マリー、俺と付き合って下さい。   作:カブトムシの相棒

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▽見られてたサクタロウ。



「………」


目の前の花壇には、水を与えられた色取り取りのチューリップ。
水滴を浴びキラリと輝くその様は、非常に可愛く美しかった。


「……にこー」


何を想ったか、サクタロウはそのチューリップに向かって笑顔の練習をしていた。
指を使い、頬を吊り合わせる。
マリーに教えて頂いた事の復習。少しだけ、上達したのではないだろうか。


”パシャッ!”


「ッ!?」


だが突如、建物の陰からシャッター音が鳴る。
即座に向けば……其処には。


「あ、すみません音が……」
「ばかものっ!バレるだろうが!」
「お、お兄ちゃん……かわいい…っ!」
「あざと……何ですかアレ…けッ」
「やだ、ちょっと胸キュンじゃない~!」


万魔殿の面々が覗いていた。


「………これが、羞恥か」


一つ学んだサクタロウであった。




今回も幸せ回です。

次回からは確りとしたエデンです!

では、本編です。


エデン条約編(1):贈り物の効果。

 

時は進み………風紀委員会:訓練場。

 

 

 

 

 

「────喰らえッ!!」

「動きが直線的過ぎる。それは読み易く、意図も簡単に対策される。それを用いるなら曲線的な動きも取り入れろ」

 

 

 

その日、サクタロウは風紀委員会と訓練に育んでいた。

 

イオリとサクタロウによる模擬戦闘。だが、師はサクタロウが執り、イオリが全力で当たっている。

それは他の面々から見てもハイレベル。しかし、イオリからしたら中々に難しい盤面だ。

 

 

 

「クッッ……!!」

「フィジカルで誤魔化すな。頭が熱く成る度に冷静に成れ。両眼を巧みに使い戦場の変化を見ろ。なぜ決定打が打てず、長期戦に持ち込まれるか分析しろ」

「ッ!……ふぅぅ……!!」

「そうだ、こういう時は無理をして突っ込まなくていい。持ち前のサイドステップで視野を広げろ、今、お前には何が出来る」

「こういう時はッ……こうだっ!」

 

 

 

イオリが転がっている石ころを最小限の動きで蹴り飛ばす。

それは正確にサクタロウの額に向かう。

 

サクタロウは引きつけ、紙一重で交わす。

 

 

 

「悪くない。環境利用を用いる視野、それにこの威力は弾丸並み……エグイ才能だ。それに…」

「ふぅッッ!」

 

 

 

イオリは連撃。交わしたサクタロウは膝を畳み、しゃがみ込んで体制が悪い。

それを読んだイオリの愛銃が重い弾撃が飛ぶ。

 

それは正確。サクタロウのまた額に向かう。

 

だがサクタロウは強烈な足のバネを用い、左に転がる。

 

 

 

「チッ!これも読むのかよっ!」

「言ってる場合か?」

「なに……んなっ!?」

 

 

 

そこでとんでもない光景がイオリに入る。

己の下に異物……それは何と、爆片手榴弾。

 

サクタロウは転がりながらも凄まじい速度で抜き、そのまま投げていたのだ。

 

 

 

「クソッ!」

 

 

 

ドォォンッ!と、爆炎がイオリに飛び掛かるもバックステップで回避。

安全を考えての回避。それは完璧だった。

 

だがしかし────サクタロウは、もう目の前にいた。

 

 

 

「いつの間にっ!?」

「読み合いは動き出しのモーション、そして眼の奥を見て判断する。表情豊かなのは素敵だが、それが裏目に出る事もある。戦場でのサシ合いでは、顔色を崩さない方が吉だ」

 

 

 

そう言いながらサクタロウは、何と前蹴りを披露。

それはイオリの顔面に目掛けての蹴り。かなり致命的だ。

 

 

 

「まだ、舞えるっ!」

「ほう、ピンチか、俺が」

 

 

 

だがここにきてイオリの身体能力が唸りを上げる。

身体を回転させ、イオリはその強烈な前蹴りを掠めるも回避する。

 

前蹴りは隙を生む大胆不敵な攻撃。

そこに可能性を見たイオリは銃身を使って、己の愛銃でサクタロウの脇腹に目掛け打突を行う。

 

と、思った瞬間。イオリはまた……

 

 

 

「なっ…何だと!?」

「ならば諸共だな」

 

 

 

サクタロウは物を落とす様に、なんと先程と同じ手榴弾を二人の間に落とす。

これは、銃身を振れば回避が間に合わない。一度当たればサクタロウは何をするか分からない不確定要素が詰まったこの瞬間……イオリは……。

 

 

 

「お前だけ吹き飛んどけッ!」

「ふむ」

 

 

 

銃身を持ち替え、サクタロウの元から退避。

ここでリスクは取るべきではない。

 

諸共ならかなり危ない。様々なリスクヘッジを鑑みて浅くも回避。

ここは軽傷を負ってでも直撃は避ける。

 

それが、駄目だった。

 

 

 

「(爆破まで残り1秒もない。爆破を受けたお前の隙を突くっ………あ、あれ)」

 

 

 

しかし、手榴弾は静寂。

その双眸は手榴弾を捉える。間違いない、安全ピンも抜かれ、爆破する筈の爆撃弾の筈。

 

妙。違和感。その一瞬が、隙を生んだ。

 

 

 

「緊張して視野が狭く成ったなイオリ」

「あッ……」

「全てが過程として行くとは限らん。コレも起こり得る、それが戦場だ」

 

 

 

そう、これはフェイク。つまり偽物の手榴弾。

 

読み合いと云う名の騙し合い。

 

それは予想外過ぎる戦法……イオリの元には────。

 

 

 

「ふんッ」

「ぐっ!!あぐぅぅっっ!!!」

 

 

 

既に左の肘鉄が、イオリの鳩尾にぶっ刺さっていた。

これは空手の禁忌技。超危険な古の技だ。

 

それを鳩尾。幾らキヴォトスの生徒でも、これはキツイ。

 

イオリはその衝撃を和らげる事無く、後ろに吹き飛び転がる。終わりだ。

 

 

 

「勝負アリだな」

「ぐぅぅっっ……ま、負けたぁぁ……!」

「戦闘が長引けば長引く程、お前は視野を狭め一点しか見えなくなる。それはサシに於いても乱戦に於いてもメリットはない。視野を広めつつ集中だ」

「けほっ……くそー、すっごく為になる~!」

「悔しさをバネにするのは利に繋がる。感情的になるなとは云わん、だがその感情を前に出し切らず、冷静に、極限まで状況を見据えるんだ。お前は身体能力、銃の扱いは非常に良いが故に惜しい。これも経験だ、銀鏡」

