マリー、俺と付き合って下さい。   作:カブトムシの相棒

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いつも感想、誤字報告、お気に入り評価、ここすき本当にありがとう御座います。
毎日見てるくらいには励みになります。



因みにですが今日は2万文字越えです。ちょっと長くなっちゃいましたが、休み休みお読みいただければと思います。


では、本編です


一歩、一つずつ……人間に。

 

 

 

 

 

☆D.U.子ウサギ公園ベンチ……。

 

 

 

「………あ、あの、サクタロウさん」

「ん?なんだ?」

「その、風紀委員会への再加入は分かりました。本当に良かったと思います。その、えっと……」

「聞きたい事があるなら言え。何でも答えるからよ」

 

 

 

風紀委員会への謝罪と懇願が終えた、3日後。

サクタロウとマリーは時間を作り、会う日を決めて、現在D.U.の子ウサギ公園のベンチに腰を掛けていた。

 

風紀委員会に謝罪をした事、色々あって上手くいき、また風紀委員に成れた事、先生とユメという存在に諭された事、マリーに応援され元気が出た事など……色々話していた。

 

無論、マリーはサクタロウが上手くいき、喜ばしい感情を発露する。

今回、自分はただ応援しただけの存在。サクタロウがそう言っても、やはり無力感は拭えなかった。

 

だがサクタロウの変化……少し、柔らかくなった表情に、マリーはまた嬉しい想いを抱く。

 

だが、どうしても気になる事項があった。

 

 

 

「は、はい……あの────その首に巻き付けてある【首輪】…の様なモノは、一体?」

 

 

 

そう、サクタロウには何故か【犬用の首輪】が巻き付けてあるのだ。

彼も何も言わないから、そういうファッションなのかと思ったが、流石に首輪は先進的すぎないかと思ってしまう。

 

しかもそれがサクタロウだ。あの彼が……?

一度見てしまったら二度と忘れないだろう。彼の風貌に、その首輪は異様だった。

 

一体、なんだ?そう思い聞くと……返って来る言葉は、頭を痛くさせる内容だった。

 

 

 

「あぁ、コレか?コレは……【風紀委員会】と【万魔殿】に付けられたんだ。ってか主にイブキにだが、まぁ、俺が悪いから何も言えん。気にするな」

「い、いえ、そう言われましても何ですけど……」

 

 

 

そう、これは風紀委員会と万魔殿の”総意”で装着された首輪だ。

 

犬猿の仲の風紀委員会と万魔殿の協力の元、制作された”超異例”で”前代未聞”の首輪……既に字面がエグイが、これには丹花イブキが少し絡んでいる。

 

 

 

「そうだな……今日は語りたい気分だ。長くなるが聞いてくれるか?」

「っ!はいっ!勿論です!」

 

 

 

サクタロウの問いに、マリーが頷く。

 

少し時を遡る。アレは、彼の謝罪と懇願があった日の事……。

 

 

 

 

 

▼3日前、ゲヘナ学園

 

 

 

 

 

 

☆万魔殿:執務室。

 

 

 

 

「────お兄ちゃん!!」

「っと……さっき振りだなイブキ。ちゃんと来たぞ」

「うん!うんっ……イブキ、ちゃんと待ってたよ!」

「あぁ、そうだな。偉いなイブキ……よっと」

「わっ!えへへ!久しぶりの抱っこだー!」

 

 

 

万魔殿の執務室。そこで、何とも微笑ましい光景があった。

 

風紀委員長室で急に行われた恋の尋問。サクタロウは何とか全てを吐かず、イブキとの約束を出して離脱。

 

そのまま『空崎ヒナ』と『天雨アコ』の案内の元、万魔殿まで足を運んだのだ。

信じていない訳ではないが、傍について消えない様にする為に連れてきた。同行の理由はコレだ。

 

そして、執務室を開けた途端……イブキがサクタロウにダイブ。

 

 

 

「ぐぎぎぎっっ!!サクタロウめぇぇッ!なんて羨ましい!」

「醜い羨望が口に出てますよマコト先輩………まぁ、気持ちは分かりますが」

「あらあら!微笑ましいわね~!」

「二人共!こっち!こっち向いて下さい!良いですよ良いですよぉ!これは大スクープになりますよ!」

 

 

 

万魔殿の面々が少し離れでそれを見守る。

嫉妬やら何やらが飛んでいるが、それは気にしない。

 

チアキがカメラを二人に向け連射。サクタロウは無表情っぽいが、イブキは御満悦の表情。

いつもと変わらない様に見えるが、心なしか、サクタロウの顔が少し柔らかい。

 

チアキ自身、それは分かっている。故に連射だ。風紀委員会に復帰するというデカいネタもある故、彼女は大興奮だ。

 

 

 

「はぁ……イブキちゃんも物好きですよね。あんな男の何処が良いんでしょうか」

「彼とイブキにしか分からない背景があるのでしょうね……」

 

 

 

それを見つめる影が二つ。

万魔殿とは別の場所でヒナとアコは二人を見つめる。少しマコトにいびられたが、サクタロウやイブキが居る手前、大きな事は起こせない。

 

加えて、サクタロウの風紀委員会復帰の口上もある。故に珍しく、この場所に居る存在を許した。

 

 

 

「イブキ、改めてごめんな。お前には悪い事をしたと思っている」

「むっ!ほんとだよお兄ちゃん!イブキすっごく悲しかったんだから!」

「そう、だよな。本当に悪かった……”手紙”は、もう読んだよな?あれやっぱ撤回で頼めないか?」

 

 

 

手紙。

 

一度、過去を振り返る。

 

サクタロウがイブキに急に消えた理由を説明し、サクタロウの身体の秘密を教えた日の事を。

 

彼はイブキに【手紙】と【■■■■■■■■■■■■■】を送ったのだ。

 

その答えを、今、ここで開示する。

 

 

 

「うん!イブキね、元から聞くつもりなかったんだ~!」

「そっ……そうか。それはそれでアレだが、まぁ良い」

「コレ」

「むぅ」

「コレね、イブキ、ずっとずーーーーーーーっと持ってたんだよ!えへへ、お兄ちゃんがそういってくれるまで、持ち続けるって決めてたの!」

 

 

ハイライトが消えた瞳でそう告げるイブキ。

サクタロウは少し怖くなる。

 

 

 

「もう関係ないから、コレ、破っても良いよね?」

「も…勿論だイブキ。それは破って捨てて構わんぞ」

「あ、待ってくれイブキ!捨てる前に私達に見せてくれ」

「なに?ちょ、待て。それはだm」

「いいよー!」

 

 

 

イブキは近付いてきたマコトに手紙を渡す。

それは余りにも不意。サクタロウでも追い付かぬ譲渡芸だった。

 

 

 

「イブキ、お前っ…」

「ナイスですイブキ」

「お、良いですね!」

「ソレ、ずっと気になってたのよ~!」

「手紙?そんなのイブキちゃんに送っていたんですか?あのサクタロウが?」

「えぇ……マコト、読み上げて頂戴」

「貴様に言われなくとも読み上げるわぁッ!」

 

 

 

騒ぎながらも、マコトは手紙の封を解いていく。

 

サクタロウが少し焦る。

イブキはかなり上機嫌になる。

 

マコトが遂に手紙を開いて読み上げる。

その手紙には、こう書かれていた。

 

 

 

────

 

 

 

〈イブキへ〉

 

〈先ずは謝罪を。すまん。俺にはうまく人へ送る様なメッセージが思い浮かばないから、少し拙い部分があると思う。でも、お前にはこれを送りたい〉

 

