マリー、俺と付き合って下さい。   作:カブトムシの相棒

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Q:風紀員会さん。何故サクタロウは【狂人】と恐れられているの?

A:いつの間にか浸透していたから分からない。逆に教えてくれ。



残り数話程度です。長く続けてもアレですしね。どれくらいになるかは決めていませんが、お付き合いください。




では、本編です。


証明は、もう少し慎重に。

 

 

 

▽ゲヘナ自治区、夜9時過ぎ:郊外区域────サクタロウ宅。

 

 

 

 

 

マリーside。

 

 

 

 

 

「────どうぞ、入ってくれ」

「はっ……はひっ…お邪魔、します……」

 

 

 

皆さん、こんにちは。マリーです。

 

簡単に今の状況を説明致しますと、私は現在……サクタロウさん宅に居ます。

 

雨が降る夜、人気(ひとけ)の無いこのアパートの部屋にお邪魔させて頂きました。

トリニティに諸事情で帰れなくなり、大雨の影響下で時間もなく、ホテルも高い……彼の提案は必然でした。

 

とても恥ずかしかったでしたが、彼が少し、その……良くない事を言いましたので、此方からもお願いを申し出て、今に至ります。

 

時刻は9時過ぎ。夜の帳が下り切っている時間帯です。

この場所はゲヘナ自治区でも珍しく、一際静かな場所な気がします。サクタロウさん曰く荒れる時は荒れるらしいですが、ゲヘナでは珍しい場所みたいです。

 

靴を脱ぎ、揃え、彼の後ろを着いて行きます。

 

そして、少し狭い廊下を抜け……居間に着きました。

 

 

 

「荷物は適当に置いてくれ。暖房付けるからな」

「あ、ありがとう御座います……わっ」

「タオルと毛布だ。少し濡れただろ、冷やしちゃ悪いから、拭いた後に包まってろ」

「サクタロウさん……ありがとう御座いますっ」

「あぁ……そこのソファーに座ってても構わない。少し席を外すから、ゆっくりしていろ」

 

 

 

そう言って、彼は何処かの部屋に行ってしまいました。

 

私は彼の御厚意に甘え、少し濡れた身の箇所をタオルで拭きます。

そして、少し肌寒い部屋なので、毛布を包み床に正座で座ります。流石にソファーは頭が高すぎるので。

 

ピッ…と電子音が響き、風向きの良い場所に在ったエアコンが作動します。

数十秒の間、暖かい風が部屋を浸透させます。

 

 

 

「ふぅ………ぅぅ……やっぱり、落ち着きませんね…」

 

 

 

一人呟きます。仕方ないです、だって、御友人とは言え異性のお家にお邪魔させて頂いている……緊張しない方がおかしいです。

 

このお泊りが決まってからずっと、私の心臓はドキドキしっぱなしです。

 

少し物音が隣の部屋から聞こえます。サクタロウさんが何かしているのでしょうか……そう思うと同時、ピタっと音が止みます。

 

そのまま扉が開く音がし、この居間にサクタロウさんの姿が現れました。

 

 

 

「あ?ソファーに座って良いって言った筈だぞ」

「あう…すみません。でも家主が居ないのに座るのもどうなのかと思いまして……」

「……その家主が良いと言っている。ほら、そんな冷たい床で正座してないで、ソファーに座れ」

「はっ、はいっ…!」

 

 

 

サクタロウさんの指示の元、私は立ち上がりそのままソファーの端で座ります。

藍色のカバーが付いている弾力が良いソファーです。とても座り心地がよくて、気持ちが少し落ち着きます。

 

そして、サクタロウさんはと云うと、床に膝を着きながらソファーの前に在るテーブルにコンビニで買ったであろう夜食セットを出しました。

 

 

 