 

 

 

榊サクタロウ。教育者として非常に冷静的で論理的。

これが、空崎ヒナのワンマンチームだった風紀委員会の格を上げ、強化を施した者の熱さ。

 

銀鏡は悔しがるも、その分、強く成ったと自覚する。

この男との模擬戦は全てにおいて学びがあった。ハチャメチャな強さではなく、基礎的強さ、正に【凡人が基礎を底上げし、技術と視野、そして読みを解析した者】の極みに位置する、最高傑作。

 

凡人の星。それが、榊サクタロウの強さだったのだ。

 

 

 

「大丈夫か?」

「大丈夫だぞ!もう立て……いててっ」

「氷水でも何でもいい、少し冷やしてろ」

「ありがとう……ふぅぅ、それにしてもまさか鳩尾に肘鉄をお見舞いされるとは思わなかったから驚いたぞ」

「人体の急所を捉えるのも戦闘だ。首や額、金的も然りだ。弱点を突くんだ」

「金っ……まぁ、そういうモンか」

 

 

 

サクタロウがイオリに手を伸ばし、医療処置を施すと……サクタロウが告げる。

 

 

 

「しかし、未熟ながらも銀鏡は勘とフィジカルで誤魔化しが利く場合がある。それは並大抵じゃ対応は出来ん。大したモンだ」

「そうなのか?まぁ、確かに私はよく走り回るから、そういうのに関しては応用が利いてる感じはちょっとしてたけど」

「自覚出来てんのなら尚良い。ハッキリ言って、銀鏡は戦闘的潜在能力は俺なんかよりも遥かに上だ。言うなれば、あの空崎と同じくらいにはな」

「は、はぁ!?何言って…そんな、烏滸がましいって……っ!」

「烏滸がましくなんかない。プレースタイルが真反対な立ち位置のお前等だが、銃撃の一発一発の重みは銀鏡、お前の方が強い。空崎が殲滅力特化型なら、銀鏡は一点集中特化型だろう。役割が違うとはいえ、その才能はまだ爆発すらしていない。銀鏡、お前はいずれ俺を超し、そして空崎と並ぶ。もしくは、空崎すら追い越すだろうな」

「えっ…えぇッ………全然想像できないし、なんか、違和感が凄いんだが!?」

 

 

 

それは過大評価が過ぎる。そう思うイオリの想いは間違ってはいない。

 

ヒナと云えば、ゲヘナに於ける最強。これは周知の事実。

そのヒナに対し、サクタロウはイオリはいずれ並ぶ、または超すと宣言。

 

正直、馬鹿にされてるとも捉えられる。だが……

 

 

 

「違和感が有ろうが無かろうが、俺は少しの疑いでも有ればこんな事は言わん。銀鏡、戦闘者こそ自信を持てなきゃ駄目だ。そして色々考えるんだ。どんな自分に成りたいか、空崎はどんな信念をもってその地位に立って居るか、トップ戦闘者はどんな思考をしているのか、どうすれば最強に成れるか……戦う中で、相手の心情を理解する。正直、コレが一番楽で、同時に大変だ。銀鏡、空崎は戦いをどう感じていると思う?」

「え?急にそんな……えっと、面倒くさいとかか?」

「半分以上当たりだ。同様に、空崎は悩んでいる。このままで良いのか。部下の育成はコレで良いのか。己の後釜は己の影響力を受け継ぐ事は出来るのか」

「あっ……」

「悩んで、悩んで、そんな中で、実質的な武闘派No2の銀鏡イオリと云う存在。お前の成長が、空崎にとっての引退、幕引きに繋がる。次世代の風紀委員長はお前しか居ない。いいか銀鏡、お前は強い。パンチ力もある。存在感も、まだ足りんが戦闘力もカリスマ性も上手く噛みあえば、空崎と並ぶほどの潜在能力を秘めている」

「サクタロウ……」

「それに……」

 

 

 

サクタロウは色々とイオリに対し、思っていた事をぶつける。

 

真剣に聞くイオリは、少し感傷深くなってしまうが……サクタロウが、こう言った。

 

 

 

「────俺も居る。成れるか分からんが、副委員長としてお前にサポートは出来る」

「っ!?」

「まぁ成れなくても教育係として存在は出来る。そうだな……【相棒】的な立ち位置には成るのかな?上手く言えんが、頑張ろうな、銀鏡」

「……ぷっ!くはっ、はははは!」

「む?なんで笑う」

 

 

 

突拍子もなく、こういうサクタロウ。

 

そんな彼が、何だか面白くって。

イオリはつい笑ってしまう。

 

 

 

「いや、らしくない事言うモンだからっ……あっはははは!」

「むぅ」

「ふふふッ………サクタロウ」

「なんだ?」

「まだ肩を並べるには早いだろうけど、お前と【相棒」を組むのは……きっと、楽しいんだろうな」

「ん?まぁ、そうだな」

 

 

 

イオリは、続ける。

 

 

 

「────ありがとう、そう言ってくれて。一緒に頑張ろうな!」

「……あぁ」

 

 

 

元気よく、そして可愛らしくそう告げるイオリは、非常に楽しそうだった。

 

イオリが誘わなければ、サクタロウは風紀委員会に入っていない。

サクタロウが宣徳講習をしなければ、イオリの強さは変わっていなかっただろう。

 

全てが繋がり、プラスに成ったりマイナスに成ったりしている。

それが、仲間との関係なのだ。

 

サクタロウはそれを、やっと分かった気がする。

今迄、どうして、気付かなかったのだろう……遅くなり過ぎたけど、これから頑張っていくしかない。そう、思った。

 

 

 

そんな中、サクタロウは告げる。

 

 

 

「────さて、俺はもうあがる。用事があるんだ」

「ん?なんだ用事って」

「ちょっとトリニティの花屋に向かう」

「トリニティってお前……危ないだろ色々と。エデン条約も控えてる中で、大人しくしてろよ」

「そういう訳にはいかん。楽しみしてた花なんだ、それに……いや、何でもない」

「何だよ気になるな……まぁいいけど」

 

 

 

何と、突如、サクタロウはこの後トリニティに向かうと告げる。

今まで何度か赴いた事はあれど、この時期に向かうのはかなり危ない。

 

エデン条約が刻々と迫る中での行動。それが、あの榊サクタロウともなれば万が一も考えられる。

 

だが譲れないものがある。トリニティの花屋はかなり秀逸で、趣がある。

花園とは別で、楽しいのだ。

 