〈俺なんかに兄と言ってくれて、ありがとう。俺には本当の家族が居ないんだ。血の繋がりが無いクソ親父は居たがな。だからかな。お前にお兄ちゃんと云われた時は、嬉しかった〉

 

〈でもなイブキ。俺は元は裏社会の住民だ。お前とは生きてきた世界も、持つ価値観も違う。本来俺は、表社会で生きるイブキに関わるべきじゃない人間なんだ。でも、お前と過ごす時間で、そんな中で生まれた、お前には嫌われたくないという我儘。こんな俺が持つべき感情じゃないと気付いた〉

 

〈イブキ、お前は優しい子だ。皆がお前を愛しているし、優しくて素敵な、可愛い子に育って欲しいと常に思っている。それはな、俺も一緒だ〉

 

〈お前の感情を無視して決めた事、どうか、許して欲しい。お前に俺は必要無いんだ。こんな血に濡れたバカな俺はな〉

 

〈最後に。イブキ、俺の事はもう忘れて良い。お前の傍には優しくて頼りになる先輩と、お友達が居る〉

 

〈丹花イブキ。元気にな〉

 

〈榊サクタロウより〉

 

 

 

────

 

 

 

”「うわ………」”

「猛省しております」

「えへへ~!(にこやかな笑みイブキ)」

 

 

 

手紙の内容は、こう言う事だ。

 

皆が冷ややかな視線でサクタロウを見つめる。

深く反省している様子でそう告げるサクタロウだが、イブキは笑っている。

眼は笑っていないが。

 

ヒナはサクタロウの約束を守り、その手紙を読まずにイブキに渡していた。

その夜、目を覚ましたイブキは一人でこの手紙を熟読。

無論、抉れた心を更に深追いする行為。

 

イブキは一頻り泣き。そして……もう一つ、とある事をイロハから告げられた。

 

 

 

「ねぇねぇ!お兄ちゃん!」

「んっ…な、なんだ?」

「あのね、イブキね?この手紙の事はショックだったけど、でもね……あの『言葉』よりもマシだなって思ったの」

「あの言葉?」

「うん……ねぇ、取り消して?」

「む?すまん、俺なんか言ったか?」

「あっ…………」

 

 

 

連撃する勢いでイブキが続ける。

サクタロウは『あの言葉』の事にピンと来ていない。

 

実のところ、サクタロウからしたら手紙が本命だった。

 

彼が万魔殿を後にした後の去り言葉、それはサクタロウに寄る付け足しに過ぎなかった。

 

だがイブキにとっては、何よりも心にダメージを負った言葉であり、そして……『心に誓った決意』の言葉であった。

 

 

ヒナは即座に察する。そして、ヒナに気付いた言によって、それを知らぬアコ以外、全員が気付いた。

 

そう、それは………。

 

 

 

「────【こんな兄で本当にごめんな、イブキ】……ねぇ、撤回して?お兄ちゃん」

「……あぁ、アレか。そういえば言ってたな」

 

 

 

なんとサクタロウ、此処に来て最悪を発揮。

手紙の延長線上の言葉。サクタロウからすれば想い出の端にあった言葉だったのだ。

 

 

 

「別にイブキがそう言うなら良いが……イブキ、もしかして怒ってるのか?」

「……………………うぅん!怒ってないよ!」

「そうか。良かった。俺、イブキに嫌われるのは怖いからさ。怒らせちゃって、イブキが嫌な思いしたら、申し訳ないから」

「ふぅぅ!ふーーっ!」

「(イブキが怒りたいのに子犬みたいな声帯で謝るサクタロウの所為で色々と感情が大変な目に遭ってる……)」

 

 

 

キレてやろうかと思ったイブキ。だが、我慢する大人な部分を見せた。

しかしサクタロウは止まらない。見せた事もない弱々しいサクタロウの本音に、感情が暴発しそうになる。

 

らしくないが、イブキは何とか爆発寸前の感情を抑え、告げる。

 

 

 

「……イブキと約束してっ!もう、もう急に居なくならないって」

「あぁ、約束だ。俺はお前の前からはもう居なくなんない。もう寂しい想いはさせないって約束しよう」

 

 

 

そう言うイブキに、サクタロウは抱擁したまま返答。

 

マコト、イロハは額に青筋を立ててその様子を見る。

イブキに絶大な愛を向けるこの二人は、正直言ってこの光景が心底気に食わないで居る。まぁ、何度もイブキを悲しませた元凶でもあるから、仕方ないのだが。

 

その抱擁を受けたイブキは、こう発語する。

 

 

 

「んっ……────お兄ちゃん、大好き!」

「ぶーーーーーっ!!」

「い…イブキ?」

「えー!?」

「わぁぁおっ!」

「どうぇぇぇ!?」

「あら」

 

 

 

そう、何と『大好き』と云ったのだ。

 

それは万魔殿も、ヒナやアコも青天の霹靂の発言。

今まで万魔殿の面々等に向けていた『大好き』とは明らかに一線を画している雰囲気。

 

皆がイブキの眼を見る……あの眼、女だからこそ分かる。イブキは【ガチ】で言っていると。

 

 

 

「ぐぅぅぅぅ!!!も、もう我慢できん!うぉぁぁサクタロウ!貴様!イブキから離れ────」

 

 

 

我慢できなくなったマコトがサクタロウに飛び掛かる寸前……サクタロウが発語する。

 

 

 

「ん?あぁ、俺も大好きだぞ。さっき言った通りな」

””””””「────は?」””””””

 

 

 

ヒナ、アコ、マコト、イロハ、サツキ、チアキの眼が点となる。

その発言は、イブキの言葉を、そのままオウム返しした内容。

 

 

 

「んぅ……えへ、えへへへ♡♡」

 

 

 

イブキがぎゅっと抱擁する手に力を入れ、頬を赤く染める。

 

イブキは思った。あぁ、嬉しい、サクタロウはもうイブキのモノだと。

 

もう嘘は言わないと言った。だから、その発言の意図は、理解している。

まだ成長し切れていない子供の自分でも分かる責任であると。

 

万魔殿とヒナ、アコが驚愕を覚える中……イブキが問う。

 

 

 

「ね、ねぇお兄ちゃん。イブキの事、どういう所がだいすきー?」

「む?全部じゃ駄目か?」

「嬉しいけどダメ!んと、3個!3個言って~!」

「そうだな……1個は優しいだな。お前は誰よりも素敵で清い心を持っている。どうしようもなかった俺に正面から感情をぶつけてくれた子だからな。そこには俺も救われたよ」

「にへへへっ……そうなんだぁ♡」

「2個目はやはり兄として慕ってくれた所だな。俺には本当の家族が居ないからさ、そういう家族の様な関係性は皆無だったんだ。だからかな、お前が俺に兄と慕ってくれたお陰で、知らない一面を知る事が出来た。ありがとうな」

「ん~~!!えへへへ……イブキも、イブキもお兄ちゃんが居て良かったよ~♡♡」

 

 

 

イチャイチャが始まっている。

 

マコトとイロハは過呼吸に成り、サツキとアコは二人のイケナイ雰囲気に何だか興奮し顔を赤くさせ、チアキはシャッター音を無音にさせて激写。ヒナはこの後の展開が予想できて冷や汗を出す。

 

メス顔に成っちゃってるイブキがそのまま3つ目の事項を聞く。

 

────これが、駄目だった。

 

 

 

「ねぇねぇお兄ちゃん、3つ目は~?にひひっ♡」

「妹として可愛い所だな。俺【愛してる人】に『マリー』って女が居るんだけど、その人の大好きとは別の大好き、イブキに言うべきは【親愛】によってくる大好きと云えば良いのか……まぁ、お前が居たお陰で、俺は大切な感情を知る事が出来たんだ。そこには一番感謝しているよ」

