている。契約満了まで残り約2年……こなして見せる。

 

 

14歳~15歳、そろそろ現場で戦闘技術を学ばせる。支配下に在る【カイザーPMC】の戦闘部隊に彼を試しに2ヶ月置いた。数週間後、彼の戦闘データが送られてきた心底驚いた。

 

 

 

▽────榊サクタロウ:データ分析書。

 

 

 

☆適正装備:リボルバー式の銃。拳銃。指弾。

 

☆戦闘技術:カイザー式武術を3日でマスター。カイザーの指揮官の目に留まり、特別に人間を破壊する為の技術である【古流武術】を教授させ、1ヶ月と7日で”免許皆伝”の偉業を達成。現代に至るまでこの期間で免許皆伝は史上初である。

 

☆任務での成果とその後:依頼は全て達成。失敗という失敗はしなかった。ただ一つ補足……身体中にダイナマイトを巻きつけ、そのまま敵対組織のアジトを自分ゴト大爆破させ全てを木っ端微塵にさせた。被害総額は果てが無いが、お釣りが来る総額で済んだ。榊サクタロウを探せばジュクジュクと肉体を再生させ、全裸で組織のボスの息の根を止める。余りにも壮絶で、凄惨。そんなやり方が多々あった。狂い過ぎておりカイザーの精鋭軍団が恐怖に陥る。我々の部隊では扱いきれないと判断。以降、榊サクタロウは単独での任務が多くなった。

 

etc.......

 

 

 

 

 

 

大まかに説明すれば、こんな所だ。眼を通せばかなり暴れているらしい。まだ顔は割れていないが、いずれ時間の問題か。だが良い刺激を頂いている様だ。思えば彼が居ないこの日々は少し静かで、何だか懐かしい気分に成る。久しぶりに手紙が届いた。彼曰く、もう少し技術と経験を磨きたいとの事。ならばもう数ヶ月与えよう。彼は天賦の際が

聞けば、今度は【アビドス砂漠で2週間生き残る訓練】をするとの事。アビドスと云えば己の研究対象である『小鳥遊ホシノ』の地元だ。先輩にあたる人間に『梔子ユメ』が居たが……今は良い。己の主な研究所も其処に在る……彼はD.U.に建てた研究所で住ませているが、もしかしたら会えるかもしれない。どんな顔付きに成ったか、少し楽しみだ。

 

しかし、気付けば2月……彼も、もう15歳だ。残り1ヶ月と少しで高校生のシーズン。

 

……一応、学校に行ってみたいか聞いてみる。それで色々と判断する。

 

戦地に赴いて今日で1年……たった1年でとんでもない速度で強く成った。やはり、如何なる理由が有ろうと実戦でしか人は強く成れないのだろう。神秘も非常に良い方向へと伸びて行った。残りの実験期間を踏まえても十分に時間を取れる。彼の戦闘データから臓腑の再生も可能と判断。脳、心臓の再生も可能だが少し補足。ここ辺りの部位はやはり人間最大の弱点故、再生が可能でも微妙に時間を有する。脳、33秒。心臓、12秒。仮に弱点を挙げるとするならば『頭部と心臓』だろう。因みに、脳が破壊され新しく脳を再生しても記憶は継続らしい。恐らく神秘の影響なのだろう、かなり良いデータが取れた。その他の部位は再生まで全て1秒も掛からない。再生の速度が尋常じゃ無く速い、何て才能の持ち主なのだろう……己は本物の悪魔を育ててしまったのだと真に理解した。

脳と心臓、この2つの部位が他の部位と変わらず、完全に再生が出来るとなれば、それは己の最終地点となる。傲慢にならず、契約満了まで最善を尽くす。

 

彼に学校の有無を聞いたところ、案の定、行きたいと発語。

止めるつもりはない。契約満了を果たせば4年前と同じ赤の他人。この1年は契約の内に入る為、学費は払う。聞けば、ゲヘナ学園に入りたいとの事。理由を聞けば、どうやら自由が大きな選択理由らしい。少し前まで【雷帝】が政権を握っていたが、地に堕ちた今、ゲヘナに興味が湧くのも頷ける。しかし………例えゲヘナであろうと、彼の【狂気】を受け止めるのは不可能だろう。文字通り粉骨砕身で戦闘するのだから、相手する者は一生のトラウマを持つ事になるだろう。カイザーでの依頼では、彼には『子供』に纏わるの案件は回していない。回していたのは【主要人の暗殺】や【密売の殲滅】などの汚れ仕事。古流武術が最善手となる案件だ、彼も成長の糧となっただろう。それに、彼の活躍もあり、私の懐も随分と温かくなった。いや、彼との思い出話を書いている場合ではない。一度、彼とはもう一度【人との接し方】を学ばせなければならない。上手くいくかは、己の腕次第か。

 

手続き共に、被験体の入学が決まった。ゲヘナ学園の1年生として、これから生活していく。

どうやら委員会に入ったようだ。しかも【ゲヘナ風紀委員会】……中々面白いチームに入ったらしい。どうやら、同じ学年の『銀鏡イオリ』と奇跡的に仲良くなったらしく、そのまま流れで~…との事。しかし前線に立つ時に【不死身の肉体】を露点させる訳にはいかないので、十分に注意を入れた。彼の肉体の強化は銃弾をギリギリ弾くも、その身は他と比べ脆い。不意な爆破でない限り注意を払い楽しむ事を約束させた。

 

かなり暴れてるらしい。不死身はバレていないが、どうやら次期【風紀委員長候補】の『空崎ヒナ』に彼の”古流武術”がバレ、前線ではなく単独での”隠密捜査”に抜擢されたらしい。彼の得意分野を直ぐに発見するとは、空崎ヒナ……かなりの切れ者らしい。そんな中で、彼の活躍は目を見張るモノだった。元々”隠密”が得手だった彼は、指名手配犯や敵のアジトの居場所の特定など、組織の『縁の下の力持ち』的な立ち位置で収まっているらしい。所謂ハブだ。前線には立たなくて良い事は、己としても、有難い話だった。

 

聞けば、高校一年生の生活下で、随分と大きな騒動を起こしたらしい。何やら次期【ティーパーティー候補】である『聖園ミカ』の顔面に向かってイカ墨入りの風船(破裂用)をお見舞いしたとか。理由を聞けば……『トリニティに遊びに行ったら、ゲヘナって理由で何かイチャモン付けられた。別にムカつかなかったけど、友達に作って貰ったお弁当の悪口も言われたから仕返しした。それだけだ。あ?めっちゃ逃げた。あと親父、お菓子買ってきた。一緒に食おう』……との事。随分と随分だ。だが楽しんでいるのならそれで良い。

 

……ゲヘナとトリニティで少々小競り合いがあった理由が判明した。まぁ、そこは後で対応するとしよう。

 

 

15~16歳……斬撃による頭部の再生、3秒。心臓の再生、1秒。爆破による再生は全ての部位で3秒。弾撃、斬撃と同様の時間帯。右目、予想していた通り治癒は不可能、完全失明。歳、不死身なだけで歳は取る。他の人間と遜色は無し。だがそこで、体調の変化は現れた。どうやら痛覚に続き【味覚】も無くなったと聞く。不死身になると味覚も死ぬのか、更なる研究が必要だ。

