マリー、俺と付き合って下さい。   作:カブトムシの相棒

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☆サクタロウに対する各学園の印象(トップ層の総意)。




1:トリニティ:(百合園セイア)

・つまらないと見せかけて面白い人だと知り、非常に興味深い人間だと思っている。あのミカ相手にイカ墨をぶっかけて逃げる根性が大好き。トリニティでは未だに彼の最悪の行動だって忌み嫌っているが、本当はミカが悪いって事はセイアは理解している。二人っきりで会って話し合いたいと、思っている。因みにナギサは当時の【聖園ミカ顔面イカ墨ぶっかけ事件】が面白過ぎて暫くツボにハマっていた。聖園ミカは……ナオキです。(殺意の塊)


2:ミレニアム:(調月リオ)

・彼の秘密を少なからず掴んでいる。少し前に『明星ヒマリ』や『各務チヒロ』と協力して、やっと掴んだ戦闘ビデオ。彼の不死性と狂気性を知ってしまった。リオは彼に、非常に強い恐怖を抱いている。この秘密はミレニアムではこの3名しか知られていない。


3:山海經:(竜華キサキ)

・底の無い狂気に、形容が出来ない異常性を秘めていると理解している。まさか、アレ程の狂気をたった一人の男が抱え込んでいたとはと、未だにゾッとしている。昔、何度か顔を合わせた機会があったからこそ分かる、彼の異様さ。まるで感情が無い機械の様な人間だった。アレは到底の事が無い限り、彼に感情を呼び戻す事は難しいのだろうと判断している。


4:アリウス(ベアトリーチェ)

・2年前に黒服からサクタロウを数日借りていた時期があった。何故か?それは性欲発散の道具として性行為に使う為だったからだ。行為後、ベアトリーチェ本人はかなり満足していたが、サクタロウは地獄の様な顔付に成っていたという。当時14歳のサクタロウ少年。子供を道具としか扱わないベアトリーチェでも性欲の発散として使っても良いと思う位には、かなり気に入られていたとの事。アリウスの生徒とは少ししか絡んでいない、本当に只の性道具として使われただけ。

サクタロウが挙げる黒歴史があるとするならば絶対にコレ(最悪)





では、本編です。


俺は、もう人間じゃない。私は、それでも貴方と────

 

 

 

 

☆マリーside

 

 

 

 

『────悪い事は言わないから、回れ右して帰れ』

 

 

 

夢を見る。彼と会った日、助けてくれたあの時を。

 

 

 

『────俺には関わるな。じゃあな』

 

 

 

ツンツンしてて、少し素っ気ないと思ったあの日を。

 

 

 

『────お前さ、俺のこと怖くねーの?』

『────……俺の心は空っぽだぞ』

『────綺麗だな、お前の笑顔』

『────こうか?に……にこー………だ、だめだ、分からん』

 

 

 

だけど、誰よりも優しくて、誰よりも人の想いに敏感で。

本人でも分かっていない、自身の感情に、少し戸惑っているだけの男の子。

 

 

 

『────俺は……何の悪意も無く、こうして誰かと過ごすのは初めてなんだ。気が楽で、知らない自分も発掘できて、妙に落ち着く……こういうのを、楽しいっていうのか。お前と居るこの瞬間は、なんだか俺は好きなんだ』

 

 

 

時折こう、とても恥ずかしい発言をして困らせてくる。

それもまた彼らしくて、彼なりに頑張って気持ちを伝えようとしてると捉えると、とても可愛いって思ってしまう。

 

 

 

『────俺の前だけにしろ、他の人にはするな……何か、嫌だから』

『────これからはマリーって呼んでも、いいか?』

『────俺は今、初めて怒っている……反省しろ』

『────あ?楽しかったかだと?あぁ……楽しかったよ』

 

 

 

彼に色んな感情が芽生え始めて。

とっても不器用で、とても優しい、彼の人間性が顕著に表れ始めて。

着々と目に……閉じてしまった右目とは反対の、残された左目に……僅かに感情が見え始めて。

まだ能面の様な表情で感情がないけど、それでも……初めて会ったあの日から凄く成長して。

 

 

 