「……………………は?」

「ばっ……!!」

「あっ……」

「あぁ、やっぱり言った……」

 

 

 

思った事をそのままド正直に言ったサクタロウ。

 

とある言葉で”地雷原をタップダンスで踊る”と云うが、この男は正にそれをしたと云える。

地雷と云えば良いのか不明だが、イブキにとって、それは思っても居なかった事。

 

しかしそれは……ヒナ、アコ、マコト以外の連中も同様。

 

 

 

「え、えええぇ、え……はぁぁ!?」

「………ありえない」

「サク君に彼女!!?えーーー!?」

 

 

 

サツキ、イロハ、チアキの順で驚愕を覚える。

 

あの仏頂面、ド真面目、人の心をマジで知らない人、顔は良い能面、狂人、ノンデリ等々……散々だがそう思われていたサクタロウに寄るとんでもない告白。

 

イブキに同調して、万魔殿の3名も超驚愕だ。

 

そんな中、イブキは問いを掛ける。

 

 

 

「愛してる、人?マリー?」

「ん?あぁ、言ってなかったか?俺、マリーって子と付き合ってるんだ。イブキと一緒くらい優しい子でな。俺の人生を変えてくれた恩人なんだ」

「は、えっ…………ほんと?ソレ」

「あぁ、本当だ。えっと……ほら、写真。この子だ」

 

 

 

サクタロウが更なる追い打ち(無自覚)

イブキの双眸が捉えたのは『マリーが笑顔でトリニティの花園の(黄薔薇)とツーショットしている写真』だった。

 

 

 

「俺何かじゃ勿体ないくらい、マリーは素敵な子なんだ。俺の…宝だ」

 

 

 

イブキは、その一言で直ぐに分かった。サクタロウの心は、もうマリーと云う女に在ると。

 

本来の11歳の子供よりも、いや、普通の高校生よりも地頭が優れているイブキだからこそ、理解してしまった事実。

 

無表情なのに、無表情じゃない。それも幼き子供故に理解した事。

 

 

 

「う、ぁ…………そう、なんだね!」

「あぁ、いつかイブキにも会わせたい。本当に優しい子でな、聞くにゲヘナにも、秘密裏ではあるんだが相談事に乗る事もある子なんだ。差別意識が全くない、子供にも優しい。人として完璧に近いんだよ」

「ふぅ、ふーん……お兄ちゃんがそんなに言うんだから、本当に優しい人なんだー!」

 

 

 

万魔殿、アコとヒナは、二人の会話を、もう見てられなかった。

幼き女の子の、淡い恋心が砕けた瞬間。例えイブキでなくとも、第三者目線のこれはキツイ。

 

最悪なのが、サクタロウがイブキの【想い】に全く以て気付いていない所。

それが拍車を駆けてしまい、イブキに残酷な真実を嬉しそうに伝えてしまう。人の気持ちに鈍感なサクタロウが故の抉り。何とも、何ともだった。

 

 

 

「イブキ、マリーさんに会ってみたいかも!」

「そうか、良かった。彼女の予定やイブキの予定も合わせ、俺が調整しよう。きっと波長も合うと思うんだ」

「ふーん。そっか」

 

 

 

イブキの瞳は光を宿していない。

幼き子供のその双眸は、中々に強烈だ。何故かサクタロウのみ気付かぬ異変。

 

それが、油断を招いた。

 

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん。実はね……一つお願いがあるんだ」

「お願い?なんだ?」

 

 

 

ここでイブキが動く。

 

 

 

「えへへ~!それはね……コレ!お兄ちゃんに装着してほしいのー!」

「ん?ん?なぁイブキ。コレ、もしかしなくとも何だが……」

 

 

 

イブキが懐から取り出す物……それは、サクタロウにとって思いもしないモノ。

それは、何と。

 

 

 

「じゃーん!マコト先輩がミレニアムの人達にお願いして、作ってくれた【チョーカー】だよ!」

「……俺が、付けるのか?」

「うん!そうだよ!付けてくれるよね?」

 

 

 

チョーカーだった。

 

チョーカーとは、首に沿うように作られたネックレス、云わばファッションである。

主に女性が付ける物だが……イブキはそれをサクタロウにプレゼントすると云うのだ。

 

しかし問題は、そのチョーカーの形。

 

ハッキリ言って『犬用』にしか見えない。

デザインは赤黒の模様で、革に見えるが鉄製のチョーカーだ。

何処からどう見ても犬用の首輪にしか見えない。

 

流石に驚きが勝つ。サクタロウはマコト達とヒナ達に目を配る。

 

 

 

「……なぁ」

「因みにだが、それはイブキ単独だけでなく私達の総意のプレゼントだ」

「そこには、風紀委員会も解しているわ」

「なに?お前等の総意だと?何の冗談だそれは」

 

 

 

何と、風紀委員会と万魔殿の総意との事。決してイブキだけの想いではないのだ。マコトとヒナそう告ぐ。

 

まさか過ぎる真実。なんとサクタロウに首輪…チョーカーを付けさせるという意味不明すぎる総意。

 

 

 

「はい、首ちょっと伸ばして~!」

「………あ、あぁ、分かった。ありがとうな」

 

 

 

イブキが有無を言わさず、サクタロウに命令。

今日はイブキには何も出来ないサクタロウは、そのままイブキの指示通り首をぐーっと伸ばす。

 

そして、喉仏の下部分にイブキはチョーカーを……装着。

 

 

 

”カチッ……ウィー―ン”

 

 

 

「……ウィーン?」

「わー!すごく似合ってるよ!お兄ちゃん!」

「なぁイブキ。俺の聞き間違いじゃなければ何かウィーンって聞こえたんだが」

 

 

 

そう言ってもイブキはニコニコしている。ちょっとだけ怖い。

助けを求め、サクタロウは辺りを見渡す……だが。

 

 

 

「まぁ、残念ながら当然よね」

「因果応報がこれまで似合う者は中々に見れませんね。無様ですね、サクタロウ」

「あらあら、うふふ!まさか貴方のこんな姿がずっと見れる何てね。ちょっと可哀想だけど……まぁ大丈夫よね」

「あっははは!良いですね~!サク君!こっち!こっち見て下さい!はいチーズ!」

「ふっ!ふふふっ!よくやったぞイブキ!これでサクタロウは正式にゲヘナの支配下に成ったんだ!」

「ぷっ……こんな緘黙で能面な大型犬が居るのですね。結構ウケます」

 

 

 

味方など、居なかった。

サクタロウ……彼は中々にやらかしていた。

 

・今迄の人を寄せ付けないスタイル。

・急に居なくなってはふざけたメールの内容をグループに送る。

・イブキを泣かせた。

 

例え風紀委員の実力を格上げさせた功績があるとはいえ、こんなもん考えられない。

 

サクタロウはその雰囲気を見つめる。

 

 

 

「(なんだ?イブキもそうだが、この異様な雰囲気……俺は何をした?いやまず、このチョーカーは一体…)」

「このチョーカーは一体なんだ?と、そう思っているな?サクタロウよ」

「あ?あぁ、まぁ、そうだな」

「この流れなら普通はそう思うでしょう……」

 

 

 

イロハのツッコミが出るが、マコトは続ける。

 

 

 

「キキキッ……そのチョーカーはなぁ────GPS付きの最新制の優れものだっ!」

「…………なに?」

「生身に装着が絶対条件でなぁ。まるで肌の一部のようにフィットするチョーカーで、驚く点は風呂場でも外さずに首を洗えるのだ!明確に言えば、自動で洗浄してくれると云える」