「夕食を食ったとはいえ、アレだけじゃ足りないだろ。簡単な食材を買ってきたから好きなモン食えよ」

「え、そ、そんな……」

「遠慮は要らない。元々はと云えば俺が行こうなんて言わなければこうはならなかった。その償いの一つとして受け取れ」

「いえ!そんな、償いだなんて……っ!あれは本当に事故でどうしようもなかっただけですし、それにあれは私が…っ!」

「マリー、良いんだ。気にしないでくれ。あと、どうせ言うんだろうと思うから先に言うが、この夜食のお金も要らないからな」

「あぅ…………はい」

 

 

 

そのまま話を平行線にしようとは、思えませんでした。

彼の意見を曲げる行為は、彼の想いを否定する事になります。

心の底から有難いという思いと、申し訳ないという想いが混濁します。元はと云えば、私が我儘を言わなければ、こんな事にはならなかったのに……。

 

 

 

「過ぎた事を思っても仕方ない。ほら、カロリーメイトにガチ盛り、色々とある。どれにする?」

「……本当にありがとう御座います!では、カロリーメイトを頂いても?」

「分かった。ん」

「はい、ありがとう御座います」

 

 

 

そう言って、私はカロリーメイトを頂きました。

かなり久しぶりに食べますが、箱を開け袋から取り出し食べてみれば、意外と美味しいですね。

 

そうして十分ほど私とサクタロウさんが会話をしました。床に座って話そうとしていたので、私が言うのも変ですが、隣に座ってと言って、一緒にお話です。

 

 

 

「朝の9時から今日に至るまでの1日、マリーはどうだった。楽しかったか」

「はい!とっても楽しかったですよ。朝の件は、反省しますが……」

「当たり前だ。だが楽しかったなら、それで良い」

「サクタロウさんはどうでしたか?楽しく過ごせました?」

「あ?あぁ、楽しかったよ」

 

 

 

そんな会話をします。

 

彼の表情は、会った時から変わりません。ずっと、いつの日も、常に、無表情です。

 

本当に楽しかったのでしょうか。中身では本音を言っても、こうも無表情では勘違いされても仕方ないです。

 

 

 

「サクタロウさん、笑い方の練習、少しやってみましょうか」

「あ?今日はもう朝にしたぞ」

「まぁまぁ!ほら、ニコーって!あ、少し変えて『にへへ』って感じで笑ってみましょう!ほら、こうやって”にへへー”って」

「こ、こうか?にへへ………出来てないだろ、これ」

 

 

 

サクタロウさんの笑顔の練習です。

 

初めて会った日から、真面目に練習していたのでしょう。私の無茶ぶりの練習法でもちゃんと対応しました。指を使わずにです。

 

でも正直に言えば、まだぎこちないです。ヘラヘラしてる感じですが、それでも……表情筋が確りと緩やかになってきている証拠です。

 

 

 

「うーん、確かにまだぎこちない感じですが、この間よりもずっと出来ていますよ?」

「────……そうか」

「ふふ、いま少しだけ嬉しいって感情が出ましたね?」

「出てねぇ。変な事を言うなマリー」

「ふふっ。あ、いえ此処は………にへへ、が正解でしたね」

「…………………マリー」

「そ、そういう時も笑ってみたら、意外と上手く出来たり……?」

「そんな訳ないだろ。俺を怒らせたいんだな……このしてやるよ」

「しゅ、しゅみ、しゅみまひぇんっ……ほっぺひゃ、のびぃるぅ……っ!」

 

 

 

少しだけ揶揄ってみたのですが、怒られてしまいました。

ほっぺが少し伸びました……。

 

 

 

「お前、意外と甘えたがりだよな。行動の節々にそう語っている」

「へ!?そ、そんな事はないと思われますが……」

「自覚無しなんだな。だがまぁ、人に甘えれるのは大きいメリットだ。特にお前は、一人で抱えてしまう類の人間だ」

 

 

 

そう云われて、少し腑に落ちます。確かに私は人に甘えるって行為は、指で数える程度です。

15年間このキヴォトスで生きて来ましたが、思い返してみれば、誰かの為にってあろうとする想いが強く、私は誰かの支えに成っていました。

 

その結果、誰かに甘えて来ない人生を送りました。でも、気付かない内に、私は彼に……サクタロウさんに甘えていたのかもしれません。無意識の内に、彼に……構って欲しかったのかもしれません。