────そんな平和な時間も、突如として崩壊してしまった。

 

 

 

それも………私の軽率な行動の所為で。

 

 

 

”パンッッ!!────…ブチュッ”

 

 

 

『────ゴぽっっ……ウぐ、ごぱッ……ッ』

 

 

 

彼は自身の愛銃を用いて、心臓を貫いた。

彼曰く、自分は他のヘイロー持ちよりも最弱クラスの耐久性だと云った。

でも、それすらも超越する自身の力……【不死身】の肉体を持っている事。

それで……気付けば、彼の肉体は再生していった。

まるでなにもなかったかのように、飛び散った血も蒸発するように消え失せて、肉が蠢いて再生した。

彼は言った……俺は人間じゃないと。

 

 

 

『────嘘ついて、悪かった。情けない話だが……お前に嫌われたくなかったんだ』

『────怖がらせて、悪かった。ずっと黙ってて……悪かった』

 

 

 

私は、どこまで未熟者なのですか。

 

彼に、()()()()をさせたかったんじゃない。

彼に、あんな思いを抱えて欲しかったんじゃない。

彼に……あんな重荷を背負って欲しかったんじゃない…ッ。

 

違うんですよ、サクタロウさん。私は貴方が怖くなって、気絶してしまったんじゃない。

いきなりで、血がとても苦手で、意識を失ってしまっただけなんですよ。

言い訳に聞こえてしまうかもしれません。でも、どうか……貴方とお話させて下さい。弁明の機会を下さい。

 

私は────貴方を嫌いになんかなりません。例え誰も彼もが貴方の敵に成ろうとも、私は決して貴方を嫌いになりません。怖がったりなんてしません。

 

 

 

だって、私は………

 

 

 

────貴方に……サクタロウさんに助けて頂いた、あの日から────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────す…き…………んっ……ぅぅ………ん…?」

 

 

 

視界がぼやける。長い時間、夢の世界に旅立って居た……そんな気がする。

マリーはスムーズよく起き上がり、目を擦って、ポケットに仕舞っていたスマホを取り出す。時刻は6時半。

 

 

 

「6時半………あれ?私、どこで寝て……?」

 

 

 

ハッとして、周りを見渡す。

窓を見れば昨日の大雨は止んでいる。青色の空が、窓越しから見え始める。

ロケットランチャーが隅っこに立て掛けてある。

サクタロウの匂いが充満している。良い匂いだ、なんて……マリーは変な事を思う。

 

だが、目を覚ませば……少しずつ、事の顛末を思い出していく。

 

 

 

「っ……そうだ、わたしっ………」

 

 

 

思い出した。自分は……気を失ってしまったのだ。

 

思い出す、鮮明に……そうだ、自分は彼の───知られざる闇を知ってしまった。

それで色々と、彼に……サクタロウに、気持ちを落ち着かせて貰った。

自分が未熟故、パニックに陥ってしまった。

 

彼の右目の傷も。

彼の肉体が特殊である事も。

彼の……味覚が無い事も。

 

全て、知ってしまった。

 

 

 

「───っ、うっ……ふ、ぅ……っっっ……ぅぅ……っ」

 

 

 

だめだ、思い出してしまう。

彼の書いた日誌も、彼が見せた証明も……思い出して、泣いてしまう。

 

布団の中に包まって、息を殺して涙を流す。

 

泣くな。泣いてどうするんだ。そう自分に言い聞かせても、止まりそうにない。

 

 

だがそうも言っていられない、マリーは乱雑に目元を擦り、涙を止める。

呼吸を落ち着かせ、ゆっくり、布団の中からニュッと出る。

 

 

もう一度、周りを見渡す。

ベットがある……察するに此処は────

 

 

 

「サクタロウさんの、部屋………」

 

 

 

きっとサクタロウの部屋なのだろう。

質素な部屋。彼らしい模様だ。

 

 

 

「あ……サクタロウさん、もしかして居間で寝て……」

 

 

 

”ガチャっ……”

 

 

 

マリーが布団を捲り、起き上がろうとした瞬間────部屋のドアが開いた。

 

 

 