 

数ヶ月の月日が経って、彼は普通の生活を送っていると聞く。ただ日に日に感情を失っている・元々足りてなかった人間味が完全に消え失せた様だ。痛覚を失い、味覚すら失うと人と云うのは人間性が欠如するのだろう。良い研究データが取れた。

 

────実験は大成功。4ヶ月の猶予を残し、己の4年は幕を閉じた。

 

思い返せば、とんでもない費用を使った。しかしどれもこれも全て使い切って見せた。無駄ではなかった。己の研究成果の完成品が出来上がった。今は只、それが嬉しい。

 

榊サクタロウの神秘…【再生】の更に上位互換である【不死身】の肉体の完成。代償は痛覚と右目、易いものだろう。これだけの代償でこれ程の輝きが作れた。研究者として、冥利に尽きるもの。

 

しかし、これにて契約は満了だ。この肉体、是非とも我が手に……そう、思っていたのですが、何故か私は彼にこう言った。

 

 

 

『これからもゲヘナで過ごしますか?それとも、私の下で働きますか?』

 

 

 

私は選択肢を与えた。余りにも、余りにも私らしくない。

数秒の間、彼はこう言った。

 

 

 

『いや、これからの人生はゲヘナで過ごしたい。よく分かんねぇデータは手に入ったんだろ?もう俺は必要ない筈だ』

『……』

『弱い俺はもう居ない。何でもかんでも従う訳じゃない。もう、放っておいてくれ』

 

 

 

当然の解答だった。気でも狂ったのか、この私が、子供相手にこんな選択肢を用意するなんて……聊か信じられない。

 

そう思っていた時だった、彼と私は、こんな会話をした。

 

 

 

『親父、俺はさ────これでも親父には感謝してる。最初の頃は拷問紛いな実験内容で苦痛の連続で死にたくなったけど、それでも、親父は俺に居住食を提供してくれた。話し相手になってくれた。色んな場所に連れてってくれた。そんで……約束通り【強く】してくれた。ありがとうな』

『サクタロウさん………』

『契約は満了。これで親父との生活は終わり……ここからは、自由に生きさせてほしい。親父に言われるがままに戦った。悪人も殺して、色んな組織も壊して来た。カイザーにも親父にもお金は入ったんだろ?』

『ククッ、たんまりと入りましたよ。想像以上にね』

『じゃあ、それがお礼だな。俺は俺だ、親父のじゃないからな。また連絡する間柄が一番丁度いいだろ、なぁ親父』

『……どうぞお好きなように。私は、いつでも貴方の事を待っています』

『そうかぁうん、そうだよな……じゃあ行くわ親父。また、会おうな────』

『えぇ……………達者で、サクタロウ』

 

 

 

こうして書いてみれば、何ともまぁ……絆されたものです。この私が。

 

………絆されたのは、私だけなのでしょう。彼からすれば表面上の『親』の存在なのでしょうね、私は。

 

彼の心は既に狂気に呑まれている。”榊サクタロウ”と云う自我を保つだけ為に、彼は闇に堕ちてしまった。暗殺も外道のみに絞って執行させたのですが、やはり、更に拍車を掛ける行為になってしまった。表面上だけでも愛情を注げば、また違った結果があったのでしょうか。

 

────愛を知らぬ子供……4年の拘束から解き放たれた悪魔は、どう自由に生きるのでしょうか。

 

ククッ……しかし、この調査データも振り返れば、途中から私情が入ってしまった。悪に立ち真面目が取り柄の私が、恥ずかしい限りですね。

 

しかし、親父…親父ですか……ククッ、全く彼は、本当に搔き乱してくれましたね。あんな実験をして尚、私を親父呼ばわりですか………あの子は正真正銘の【狂人】ですね。しかし、そう呼ぶにはどこかほうっておけない一面もある……なんでしょうねぇ、この、感情は……親にでもなった気分です。

 

しかし、彼には不要な感情でしょう。彼は文字通り強く成った。神秘を最大値まで進化させ、身体能力向上の実験も行い成功、戦闘技術も全てを極限まで鍛え上げた。やろうと思えば自爆技も容易に可能な彼なら大いに問題なく生きていける。

 

これを機に、私も少し休みを取り、そして────常に勧誘していた【暁のホルス】に更に力を入れるとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

……結局、彼は手に入らなかった。確保できたのはデータのみ。亡くした筈の感情を生んでしまった、私の敗因且つ責任ですね。それ等を踏まえ────実験は失敗です。

 

 

 

▽調査ノート:終

 

 

 

 

 

 

 

☆────そして時は流れ……ゲヘナ学園。

 

 

 

 

 

 

 

「────()()さん、これを受け取ってほしい」

「は?……冗談にしては面白くないわね」

「いや冗談じゃない。色々と熟考の日々を重ねて得た答えだ」

 

 

 

ゲヘナ学園、その治安維持組織に値する【ゲヘナ風紀委員会】の委員長室で、一つの幕劇が始まっていた。

 

その内容は、サクタロウによる風紀委員会【引退】だ。それは、現風紀委員長である『空崎ヒナ』にとって、筆舌に尽くし難い内容だった。

 

 

 

「……具体的な理由を言いなさい」

「俺にとって、この風紀委員会は成長の糧となった場所だ。空崎さんに風紀委員会の在り方を教わり、銀鏡に誘われ良い下道を送り、天雨さんに愛の鞭を打たれ、火宮に人の応急手当を学んだ。そう……俺にとって、本当に良い風紀委員での1年に成った。空崎さんに【隠密捜査】や【破壊工作】の仕事を頂けたのも、役割があって良かったって思ってる。こんな俺でも、組織の役には立てたんだと思えたからな」

「なら……」

「だからこそ、もう俺は良いかなって思ってる。十分組織に貢献できた、隠密捜査部隊や前線部隊に俺の隠密技巧や戦闘技術も伝授した。委員も日々強く成ってる……もう俺が居なくともいい筈だ。それに、トリニティでのやらかしが尾を引いてる。最後にティーパーティーの『聖園ミカ』に謝罪をして引退したい。これが主な理由だ」

 

 

 

ヒナは呆気に取られるも、彼の具体的な理由を聞いて……納得の意を飲み込んだ。

しかし、少し気持ちの整理が欲しい。まさか風紀委員会の全体を繋ぐ、正にハブ(中心)の役割を果たす部下が辞めると来た。正直に言えば……己の権限を用いてでも辞めさせたくはない人材だ。

 

真面目で、無遅刻無欠勤。夜を跨ぐ書類作業では全く寝ずに手伝ってくれた事もあった。ヒナは最長4日は寝てない日があったが、彼はそれを凌ぐ10日間寝ずに万魔殿の追い作業をこなして見せた実績もある。万魔殿との交流も地味にこなす、縁の下の力持ちの完成系と云って差し支えない。

 

 

 