 

 

「どうせマリーにも会いに行くとかだろ?」

「……まぁ、うん」

「今更隠すなよそんな事で。別に言い触らしたりもしないし」

「そうだな、そこも信頼してる。ただやっぱ小恥ずかしい」

「はぁ?お前に恥ずかしいとか、そういう概念あったっけ?」

「……最近、そうなんだよ」

 

 

 

伊落マリーと云う女に、サクタロウは根底から変えられた。

 

変わりないと云えば、表情の変化だろう。

筋肉が硬直し、柔らかくは成りつつあるが、まだ自分達には【笑顔】を見せた事が無いサクタロウ。

 

マリー曰く、一回だけ笑った事があるらしい。それも一度だけで、もう、忘れてしまったとか。

 

 

 

「(……この仏頂面は相変わらずだけど、やっぱ雰囲気って分かる人は分かるんだな~)」

 

 

 

感情が無かった瞳、イオリはソレを知っている。

まるで人の皮を被ったロボット。それが、今迄の彼だ。

 

それはイオリも理解している。ただ、やはりマリーの力が凄まじいのか、彼の変化は目まぐるしい。

 

 

 

「銀鏡、これ内緒で頼む。空崎とか羽沼、特にイブキにバレるとめんどくさいから」

「……はぁ、じゃあ早く行けよ。あと少しすれば他の風紀委員も此処に来るぞ。怪しまれない内に」

「すまん。帰ったらトリニティ産のクッキーやる」

「おぉ、何か嬉しい」

 

 

 

此処は友達の顔を立てる。

イオリにとっても、サクタロウの恋は応援したい節があった。

 

もう成立してはいるものの、学校間での問題が大きい。不安定が過ぎる。

だからこそ、応援したくなるのだ……無事に、上手くいって欲しいと。

 

 

 

「じゃあ、また」

「気を付けろよー!」

 

 

 

そう言い残し、サクタロウは駆け足でその場を後にする。

その背中は、体躯もあって大きく見えて……同時に、物事に真剣になって、頑張っている子供のように小さく見えた。

 

 

 

「……ぷっ!バカだなぁ、アイツ」

 

 

 

正に色を知った男子高校生、サクタロウはそれを体に表していた。

その姿が、何だか可愛く見えてしまう。

 

今迄、大人な雰囲気だったサクタロウ……蓋を開ければ、こうも愛らしい。

 

 

 

「……頑張れ、サクタロウ」

 

 

 

銀鏡イオリは、何だか”カプ厨”の気持ちが少し分かった気がする。

そう想うこの頃、イオリは背伸びした後、日差しを防ぐ木の陰に座って休憩した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆数時間後……。

 

 

 

 

「────このお花は『ニチニチソウ』と云って、土質をあまり気にせず育てられる強いお花なんです。花言葉は【満ち足りた幸福】……素敵ですよね」

「えぇ、素敵です。因みになのですが”コレ”は一体どういう花なんですか?」

 

 

 

サクタロウは1時を過ぎた頃合いで、トリニティの花屋に身を入れていた。

其処はトリニティの郊外区域に位置する、中々に珍しい場所に点在している。

 

サクタロウは服装をビシッとしたスーツに着替え、サングラスとつば帽子を深く被って変装している。いそう感、とは言えずとも、誰かは分かっていない筈だ。

 

そのスーツには破壊工作用の〈数多な種類の手榴弾〉に加え〈特殊加工の指弾〉に〈逃走用の隠し玉〉が数多く存在してある。カチャリと鉄音が時稀に響く程の量。

 

破壊工作は彼の専売特許だ。トリニティに来るのなら、防衛手段は必須なのだ。

 

武具に加え、色々と変装しているが、それも時間の問題だろう。

男と云うアイデンティティ、言い換えればデメリットとも取れる雰囲気と体躯で長くは持たない。

 

そんな憂いを心に想いながらも、サクタロウは人が居ない花屋で色々と見聞している。

対応しているのはトリニティの生徒だろうか、専用の服を着用している若い女の子だ。

 

そんなこんなで、サクタロウはある【一つの橙色の花】に目が言った。

 

 

 

「あ、それは『マリーゴールド』ですね。キク科の1年草で、日当たりが良い場所に置けば初心者の方にも簡単に育てられるお花です。この子の色合いは橙色ですが、他にも黄色や赤色、それ等が混ざった色が存在しますね」

「マリー、ゴールド………」

 

 

 

少し驚いた。

 

気になって聞いてみれば、まさかのマリーの名が入っている花と出会えたとは。

花の種類を調べて早数週間。まさか、この花を知らなかったとは……灯台下暗し()。

 

 

 

「この花…マリーゴールドの花言葉は一体?」

「それがですねぇ……良い意味も有れば怖い意味もあるんですよね~。良い意味に【健康・真心・予言・変わらぬ愛】が御座いますが、一方で怖い意味に【絶望・悲しみ・嫉妬】等が存在しますね。地方で捉えられている意味が違う魅力があるのが、マリーゴールドの面白い所ではあるんですけど……あ、でもっ!プレゼントを渡す時に、ポジティブな意味だよってメッセージを添えれば、問題はないかと!」

「そんな意味があるんですね……面白い花だ」

 

 

 

中々にドラマ性がある花として知られている花、それがマリーゴールド。

 

良い意味、怖い意味、その二面性が何とも人間臭い花。サクタロウは少しそう思った。

 

 

 

「────メッセージを添えれば、良い意味で捉えて貰える……って事ですか?」

「はい、そうなりますね。メッセージカードは必須でしょう」

「……このマリーゴールド、贈る時の本数は関係ありますか?」

「いえ、薔薇の様な意味合いは御座いませんね。気を付けるべきは禁忌数でしょうか?4本や9本とか。3本だと【愛してる】と云ったロマンチストに成りますね!」

「成程……すみません、このマリーゴールドを3本、花束で購入したいです」

 

 

 

サクタロウは決めた。この花を買おうと。

メッセージも確りと添えて。

 

 

 

「ありがとう御座います!3本でしたら1300円になります」

「はい」

「領収書はどうしましょう?」

「いえ、大丈夫です」

「失礼しました~」

 

 

 

そう言って、店員は手際よく花束を制作する。

その途中、店員がこう問いて来る。

 

 

 

「その、お聞きして良いのか何ですが……贈り先の方は、もしかして意中の方だったり?」

「………」

 

 

 

急にぶっこんで来る店員。

見るに同い年と見える生徒だ、やはり気にはなるのだろう。

 