 

でも、其れを云うなら………。

 

 

 

「(────貴方だって人の事、言えないではありませんか)」

 

 

 

これだけは、思ってしまいます。

 

一人で抱えてしまう類の人間。

 

こんなもの、まるっきり貴方の事ではありませんか。

 

貴方はずっと何かを抱え、それを誰にも明かせずに一人踏ん張っているではありませんか。

 

 

 

「ん?どうした、マリー」

「……いいえ、何でも、ありません」

 

 

 

それを声に出せたら、どれ程……楽でしたか。

 

私はシスターです。懺悔を聞き出すのではなく、赦す者。

 

相手が吐露するその日まで、私は待ち続ける義務があります。

 

 

 

────そう思っていた、瞬間でした。

 

 

 

「俺も、その類の人間だ」

「え…」

「マリー……俺は────」

 

 

 

”────ピピピッ!ティロロロリン♪…お風呂が湧きました☆☆☆”

 

 

 

「わっ!び、びっくりした……」

 

 

 

彼が何かを言い出そうとした瞬間、急に隣の部屋から電子音が鳴り響きました。

 

聞くに、どうやらお風呂が沸いていたそうです。サクタロウさんが先ほど隣の部屋に行っていたのはお風呂の準備だったのですね。

 

 

 

「ん、風呂が沸いたか。マリー、お前先に風呂入っていいぞ」

「え?」

「身体、冷えてるだろ?女は身体を冷やさないモノだと知っている。場所の案内する」

「ちょ、ちょっと待って下さい!あの……お、お風呂は、先に入って頂けませんか……?」

「ん?なんでだ」

 

 

 

サクタロウさんが純粋な疑問を浮かべる。

ですが、その……こればっかりは、譲れません…!

 

 

 

「お、お願いします!」

「……分かった。よく分からんが、先に俺が入ろう」

「っ!ありがとう御座います!」

 

 

 

何かを察したのか、サクタロウさんは静かに振り返り、そのまま私に先に入ると告げお風呂場に向かいました。

 

 

 

”バタン……”

 

 

 

少しだけ静かになります。外は大雨の音がまだザーザーと鳴り響いていて、少しだけ……ポヤ~っと眠くなります。ヒーリング効果と云うものですね。

 

ですが、そんな気持ちに成っている場合ではありません。私はお泊りさせて頂く身、ですから。

 

 

 

「……それにしても、かなり広くて、物静かなお部屋ですね……サクタロウさんらしいと云えばらしいのですが」

 

 

 

この部屋、居間の雰囲気を一言で表すならば〈シンプル〉です。

テレビがあって、ソファーがあって、テーブルがあって、キッチンがあって……普通の間取りって感じです。

 

隣が浴室だとして、その隣がお手洗い場でしょうか?

この部屋にはベットがありません。別の部屋にあるのでしょうか?

 

 

 

「……ん?これは………」

 

 

 

ふと目に入ったノートが御座いました。

それはテレビの横に置いてあったノートでした。

 

メモを取る様な、小さなノート。

 

私は無礼ながらも、そのノートに手を伸ばします。

 

 

 

「”日誌”……と書いてありますね。サクタロウさん、意外と日誌を書く御人なのですね」

 

 

 

少し意外でした。彼は日誌を書く様な殿方だとは思っていなかったので。

 

 

 

「………いやいや、わ、私は何を考えているのですか」

 

 

 

私の中に居る邪な心を律せます。いけません、そんな……盗み見など。

 

でも、でもッ……凄く気になる。気になってしまいます。

只でさえ謎が多いサクタロウさんの日誌。これを見れるのは、恐らくこれが最後。

 

 

 

「……1ページ,1ページだけ……っ」

 

 

 

主よ、お許しください。

サクタロウさん、こんな私を許さないで下さい。

 

私は彼の日誌ノートに手を伸ばし、そのまま1ページ目を拝見しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────…………え」

 

 

 

その内容は、私の脳内を────白く染め上げました。

 

 

 

 

 