「私が明確に《NO》と云ったら、諦めてくれるのかしら?」

「そういう性格じゃないだろう。それこそ、あんたはもう3年生だ。俺よりも引退の理由を考えている筈。違うか?」

「……いつから、私の意向を?」

「大きな理由はないさ。ただ、エデン条約の締結は、かなり大まかに言えばゲヘナとトリニティの【同盟】と云える。それは互いの治安維持組織の支え合いだ。あんたの負担も減るだろ?引退を考えるならこの時期だろうって考えただけだ」

「……まぁ、そうね。それを否定するつもりは無いわ……………もう少し、もう少しだけ、私達と一緒に頑張ってみない?」

 

 

 

ここで彼を失うのはかなり痛い。いや、痛いどころえはすまない。

 

だが…………彼にも、己にも言えない大きな訳があって、こんな事をしているのだろう。

 

それに────

 

 

 

「────勘弁してくれ。やり残した事はもう無いからこう話しているんだろう……俺なんかが居なくとも、あんた達は十分に繋げれる。辞めさせてくれ」

「………そう」

 

 

 

彼の心は、もう此処には無い。

 

 

 

「分かった。この辞表を受理するわ」

「それはつまり、引退を認めてくれるのか?」

「そうね……でもね、本当は辞めないでほしいの。貴方は次期”副委員長”の座に相応しい人間だから。いずれ風紀委員長になる『イオリ』の右腕になる、そう思っていたからね」

「買い被り過ぎだ。それに俺が居なくとも銀鏡は大丈夫だ。あの子は才能もそうだが努力の化身だ。、まだ粗削りだから、あんたが強くしてやってくれ」

 

 

 

無論止めたい気持ちはある。だが、彼の意を否定するのは違う。

 

……サクタロウはもう、風紀(正義)の心を返却している。

 

そう感じてしまったから、後は早かった。

 

 

 

「じゃあ、明日から貴方は普通の学生よ。ティーパーティーには……別に行かなくて良いわ。今ゲヘナとトリニティは【エデン条約】の件でかなりピリピリしている。余計な刺激はしない方が吉ね」

「そうか、分かった。世話に成った」

「……えぇ。出来るなら、あの子達にも挨拶は済ませて於きなさい。もう少し感情も込めてね」

「あぁ、善処する。今までありがとう。達者でな」

 

 

 

そう言い残し、サクタロウは風紀委員長室を出て行った。

 

室内に残ったのは辞表のみ。特段綺麗と云う訳でもない筆で書かれた辞表は、正に彼の心情を顕わしている様だった。

 

 

 

「……私達じゃ、あの子の心を絆せれなかったのね」

 

 

 

ヒナは彼の本質を理解していた。

 

榊サクタロウの心は、まるで何もないかの様に、空っぽだった。

感情がまるで無く、しかし、その空白の心情の中に底の無い狂気がある。

その狂気は彼の本質だ。だが、それを完璧に抑え込んでいる。表面の彼は空っぽのもう一人なのだ。

 

どちらも彼で、どちらも彼ではない……かと言って二重人格ではない、別のナニか。

 

ヒナは少しでも、彼が感情を……人間味の回復を祈願した。だが……それは叶わなかった。

 

 

 

「榊サクタロウ……突如としてゲヘナ学園の1年生として入学した、キヴォトス史上初の男子生徒。今まで何処に居たのか、何処の出身なのか、全くの謎……分かっているのは、彼が何かしらの【事故】で右目を無くしている事。ゲヘナの情報網でも分からない彼の過去……きっと、そこに答えがある筈なんだけど」

 

 

 

そう思って、何度行動に移した事か。やれるものならやっているのだ。

だが、それでも尚、彼の履歴は判明できなかった。謎だらけの生徒だった。

 

 

 

”ピロンッ”

 

 

 

「ん?通知………あ………はぁ、何となく予想してたけど、そうくるのね」

 

 

 

思いに耽っていると、モモトークの通知が届いた。

スマホを開いてみてみれば……サクタロウが、風紀委員会の全体連絡網用のグループに、こう発信していたのだ。

 

 

 

サクタロウ:〈お疲れ様です。失礼します。2年の榊サクタロウです。今日を持ちまして、私ことサクタロウは風紀委員会を引退します。空崎ヒナ委員長には許可を得ているので、本当の話です。私のお仕事は全て終わらせているのでご安心ください。私の破壊工作や隠密技巧はノートで纏めてあるので参考に何時でもご確認下さい。今まで、ありがとう御座いました。失礼します。〉

 

天雨アコ :〈は?〉

火宮チナツ:〈え?〉

銀鏡イオリ:〈サクタロウ、嘘だよな?〉

 

サクタロウ:〈噓ではありません。皆さん、私が教えた技術はきっと役に立つと思います。それと、今日に至るまで皆さんには色々と御迷惑をおかけしてしまい、申し訳御座いませんでした。ありがとう御座いました。〉

 

 

※サクタロウがグループから退室しました。

 

 

天雨アコ :〈は?は?抜けた??〉

モブA子 :〈なにこれ、マジですか?〉

モブB子 :〈サクタロウ先輩?〉

銀鏡イオリ:〈サクタロウ、嘘だよな!?〉

火宮チナツ:〈か、確認を急ぎます!〉

 

 

 

サクタロウは何と、モモトークの風紀委員会のグループで別れを告げた。

色んな子達が慌ただしく文字を打ってどういう事なのか確認している。

 

 

 

何と云うか、こう……あの子は人の心を知らなすぎる。

 

 

 

「はぁ……それは駄目よ、サクタロウ」

 

 

 

居ない者に、思わず溜息が漏れる。

この感じだと、数十秒も経てばこの部屋に何人か来るであろう……対応、出来るだろうか。

 

 

────あの子に”心”を与える者は、いるのか……。

 

 

そんな絶望に等しい彼の事を思い、ヒナはそっとスマホを仕舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……通知が凄いな。一旦切っとくか」

 

 

 

初めまして、で良いのか。

皆さんどうも。俺は榊サクタロウ、ゲヘナ学園の2年で、さっきまで風紀委員だった人だ。

 

俺が辞めた理由はもう分かっていると思う。ただ一つ補足するとなれば……何て言うか、()()()()()()()()()()()()()んだ。

 

あの組織は常に多忙で、かなり危険が伴う場所だ。

だからこそ、チームワークが必要になる。そんな中、最初の頃の俺は……上手く馴染めなかった。

 

それはそうだろう、チームワークがベースなのに、単独で動く人間が馴染めないなんて当たり前だ。

 

銀鏡、火宮、天雨さんはそんな俺を心配していた。孤立していたからな、優しい人達だった。気を利かせてくれた空崎さんが隠密の任務を与えてくれた。

それで何とか役には立てた。色んな人にも評価されたし、感謝もされた。

 

でも、なんでか分からないけど……嬉しいと思えなかった。達成感も無かった。

 

物事に辛いって思った事は一度も無い。以前まではカイザーの下で色んな事をした方が、まだ何か思う事があった。

この身体になってから、随分と無茶をした。それこそ身を削る思いで風紀委員会に尽くしてきた。万魔殿の無茶ぶりも何とかこなしてきた。『丹花イブキ』という子のお陰で給食部の予算も大幅に改善出来たと思う。

 

 

 

「(────なんで、俺は生きているんだろう)」

 

 

 

ふと、そう思った。この身体になって、初めて思ってしまった現実。

 

俺は強さを求めた。なんでか、それは【弱いのは罪】だと思っていたからだ。

 

ガキの頃から、俺は虐げられる立場の人間だった。何にも出来なかった。親は殴りに来て暴言を満遍なく吐き散らす。孤児院の子供達は子供特有の悪質なイジメで俺を追い込んだ。俺が貧弱で、たった一人の男の子って理由でだ。

 

当時は、それはそれはフラストレーションが溜まっていた。黒服の親父に遭わなければ、今の俺は居ない。

 

……どんな事も耐えて見せた。いつか復讐してやるって気概で、14かな……その年齢までずっと頑張った記憶はある。

 

でも────いつの日か、全てが【どうでもよく】なってしまった。

 

痛覚が無くなってから?