……まぁ、良いか。そう判断したサクタロウには見えた。だから、別に言っても構わなかった。

 

 

 

「そうなります。色々と助けて頂いて、何か恩返しにと思いまして……それに、今日でお付き合いさせて頂き1ヶ月目なんです。俺自身お花は好きで、向こうもそれは同様で……まぁ、はい」

「~~っ!そうなのですね!素敵じゃないですかー!ではおまけとして、このメッセージカードを無料でプレゼントします!」

「え?いや、流石に……」

「お気に為さらず!ウチの店長もこういう方々には、そういったサービスを施しているので!」

 

 

 

押しが強い。

サクタロウは滅多に見ないタイプの子に、押され気味になりつつも……最後は頷く。

 

 

 

「では、お言葉に甘えて……ん?あれ、コレ何も書かれてませんが……」

「はい!メッセージカードの内容はどうぞご自身でお考え下さい。本心から執筆されたメッセージ程、相手にとって嬉しい事はありませんので」

「そういう、モンなんですね。分かりました……」

 

 

 

渡されたメッセージカードは、オレンジ色の線が綺麗に通った白色のカード。

其処には何も書かれておらず、少し疑問に浮かぶも……そこは本人のメッセージに任せる店員。

 

そういうのには全く以て疎いサクタロウ。これも学びだと理解する。

 

 

 

「お待たせしました。マリーゴールドの花束です」

「ありがとう御座います」

「ふふっ!応援しています!」

「……どうも」

 

 

 

受け取る。

ペコリと一礼し、サクタロウはその花屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふぅ……少し、座ろう」

 

 

 

トリニティの校内区域。

そこで、サクタロウは一休みを取った。

 

左手に花束を持つ。花弁が落ちない様、下には向けずにベンチに座る。

 

辺りを見渡しても、一目は少ない。悪くない場所だ。

 

 

 

「────マリー、喜んでくれるだろうか」

 

 

 

そう想っては呟く。

 

彼女の事だ、きっと喜んではくれるのだろう。

サクタロウの中でのマリーは、いつも微笑んでいる。

 

愛らしく、光のように眩しい存在。

 

 

 

「付き合って一ヶ月記念に花束……まさか、俺みたいなのがこんな洒落た事するとはな」

 

 

 

独り言つその内容は、中々に中々だった。

 

そう、彼にとって、記念日と云うのは縁が無いのだ。

マリーゴールドの花束を見る。その中には、確りとメッセージカードが入っている。

 

渡す準備は万全。それがまた、自分らしくなくって……少し感傷に浸ってしまう。

 

 

 

「……髪、少し直すか」

 

 

 

帽子を取り、そのまま髪をオールバックにかき上げる。

 

セットした訳ではないが、帽子で潰れた前髪を少し豪快に直す。

 

マリーに会う。ぐちゃぐちゃの髪のままだと印象は悪いだろう。

余り髪や化粧などを考えてはこなかった人生だが、如何せん、そういうのにも気を遣うようになった。

 

 

 

「右目を隠しているから、まぁ多分大丈夫だろう。髪はこんなモンで良いのか……女は男の髪型だと何が好きなんだろうか。下ろした方が良いのか、それともかき上げた方が良いのか。将又、パーマが良いのか……坊主もアリか?いや、流石にか……」

 

 

 

如何にも男子高校生の様な単純な悩みを吐露するサクタロウ。

 

マリーの事に成ると、一丁前に格好つけたくなる。

普通で、少し恥ずかしい悩み。

 

まぁ、好きな人の前で格好つけたい、可愛く成りたいと云うのは人として生物として当然の思考だ。

 

こうして悩んでいるのも、成長の証なのだろう……サクタロウは、そう自分に言い聞かせた。

 

 

 

「……連絡、してみよう。マリーは今何処に居るのか…────あ?」

 

 

 

瞬間、視線と気配に気づいた。

連絡をせず、モモトークの画面を消し、一身に警戒を込める。

 

敵意は無い。だが、監視するかのような圧を、サクタロウは感じた。

 

丁度背後、ベンチの木の陰……距離は10mか。接近してくるまで気付かなかった。

 

 

────相当な手練れ。それを思わせる、圧倒的存在感。

 

そう思わせるには十分だった。サクタロウが顔だけ振り返り、木の陰に集中。すると、人影が出て来る。

 

 

 

「────感ずかれたか……気配は消していたつもりだったんだがな」

「……コレは、随分と随分な登場人物だな」

 

 

 

そこに現れたのは、何と────

 

 

 

「久しいな、榊サクタロウ……1年振りか」

「『剣先』、相も変わらず凄まじいオーラだ。また一段とエグく成ったと聞いてる」

 

 

 

そう、正義実現委員会の委員長……【トリニティの戦略兵器】と謳われる、最強戦力『剣崎ツルギ』が、其処に居たのだ。

 

 

 

「なんで俺だって分かった……何て聞いたみるが、この変装は流石にバレるか」

「当然だ。分かり易いにも程がある……ケヒッ」

「……見逃してくれ、頼む。お前達トリニティに対し、危害を加えるつもりは毛頭ないんだ」

「分かっている。聖園ミカへの件、調べは着いているからな……此処でお前を捕らえる義務も、暴れる理由もない」

「そうか、なら良い」

「……一つ、確認する事がある」

 

 

 

聞くに、ツルギはそんなつもりはないらしい。

敵意の欠片もない。その理由を口上で表した。

 

サクタロウにとっても嬉しい算段。ここでツルギと争えば、最悪エデン条約にも関わる。政治的問題だからだ。

 

そんな中でのツルギの問い。

 

 

 

「────伊落マリーとはどういう関係だ?