 

 

☆日誌ノート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月✕日 天気:晴れ

 

 

 

今日で実験を受けて1年の月日が経った。

 

今まで強く成る為に頑張っていたが、流石に限界が近くなっている。ここで成長日誌を執筆し、何時でも見返せるようにする。

ただ執筆出来る日が限られそうだ、書ける日に書く。

 

何度も、何度も、傷を付けられて、痛いと叫んでも終わらない苦痛。心が死にそうだ。

 

だが、俺は折れない。死んでも死なない気持ちで、俺はこの苦痛を乗り越える。

 

 

 

○月✕日 天気:曇り

 

黒服のクソ親父。アイツ最悪だ。指を折るなら兎も角なんで斬った。しかも全部。嬉々として斬られた、まだ指が震えてうまく書けない。クソクソ。4秒だって確認するためにふつう100回も斬るか?マジでカス、あいつは最悪だ。興奮しながら実験された。だが痛覚がないからか、嫌いになれない。俺はどうなっているんだ?

 

 

 

○月✕日 天気:晴れ

 

 

今度は腕と脚を切断された。

痛覚が会った時はかなり苦労したが、早くに痛覚を失って良かった。

だが、こうしていると右目の失明に少し思いを耽ってしまう。もう少し後だったなら、失うこともなかったのに。

俺としても、少し狂ってしまったのだろう。いや、もう既に手遅れなのか、俺はなんなのか、だめだ。俺は俺だ。

 

 

 

○月✕日 天気:雨

 

 

カイザーの掃き溜めから帰って来れた。2ヶ月と少し居たが、ハッキリ言って地獄だった。

特に依頼は何度死んだか覚えていない。ダイナマイトを全身に巻いて敵地に突っ込んだ時は、記憶にない走馬灯が見えた。生き返ったが。

しかし、成果はあった。俺は限りなく強く成れた。まさか古流武術や空手を教授させて頂くとは思わなかった。

 

カイザーの兵士達には怖がられているらしい。分かっていた事だ、仕方ない。

 

黒服の……いや、もう日誌には本心を書こう。親父とは、もう思えん。

俺は、俺だ。そのはずなんだ。

 

 

 

○月✕日 天気:大雨

 

 

初めての学園生活。何とかゲヘナ学園に入れた。友達は一人出来た。しかし、どうも怖がられている。俺の雰囲気は、万人には受けないのだろう。

風紀委員会に入った。

 

 

 

○月✕日 天気:晴れ

 

 

何回か前線に立ったが、黒服との約束で本領を発揮できない。正直足手纏いに成っている。

そんな中、空崎ヒナが俺を隠密、破壊工作員として起用すると言い出した。

悪くない話だった。寧ろ、それの方が俺としても動き易い。

 

 

 

○月✕日 天気:晴れ

 

 

仕事が認められ始めた。悪くない感じだ。俺なんかでも組織に貢献できるようだ。同い年や上の人からも俺が持つ技術力の教授をお願いされた。確かに、教えて、それで戦闘の幅が広がるのなら、教えた方が良いのかもしれない。

空崎ヒナに古流武術に精通しているのをバレてしまった。内緒にと頼んだら、了承してくれた。

 

なんで俺が古流武術の使い手なのか疑問におもっていた。何とか誤魔化したが、少し怪しまれていそうだ。空崎ヒナはかなり危険だ、注意しよう。

 

 

 

○月✕日 天気:曇り

 

 

大ミスかました。と云えば良いか、良いのか。次期ティーパーティー候補の聖園ミカにイカ墨を当ててしまった。

帰って、色んな人間に怒られた。特に空崎ヒナと天雨アコには酷く怒られてしまった。訳を話そうも、正直、俺が耐えたら良かっただけの話だったから言わなかった。俺もまだ、子供のようだ。反省する。

 

 

 

○月✕日 天気:晴れ

 

 

味覚を失った。自然とゲロを吐いて、気持ちが悪くなった。ショックだった。

 

 

 

○月✕日 天気:晴れ

 

 