「……ん?あぁ、起きたかマリー」

「へ、あっ……サクタロウさん…っ」

「おはようマリー、気分はどうだ」

「あぇ……と、とても快適な気分です…?」

「そうか。いま起きたのか?」

「はい、先ほど起床いたしました……」

「そうか……俺も先ほど………いや、何でもない。今更だよな」

「あっ、っ………すみません」

 

 

 

サクタロウはベットに起き上がるマリーに近付きながら会話する。

気まずい空気だ。マリーも察した、それにより、サクタロウは訂正。

彼は寝ていない。否……眠る事が出来ないとも云える。

 

 

 

「悪い。朝っぱらから、お前に嫌な思いをさせて」

「い、いえっ、私は……大丈夫です」

「……そうか」

 

 

 

もう、何を云っても今は駄目だ。

 

それは、マリーもサクタロウも理解している。

そういう特有の空気はある。これは、修正できる人が居ない不思議な空気感なのだ。

 

 

そんなマリーだが、瞬間、自分が置かれている状況に気付いて、直ぐに言を投げる。

 

 

 

「あ、そうです……あのっ!本当に申し訳御座いません、ベット…使ってしまって……」

「いや良い。お客さんとして当然の対応だ。それに客用の布団とか無かったから、元から俺のベットで寝かせるつもりだったしな。気にするな」

「そっ、それはそれでなのですが………」

「マリー」

「ぁ、はいっ」

「……俺の事で、お前と話したい。大事な事だ────学校、少し遅刻しちまうが、大丈夫か?」

 

 

 

サクタロウは懇願するように、マリーにそう問う。

 

話したい大事な事と云うのは、昨日の……サクタロウの身体の事だ。

 

マリーは学校の事も少し考えるが、たった一日だ。

直ぐにスマホを使い、連絡を打つ。

 

 

 

「………よしっ!はい、大丈夫です。先ほど学園にお休みのご連絡を入れましたので」

「マリー……本当にすまない」

「いいえ、大丈夫です」

「……先に、朝の支度を終えてから話し合おう」

「はい……承知しました」

 

 

 

今は学校よりも彼だ。

そう思ったら、行動は早く出来た。

 

彼女の気持ちに感謝の念を送り、そろそろ起きれるかどうか最速する。

 

 

 

「昨日の事もあるだろう、無理はしなくて良い。起きれそうか?」

「は、はいっ、大丈夫です。ありがとうございm────…………ん?」

 

 

 

ここでマリー、異変に気付く。

 

まて、なにか、なにか可笑しい気がする。

 

マリーはそのまま布団を捲り、サクタロウと同じ床に足を突こうとした瞬間……嫌な違和感を覚えた。

 

 

 

「(ま、待って下さい……私、昨日そのまま気絶しちゃって……あ、あれ、その前って…………────っっ!!!!?)」

「ん?おい、顔が赤いがどうし────」

「ま、まって!まってくださっ!?あ、や、あぁぁ……っ!」

「どうしたマリー。どこか痛むのか?」

 

 

 

マリーは気付いてしまった。

それは、女子として……かなり触れてほしくない事。

 

そう────昨日から自分は『お風呂に入っていない+歯を磨いていない』のだった。

 

サクタロウとの距離は至近距離にある。マリーは滅茶苦茶に焦り散らかす。

 

 

 

「さ、サクタロウさんっ!あ、あぁぁあの!お、お風呂!あ、いえ!シャワーを浴びさせて頂きたくッ!!」

「あ?あぁ、別に良いが………あ、そうか。マリー昨日お風呂入ってないn」

「わー!わー!!い、言わないで下さいっ!」

「んっ……すまない、分かった」

 

 

 

マリーはドチャクソに焦り散らす。

それもそうだ、異性に自身の匂いやら清潔感の所在を知られているのだ。最悪だろう。

 

流石に気を遣うサクタロウ。

起き上がったマリーと共に、サクタロウは自分の部屋を出る。

 

そのままマリーを洗面所に連れて行く。

 

 

 