 

 

 

予想はしていた。

 

だが、こうも直球か。そう思わせるには何とも理解し易い問い。

 

エデン条約……それはゲヘナとトリニティ間に於ける、簡素的に言えば【両校による全面戦争の回避】を構想とした条約だ。

 

仲良しこよし、そうとはいかずとも、今迄の犬猿は少し和らぐ。

 

この年一大イベントと云っても良い。それ程の規模間の話。

 

 

 

「(そんなピリついた雰囲気の中、俺とマリーの話か……流石に、探られてはいたか)」

 

 

 

しかし、悲しい事にこの期間はゲヘナもトリニティも非常にヒリついている。

エデン条約。その締結には大きな疑念が常に発生する。

 

それを察したのか、今、此処に居るのは剣先ツルギ……彼の変装を見破り接近している。

 

そうなると、マリーがどうなっているかが分からない。

 

 

 

「……答える前に、俺から先に聞きたい事がある。それを聞いてからでも良いか?」

「……良いだろう」

 

 

 

安否確認。

 

マリーの件を知っている、それ即ち……別動隊の正義実現委員会が彼女に接近している可能性。

 

 

 

「マリーはどうなっている。今の俺のように尋問されてるのか?若しくはシスターフッドとしての活動を執り行っているのか?」

「っ!………いや、この件に気付いているのは私だけだ。つまり、伊落マリーに関しては正義実現委員会は対応に当たっていない」

「そうか……分かった」

 

 

 

それが理解出来ただけで良い。

 

何はともあれマリーだ。あの子の学生生命が終わる可能性もあった。

思考。ここで云うのはリスクもある。

だが、同時に剣先ツルギ以上に信頼できる女も居ない。ツルギは、嘘をつかない。それは情報が物語っている。

 

 

 

「────俺とマリーは、恋仲の関係性だ」

「なッ……」

「1ヶ月前以上、俺はマリーと出会い、仲を深め、共に助け合い、そして……両校の溝を越えた仲へと発展した。それだけだ」

「け、ケヒャッ………」

 

 

 

そう言うと、ツルギは白目を引ん剥いて赤面。

意外とこういう話には弱いのか、サクタロウはそう思った。

 

 

 

「……極秘で頼む。俺もマリーも大人しくしているつもりだ。ひっそりと過ごさせてほしいだけなんだ」

「わっ……分かった。無論、この件は私のみ得た情報だ。誰にも言わん。ティーパーティーにもな」

「それで良い……もし、仮に言うしかないのならば…『セイア』だけで頼む。あの”語り狐”なら、まだ良い」

「……あぁ」

 

 

 

そう告げる。

 

サクタロウとセイア、その関係性……ツルギですら知り得ぬ何かがあるのは分かった。

此処で聞くべきか、否か。ツルギは後者を選んだ。

 

 

 

「……伊落マリーと何が有って、今の関係に至ったかは知らん。だが………世間はソレを、何時まで見ない振りするかは分からん」

「………」

「危険を承知の上であるのは理解している。エデン条約も控えてる中、その選択はいつかは証明にも繋がる。良し悪しでもないが、お前達が選んだその意味は、きっと未来にも良い影響を与えるだろう……」

「俺は、誰かの為でなく、俺とマリーの今後の為にこの選択を決め、選んだんだ。誰がどう思おうが勝手だ」

「そうはいかないのが今のゲヘナとトリニティだ。サクタロウ、一つ忠告しておこう」

 

 

 

ツルギが、告げる。

 

 

 

「────聖園ミカは言わずもがな……それ以上に………『桐藤ナギサ』には決して悟られるな」

「……桐藤ナギサか」

「今の彼女は、きっと身心共に限界値だ。エデン条約での多忙もそうだが、他にも………今の桐藤ナギサは何をするか不明な点が多い。十二分に気を付けろ」

 

 

 

正に、忠告。

己の学園のトップに対する警戒。それは、ツルギだからこその言葉。

 

トップ層に君臨するツルギには、ナギサの違和感に気付いていた。それが何なのかは分からないが、恐らくいいモノではない事を。

 

 

 

「分かった、肝に銘じておこう」

「あぁ………それだけだ。私は、もう行く」

「色々とすまん。迷惑を掛けた」

 

 

 

そう言うと、ツルギは暴風のように走り去って行った。

 

背中すら視認できぬ速度。ツルギは脚の速さですら超一流なのか。

 

サクタロウがベンチにもう一度腰を掛ける。左手には、持ち手が少し折れた花束。

 

 

 

「しまった、強く握ってしまっていたか……やらかしたな」

 

 

 

少しシナシナになった花束。ツルギの登場で身に力が入ってしまっていた様だ。

まぁ、仕方ないと割り切る他ない。あの場で仮に戦闘が起きようものなら、花束ですら

武器にしなければいけない。

 

 

 

「……桐藤ナギサ」

 

 

 

ツルギが発した名前。

 

ティーパーティーのホスト、『桐藤ナギサ』……サクタロウは会った事が無い、唯一のティーパーティー。

 

聖園ミカとはイカ墨の事件で、『百合園セイア』とはD.U.のとあるカフェにて。

 

ナギサとはエンカウントした事が無い故、情報も余り知らない。

しかし、あのツルギの様子を鑑みて……かなりの用心深さで、人を疑い追い込むタイプではある。それは分かった。

 

 

 

「会うことは無いだろうが……注意は払った方が良いか」

 

 

 

何はともあれ、この件は一度置く。

 

可能性のあるだけの話。マリーにも最新の注意を促せば問題は無いだろう。

 

今、己がするべき事。それは……。

 

 

 

「……また、買い直しか」

 

 

 

花束の買い直しだ。

 

茎の部分が少し折れ、元々あった水分と特有の液体が柄の部分を湿らせる。

この状態で渡す。それは、失礼に当たるだろう。

 

マリーの事だ、この件を言っても気にしないと云うのだろう。

そして、美味い具合に献花して部屋にでも飾る。そんな事をする未来が、サクタロウには見えた。

 

そんな事をしても、もう長くは無いのかもしれないのに。

 

 

 

「……渡しといて、気にさせるのは違うよな」

 

 

 

それじゃあ意味が無い。そう思ってしまうのは、聊か考え過ぎなのだろうか。

 

そんなに悩む事、なのだろうか。

 

己には分からない。でも、分かる事はある。

ただ己は、彼女に誠実で有りたい、彼女と普通に接したいだけなんだ。

 

迷惑ばっか掛けて、涙を流させて、マリーの心に一生癒えぬ傷を負わせて。

そんな自分にも、マリーは笑って見せて、優しく在って、可愛い姿を提示してくれて。

 

感謝……それ以上の愛を、この身に受け取らせて頂いた。

 

頭が上がらないとは、こう言う事なのだろう。

 

 

 

「────マリーに、会いたいなぁ……」

「サクタロウさん」

 

 

 

ビクッと、心が揺れた。

 

その声は、大好きなあの人の声。

 

この地で過ごし、博愛の心を持つ、最愛の者の声。

己の視線の先、地を見ていた左目の瞳には、見覚えのある靴が在り、誰かが立って居た。

 

地面に下ろしていた視線を、ゆっくりと上げる。

 

靴、脚、白色のスカート、そのスカートに添える両の手、水色のリボン……そして。愛しい御顔。

 

 

 

「………マリー」

「ふふっ、えぇ。マリーです」

 

 

 

捉えたのは、マリーだった。

 