舌を切っても、頭を爆破しても、心臓を抉り取っても、俺の味覚は治らなかった。黒服も分からないと言っていた。なんかもうなんでもよくなった。

 

 

 

○月✕日 天気:曇り

 

 

暫く書かない。すこし、つかれた。

 

 

 

○月✕日 天気:晴れ

 

 

数か月ぶりに執筆。

 

昨日、伊落マリーと云う女に会ってきた。俺を怖がらない変な女だった。

クッキーを頂いたが、申し訳ない気持ちとは、こう言うのだろうか。

 

俺にはもう、味覚が無い。

 

嘘を付いて美味しいと言った。初めて嘘を付いて、後悔した。

 

笑顔の練習をした。あの女は笑顔を絶やさない。

瞳の輝きが、あの朗らかな笑みが、なんか……羨ましいと思った。

 

俺も、あんな風に笑ってみたい。そう思うのは、烏滸がましいのだろうか。

 

心は空っぽだと思っていた。だがあの女は、そんな事無いと正面から否定してきた。気まぐれに助けただけなのに、なんでこうも俺に構うのか。変な女だ。優しいのだろう。

 

 

 

○月✕日 天気:晴れ

 

 

マリーと話すと、心が落ち着かない。つい素の俺になる。

口調が悪いから嫌われてもおかしくはないのに、マリーは、本心から俺に応える。

 

分からない感情が在る。俺はどうしたらいいのだろう。ただ今は、マリーに嫌われたくない心が、ある。

 

花園は楽しかった。マリーも笑っていた。それが、一番な気がしてきた。

 

 

 

○月✕日 天気:曇り

 

 

明日、俺はマリーと出掛ける。しかもゲヘナにだ、あいつがこんなクソ荒れてる場所に来るのかと思うと恐ろしくて仕方ない。怪我をさせない為に、俺が何とかする。

 

しかしマリーは意外と大胆らしい。まさか土壇場でゲヘナに行きたいと言うとは思わなかった。

 

マリーを見るに、俺の全てに、あの子は少し勘付いている節がある。

もしかしたら、聞かれるのだろうか。俺は何て答えたらいいのだろうか。

 

〈本当は死なないんだ。味覚も無いんだ。嘘ついてごめん〉

 

なんて言えば良いのか。俺には、分からない。

マリーはきっと、そんな俺を怖がるのだろう。ならいっそ、言わなくても良いのかもしれない。

 

だけど、それで良いのだろうか。

俺みたいなバケモノを、マリーはきっと俺を怖がるだろう。

 

だが今は明日の事だ。10時よりも早めに行こう。

楽しい時間になる事を望む。

 

 

 

 

────…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆日誌ノート終。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ぁ…これっ…な、え………?」

 

 

 

マリーは全て、全て、読み切った。

その小さなメモ帳には、彼の全てが簡潔に書かれていた。

 

震える手が、全身へと巡る。

 

なんだこれは、なんなのだこれは。

 

マリーは、頭が真っ白に染まってしまった。

言葉が出ないとは、この事なのだろう。

 

 

 

「これ、こっ……はっ、ぁぅ………ど、どうし────」

「好奇心は猫をも殺す」

「ひゃあっっ!!?」

「正にお前の事だな、マリー」

 

 

 

ペタンコ座りしながらメモ帳を読むマリーは自分の世界に入り過ぎていた。

動悸が更に早くなる。声を掛けられ、後ろを振り向く。

 

其処には当然────サクタロウが居た。

 

 

 

「ふぅ……いや、これは妙な場所に置きっぱだった俺が悪いな」

「あ、あう、あのっ……わたしっ…!」

「ん………おいマリー落ち着け、呼吸が荒いぞ」

「っ!ぁぅ……っ、はっ…!」

「先ずは息を整えろ。心を落ち着かせろ。話は、そこからだ」

 

 

 

マリーは真っ白に染まった脳ミソを何とか、何とか稼働させる。

やってしまった、なんて愚かだ、最悪だ……様々な感情が自身の心に振り掛かる。

 

サクタロウは冷静に、マリーを落ち着かせる。

 