味覚が分からなくなってから?

死なない身体になってから?

 

……人間には、無くちゃならないモンだったんだ。

 

だが、後悔はない。黒服の親父には感謝している。これは、本当だ。

 

 

 

「皮肉だよな。外道とはいえ人を殺した俺が、警察組織で成長なんざ烏滸がましい」

 

 

 

あの人たちには確かに感謝している。だからこそ、俺はあんな良い場所に居てはいけないんだと理解した。結局俺は裏社会でしか生きれないのかも知れない、そう勘ぐってしまう。

 

それに、俺には分かる。評価されていたとはいえ、あの4人組(ヒナ、アコ、イオリ、チナツ)意外、全員俺を恐れていた。いや、本質的にはあの人達も不気味がっていた気がする。あの人たちも10代の女の子だ、男と云うモノに慣れていない。

 

それ等すべては必然だった。俺は表情が全く動かない。眼付も最悪に悪い上、男で身長も高い。

 

怖がられて当たり前の人間だ。人って言うのは、読めない人間には大小恐怖を抱く者だ。

でも別に良かった。どうでもよかった。怖がられるのは慣れていた。大人ですら、俺を恐ろしい目で見ていた。

 

 

 

「────これからどうするか。やる事が無いな」

 

 

 

ここで一つ想いに耽る。さて何をするべきか、俺は何をすれば良いのか、やる事が無くなったから暇になった。

 

ふっと、通知に目をやる。すると珍しく『空崎ヒナ』の名前が挙がっていた。

 

見ると………〈ゲヘナ中で貴方の捜索が始まったわ。止めたんだけど、私としてはあのやり方はよくないと思ったからスルーした。万魔殿も動いてるみたいだから、暫くは身柄を隠す事ね〉

 

 

との事。なんで俺を探すのか、俺はもう風紀委員会じゃない。ただの学生だ。

 

しかし……空崎さんの言う事は100信じられる。

暫く学校には行かないでおこう。何処かに行くのもアリだ。

 

 

 

「そうだな……此処じゃアレだ、久しぶりに地元に帰ってみるか。今日も平和なんだろうけど」

 

 

 

想いだったが吉、俺はそのまま駅に向かい、地元である【D.U.】に向かった。

 

此処から少し掛かるが、遠くはない。4ヶ月ぶりか、長い様で短いな。

 

 

 

そして、俺は電車で数時間……D.U.の外校区域に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────D.U.とある場所。

 

 

 

「……知らない店が増えてる。日々変わる事は変わらないんだな」

 

 

 

久しぶりに帰ってきたら、何ともまぁ、大きな変化だらけだ。

ここはかなり商売の競合が激しい区域だった。特に美容や食事系はそれが激しい。立地やら物価やら、色々と懐に優しいし客も良い人が多い。それに犯罪も少ないから治安も良い。商売するには持ってこいの場所だ。

 

 

 

「(思い返せば、俺ってこんな場所で生まれたのに、まさか過ぎる人生送ってたんだな)」

 

 

 

平和の中にも不穏はある。中々、悲しい話だ。

だが今と成ればどうでもいい話だ。さて、何か買おうか……。

 

 

 

「────!……!!」

「────!?…!……っ」

「!!?────ぇ……ひぃ…!」

「ん?なんだ?」

 

 

 

少し離れの公園、確か【子ウサギ公園】だったか。

そこ辺りから怒声らしき話し声が聞こえる。荒々しい物言いだろうか、考察するに不良の類だろう。

しかし喧嘩といった訳ではない。となると……恐喝か。

 

 

 

「………もう、関係ないと思うんだがな」

 

 

 

これで、最後にしよう。俺の風紀委員として、最後の仕事だ。

 

俺は駆け足で現場に駆け付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆○○○side。

 

 

 

 

 

「────おいおいシスターさんよ!!こんな所でなぁにしてんだぁ?」

「え、えっと……少し休憩を……」

「日向ぼっこか?今日は良い天気だもんなぁ!」

「ってかコイツ可愛くね?どうするよ、あたしらで回す?ぎゃはははははは!」

「あは!いいねぇ!金目のモンとってちょっと遊ぶかぁ!?」

「あう、ううぅ………」

 

 

 

皆さん、こんにちは。私はトリニティ総合学園1年、シスターフッド所属の『伊落マリー』と申します。

今日も平和と安寧が皆さんの元に訪れますように…………私の元には今日は訪れなかったようですが。

 

その、いま私はヤンチャな方々から声を掛けられたと思ったら、凄い事をされそうになっています。

服装から見るに、どこかのヘルメット団だと推測できるのですが……4人が相手だと逃げるのも難しそうです。

 

今日はD.U.までお悩みの相談をお受け致しましたので、先程お伺いして、何とか解決に導けた次第で御座います。シスターとして、偉大なる第一歩です。

 

そんな中、少しの小休憩を子ウサギ公園でとっていた最中の事です……この人達に絡まれてしまいました。

 

 

 

「あの、どうか思い留まって頂けませんか?この様な事をせずとも、心優しい皆さまなら、きっと……」

「うるせぇな!!!御説教はウンザリなんだわな!!あたし等は優しいって言葉の一番遠い位置に居る!」

「シスターさんがべらべらと喋っても響かねぇんだな~これが!」

「あんたトリニティの生徒だろ?ならたんまりと金もってんだろ~!?」

「ってか早く遊ばせろよシスターちゃぁ~ん!金目のモン取った後に服も取るからね~!」

「へ?あ、ちょっ……きゃっ!」

 

 

 

”ドサッ!”

 

 

 

痺れを切らした一人のヘルメット団が、ベンチに座っていた私を引き下ろしました。そしてそのまま、マウンティングの姿勢を取られます。

力じゃ全然かないません。ど、どうしましょう……っ!

此処は声を張って、叫んで救援を────!?