モモトークに連絡はしていない。

今日、本来なら会える筈のない。

 

なのに、ピンポイントで会った。

 

偶然、なのか。それにしては随分な確率。

そう思った矢先、マリーが告げる。

 

 

 

「先程、ツルギさんにお会いし、話しかけて下さいました。此処に貴方が居ると、そう教えて頂きまして……しかも近くまで送って下さったのです」

「剣先が、か……」

 

 

 

まさかのツルギによるアシスト。

意外にも、粋な事をしたツルギ。サクタロウにとっても誤算。

 

きっと、花束を見て悟ったのだろう……サクタロウは、そう思った。

 

 

 

「サクタロウさん……お隣、失礼しても良いですか?」

「あ、あぁ……座ってくれ」

「ありがとう御座います!では、失礼しますね」

 

 

 

お淑やかに隣に座るマリー。

 

無表情ではあるが、内心、少し緊張しているサクタロウ。

 

まさか、こんな…急に会えるなんて思わなかった。

心を落ち着かせる時間も、花束を買い直す時間もなく、マリーに会ってしまった。

 

ツルギを恨む、なんてことは無い。寧ろ会わせてくれた事には感謝している。

でも、今じゃない。今じゃないんだ……。

 

 

 

「ツルギさんから色々と聞きました。私と貴方の関係を吐露し、何もしないでくれと言った事を」

「そうか……すまん、俺はまた、お前に迷惑を掛けてしまって」

「何を仰いますか。ツルギさんは無暗矢鱈に公言する御方ではありませんよ。それに……サクタロウさんが私の事を想って下さった事が、何より嬉しいんです」

「……お前の恋仲の者として、当然だ」

「ふふっ!それが嬉しいんです」

 

 

 

可愛い。本当に、そう思う。

 

サクタロウは正面から見て左側のベンチ、マリーは右側のベンチ。

左目しか開いていないサクタロウへの配慮なのだろう、マリーは如何なる時でも、自身は右側に座る。

 

 

 

「マリーも、いつも座る時に俺の右目を考えて、俺の左側に座ってくれるだろう。その思いだけじゃないが、お、俺だってマリーの想いは嬉しくってな……」

「え?……あ、そういえばそうですね。当たり前の事でしたので、余り考えていませんでした」

「……最早、聖女だろ。お前」

「そ、そんなんじゃありませんよ!私はまだ、未熟者です」

 

 

 

謙遜も慣れていそうだ。

いや、未熟だと本気で感じているが故の謙遜なのか。

 

マリーは腰が低い。余りにも。

 

 

 

「……少なくとも、俺にとっては本気で人生変わった恩人だ。謙遜されれば、俺は何を想ってお前に接する。俺だけには、自信満々で居てくれ」

「あっ……ッ…はいっ!」

 

 

 

こう、言えば良いのだろうか。

 

人を褒めるのは簡単だ。

何が良くて、その人特有の強点を指せば、それで良い。

 

でも……サクタロウは今、自分にとっての恩人に対する、強さを褒めた。

 

それは単純に褒めるのとは訳が違う。

ハッキリ言って、重い……ましてや付き合って1ヶ月、マリーとてそう感じるのでは無いか。

 

 

 

「あはは……ヒナさんにも言われたのに、まだそういった自信をつくことは難しいようです」

「なに?空崎は何を?」

「えっと……貴方が謙遜よりも素直を好むと、そう仰っておりまして」

「……あの野郎」

「あ、で、でも!ヒナさんは貴方と私の事を想って言って頂けただけで!え、えっとぉ…」

「いや、怒ってはいない。ただ……まぁ、良い。そうだな。俺は素直な子の方が好きなのかもしれん……マリー、謙遜も良いが、時には素直に自分を褒めても良い。正直、それは俺も思う」

「あうっ……うぅ、頑張ります…っ」

 

 

 

マリーの頭を撫でる。

少し恥ずかしそうにして、笑い、むんっとして、頑張ると告げる。

 

その様相も、本当に可愛らしい。

 

 

 

 

もう、いいだろう。

 

 

 

 

 

────覚悟を決めろ。

 

 

 

 

 

 

「マリー」

「ん?はい、なんでしょ………あっ」

 

 

 

マリー、お前も少し気付いていたんだろう?

 

この手に持つ花束。嫌でも、目に入るだろう?

 

でも……気にはしても、待って居てんだろう?

 

待って、くれていたんだろう……。

 

 

 

「これ……お前に、あげたい」

「……これ、マリーゴールド、ですよね……?」

「そうだ。さ、先にこれを見て欲しい。花言葉の意味と、その……メッセージだ。それを読んでから、受け取るか決めてくれ」

 

 

 

サクタロウはマリーに花束を差し向けた。

 

すこし皺付いた茎の柄部分。

花の中に置いてある手紙。

 

サクタロウは、花束の中にあった手紙を取り出し、マリーに渡す。

 

 

 

マリーが、その手紙を開封し、熟読。

 

 

そこには……こう、書かれてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈マリー〉

 

〈俺は、お前が好きだ〉

 

〈今日で一ヶ月だよな。上手く言えないが、長いようで短かった。そんな気がするんだ〉

 

〈マリーゴールドを知っているか?まぁ、知っているだろうな〉

〈どうやらこの花には、色んな意味が有るらしい。良い意味も悪い意味も〉

 

〈俺が選んだ花言葉にはコレが有る〉

 

〈真心・可憐な愛情・健康・変わらぬ愛〉

 

〈優しくて、可憐で、愛が深いお前にピッタリだと思った〉

〈同じ名前が入っているのも選んだ理由だったりする〉

 

〈これからも、宜しく頼みたい〉

 

〈大好きです〉

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……」

「マリー、俺はお前のお陰で花が好きになった。花言葉を調べたり、水やりや雑草処理とかの世話とかも好きになった。全て、マリー……お前が関わってくれたんだ」

「………っ!ふ、うっ……」

 

 

 

”ポタ…ぽたっ、ポタ……”

 

 

 

メッセージカードの手紙に、数滴の愛水。

 

瞳から流れるその涙は、文字を濁ませるには簡単だった。

 

その様子に、サクタロウは焦る事は無かった。

泣いているマリーの顔は、凄く嬉しそうだったから。

 

 

 

「喜んで、貰えたと言う事で……良いのか?」

「はいっ……嬉しいっ………とても、とっても嬉しいです、サクタロウさん…っ!」

「そうか……俺も嬉しいよ」

「っ!ふぅ、うっ、っ………」

「受け取ってくれ。少し、強く握ってしまったが……似合うと思うんだ、お前に」

 