「なんちゅぅモン作ってんだ、あんた等は」

 

 

 

そう発語するマコトは、何とも愉快そうで。

恐ろしいのが、マコトの言葉を誰も否定しないと言う事。

 

それは、その発言が真実であると表明する事。

 

 

 

「……因みに聞くが、なんでだ?」

「貴方は戻ってきてくれた。サクタロウ、貴方にもきっと私達にも言えない様な大きな理由があっての事だと、それは理解する。でもね……結局は口約束なのよ。もう何処にも行かないって事は」

「この際ハッキリ言わせて頂きますが……寂しかったのは、辛かったのは、何もイブキちゃんだけではありません。風紀委員会全体は言わずもがな、その……私だって、貴方が居なくなったあの日、どれだけ後悔に暮れたか分かりません。辛かったんですよ…?」

「それにねぇ……万魔殿の面々も、とっても嫌な気持ちに成ったのよ?貴方は私の催眠術の実験体に成ってくれた。それに、繁忙期でも文句を言わず万魔殿の仕事を手伝ってくれた時もあったわね……これでも私は、貴方の事は評価していたの」

「サク君。私は今でも君とは友達だと思っています!でも……何も言わずにゲヘナから居なくなるのは、流石に酷いですよ……」

「……まぁ、仕事ぶりは本当に凄いと思っていました。貴方が居なければ、今でも風紀委員会はワンマンチームだった。そう言っていい程、貴方の戦力の変革は目を張るモノがあったと確信はしています。イブキを泣かせた件は、未来永劫許すつもりはありませんが」

「………貴様の心を見抜けなかった私にも一定の非はある。私はなサクタロウ。風紀委員に居たお前だが、正直に言って、無理矢理にでも万魔殿に引き抜こうとした時期もあったのだ。イブキが大好きなのも理由の一つだが、お前の常人離れしたサポート力、戦闘方法、性格……そのどれも私の右腕に相応しかったからだ。だから────もう、いきなり居なくならないで欲しいのだよ」

 

 

 

ヒナ、アコ、サツキ、チアキ、イロハ、そしてマコト。

皆がそれぞれ己の感情を発露する。この濃い面子に、そう云われてしまえば、サクタロウとて何も言えない。

 

 

 

「む、むぅ………分かった。大人しく付ける。もう脱げん事も込みだが、俺がした事を鑑みれば致し方ないだろう」

「あら?意外とあっさり飲み込むのね。プライベートとかも考えたの?」

「GPSだけだろう?なにも監視機器を搭載した訳じゃない。なら、別に構わん」

 

 

 

サクタロウはそう言って納得する。

ぶっちゃけ人権など全てを無視した決定だが、それを汲む胆力をサクタロウは持ち合わせている。

 

自分がした事。その応報。そう思って無理矢理サクタロウは納得した。

 

時間も合間。夕刻を周る頃合い。

 

 

 

「……言いたい事、やりたい事は終えたな」

「そうね。サクタロウにはこれから風紀委員会全体へ復帰する事への告白をしなきゃいけない。そろそろ連れて行きたいのだけど……」

 

 

 

マコト、ヒナがそう告げる。

それと同時、イブキを見る。

 

 

 

「………イブキがしたい事は出来たよ!もう、大丈夫っ」

 

 

 

そう言って、イブキが発語。

もう瞳にはハイライトが宿っている。光が帯びて、輝かしい、いつものイブキに成っていた。

 

色々あった。本当に……でも、サクタロウを思えば、心の罅は一個ずつ元に戻っていった。

 

 

 

「あっ、でも、そうだ……うんっ…………お兄ちゃん」

「ん?なんだ?」

「耳、貸して」

 

 

 

そう言うイブキに、サクタロウは従う。

サクタロウだけに、聞いてほしい事。

 

イブキは誰にも聞こえない、小さい声でサクタロウの耳に囁く。

 

 

 

「イブキね、本当はね……お兄ちゃんには、そのチョーカーは付けてほしくなかったの」

「なっ……」

「お兄ちゃんが嫌なことはね、本当はしたくないの。本当だよ………でもねっ」

 

 

 

少しの涙声で発語するイブキは、自分の……真なる本音を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

「────お兄ちゃんには、もう……傷付いてほしくないの…っ」

「ッ…!!」

 

 

 

その言葉に、サクタロウの……表情が、歪む。

 

 

 

「もう、痛くないって言うけど……治るって言うけどっ………お兄ちゃんには、もうっ、自分を傷付けてほしくないの……」

「イブキ……」

「お兄ちゃんは怪物じゃないよ…イブキの、大好きな、お兄ちゃんだもん……」

 

 

 

サクタロウに様々な負の感情が芽生える。

己は、何故、イブキにこんな事を言わせている。

こんな想いを、させている……そんなどうしようもない心情を抱えている。

 

 

 

「っ……イブキッ」

「あっ…」

 

 

 

もう一度、サクタロウは自分から強く抱擁する。

それは皆が驚愕を覚えるが、サクタロウからイブキへの抱擁。コレは……実は、初めてだ。

 

 

 

「ごめんな、もう少しだけ……抱かせてくれっ」

「……っ…うんっ」

 

 

 

ジワァ…と、イブキの涙腺が緩む。

 

例え、イブキがサクタロウによって少し歪んでしまっても、根本的な優しい感情は一生消えない。

 

イブキは、ゲヘナが誇る良心。そして……誰よりも、人を慮れる子なんだ。

 

だから、そんな子を泣かせ、辛い思いを散々させたサクタロウの罪は重いのだ。

 

 

 

「お前は、俺の大切な妹だ……」

「っ!……うんっ!」

 

 

 

失った信頼は、無い。

 

でも、イブキの心は痛んだ。

その事実は消えない。

 

だから、その心を癒す。

 

 

それには………アレしかない。

 

 

 

「……今度、お前と俺で温泉に行こう」

「うん……っ」

「一緒に入っても良いな」

「わぁ!一緒にー!?」

「あぁ。しかしそうなると、露天風呂付きの客室がある旅館が良いか。良い所を知っている。俺が決めても大丈夫か?」

「うん!イブキ、お兄ちゃんとなら何処でも楽しいよ!」

「そうか、分かった。ならもう予約していいn」

 

 

 

”ガシッ…!!!”

 

 

 

瞬間、サクタロウの肩に肉がめり込まん程の圧力が加わる。

 

そして、気付く……背中越しに向く無数の殺意を。

 

 

 

「サークーターローウ~~~~!!!??!?!???!!?」

「流石の私も許せませんね。極刑です」

「見損ないました!!貴方がここまで変態だったとは!!風紀委員の欠片もありません!」

「……サクタロウ、流石にそれはヤバいわよ」

「う、うーん……ちょっと頂けないんじゃないかしら~…?」

「大スクープ!榊サクタロウ、ロリコンだった!キヴォトスが揺れますよ~~~!!」

 

 

 

マコトとイロハがエグイ殺気を放ちながら、その場に佇む。

他の面々も流石の怒気。

 

 

 

「……何だか知らんが、誤解だ」

 

 

 

それを合図に、サクタロウはボコボコにされた。

 

 

 

 

 

 

 

☆そして、現在……。

 

 

 

「────最後は、まぁ巧い具合に纏めたんだ。俺としてはイブキは妹同然だから気にしてなかったんだが、イマドキだとそれもアウトなのだろうな。俺も学んだ」

「………」

 

 

 

マリーは、静かに聞いていた。

体感的に15分もいかない位か、それ程、濃い内容ではあった。

 

 

 

「……って、すまん。少し熱が入ってしまったらしい。らしくない」

「────っ……良かったぁ…!」

「ん!?お、おいっ…」

 