 

 

 

「むぐ!?ん、んぐぅぅ…っ!」

「おっと!叫ぶのは無しで頼むぜシスターちゃぁん。ヴァルキューレの犬共に邪魔されちゃ萎えちまうからな~!」

「むぐぅ?!ん、んぅぅぅ……!」

「お前ってそういう女の子ホント好きよな」

「うわー、同じ女でよくやるよなオメー」

「レズビアンの否定はイマドキ流行らないわよ~!!」

「レイプ魔がなに抜かしとんじゃ」

「おー見ろよコイツの財布の中!意外と無いがそれなりに入ってるぜ!」

「むぎゅ!む、んぅぅ!!ん、んん!!」

 

 

 

どうしましょうどうしましょうどうしましょう!!

手で口を覆われて!ち、力が、上手く入らなくて……何も出来ないです…!

 

それに、さっきの発言……い、いやです。こんなの、いやぁ…!

 

助けを呼べない、あぁ…神よ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────D.U.名物、コーギータウン膝蹴り」

「は?…────ぶおっ!!?」

「ひゃっ…!」

 

 

 

バキィッ!と…何かが弾ける音と共に、私の拘束が解けました。

少しはだけてしまった礼装を、急いで着直します。

お日様の上なのに、影……どなたかが、助けてくれたのでしょうか?

 

 

 

「なんだテメ……ぇ………はぁ!?」

「な、なんでテメェが此処に!?」

「あび、おっ………………あふん」

「あー!トンだ!クッソ、んの野郎ッ……【ゲヘナの狂人】が何すんだ!」

「気まぐれだ。悪い事は言わないから、回れ右してもう帰れ」

「なん、なんだと!?」

「あ、あれ!?財布が……」

「シスターさんのだろ。返して貰った」

「い、いつのまに……」

 

 

 

この声…かなり低い。男性?でしょうか。

私は視線を下から上にゆっくりと向けます。其処には………大きな男性が立って居ました。

 

 

 

「直にヴァルキューレも来る、それに俺はゲヘナの”元”風紀委員だ。分が悪いんじゃないか?」

「クッ……」

「……くそ!おい!ずらかるぞ!」

「わ、分かった!」

「おい起きろレイプ魔!くそ、地味に重いな…!」

「あへぇ~…………」

 

 

 

”ダダダダダ………”

 

 

 

複数の足音を響かせ、遠くの方へと去って行くヘルメット団の方々。

4人組が見えなくなるまで、この方はずっと見ていました……そして、視認不可能な位置に成った瞬間、緊張を解いた様に溜息を吐きました。

 

 

 

「────ふぅ……これ財布だ。体調は大丈夫か」

「は、はい!本当にありがとう御座います!お陰で怪我もなく過ごせました」

「そうか、立てるか?」

「はい、大丈夫です」

「ならいい。此処も最近は治安の悪化が見られる。あとヴァルキューレは大嘘だ、増援は来ない。帰り道は十分に注意を払う様にな、じゃあ、気を付けて」

 

 

 

彼が私の体調面等の確認を施して下さります。

でも私が御礼を提示させようとした瞬間、彼はそのまま後ろを向いて去ろうとします。

それは、流石に、神に仕えるシスターの端くれとして認められません!

 

 

 

「す、少しお待ちを!」

「なんだ」

「その、お時間を下さいませんか?御礼をしたくて……」

「悪い事は言わない。俺には関わるな、御礼だったら何も要らないぞ」

「そ、そんなっ……!」

「さっきも言ったが、あんたを助けたのは只の気まぐれだ。何も褒められる様な事じゃない」

「そんな事ありません!とても、とっても勇気ある行動です!誰もが出来る事じゃないので、貴方が取ってくれた行動は少し暴力的ですが、大変に素敵な事です!」

「……そうか。じゃあ、そう思ってくれただけで十分だ。じゃあな」

 

 

 

適当に言い包められ、また行ってしまいそうです。

ど、どうしましょう!もう大分距離が遠くに……なにか、もう少し良い形で御礼を返したいのに……!

 

……ッ!そうです!

 

 

 

「────明日!」

「ん?」

「明日の明朝9時に!また此処で待っています!なので、その!お時間があれば、来てください!」

「………」

「あ!それと、私トリニティ総合学園の『伊落マリー』と申します!」

 

 

 

失礼この上ないお願い……でも、これしかありません。

 

シスターとしてあるまじき行為……でも、今回だけ、今回だけなのでぇ…。

 

 

 

「────そうか」

「っ!」

 

 

 

それだけ告げ、彼は去ってしまいました。

 

了承を得たのでしょうか、それとも、ただ返事を返しただけなのでしょうか……。

 

 

 

「────待っています。何時でも」

 

 

 

受けた恩は必ず返す。シスターの流儀です。

 

私は去って行った彼を見送りながら、その場を後にしました。

電車に乗り、揺られながら思案に暮れ、トリニティの大聖堂に着いてお仕事を終え、御礼品を買い……今日はそのまま帰宅しました。

 

明日……あの方は、来て下さるでしょうか。ゲヘナ学園【風紀委員会】破壊工作のエースとして恐れられている……『榊サクタロウ』さんは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□────次の日、8時。

 

 

 

朝の5時に起きて、ソワソワして、結局指定時間の1時間前に着いてしまいました。

この時間帯になると、本当に誰も居ませんね……穏やかな時間帯なのでしょう、この日がずっと続きますように。

 

……それにしても、どうしましょう。ベンチで座って待っていますが、あの人が来るのかも分かりません。何時までも待つ自身ではありますが、今日も大聖堂でお仕事はあります。一応『サクラコ様』には許可を頂いて席を外しておりますが……何だか申し訳が立ちませんね。

 

 

 

「……ふぅ、来てくれますでしょうか」

「あぁ、来たぞ」

「へ………はいぃぃぃぃやっっ!?」

 

 

 

後ろから声を掛けられ、変な声が出てしまいました…!

油断してました。本当にびっくりしました……。

 

私は驚きながらも後ろに振り向くと、何とそこには……彼の姿が在りました。

 

 

 

「大丈夫か?面白すぎる声してたが」

「だ、大丈夫です!お気に為さらず……!」

「そうか」

 

 

 

恥ずかしい……で、ですが!来て下さいました!

 

 

 

「その、お早いのですね。まだ1時間前なのに」

「それはあんたもだろ。俺は真面目だから、こうして早く着いちまったんだ」

「な、なるほど……」

「そんで、来たが何をすればいいんだ?」

「あ、えっと……これ!お受け取り下さいませんか?」

 

 

 

私は手に持っていたトリニティ産の菓子袋を彼に向けました。

トリニティでも中々な額のお菓子類です。これで御礼になるかは分かりませんが、せめてもの感謝の念です。

 

 

 

「────……………これ、凄く高かっただろ。こんな高級品、俺なんかが貰っちゃ悪い」

「そ、そんな事ありません!昨日、貴方に助けられた事はどんなモノよりも価値がありました。私如きではこの程度しか御礼が思い浮かばなくて、恥ずかしい限りなのですが……その、貴方に最大限の感謝を込めて持ってきた代物です!」

「………そうなんだな。そんなにも思ってくれてたんだな。分かった、じゃあ、頂いても良いか?」

「は、はい!ありがとう御座います!」

 

 

 

彼は菓子袋を受け取って下さいました!なんて良い御方なのでしょう……。

 