 

 

マリーに、花束を。

 

 

 

「はいっ……ありがとう、御座います……っ」

 

 

 

泣きながら、マリーは受け取る。

嬉しくて、彼の優しさが……本当に嬉しくって。

 

緩くなった涙腺は、抑える事を忘れてしまった。

 

 

 

「うっ、うぅ……ふぅっ……」

「大丈夫だ。俺の胸の中で良い……それは置いてもいい。おいで」

「っ!……はいっ…」

 

 

 

”ぽすっ……ぎゅうっ”

 

 

 

花束を潰さない様、マリーは自身の膝に置いて。

開いたコートを越え、マリーはサクタロウのYシャツに目掛け顔を置く。

 

厚い胸板。本当に逞しい、吸い込まれる様な肉体。

 

数分、マリーは泣いた。

 

 

 

「っ、すんっ……すんっ………ふぅぅ……すんっ…」

 

 

 

息を整え。ゆっくり、顔を埋めて。

サクタロウも、優しくマリーの背中を摩る。

 

落ち着くよう催促する。

 

温かい。今日は快晴なのもあるだろう、少しのそよ風が、二人を祝福しているかのように撫で付ける。

 

 

 

「……んはっ………ありがとう御座います、サクタロウさん」

「もう大丈夫なのか?まだ良いぞ」

「いえ、もう大丈夫です……えへへ、何だかずっと泣いちゃってますね、私」

「人の為に泣けるのは、俺には出来ない事。本当に凄くて、素敵な才能だと思う。俺はそれでもいいと思う」

「っ!ふふっ……ありがとう御座います」

 

 

 

少し目元を腫らせて、そう告げるマリー。

 

数秒の間……マリーが告げる。

 

 

 

「覚えていて下さったのですね、今日がお付き合いして1ヶ月だって」

「そりゃ、まぁ。俺も俺なりに嬉しかったからな……付き合えた事は。覚えているとも」

「そうですか……嬉しい」

「……俺も、もう一度言うが、お前が喜んでくれて嬉しいよ。悩んで良かったって思える程に」

 

 

 

サクタロウも、嬉しかった。

こんなにも大きく喜んでくれた。それが何よりも、幸福だったのだ。

 

 

 

「ねぇ、サクタロウさん」

「?…どうした」

「実は、私も。貴方に渡したい物がありまして」

「え……俺に?」

 

 

 

サクタロウにとって、それは軽い衝撃。

 

いや、そう言われればそうだ。

こんな己が渡そうとも考えた事を、マリーが思わない訳がない。

 

まさか、マリーも己に……そう思うと、心が熱くなる感覚に成った。

 

 

 

「えっと……コレです」

「ん?これは、紙袋……?」

 

 

 

マリーが取り出したのは、黄色の小さいプレゼント袋。

 

 

 

「……開けて、いいか?」

「はい、勿論です」

 

 

 

サクタロウはそお紙袋を丁寧に開封していく。

 

数秒後、その紙袋を開け……中身を取り出す。

 

 

 

「────コレ……ブレスレットか」

「はい。二つありますよね。私と、貴方で……お揃いにしたいなって」

 

 

 

それは、紐のブレスレットだった。

色は橙色と黒色。誰が誰のか非常に分かり易く、二つあった。

 

 

 

「……お揃い、か……あぁ、凄い、嬉しいな……ありがとう」

「っ!本当ですか!良かった……!」

「黒が俺で、オレンジがマリーだよな」

「はいっ!あ、反対でもアリかもですよ!それはそれで、何だか素敵だと思いますし!」

「悩むな……あぁ………本当に、悩む」

 

 

 

サクタロウは、感極まってしまう。

 

贈り物なんて、産まれて初めてだ。

 

なんだ、この、感情は……グチャグチャになりそうだ。

 

 

 

「……オレンジ色、貰っていいか…?」

「そっちにしますか?勿論ですよ!では、私が黒色を付けますね」

「俺が付ける。腕、かしてくれ」

「わっ……~~!はい…!」

 

 

 

そう言って、サクタロウはマリーの手首に紐状のブレスレットを装着する。

黒色だ。少し、白とオレンジが入った。

 

これもまた、マリーに似合う。

 

 

 

「すごく、にあってるよ……」

「あっ…えへへ……嬉しいです。ではサクタロウさん、貴方にも────え」

 

 

 

マリーが、橙色のブレスレットを付けようとした、瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────………っ」

 

 

 

 

”ポタ……ポタ…”

 

 

 

一粒の涙が、彼の頬を……辿っていた。

 

 

 

「サクタロウ、さ……」

「俺さ、マリー……っ」

 

 

 

サクタロウは続ける。

 

人生で初めての、涙を流して。

 

 

 

「俺さぁ…………誰かに、気持ちが込められたプレゼントを頂いた事、なくってさ」

「あっ……」

「マリーがこうして、俺に贈ってくれたブレスレットが……本当に、嬉しくってさ」

「っ…!」

「………すまん……言葉に、出来ねぇ…っ」

 

 

 

左目にしか、流れない。

 

言葉が、繋げられない。

 

なんだ、これは……。

 

 

 

「涙なんて、もう流れないって、思ってたのに……でも、今、流れてっ…変だけど、嬉しいって思えてるのに…」

 

 

 

サクタロウは、一つの後悔を告げる。

 

 

 

「────右目っ……なんで、閉じちまったんだろうなぁ………」

「………ッ」

 

 

 

もう、取り返しのつかない後悔。

 

自分がしてしまった、一生モノの業。

 

それが、今は……悔しくて、堪らない。

 

 

 

「結局、後悔ばかりだっ……痛覚も、味覚も無くなって……自業自得なくせして……終いには、傷跡にすら、おれはッ………お前の……マリーの前で、情けなく弱音まで吐いて……折角の…記念日だってのに…………なにも、うまくいかねぇ…っっ」

 

 

 

悔しくて仕方ない。

 

涙を止めるよう指で目元を抑えるも、一度出してしまえば、もう止め方を知らない。

 

それは……感情の、発露もだ。

 

 

 

「俺は、今、幸せなのに……マリーと過ごせて、楽しい筈なのに……今迄を、悔やんでしまっている………なさけねぇ…っ」

 

 

 

うまくいかない。

 

こうすればいいのか、こう話せば良いのか。

 

次第に上手くいった。でも、最初こそ迷惑ばかり掛けた。

 

もっと、上手く出来た筈なのに……どうしていつも、大事な時に己は……こんな事に成ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……んっ」

「え、あっ……?」

 