 

 

珍しく語ってくれたサクタロウ。

その内容に、思わず泣いてしまうマリー。

 

流石に驚きが勝ったサクタロウが、直ぐにハンカチを取り出し、マリーの目元を拭う。

 

 

 

「ど、どうしたんだ急に……?」

「ぐすっ!す、すみませんっ……サクタロウさんが、イブキさんって子との蟠りも無く、元以上の関係性に成れてっ……ゲヘナ学園の皆さんが、サクタロウさんを確りと思ってくれてて、嬉しくって…!」

「んっ……」

 

 

 

サクタロウの話を全て聞き、理解した上での泣き。

マリーは感受性が豊かなんだ。故にシスターとして正しく在れる。

 

生きた道が誰よりも複雑なサクタロウ……その道が正しく進めて、イブキと云う大きな存在が出来て、マリーは……彼が得た場所に、涙を流してしまう。

 

 

 

「ぐす、ひぐっ……すみませんっ、また、泣いちゃって……」

「ふぅ……全くだ。お前が泣くから俺はハンカチを持つように成ったんだからな」

「うぅ……でも、ハンカチは常備するべきですよ、サクタロウさん……」

「減らず口が……まぁ、良い。ありがとうなマリー」

 

 

 

マリーは嬉しくなった。

 

そして、それ以上に……。

 

 

 

「(────凄く、優しい顔に成りましたね……っ)」

 

 

 

サクタロウの顔……少し、ほんの、ほんの少しだけ……笑っている。

 

きっと無意識だろう。

きっとまだ未完成だろう。

 

まだ、無表情ではあるのだ。

 

でも、それでも……大きすぎる変化だ。

人間性が芽生えているのだ。

 

それが、何よりも嬉しかった。

 

 

 

「すんっ……サクタロウさん」

「なんだ?」

「……えいっ!」

「うおっ」

 

 

 

彼の変化は本当に嬉しい。それは事実だ。

 

でも、そのチョーカーの件……正直、少し妬ける。

マリーは15歳ながらも、心は誰よりも清い。そして、15歳が故の、愛らしい嫉妬が噴き出る。

 

なので、この空間に二人きりな事を利用する。マリーは、サクタロウに抱き着いた。

 

 

 

「これは独り言です」

「あ、あぁ…」

「私は、貴方が好きです。大好きです……ゲヘナとトリニティではこういう事は邪道と論する御方も居るこの世界ですが……そんな事、関係ないくらい、私は貴方が本当に大好きです」

「………」

「なので、その、えとっ……さ、サクタロウさんは、私の恋人ですのでっ………あまり、他の女の子とは、近付き過ぎないでほしい……と言う、独り言です」

 

 

 

言った。言っちゃった。

我儘を、言った。

 

少し面倒くさいだろうか。

サクタロウが大切に思われていた事は本当に嬉しい。

でも、それでもう逃げないと決められて尚、GPSチョーカーを決定させる他の女の子達には、少し妬いてしまう。

 

だけどそれはサクタロウも納得している。だから、こうして独り言。

 

 

 

「────マリー」

「はいっ…っ!きゃっ!」

「はぁ、本当にお前はッ……どこまで俺をっ」

 

 

 

すると、サクタロウが低い声でそう告げる。

それは、何だか我慢していそうな声質だった。

 

 

 

「確かに俺は風紀委員もイブキも大切だ。だがな、マリーにはそれとは全く別の意味で、心から大切にしたいと思っている」

「は…はいっ」

「言いたい事は目を見て言え。独り言と称して逃げるな。こんな可愛い嫉妬で俺がお前を嫌うと思うか?ったく……変な所で素直じゃないんだな、お前は」

「あうっ……すみません」

 

 

 

サクタロウがマリーの顔をプニプニしながら、そう告げる。

無論マリーもそれは同じだ。だけど、どうしてか、目を見て言えなかったのだ。

 

乙女心は、時に女の自分でも分からない瞬間がある。

 

それを理由にはしたくないが、それに逃げてしまいそうになる程の、難しい感情。

シスターとして、清く、潔癖で、正しく在るのがマリーの秩序。

でも、彼女とて年頃の女の子で、多感な時期。

 

何とも……難しいのだ。

 

 

 

「イブキは妹の様な存在ではあるが、俺にとっての最愛はマリーだけだ。でも、お前を不安にさせた事に関しては申し訳ない。お詫びに、今日はマリーの好きなようにして良いぞ」

「え!?そ、そんな急に……っ」

「蟠りは無くすに限る。ホラ、どうした?何でも良いんだぞ?今でもいいし、後でも良い。マリーは俺に何かしたいんじゃないのか?」

 

 

 

少し煽るようにそう言うサクタロウ。

明らかな挑発。

 

マリーは少し思案する。

 

 

 

「なにか…………あっ!では、一緒にお花を見に行きませんか?D.U.近郊で新しく出来た花園があるらしくて、サクタロウさんと行きたいと思っていたんですっ!」

「………そう言う所だぞ、マリー」

「へ?」

「いや、何でもない。じゃあ一緒に行くか。こっから近いのか?」

「良かったです!はいっ!ここから20分程歩いた場所に展覧出来るみたいです!」

「了解だ。よし、早速出発だ」

「はい!」

 

 

 

そうして流れる平和の時間。

 

サクタロウにとって、マリーにとって、心から楽しい一時。

 

ここ最近、大変だったのでこの瞬間を大切にしたい。

そう思うのも、成長なのだろうか……そう思ったサクタロウであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時はまた流れ……ゲヘナ学園:風紀委員会。

 

 

 

 

”こん、こん、こん”

 

 

 

「────どうぞ」

「し、失礼しますっ」

 

 

 

花園デートから一週間後……マリーはなんとゲヘナ学園に訪れていた。

秘密裏、超極秘だ。トリニティの生徒とはバレない様に変装して来訪したのだ。

 

【エデン条約】を控えている両校にとって、かなり危険な橋渡ではある。

 

だが……ヒナはどうしても話してみたかった。彼が変わったという、マリーと。

 

風紀委員長室に控えているのはヒナ、アコ、イオリ、チナツの面々。

いつもの面子だが、ヒナ以外少しだけ警戒を取っている。あのサクタロウを変えたという女……きっと只者ではないと予測しているからだ。

 

 

 

「連れてきたぞ、この子だ。もうマスクを外しても大丈夫だぞマリー」

「は、はいっ」

「えっ……この子が?」

「サクタロウさんの想い人……」

「マジか……」

 

 

 

だがしかし、現れたマリー本人を一瞥して驚愕。

ヒナよりかは大きいが、サイズ感は少し低め。

サクタロウが用意した変装用のゲヘナ生のYシャツとスカート。そして白マスクと猫のケモ耳。

そして何より、なんでも包み込むような柔らかな雰囲気。

 

聞いていた通り過ぎる女の子が普通に来て驚きを隠せないのだ。

 

数秒の間……マリーが告げる。

 

 

 

「初めまして、本日はお忙しい中お誘いを頂き誠にありがとう御座います。トリニティ総合学園シスターフッド所属1年の伊落マリーと申しますっ。榊サクタロウからはいつもお世話になっております。えっと、今日は宜しくお願い致しますっ!」

「お、おぉ……」

 

 

 

The・礼儀の権化が現れた。

 

ゲヘナでは中々に居ない礼儀作法の御挨拶。

つむじが見える程の一礼。

 

伊落マリーを体現する言動が、この一瞬で現れていた。

 

一気に3人がマリーに近付く。

 

 

 