私の心が温かくなると同時、彼が……一言、告げました。

 

 

 

「なぁ、お前は……伊落は俺の事知ってんのか?」

「え?」

 

 

 

口調が少し荒くなって、自分が誰なのかを聞いてきたのです。

 

私は……実は彼の事を知っています。トリニティじゃ有名ですから。

 

 

 

「知って、ます。ゲヘナ学園風紀委員会の『榊サクタロウ』さん……ですよね?」

「なんだ、知ってるのか。トリニティじゃ最悪の評判なんだろ」

「それは……」

「隠さなくて良い。俺でも分かりきっている事だ、トリニティでのやらかしは今でも偶に話題に上がっていると」

「……はい」

 

 

 

雰囲気が、圧が重い感じです。なんででしょうか……何か、失礼を働いてしまったのでしょうか……。

 

 

 

「お前さ────俺のこと怖くねーの」

「え、こ、怖い…?」

「評判でも聞いてんなら、大体は俺の事知ってんだろ。次期ティーパーティーの女に喧嘩売る人間だぞ。それに、この様相だ。ゲヘナでも一部を除いて怖がられていた。終いには【狂人】扱いだ」

「………」

「なんでお前はそこまで俺に構う。昨日の出来事はキヴォトスじゃ珍しくもないだろ。感謝して、終わりだ。しかもトリニティの女が、ゲヘナの男に怖がらないなんざどんな冗談だ?」

「その、何と言いますか────怖くないですよ?」

「あ?」

 

 

 

彼は自分の雰囲気が他の方々に恐怖を抱かせていると思っているみたいです。

正直に言えば、分からなくはない事です。2m近い身長に、右目には深い切り傷に閉じた瞳。能面の様に動かない表情筋に、感情が無い残された左目。

 

分かる、分かります……他の方々が彼を怖がる理由は、読めないから。でも、そんなので、私が彼を怖がる理由には事足り得ません。

 

 

 

「私が貴方を怖がるなど有り得ません。サクタロウさん、貴方は少し感情を表に出すのが苦手なだけで、本当は誰かの為に動ける優しい御人だと私は知っています。だって、昨日私を何の理由もなく助けてくれたではありませんか」

「言っただろ、只の気まぐれだ」

「例えそれが気まぐれでも、そこには確かな優しさの心を…私は感じましたよ」

「……こころ」

 

 

 

少し、彼の残された瞳孔が開かれました。

 

 

 

「……俺の心は、空っぽだぞ」

「そう思っているだけです。貴方には、とても温かい心をお持ちです」

「…………そんなこと、ありえるのか」

 

 

 

サクタロウさんは、左手を胸に当て、無表情のまま呟きます。

 

きっと、いえ……間違いなく彼には何か抱えているモノがあります。

その瞳、その顔……私なんかでも、分かります。

 

 

 

「……伊落、マリーと云ったな」

「え?あ、はい」

「────俺を怖がらない人には数人あったが、そんな言葉をくれた人は……あんたが初めてだ」

「そうなのですか?いえ、私は本当に思った事を言っただけなので……」

「いや、それの方が寧ろ嬉しいよ。ありがとう……口調荒くしてすまない、アレが本来の俺だと思うんだ。気を楽にした俺、と云えば良いのか…」

「そうなのですね。では、先程の話し方で構いませんよ。貴方が楽なやり方で私に接して下さい」

「……そうだな。そう、するよ」

 

 

 

彼はベンチに座り、ふぅ……と、一息つきます。

私は彼の様子をジッと見ていると、彼は『お前も座れよ』と言ってくれました。御厚意に甘え、隣に失礼します。

 

 

 

「ゲヘナとトリニティの生徒が同じベンチに座る、か……歴史上でも中々ない光景だな」

「そうですね……両校の関係は古来から芳しい仲ではなかったので、仕方ないのかもしれません」

「だな……だが、それもエデン条約が締結されれば普通になる。俺からすれば願ったり叶ったりだ、差別や嫌悪なんざ下らねぇ。仲良くしろとは言わないが、傷付けあっては欲しくないからな」

「サクタロウさんも、そういう御考えなのですね。私も同じです……例え犬猿の間柄であろうも、同じ人間ですから」

「そうだな……同じ、人間だ」

 

 

 

彼もゲヘナとトリニティの関係には少し思う所があるようです。

そのどれも、平和と安寧を願っている素敵な言葉の数々。こんなにも優しいのに……きっと、怖がる人は彼の中身を見ていないのでしょう。

 

……あれ、でも。

 

 

 

「その、一つお聞きしても大丈夫ですか?」

「なんだ」

「とても素敵な想いだとは理解出来たのですが……それでは何故、1年前に『聖園ミカ様』にあのような事を……?」

「……一応、理由はあるんだが、信じてくれるか?」

「勿論です!信じます」

 

 

 

やはり何か語られていない裏話があったのでしょう。

 

私はもう一度背筋を伸ばし、傍聴します。

 

 

 

「────当時の俺は、言っちまえば世間知らずだった。ゲヘナとトリニティの関係はただ仲が悪いだけって認識だった。だからゲヘナ学園の服装でそのままトリニティの自治区を悠然と散歩していたんだ。そん時は色んな自治区に行って旅をするのが好きだった。だが本格的に風紀委員会や別件の用事に手を入れなきゃいけなかったから、最後にトリニティを選んだ訳だ」

「はい………(あれ、普通に良い事では……?)」

「そんな時、お昼になって近くの公園のベンチで弁当を食ってたら、妙な連中に絡まれたんだ。それが聖園ミカと側近の人達だった。聖園ミカは御存じの通り【ゲヘナ嫌い】で有名だ。大方、電車で移動して向かってきていた俺を権限とかで聴き出したんだろう、ネチネチと絶妙に火力のある口撃をいきなり喰らった。やれ『下賤で汚らわしい』だの『息をするだけで人に害を齎す』、『早く消え失せてくれない?神聖なトリニティが汚れるから』だの、俺すらも思いつかないような悪口を言われたな、衝撃的過ぎて覚えてるもん」

「あ、あぁぁ…………(ミカ様……なんてことを……)」

 

 

 

此処だけ聞けば、100%ミカ様が悪いですね……ですがあの御方は今や現ティーパーティーのトップ。

私如きでは、何も言えません……。

 

 

 

「まぁ別に、其処までは良かったんだが」

「良くないんですけどね……」

「絡まれてる最中でも俺は弁当を食ってたんだ。そん時はまだ飯を食うのが好きだったから、邪魔されるのが少し嫌だったけど、話を聞きながら問いには答えてたんだ。でも────流石に見逃せない事をされたんだ。聖園ミカが俺の弁当を蹴り上げて、床にぶちまけたんだ」

「えっ………」

 

 

 

それは、明らかにやり過ぎた内容でした。

いや、元々……ただ観光していただけのサクタロウさんに、どうして其処までやれるのですか。

 

 

 