だがそれは……余りにも、難しい話だった。

 

 

 

「あ、はっ、はっ…………ん、はぁ………」

「……大丈夫か」

「っ、あ、はいっ……────ぁ………ご、ごめんなさい、サクタロウさんっ…私、こん……」

「マリー」

「こんな、わたしっ……勝手に、知って、でも……で、でもっ、わたし、貴方がこんな、ひどいことをっ、されてっっ……みかく、味覚、ない……あ、わ、わたし────」

「マリー」

「はっ、ぁ………」

「落ち着け」

 

 

 

サクタロウは言葉では無理だと判断し、マリーの肩を掴み、ジッと目を見つめる。

 

目元に涙を浮かべ、唇を揺らし、呂律が上手く回らないマリー。

 

彼の、サクタロウの知りたかった事情を知れた。

でも…知りたくもなかった事実でもあった。

 

もしこれが本当なら、自分は……────今の時まで……味覚の無い彼を、苦しめていた事になる。

 

そんな思いが爆発して、マリーはパニックを起こす。

 

それを見たサクタロウの行動だ。そしてそれは、限界に近い行動だった。

現に今、マリーは焦点を徐々に正常にしていき、サクタロウと視線を合わせている。

 

 

 

「大丈夫だ。俺は大丈夫。マリー、大丈夫だ」

「はっ、ぁっあ、はっ………」

「ゆっくりで良い。俺の左目を見ろ、気持ちを整えて、確りと息を吸え」

「はっ、はぁ…………ふ、ふぅ…ふぅぅ…………」

「もう一回、深呼吸だ」

「はっ……はいっ…」

 

 

 

サクタロウはマリーと合わせる様に、同時に深呼吸を行う。

落ち着かせる為に。ゆっくりと。

 

 

 

「落ち着いたか?マリー」

「は……はいっ…何とか」

「そうか、良かった」

「っ……よくなんか……ないです…っ」

「マリー……最後まで見たんだな」

「すみません、いけない事だと分かっていたのですがっ……」

「気にするな。あんな場所に置きっぱなしにして、忘れていた俺が100悪い。寧ろお前に嫌なモノを見せて、申し訳ない」

「そんなっ……そんな、こと…!わ、わたしっ……私の方が、貴方に…っ!」

 

 

 

後悔だ。どうにかなりそうだった。

マリーはもう泣いている。これが嘘だと、このメモに書いてあることが嘘であると、そんな有り得ない可能性を信じてしまいたくなる。

 

 

 

「ごめんな、マリー。もう知っていると思うが────俺には、もう味覚が無いんだ」

「っ…!」

「嘘ついて、悪かった。情けない話だが……嫌われたくなかったんだ」

「きら、嫌う筈なんか、ないっっ…!……わたし、私の方が嫌われてしまうんじゃないかって、そう思って……ッ!」

 

 

 

マリーの気持ちは、そう思っても仕方ない事だった。

 

サクタロウはマリーの言葉に、首を横に振る。

 

 

 

「それこそ、有り得ない話だ。お前がくれた食べ物はどれもこれも、心の底から……初めて、嬉しいと感じたからな」

「っ、ぁ……っ!」

「俺は、お前と過ごすこの数週間……欠けていた感情が、少しずつ現れる様に成ったんだ。人に怒ったのも、人に楽しんでほしいってのも、人に……嫌われたくないって想いも。その全てを、マリー……お前がくれたんだ」

「サクタ、ロ……さん……っ………くっ、うっ……!じゃあ────」

 

 

 

マリーは、彼の瞳を見る。

生気が無くて、能面の様な顔付で、地獄を経験した、二度と開かない目の傷を負った、食事の楽しみを失ってしまった……それでも尚、彼は生きている。

 

違う…違う────違うッ!