「う……嘘だろ!?こんな良い子そうな子が、サクタロウと!?」

「トリニティの方と逢引は100歩譲って理解出来ますが、一体どうしたらこんな優しい子と!?」

「俄かには信じられません……」

「お前等は俺を何だと思っている」

「あ、あはは……御存じの通り、とっても優しい方ですよね」

 

 

 

そうツッコミを受けるサクタロウ。

致し方ない。マリーはそっとフォローする。

 

 

 

「皆、お客さんの前よ。失礼にならないよう控えなさい」

「うっ、はい…」

「ふぅ……騒がしくてごめんなさい。この子達もわざとではないの、だから許してあげてほしい」

「い、いえっ!全然大丈夫ですので、どうか謝らないで下さい……皆さん仲睦まじくて素敵だと思います」

「そう言って頂けると幸いだわ」

 

 

 

ヒナは続ける。

 

 

 

「挨拶が遅れたわね。ゲヘナ学園風紀委員会所属、委員長の空崎ヒナよ」

「先程は取り乱してしまい申し訳御座いません。風紀委員会行政官の天雨アコです」

「風紀委員の銀鏡イオリだ、宜しく」

「同じく、風紀委員の火宮チナツです。今日は宜しくお願いします」

「ヒナさん、アコさん、イオリさん、チナツさん、今日は宜しくお願い致します!」

 

 

 

一通り自己紹介が終え、チナツがマリーを来客用のソファーに腰を掛けさせる。

そして、紅茶を差し出す。

 

マリーは一言御礼を言い、一啜り。非常に美味しかった。

 

皆々がソファーや椅子に腰を掛ける。

 

そして、サクタロウはマリーの隣に座ろうとした……時だ。

 

 

 

「サクタロウ。貴方は風紀委員の戦闘講習よ」

「む……確かにそうだが、マリーが…」

 

 

 

ここにきてヒナがそう告げる。

そう、サクタロウは今日は戦闘講習会だ。本日は破壊工作の対処法の訓練、これは彼にしか出来ない講習だ。

 

しかし、この場面でサクタロウで消えるのはマリーとて予想外。少しの寂しさを覚えるも……ヒナは即座に告げる。

 

 

 

「安心して。マリーには余計な事は言わない、ただ少し聞きたい事と話し合いたい事があるだけ。決して、迷惑は掛けないと約束するわ」

「……分かった、信じる。マリーもそれで大丈夫か?」

 

 

 

サクタロウは納得する。

彼がそう問うと、マリーは…。

 

 

 

「はいっ!私は大丈夫ですので、風紀委員の皆様の元へ向かって下さい」

「そうか……分かった。じゃあ席を外す。銀鏡、終わったら俺に連絡してくれ」

「りょーかい。明日は私にも戦闘訓練してくれ」

「分かってる。じゃあマリー、またな」

「はい!講習会、頑張って下さいね!ご無理は駄目ですよ……()()()()()()()()()()()

「────……あぁ」

 

 

 

サクタロウはそのまま風紀委員長室を後にした。

 

マリーの言葉に一瞬驚くも、マリーの優しさに救われる。

 

 

 

「………」

 

 

 

その一瞬を、ヒナは見逃さなかった。

 

だが、それは後で。ヒナが告げる。

 

 

 

「……ごめんなさいね、サクタロウが居ると中々口に出せない事なの」

「いえ、お気に為さらず……少し予想できましたので」

「ふふっ、そう」

「なぁ、マリーってサクタロウの奴と確か花園観光しに行ったんだよな?」

「え?えぇ、行きました。サクタロウさんが話して下さったのですか?」

「うん。トリニティとD.U.に在る花園に行ったって言っていたんだ。アイツが花に興味っていうか、その、そういうの気になってるのかな~って」

「成程です……」

「以前からサクタロウさんは校庭に中庭の草むしりや、展示されている花壇の水やりは気付かぬ内にしているタイプでしたが、お花が好きとは言っていませんでした。趣味も全く話してくれない御方でしたので、もしかしてマリーさんの影響なのかなと思いまして」

 

 

 

イオリ、チナツがそう問う様に告げる。

ヒナとアコも少し気になっている様で、マリーに視線を配らせる。

 

マリーは彼女たちの想いを感じ取り、優しい微笑みで告げる。

 

 

 

「彼の御厚意もあり、私が行ってみたかったトリニティの花園にお誘いしたんです。正直、私の眼から見ても最初は()()()()()()()()()()()()()()()()……表情に声質が変わらないので完全な判断は出来ませんが、私には……そういう風には見えました」

 

 

 

そう、トリニティの花園にはマリーが誘った。

元より何処も行く気が無くなっていたサクタロウはマリーに行く場所を任せていた。

 

だが、その判断が、功を為したのだろう。

 

 

 

「でも、彼は花園のお花畑を刮目して、一言こう言いました────『綺麗だ』……その瞬間、私は初めて、彼の表情が和らいだ。そう見えたんです」

「……そう言う事ね」

 

 

 

ヒナは理解した。

彼はその光景に心を奪われたのだ。

それは、マリーともう一つのピース。二人で花園に行ったから得た心情なのだ。

 

その伏線はあった。サクタロウは植物系の世話や処理には少し力を入れていた。

いつものように下に務めている縁の下。

 

それとはまた別の、他の生徒やサクタロウ本人ですら知り得なかった【好きな事】を理解出来たのだろう。

 

 

 

「やはりマリーさんが花園へ連れて行ったのが大きかったのですか。きっと別の事もあるでしょうが、彼に【趣味】が出来る要因は貴女にあった。何だか腑に落ちましたね」

「しかし花かぁ……何て言うか、意外と似合うかもな」

「ここ最近、花の種類や花言葉を調べたり、ゲヘナ学園の花壇に水やりをする目撃情報が増えたりと変化は見えていましたしね」

「そうだったのですか?ふふっ、この間行ったD.U.のお花畑でお花を興味深そうに見たり、分かるお花には私に解説してくれたりとしていました。そういった事があったのですね」

「彼にしては可愛い趣味ね。今度『ウイキョウ』でも手渡してあげようかしら」

 

 

 

ウイキョウの花言葉の一つには『背伸びした恋』がある。

 

それを知人に渡す時に『恋の応援』が含まれる事もあるとか。

 

 

 

「ウイキョウ?なんだそれ……ってか委員長、花言葉とか知ってるんだな」

「昔に少しだけね。今でも偶に調べたりはするわよ。どうかしらマリー、彼に少しお似合いじゃない?」

「っ……あっ、うぅ…~~~!」

「ふふっ……可愛い反応。あの子が好きになるのも頷けるわね」

「そ、そんっ……は、恥ずかしいですよ…ヒナさん……っ」

「あら、ごめんなさい。らしくなくイジっちゃった。貴女反応が可愛くってつい、ね」

 

 

 

ヒナとマリーの何ともな会話。

 

自分でも言っていたが、ヒナが人をいじるのは確かに珍しい。

アコ、イオリ、チナツもかなり衝撃だ。

 

ただ、二人とも楽しそうだ。

それが、面々を和ませる。

 

 

 

少しの会話を弾み、マリーがふと、疑問を問う。

 

 

 

「それで……今日は私にお話があるとの事でしたが、一体どういう御用件なのでしょうか?」

 

 

 

マリーが切り込む。

それはサクタロウにも伝えられていなかった事。ただ、サクタロウには”出来るなら巧い具合に連れて来て”と命令しただけ。

 

少し疑問を覚えたサクタロウだが、あのヒナが迷惑を考える訳が無いと即座に否定。

 

云われるがまま変装を取り行い連れてきたのだ。

少しの緊張。だがヒナが……ふふっ、と笑い、告げる。

 

 

 