「その弁当は俺の……義理の親父が作ってくれた弁当だった。クズだったけど、俺を育ててくれた人でもあるから、俺は好きだったんだと思う。だから、親父が作ってくれた弁当を無碍に扱われて、凄く悲しい気持ちに成ったんだ。だから、破壊工作用に持っていた【イカ墨入りの水風船】を聖園ミカにぶつけて逃げたんだ」

 

 

 

知られざる、語られる事の無かった話。

彼が嘘を言っている様には全く見えません。これは被害を被った、彼だからこそ言える本当の話。事実なのです。

 

気付けば、私は────彼に向かい、頭を下げていました。

 

 

 

「………私達のトップが、本当に申し訳御座いませんでした…っ」

「いやいや、何でお前が謝るんだよ。これは聖園ミカも悪ければ、やっちまった俺も悪い話だ。お前が謝る必要はないだろ」

「でも、それでも、きっかけは我々トリニティなので………私が代表して謝らなければ、貴方に会わせる顔がありません……っ」

「な、泣くなよ。大丈夫だ、俺はもう何とも思ってないし、過ぎた事だ。お前も気にしないでくれ」

 

 

 

彼は私の肩に優しく触れ、慰めて下さいました。

何と情けない話ですか……お話を聞いていた私が、慰めて頂くなど、恥ずかしい話です……。

 

 

 

「……お前って、どうしようもなく優しいんだな」

「そ、そんな事は……貴方の方が、ずっと優しいですよ」

「そんな事ない。俺はどっちかと云えば暴力的な方だ。人にも寄り添えないしな……お前の方が凄く立派で、優しい」

「サクタロウさん………あ、すみません、もう一つお聞きしたい事が」

「なんだ?」

 

 

 

私はふと、思い出した事を告げます。

 

 

 

「その……風紀委員会を辞めたと云うのは、本当なのですか?昨日”元”風紀委員会と云っていましたが……」

「あぁ、本当だ」

「そ、それはまた、どうして……?」

「色々あるんだが、正直に言えば────『役割を終えた』からが、一番だな」

「役割、ですか…?」

「あぁ、最初は人に誘われて入った風紀委員会だったが、当時の俺から見てもあの組織は『空崎ヒナ頼り』の組織だった。周知では全体の半分の戦力がヒナと云っているが、本当は全体の9割は空崎さんの力で成り立っていた組織だった。欠陥だらけだったんだな」

「そうだったのですか!?」

「そうだ。キヴォトスの治安維持組織の中でも一番不安定だと言って良い。だから中身から変える必要があった。俺は少し特殊で、隠密と破壊工作が得意だった。その技術を風紀委員会に浸透させた……まあ簡単じゃない、掛かった月日は1年と少し。それでもかなり改善された。組織の流れが良くなったんだ。元々、少し経って辞めるつもりではあった、それが長引いただけに過ぎない話だ」

「そんな話があったのですね………」

「そうだ。んで、昨日空崎さんに辞表を提出して、俺は無職なわけだ」

 

 

 

彼の原動力は分かりませんでしたが、組織の為に動いていた理由は恐らく恩返しなのでしょう。

 

本当に素敵な方なのでしょうね……ただ少し、自分の生き方が分からないだけの、優しい人。

 

 

少しの間が発生します。あ、どうしましょう……何を話せばいいのか。

そう思った時、彼がこう告げました。

 

 

 

「……このお菓子、一緒に食うか。俺一人じゃ食いきれないし」

「え、でも……」

「ダメだ、文句なし。俺と一緒に食え」

「あうぅぅ……はい」

 

 

 

意外と強引な一面もあるのですね……。

 

彼は少し荒く紙を破り、箱を開けます。お菓子は『クッキー』です。10個入りの。

 

そのまま彼は私に一つ袋を渡し、彼も一つの袋を持ちます。

 

 

 

「………」

「………?」

「……食わないのか」

「え?いえ、あの…お先にどうぞ?」

「……分かった」

 

 

 

そう言って、彼は袋を開けてクッキーを食べました。

 

モグモグ、大きな口で少ない咀嚼。まだ固形が多そうな咀嚼の回数で一飲み。

 

 

 

「……………」

「ど……どうでしょう?」

「……うん、美味い」

「っ!!そうですか!良かったです!」

 

 

 

最初の間が少し怖かったですが、喜んで頂けたようです。

 

表情が変わりないので判断が難しかったですが、彼がそのまま2個3個と袋を開けて、パクパクと食べていきます。

 

 

 

「んっ……………っ……美味いな」

「そうですね、でも宜しかったのですか?私も食べてしまって……」

「そんなに食えないんだ。それに、人と一緒に食うのは味が変わると聞く」

「ふふっ、確かに美味しくなりましたね!一人で食べるのと誰かと食べるのでは、楽しさも相まって食べ物も美味しくなりますから!」

「あぁ、そうだな」

 

 

 

サクタロウさんは6つ、私は4つ食べ、御礼品として持ってきたお菓子は箱だけとなりました。

 

そうなれば箱は私が回収しようと思ったのですが、彼が『俺が貰ったから、俺が回収する』と言って聞きませんでした。

 

彼と少し、会話を弾みたいと思っていると、彼が問います。

 

 

 

「なぁ、少し良いか」

「?…はい。何でもお申し付けください」

「あぁ……お前、笑う時かなりキラキラしてるよな」

「へ?キラキラ……ですか?」

「輝いてるように見える…と云うのか、何て言えば良いのか……一回笑って見せてくれないか」

 

 

 

な、中々難しい事を言いますね……。

 

笑う……意識すると難しいですが、一応やってみましょう!

 

 

 

「────こ、こう……でしょうか?」

「…………」

 

 

 

私は自分が出来る笑みで彼に応えます。

 

そしたら、彼特有の沈黙が場を制します。な、何とか言ってほしいです……。

 

 

 

「綺麗だな、お前の笑顔」

「え!?あ、えっと………ありがとう、ございます…っ」

「俺には出来ない事だ。良いな、とても」

 

 

 

彼はトコトン無表情でそう告げてきます。

 

表情どころか、雰囲気も変わらない。やはり読めない方ですね……でも、そこがこの方の魅力でもあるのでしょうね。

でも優しいのに、本当に優しい男性なのに……この人は笑顔を見せないのですよね。

 

何だか……勿体なく感じて来ましたね。

 

 

 

「サクタロウさん、一回ニコーって笑ってみてほしいです」

「な、なに?」

「こう……二コ~っ!って感じです!」

「……出来ないって、俺は」

「一回だけ!一回だけお願いします!」

「……分かった。こ、こうか?にこー……だめだ、分からん」

「そうですね、もっとこう……指も使って、ニコーって!」

「ゆ、指も……こう、か?」

 

 

 

サクタロウさんは私の指示に従い、何とか笑う顔に成っています。

でも指を動かして何とかって感じですね……やはり表情筋が硬いのでしょうか。

 

 

 

「にこー……にこ~…………難しいな」

「そう、ですね……ぷっ!ふふっ!」

「おい、なんで笑うんだ」

「す、すみませんっ……でも!ニコーって言いながら練習してるのが、何だか可愛くって…!」

「か、かわっ……よしてくれ、恥ずかし…い…………ぇ」

 

 

 

急に可愛い事をするので、つい笑ってしまいました…っ!