 

 

俯いて、発語して、もう涙は止まらない。

 

そんな時……温かい抱擁がされた。

 

マリーだった。

 

 

 

「ふっ、っ……」

「マリー……?」

「初めて、弱い所を……吐き出して下さいましたね」

 

 

 

それは、涙が混じった声質で。

 

 

 

「私には、貴方の気持ちは、真には分かりません」

「……」

「人と云うのは、その人と同じ痛みを知らなければ……分かった様な口は、聞けませんから」

「……マリー」

「ですがっ、ですが………傍には、居れますっ」

 

 

 

マリーが続ける。

 

 

 

「辛い時…しんどい時……何かに縋りたい時、私が貴方の傍に居ます。私に言って、吐き出して下さい……辛い時は辛いって言って良いんです。誰にだって後悔はあります。でも、それを気にして、心の中だけに留めちゃ…苦しくなって、しまっ…………っ」

 

 

 

そうだ、この子は情に熱く……感受性が本当に豊かな子だ。

 

忘れていた訳では無い。でも……自分以上に泣いてくれて、何だか、少し……嬉しくなってしまう。

 

 

 

「ごめん、なさいっ……結局、私は、また………」

「……マリー」

「ひゃっ…」

 

 

 

サクタロウも、抱擁を返す。

ぎゅっと……強く。

 

 

 

「そうだったな……お前は、優しい子…だったな」

「あ…っ」

「うん……もう、大丈夫だ。すまん、お陰で落ち着けた」

 

 

 

サクタロウはマリーを抱きしめ、息を整える。

 

後悔はある。やり直したい事が、今なお、浮かび上がる程に。

 

でも、今はそれ以上に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────に、にこー!」

「えっ???」

「だ、だから……あ、いや……にへへ…どうだ?笑えるだろ?」

 

 

 

笑って欲しいのだ。

 

今日は記念日だ。己の所為で、泣いてばっかじゃ駄目だ。

 

心の底から、笑って欲しい……笑わせ方なんて、知らないけど。

 

 

 

「……」

「に、にこにこ……あー、えっと、に…にっこっこー」

 

 

 

まぁ、無理だ。

 

両の手を使って、頬を吊り上げて、マリーとした笑顔の練習でどうやって笑わせる。

 

そう、思った瞬間だった。

 

 

 

「ふ……ぷふっ……ずびっ………も、もうっ!ほんとうに、急っ……ふふっ!」

「ッ!!」

 

 

 

笑った。

 

笑ってくれた。

 

いつもの、素敵な笑顔のマリーだった。

 

 

 

「あはははっ!も、もう…………ありがとう御座います、サクタロウさん」

「……にょほほ」

「ぶふっふ!!……ちょっ、泣いたばっかですから!感情が色々と、追い付かなっ……ふふ!あはははっ!」

 

 

 

どうやら上手く言った様だ。

サクタロウは安堵した。

 

……やはり、マリーは笑顔が一番だ。

 

この子を見ると、そう思う。

 

 

 

「笑い方の練習は毎日してるんだ。まぁ、指を使わなきゃ無理だし、バリエーションは増える一方だがな」

「バリエーションって……」

「因みにさっき”にょほほ”って言ったが、ムフフもあるぞ」

「え?ムフフ、ですか?」

「そうだ。こう……マリーの不埒な感じを想起させれば……こうだな。ムッフフ」

「~~~~~~っっっ!!!?」

 

 

 

そうして、ムフフって顔を作れば、マリーは顔を一気に赤くさせる。

 

笑顔と同時に、こういう表情も、マリーは良く似合う。

 

 

 

「ふ、不埒じゃないですっ!へん、変なこと考えないで下さいよぉ!」

「……だめなのか?」

「へ!?だ、だめ……じゃ、ない…あ、えっとぉ……」

「俺、もうお前にしか興奮できないぞ」

「素直に色々と云い過ぎですよ!?」

「まぁ、素直は好きだからな」

「それって貴方にも含まれるんですね!?」

「……マリーは?俺に、興奮とかするのか?」

「へ……へぇ!?」

「俺が男だから、そういう欲求は生まれないのか?」

「そ、そんな訳ないじゃないですか!い、いまだって、私は………」

「……私は?」

「…………エッチな事……考えて、ますもん」

「ふーん、そうか」

「ん~~~~~~っっ!!」

 

 

 

淡白な返事をしてしまい、怒らせたサクタロウ。

サクタロウの頬を捏ね繰り回すマリー。攻撃が可愛い。

 

 

 

「……そうだマリー、俺にも付けてくれよ。ブレスレット」

「んぐっ……確かに、そうですね」

「俺はオレンジか……マリー色だな」

「……実は、ちょっと意識してみたりして」

「だろうな。凄まじく分かり易いぞ」

 

 

 

そんな会話をして……数秒。

 

 

 

「付けましたよ!えへへ……これでお揃い、ですね!」

「あぁ、そうだな」

 

 

 

互いの手首に紐のブレスレット。

 

これで、ペアルックの完成だ。

 

まさしく高校生のやる事だろう。

マリーも、サクタロウも……こう、ペアにしてみれば……聊か、恥ずかしい。

 

 

 

「マリー、ありがとう」

「……此方こそ、ありがとう御座います」

 

 

 

もう一度、御礼。

 

今日は、少し色々とあった。

 

だからこそ、互いを支え、理解し、感謝し合う必要がある。

この二人には、それがもう出来ているのだ。

 

 

 

「……なぁ、マリー」

「はい、なんですか?」

「明日、暇だったりするか?」

「明日は……土曜日ですから、特には何もありませんよ」

 

 

 

サクタロウの言葉に、マリーはもう察する。

 

 

 

「……今日さ、ちょっと一緒に居てほしい。何て言うか……お前と、居たい」

「えぇ、私の方こそ……お願いしたいです」

「俺の家でも、いいか?」

「はい…っ」

 

 

 

サクタロウは続ける。

 

 

 

「────大好きだ、マリー」

「あっ……私も…だいすきです!」

 

 

 

そうやって言って、抱きしめ合う。

 

ここに、誰も居なくて良かった。

サクタロウは、意外にも冷静に……そう思った。

 

 

 

────その後、二人はチョメチョメした。

 

 

 

 

残り、3話で……■■■■。

 

 





色々と悩んだ末の今回の話です。

超~悩んだんすけど、まぁ、これでも満足です!



R18書こうかなーって思っています。2,3話だけ。どうしよっかな。



誤字脱字、感想ここすき、おきにいり毎晩見てます!

是非、お願い致します。
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