「そんなに緊張しないで大丈夫よ。今日は只……御礼とお願いを直接したくて来てもらったの」

「御礼と、お願い……ですか?」

「………」

 

 

 

ヒナは一変し、真面目な表情で、マリーを見据える。

 

 

 

「────サクタロウはね、風紀委員会に入っても、ずっと表情を崩さない子だったの。どんな楽観的盤面でも、どんな厳しい修羅場でも、それは同様。まるで能面の仮面をそのまま宿らせた様な男の子」

「あ………」

「私達は比較的彼に対しては接していた。でも、他の子達はそうはいかなかった。彼はキヴォトスで唯一の男子生徒、加えて、失った右目の裂傷痕……明らかに、普通ではない様相。これが中々どうして難しい。彼の事を【こういう人間】だと決めつけて今迄なにも知ろうとせず過ごして来た私達だけど、彼はそんな中でも()()()()()()()をずっと探していた」

 

 

 

ヒナは知ろうとしなかった者の中に自分に入れた。結局は知る事が出来なかったのは皆と同じだからだ。

 

その言葉は、確かに聴く3人に響いた。

 

そうだ、結局はサクタロウは【こういう人間】なんだと決めつけていたのだ。

彼の右目の傷、そして変わらぬ表情に特筆した戦闘力の源。過干渉せず、彼はかなりの修羅場をくぐり抜けてきた者なんだと。ただ、その根源を知ろうとしなかった。

 

それは確かに……アコたちの心を軋ませた。

 

 

 

「その自分の存在価値を彼は分からず、風紀委員会を一度は抜けた。先ずは私に直接伝えて、そして次に風紀委員会のグループモモトークで簡素で社会的に伝えて」

「はい…サクタロウさんから、それはお聞きしています」

「うん。でもね、結局は皆それに怒ったの。これが中々複雑で……サクタロウからすれば【自分は此処にいるべきではない。自分が居たら風紀委員会は変わらない、自分も分からないまま】と、そう思っての行動。でも皆からしたら【強くてカッコよくて、力のない自分達でも戦い方やサポート技術を叩き込んでくれた恩師であり戦友】でもあった……この行き違いが混乱を招いた。エデン条約も控えている中でのコレは、かなり問題視もされてしまったわね」

 

 

 

そう、そうなのだ。

サクタロウの風紀委員会脱退は非常にタイミングが悪かった。

 

それによる外交問題。

それによる風紀委員会への不安視。

 

元来の彼の立場は中立だが、戦闘力は空崎ヒナに匹敵するとまで言われた傑物。破壊工作のエースとまで言われた男。

 

その脱退は、世間は問題視したのだ。

 

 

 

「正直に言って……これは誰が悪いとか、そういう話ではないと私は思っている。行き違いの度合いが高かっただけで、私達がちゃんと彼に向き合って、正面切って話し合えば済んだ話。でもそうはならなかった」

「っ……委員長」

「それは、私も……」

「……ッ」

 

 

 

アコも、イオリも、チナツも……それは同様だ。

ヒナにそう発言され、漸く理解した。自分達は彼への感情の怒りで動いてしまっただけだと。

 

もっと私達が彼を見てやればよかった。

 

だけどそれは、彼にも言えた。もっと頼っても欲しかった。

 

誰も悪くない。結論から云えば…皆がもっと【大人】になるべきだっただけなんだ。

 

 

 

「1週間前のあの日、サクタロウは私達に土下座をしてまで謝罪したわ。最初は止めるつもりだった。抜けた仕方は悪かったけど、その内容は列記とした理由でもあったから」

「……」

「でもね、そう告げ終えた彼の瞳、彼の顔────本っ当に、変わっていた」

 

 

 

瞬間……ヒナの顔が柔らかくなる。

 

 

 

「見違えた。あの生気の抜け、死人のような顔だった彼が……光を灯していたの」

「っ…!」

「さっき、貴女とサクタロウの話を聞いて確信したわ。貴女が、あの子を変えてくれたのね。その事に、風紀委員会委員長として、心より御礼をさせてほしい。本当に、本当にありがとう────彼に、榊サクタロウに()()()()()を与えてくれて」

「ひ、ヒナさん……っ」

「ヒナ委員長……」

 

 

 

それは、風紀委員会の長として、榊サクタロウの上司としての、頭を下げた御礼。

本来ならば特大な影響力を持つヒナが、シスターフッドの、トリニティの生徒にするのは余り良くはない。

 

だが、此処には5人だけ。

ならばと、ヒナはこの行動を取ったのだ。

 

ヒナのその御礼に、マリーは……。

 

 

 

「────彼は、皆さんの事を話して下さいました。ヒナさんには経験と実績のチャンスを、アコさんには仕事の斡旋と愛と鞭の使い方を、イオリさんにはお誘いしてくれた恩と共に戦闘する理解を、チナツさんには書類作業のいろはと医療という偉大さを……私に、熱く、教えて頂いたと。そう語ってくれました」

「っ!」

「サクタロウが…」

「貴女に……そんな事を」

 

 

 

アコ、イオリ、チナツが驚愕の表情を作る。

彼が信じるマリーが言う。現在進行形でマリーの性格を理解したからこそ、彼女達もそれが冗談ではないと判断。

 

 

 

「ヒナさんが言う事、私は全く違うとは思いません。良し悪しの話ではない、これは本当に複雑で難しい話なのだと、私如きでも理解しています………でも、私は只、彼と触れ合い、彼と少しの間近くにいただけの者です」

「でもそれで、彼は貴女と……」

「そうかもしれません。でも皆さんが彼と居て、触れ合って頂いたお陰で私は彼に救われました。彼に【風紀委員】の”心”を宿わせてくれた皆さんが居たお陰で、私はサクタロウさんと逢えました………私は、これを偶然とは思えません。全て繋がっているんです」

 

 

 

マリーの言葉は強い芯があった。

彼女だからこそ言える事……マリーはいつだってそうだ。

状況を見て、冷静に、相手を想い、そして……欲しい言葉を贈る。

 

 

 

「だからこそ、御礼を言うのは私の方なんです。彼を見て、彼を…想ってくれてっ…ッ………え、えっと……っ」

「おっ、おい……」

 

 

 

マリーが下を向く。だめだ、ここ最近の己はいつもこうだ。

 

彼の過去、彼の背景……そのどれもが、人智を逸脱した唯一のモノ。

それを知らぬが及んだ行き違い。

 

皆の気持ちも、サクタロウの気持ちを分かるが故に、辛くなる。

 

でも────いま、聞いて分かった。

 

風紀委員会の皆はサクタロウを大切に、本当に大切な仲間だと思っていた。

それをヒナの口から聞けた。それは何よりの証拠であった。

 

 

 

「今日、此処に来てよかったですっ……心より、そう思います。サクタロウさんの御仲間の皆さんが、こんなにも素敵で、優しくって、頼りになる方々だと知る事が出来ました。私は、本当に幸せ者です……サクタロウさんを、見て下さって…本当にありがとう御座います……っ」

「ッ……そう、か」

「……マリーさんの様な方にそう言って頂けて、私も光栄です」

「その御言葉、心から嬉しく受け止めます。ありがとう御座います、マリーさん」

 

 

 

イオリ、チナツ、アコも……ここまで伝えられてしまえば、最早感謝の念しか生まれなかった。

 

トリニティに於いて、ゲヘナに嫌悪感を抱く生徒は過半数を占めるほど多い。

その少数派は特に気にしていない生徒だ。

 

だがしかし……伊落マリー。彼女の様なトリニティ生は余りにも珍しい。

 

嫌悪感なんて丸っきりなく、在るのは共栄への慈愛の心。

 