 

 

 

「────それじゃあ…死ねないって、どういう事……なんですか」

「ッ……」

「……この紙に書いてある事が、本当だとしてっ……味覚が、ないのも本当、だとして……っ」

「………」

「死ねないって、どういうことですか………指とか、腕を切断って、どういう事なんですかっ……」

 

 

 

マリーは泣きながら、彼に問う。

 

サクタロウは、ただ黙って、その言葉を最後まで聞く。

 

数秒の間……答える。

 

 

 

「────全て、そのまんまの意味だ。マリー」

「ッッ……!!」

「俺は【不死身】なんだ。4年前、裏社会の人間に《人体実験》を施された、バケモノなんだ」

「ふ……【不死身】……じんたい、じっけ…っ」

「まぁ分かり辛いよな。そうだな………此処に俺の銃があるな」

 

 

 

サクタロウがテーブルに置いていた、己の愛銃【エンフィールド・リボルバー】を持ち出す。

現代でも珍しい古風なリボルバー。しかし威力は控えめの銃だ。

 

しかし、それをサクタロウが神秘を込めて放ったなら、相当の威力を発揮する。

 

サクタロウはマリーから少し離れる。

 

 

 

「マリー、俺の肉体の耐久力は、実を云うとこのキヴォトスで【最弱】に等しいんだ」

「え、肉体…耐久、力?」

「あぁ。元来、ヘイローを持つ者は銃弾や打撃に一定数の耐久性を持つ。マリーもそうだな、銃撃にあっても痛いだけで済むし弾かれる」

 

 

 

サクタロウは、淡々と話を進める。

 

 

 

「ただ俺は特殊なんだ。普通に貫通する。再生力がかなりあっただけのガキだった」

「あ、あのっ……も、もう、なにがなんだか、わたし…っ」

「そうだな。じゃあシンプルに見せるとしよう」

 

 

 

”チャキッ”

 

 

 

「────え」

「心臓は血が多く出るからしたくないが、脳よりはマシだろ。1秒程度だしな……マリー、これで俺を嫌って構わない。怖くなっても構わない。だけどどうか────俺を知ってくれ」

 

 

 

サクタロウは自身の【心臓部】に銃口を当て────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”パンッッ!!……────ブチュッ”

 

 

 

「ゴぽッッ……っ、おご、ごぱっ……ッ」

「────ぁ…ぇ」

 

 

 

引き金を引いた。

 

それ(銃弾)は、彼の心臓部を確りと貫通し、後ろの壁に抉り込む。

心臓が破裂し、口から多量の血を吐く。

 

 

 

”ブクブクブク…ジュクン…ッ”

 

 

 

「血、血がっ、でっ、ぁぁ……さ、サクタロウさ、ぁ…!?」

「マ゙リ゙ー……お゙、ぢづげ……も゙…う、終わる…」

「────ぇ…?」

 

 

 

しかし、それは直ぐに治まり……1秒、その短い時間で、サクタロウの身体は再生した。

 

爆破とは違い、一発の綺麗な弾道の銃撃。

再生も最速且つ、綺麗に行われた。溢れた血が床に付着してしまったのが、少し残念だ。

 

 

 

「あ。ぁ────………」

「ゲホッ、あぁー…………ふぅ。分かっただろ、マリー」

「………」

「俺はこんな野郎だ。もうお前等とは根本的に、生物としての在り方が違う」

「……………」

「怖がらせて悪かった。そして、今まで黙ってて、悪かった……」

「……………………」

「……あ?マリー?」

 

 

 

さっきから何の返事もしないマリーに疑問を浮かべ、サクタロウは下に視線を向けていたのを、合マリーにわせる様に前に向ける。

 

そして、マリーを見た……瞬間だった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

”パタンっ………”

 

 

 

「ッ!!マリー!」

 

 

 

マリーが横向きに倒れる。

 

異様すぎる光景に充てられ、マリーに限界が来てしまったのだ。

 

サクタロウが直ぐに駆け寄り、マリーの状態を診る。

 

 

 

「脈は安定。眼も正常。鼓動は徐々に落ち着いていっている……気絶しただけか」

 

 

 

完全に気を失ったマリー。

 

思えば、今日のマリーはかなり可哀想だ。

 

 