でも、反省ですね。もう一度謝りましょう……そう、思っていた時でした。

 

 

 

「恥ずかしい、のか………そうか」

「ん?……サクタロウさん?」

「……もう一回、やってみる。にこー」

「ふふっ!そ、それやめて下さいっ……!本当に笑っちゃって…!」

「……これ、お前は面白いのか?」

「ふっ、ふふっ!面白いです…!ギャップがあって、笑っちゃいます…!」

「……そ、そう、か…」

 

 

 

サクタロウさんは指で笑顔を作った状態で「にこ~」って言ってきます。

色々とギャップが凄くて、どうしても笑ってしまいます。

 

 

 

「ん?う、ぁ…?………(なんだこれ、身体が…なんか、あつい…?)」

「ふふっ!はぁ、もう………ん?サクタロウさん?」

「っ…なんだ?」

「大丈夫ですか?胸を抑えて……」

 

 

 

不意に、サクタロウさんの方を見ると……左手で胸を抑え、瞳孔をカッと開いていました。

 

昨日、そして先程まで見ていた時とは打って変わり、表情の変化が見られました。

 

 

 

「っ?…??………あ、あぁ、大丈夫だ」

「本当に?本当に大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だッ……多分」

「多分って……体調が優れないのなら無理はいけませんよ?」

「大丈夫だ、本当に………」

 

 

 

サクタロウさんはそのまま、ギュっと左手を胸で握りしめ、数秒……顔を下に向け目を閉じます。

その様子は、何だか、珍しいように感じてしまいます。彼とは昨日初めて会って話した間柄ですが、今日でかなり距離は縮まった気がします。だから分かる変化でした。

 

 

 

「お前……お前と居ると、なんか、変になる」

「へ?」

「お前、ナニモンなんだ?っ、まただ……お前を見ると、心臓がウルセェし、変な汗が出て気分が悪くなる。体温も熱くなって仕方ねぇ……なんなんだよ、お前」

「え……………そ、それ、え?」

「────待て、お、俺は今、何を言っている」

 

 

 

瞳孔を開き、焦りを思わせる声質で汗を噴き出るサクタロウさん。

そんな彼の言動に、様々な動揺を隠せない私。

 

だ、だって、彼が言っている事……か、かか、完全に、その……っ!

 

 

 

「ッ!……クソ!し、失礼する」

「え!?さ、サクタロウさん、何処へ?」

「ゲヘナに帰る。お前と居ると、ドキドキして仕方ない…ッ」

「ひゃうっ……」

 

 

 

ど、どうしてそんなハッキリ言うのですか!?

 

人が聞いたら勘違いするような言葉を発するサクタロウさん、ほ、本当にどうしてしまったのです!?

 

そう思うと同時、サクタロウさんがベンチから立ち上がりました。そして、ゲヘナに帰ると告げました。

 

 

 

「じゃ、じゃあな…………また、会って、くれ」

「へ?あ………はい…っ」

「…ッ!」

 

 

 

ドヒュンッ……と、そのまま疾風が如き勢いで去って行くサクタロウさん。

 

あっという間に、一人ぼっちです。時刻は9時前、1時間近く話していたみたいです。時の流れは早いですね……。

 

 

 

「さ、サクタロウさん、もしかして……い、いやいや、わ、私は何を勘違いして……っ!」

 

 

 

 

”………ドドドドドドッ”

 

 

 

「え…────へ?」

「ちょっと、用事……」

 

 

 

そう発語して居たら……サクタロウさんが凄まじい勢いで帰ってきました。

 

右手にスマホを持ち出し、そのまま流れる様に何かを操作し始めて……私に画面を見せました。

 

 

 

「え…?」

「こ、これ、俺のモモトークのアカウント。お前さえ良ければ、友達になってくれ………ませんか」

「あ……友達……ふっ!ぷふっ!ふふふっ!あはは…!」

「なっ……なんで、笑うんだ?」

「い、いえ、そのっ!ふ、ふふふっ!すみません…!な……何でも御座いません。はい、友達に成りましょう!」

「っ!そうか」

 

 

 

本当に可愛い人だ、この人。

 

態々モモトークの交換の為に、帰って来るなんて……可愛くって、変なツボに入っちゃいました。

 

 

 

”ピコンッ”

 

 

 

「はい、繋がりました。これで連絡先も交換出来ましたね」

「おぉ……ありがとう」

「いいえ、私も貴方とはお友達になりたかったので、良かったです」

「そ、そうなのか……そっか」

「ふふっ………」

「……あ、じゃ、帰る。あ、いや、えっと……駅まで、送る」

「良いのですか?では、お願いします」

 

 

 

どうやら、この方には好かれたようですね。

 

最初こそ動揺はしましたが、何だか急にしおらしくて、可愛く見えてしまいました。

 

ふふっ……【ゲヘナの狂人】と恐れられているのに、内面はこんな感じなのですね。何だか不思議な感覚です。

 

 

 

そうして、私はサクタロウさんに駅まで送って頂き、そのまま無事にトリニティに帰還しました。

 

 

ふふっ……まさか、ゲヘナの生徒とお友達になれるとは。それも……いいえ、此の先を云うのは蛇足ですね。

 

今日のお仕事は頗る調子が良くて素敵な一日に成れたのは、きっと────サクタロウさんのお陰、なのでしょうね。

 




☆サクタロウと黒服のアレコレ。



黒服(親父):最後の最後で、情が移ってしまった。故に選択肢を与え、自分のモノに出来なかった。己は何をしているんだ、結局この4年間は何だったのか、愚かだと……自責して、死んだ筈の人間性を少し出してしまった。研究者として失格だと反省する中、過ぎた事だと考え、少しの間療養期間を設けるつもりである。ただ、直ぐに小鳥遊ホシノの契約に目を戻し、活動。


榊サクタロウ:黒服の事は親父と思って接した。でも、最後の最後まで情が出る事はなかった。感謝はしてるのに、何故か何の感情も湧く事が無かった。また連絡し合おうと言ったモノの、もう会う事は無いだろうと思っている。それは黒服も感じている事だった。最後は黒服に初めて……初めて『ありがとう』と云って円満に別れる事が出来たのは、少し嬉しかった。




☆おまけ(サクタロウとマリー)



サクタロウ:見ていたら動悸が凄くて不思議な感覚に成る。何だかずっと見てしまう。感情を一度殺して成長してしまったから、この感情の答えが分からなくて苦しい。一回死んでも治らない。どうしよう、如何しよう……と、自分なりに思考して何にも進まない。


マリー  :彼の異変に気付き、その意味を理解している。でもよく分かっていないんだろうなと思っている為、自分からはアクションは動かさないつもり。彼の気持ちは嬉しい、でももう少し段階は踏みたい。彼女も乙女、だから。そして、彼女はサクタロウの闇が深い事には察知しているので、何とかして聞き出そうと思っている。


マリーはサクタロウの【特異体質】と【痛覚麻痺:味覚障害】を知りません。


因みに作中に度々【狂気】と出ていますが、かなり重要ワードです。
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