人を慈しみ、相手の心を深部まで理解し、同意できる驚異的な精神性。

そんな事、早々出来ない。なんて女の子だ、なんて人として出来た子だ。

 

これがまだ15歳……正直、末恐ろしいとすら思ってしまう。

 

 

 

「すみません、私っ、最近彼の事になると…涙腺が緩くてっ……ごめんなさいっ……」

「謝る事は無いわ。ふふっ……本当に優しい子なのね」

「んっ……あ、ありがとう御座います……」

 

 

 

ポロリと、数滴の涙を流すマリーに……ヒナはそっとハンカチを用い、拭く。

その動作が、あの時の彼と重なり……サクタロウは、ヒナの下で働き学んだのだと間接的に理解した。

 

きっと、必然的だったのだ。全て、繋がっている。

 

 

 

「サクタロウの傍に貴女が居る。これ以上の信頼は無いわね………ふふふっ、長きに渡って各地を回ったけど、貴女のような子も居るのね」

「わっ、私はまだまだ未熟な、しがないシスターです……」

「何を言うの。サクタロウのみならず、私達も()()()()()()じゃない。謙遜は時にレベルを上げた自分を見失っちゃうわ、少し位は自分の成果を称えなさい」

「ひゃっ……は、はいっ……温かいお言葉、ありがとう御座います…っ!」

 

 

 

ヒナはマリーの頭を優しく撫でる。

この世は広い。そう感じる。

これでも各戦地を渡り歩き、戦果を生きてきた自称はあるヒナだが……ここまで優しく、清純の塊の様な子は見た事が無かった。

 

サクタロウは良い子と出会えた。部下の朗に……心から良かったと思う。

 

 

 

「うふふ……」

「……何か意外だな。アコちゃんがあの光景を見ても何も言わないのって」

「世の中には例外と云う言葉があるのですよイオリ。世界で一番のヒナ委員長と、マリーさんの様な極めて善性で心優しい子には、ヒナ委員長との絡みは寧ろ世に益を齎すのです」

「うわ、何だか宗教的。ちょっと怖いなぁ……」

「恐ろしいのが一理あると言う事ですね……」

 

 

 

目の前に広がる、本当に微笑ましい光景に、3人は和む。

 

凄いのが、あの【ヒナ一筋(厄介)】なアコがマリーのと絡みを良しとしている事。

イオリやチナツもこれには驚きだが、まぁ、今迄の経緯を間近で見聞すれば当然だった。

 

数秒の間が流れ、ヒナが……ふと、一言。

 

 

 

「それにしても、貴女って本当に可愛いわね」

「え…えっ!?そ、そんな事は、ないかと……」

「あら?また謙遜?サクタロウが悲しむわよ。あの子は謙遜よりも素直を好むからね」

「え?そ、そうなのですか……?」

「えぇ。少しくらい自分に自信を持ちなさい」

 

 

 

※皆さんが思っている事は理解しています。君が言うなと。

 

 

 

「……で、でも、やっぱ恥ずかしいですよ……」

「ふふっ、きっと彼はそういう所にも惚れたのでしょうね。ねぇマリー?彼が戻ってくるまで時間があるし、少しお話しない?今日は珍しくゲヘナも落ち着いているからね」

「え?そ、それは勿論ですっ!」

「おぉ!良いなそれ!」

「丁度休憩時間ですし、良い案ですね。流石ヒナ委員長です」

「ではまた紅茶を淹れて来ますね。菓子類も持ち合わせをお持ち致します」

「あ、ありがとう御座います…!」

 

 

 

ここでヒナが提案。まぁ言えば女子会的な感じだ。

この面々は多忙を極める。そんな中でのマリーは癒しだった。

 

丁度、サクタロウが復帰早々【温泉開発部を持ち前の”破壊工作”で大破壊】したのが昨日。

それを、何と”単騎”で成し得たインパクトはデカかった。まぁ温泉開発部は直ぐに復活するのだが、それは割愛。

 

その影響もあってか、今日は不良集団が影を潜めている。

流石にヒナと並ぶ【ゲヘナ学園のジョーカー】か。復帰して早々、その価値を見出した。

 

そうして、チナツが紅茶を淹れてくれて、席に着いたと途端……イオリが早速言を投げる。

 

 

 

「なぁマリー!早速でアレなんだけど────マリーはサクタロウの何処に惚れたんだ?」

「え、えぇ!?」

「ふふっ、確かに気になるわね」

「まぁ謎ではありましたね。サクタロウさんは過ごしてる間に~とか言ってましたが、マリーさんは分かっていませんから」

「正直いまでも私は分からないでいます……マリーさんはあの能面男の何処に魅力を?」

 

 

 

流石はゲヘナの特攻隊長、銀鏡イオリ……何の躊躇もなくぶっこんだ。

しかし、ヒナとアコは咎めはしない。何故なら気になるから。

 

早速サクタロウとの約束を破る。だがそれで良い。

 

マリーは顔を赤くするも……サクタロウの件では感謝してもし切れない方々。

羞恥もある。だが、言わないのは何か、何かだった。

 

 

 

「え、えっと、そのぉ………ぶ、不器用で、でも優しくって、偶に可愛くって…それで……わ、私にだけ、えっと……」

「うんうん」

「へぇ」

「ほう」

「え、えっと、それで……」

 

 

 

ぷしゅ~…と表現すれば良いか、マリーの顔は真っ赤っかだ。

 

乙女と云えば恋バナ。マリーとてした事が無いと云えばウソだ。

だがしかし、こうして相手を浮かんで発言する事はかなり恥ずかしい。

 

思わず言い淀むマリーに、面々は……。

 

 

 

「ん?続けて下さい?」

「不器用で?優しくて~?」

「私にだけ……何なんですか???」

「そこまで言ったら気になるわマリー」

「あ、あぅぅ……っ!」

 

 

 

無慈悲にも、味方は居ない。

 

そう、此処はゲヘナ。マリーにとって結局はアウェーの地。

しかも相手は治安維持組織の長、そして幹部。その詰めの強さは尋常ではない。

 

マリーは悟り、こう、言った。

 

 

 

 

 

 

「────わ、私にだけっ……たまに荒くって、で、でも!あっ……愛してくれる……所、ですっ」

「おーほほっ!」

「この紅茶が心身に染み渡る程の甘みは、マリーさんも絡んでいるのですね(?)」

「何だか、こっちまで胸が熱くなります……甘酸っぱいですね」

「素敵……」

 

 

 

観念して、マリーはありのままを話す事にした。

好きな所、どういった所がキュンとしたか……その全てを。

 

 

そうして、マリーはヒナ達と親睦を深めたのであった。

 

 

 

 

 

「(────ここで違和感を問うのは、違うわね)」

 

 

 

 

ひっそりと、そう想うヒナ。

それは、最後にサクタロウとマリーが交わした事。

 

『おっ、お怪我にはお気をつけて下さいね』

『………あぁ』

 

そう、この内容。

 

 

果たして、コレを聞くべきだったか。それとも、聞かなくても良かったのか。

 

ヒナは少しモヤッ…としたが、それを振り払った。

 

 

これは、英断だったのか────それは分からない。

 

 

 

 

 

 

だが………ここから急ピッチで展開は進み。

 

 

 

────【エデン条約】へと、歩を進む。

 

 

 

そしてそれは……【狂人】

その意味を……皆々は、理解してしまう瞬間でもあったのだ。

 

 

 

 

次回

 

エデン条約:前編。





やっと、此処まで来た。

長かったですね。残り数話ですが、頑張ります。

皆さんは最初期に言った〈狂気〉のフレーズ、忘れていませんよね?



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