・9時に来ると云う凡ミスでサクタロウに頬や獣耳を弄られる。

・数々のサクタロウの言動に情緒を滅茶苦茶にされる。

・急な電車の事故で帰れない時に家に泊まるよう促され極度の緊張でお邪魔する。

・彼の知られざる抱えていた闇を知ってしまう。

・証明する為に自身の銃で心臓を破壊して、血を大量に吐いて、再生して、普通に話しかける。

 

 

挙げればこうだ。マリーが余りにも可哀想だ。

 

彼女とてまだ麗若き花の女子高生。こんな経験、普通ならばトラウマ不可避だ。

マリーは現に今、気を失ってしまっている。涙を、少し流して。

 

 

 

「……すまない。マリー」

 

 

 

人と上手く関われなかった弊害が出てしまった。サクタロウは、深く後悔している。

 

時期が早かった?だがあのメモ帳を見られた時点で遅かった。

ならどうすればよかった?何をどう話せば彼女に納得して貰えた?

普通に考えて関わり過ぎたのではないか?自分にとって、特別に成りつつあるマリーに……踏み入れ過ぎてしまったのではないか。

 

 

 

「……失礼する」

 

 

 

サクタロウは、色々と考えるのは一旦やめにした。

 

マリーをお姫様抱っこで持ち上げ、そのまま……自室にあるベットに運ぶ。

 

 

 

「っと………本当にごめんな、マリー」

 

 

 

サクタロウは、そっと優しく、マリーをベットの上に乗せ、布団を掛ける。

お風呂に入れず、歯も磨けていない。でも、今日はもうゆっくりさせるに限る。

 

明日の朝にはもう此処を出なければいけないのだ。時刻的にも、寝かせるべきなのだ。

 

 

 

「明日、また話し合おう。マリー……おやすみ」

 

 

 

そうして、自分の部屋を後にする。

 

電気を消し、そっと……扉を閉めて。

 

 

 

 

 

 

 

”バタンッ……”

 

 

 

「……クソっ」

 

 

 

ゆっくり扉を閉める。

 

そのまま扉に、背凭れをかける。悪態を付きながら。

 

 

 

「なにしてんだ俺はっ………馬鹿にも程があるッ」

 

 

 

ずるずると落ちて……その場に座り込むサクタロウは、自身の頭を抱える。

そうして、深く、深く……後悔する。

 

いつから間違っていた。ずっとの気がする。

 

やはりホテルに泊めさせるべきだった。

あんな所にメモ帳日誌を置きっぱにするんじゃなかった。

 

そもそも────俺が、あんな優しい子に関わるべきじゃなかった。

 

 

 

「なにが、嫌われたくなかった、だッ……なにが、怖がられたくなかっただッッ……」

 

 

 

怒りの感情だ。。

 

いつの日か失くしてしまっていた、感情。

 

沸々と、自身に向かって、大きく成る。

 

その想いは、夢物語だったんだ。

 

 

 

「────愚か者がッ……あの子を泣かせて、どうする…ッ」

 

 

 

そしてそれ(怒り)は、後悔の渦になる。

 

こんなつもりじゃなかった。

 

マリー(お前)を、泣かせるつもりはなかった。

 

謝罪の言葉も、見つからない…。

 

 

 

「……すまん、マリー」

 

 

 

大雨の日。夜10時前の、ゲヘナ自治区の……とあるアパートにある男の部屋。

 

一人の男の謝罪が、その場に発せられ、雨の音に消えて行く。

 

 

 

楽しかった筈のデート。

二人の距離がグンと縮んだ筈の木曜日。

 

 

 

────それが、一気に、たった一つの出来事で……崩れてしまった。

 

 





安心して下さい。次回は”伊落マリー”大覚醒回です。

マリーには一旦この程度で済ませてって感じですね。
サクタロウもマリーと過ごす事で、段々と【感情】を心に宿してきています。

笑顔の練習も、共に過ごしたお茶会も、彼にとって掛け替えのない時間。
それはマリーも同様だった。それだけの話です。


マリーちゃん、可愛いね。うん、後もう少しだね、待っててね。



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