「此処だ。服は……大きいと思うが俺のを貸せる。昨日の服は洗濯機の中に入れても構わん」

「え?そ、それって……」

「その服、昨日の雨で繊維が傷んでる。もう洗濯しなきゃヤバいだろ…………嫌だったら嫌って言え」

「い、嫌では無いんです!その、良いのかなぁと思いまして。洗濯機は謂わずもなが、お洋服もお借りするなんて……」

「良いって言っている。それともなんだ、全裸で過ごすか?」

「お、お借りさせて頂きますっ!!」

 

 

 

マリーが提案を呑むと、サクタロウは『それで良い。お前でも着れそうな服を持ってくるから、先に入って居ろ。風呂はもう入れてあるからな』…と伝えて、洗面所を後にする。

 

マリーは一度自身の服の匂いを確認する。あぁ、マズい少し臭っている。

昨日一日中着て、雨にも濡れ、汗も沢山掻いてしまったからだろう。

サクタロウは気を遣わせて、もう風呂を入れてある。それが答えだ。何とも女として、恥ずかしい話だった。

 

早速マリーはスルスルと服を脱ぎ、洗濯機の蓋を開け入れようとする。

 

 

 

「っあ……そ、そうです、よね…っ!」

 

 

 

マリーの視界にサクタロウの『パンツ』が入る。

堂々と存在している。いやあるのは当然だし、なにも驚く事は無いのだが……実物を、男性物の下着を父以外で見るのは初めてだった。

 

 

 

「ぁ………はっ!い、いけませんっ!わ、私は何を考えて…!」

 

 

 

10秒ほど、彼のパンツを眺めてしまった。

不埒だ、聖職関係に就く者として、本当にイケナイ。

 

マリーは上着、下着を早く脱いで、そのまま洗濯機の中に入れる。

一応……下着類は服の上に乗せて隠して。

 

そのままお風呂場に入る。その中は、少し狭い。

このアパートの部屋は全体として見れば大きいが、きっとこういう風呂場を狭くして何とか成り経たせているのだろう。

学生寮のお風呂場よりも一回り狭い。マリーはサクタロウの事を思う、自分で許容範囲の狭さだ、彼には聊か狭すぎないか?と。

 

何て、少し失礼だ。マリーは桶で体を流し身を清め、先にお風呂へとチャポンと入る。

 

 

 

「はぁぁぁ~……あたたかい…」

 

 

 

温度計を見れば40度と記載されている。丁度いいお湯加減だ。

 

朝風呂とは中々、意外と悪く無いモノだ。

シャワーは毎日朝するのだが、こうして風呂に入る事は全くない。

 

きっと昨日お風呂に入って居ない事も影響しているのだろう。一日だけとは言え、乙女としては少し思う事だった。

 

 

 

”コンコンコン”

 

 

 

「マリー、入っても良いか」

「あっ!大丈夫です!」

 

 

 

気持ち良く入浴していると、サクタロウが洗面所のドアをノックする。

マリーは直ぐに反応し、対応。そのままサクタロウが入って来る。

 

 

 

「失礼する。マリー、服はこの上に置いておくからな。タオルは好きなの使って良い」

「ありがとう御座います。本当に助かります」

「構わん。それと、もう洗濯機回しても良いか?まだ何か洗いたい物が有れば言ってくれ」

「大丈夫です!その、洗って頂けても……すみません、ありがとう御座います!」

「そうか、分かった。じゃあもう洗うぞ」

 

 

 

そう言って、サクタロウは洗濯機の蓋を開け、中に洗濯用洗剤と柔軟剤を投入し、洗濯機を回す。

 

 

 

「よし。そうだマリー、一つ聞きたい」

「ん?はい、何でしょうか?」

「そこにあるシャンプー、リンスイン系のヤツだし、後ボディーソープも洗顔もほぼ男モノだろ?」

「え?あ、あぁ、そうですね…?」

「女のお前にソレは何かダメってネットで見た。確か合わない?とか何とかで。今から近くのコンビニで女性用のバス用品を買いに行くが、どうする?5分で行けるぞ」

「い、いえいえいえいえ!!流石にそこまでは大丈夫ですよ!?それに、女性が男性用のバス用品を使う分には特段大きな問題はない筈ですし!お気遣いは本当に嬉しいですので、お気持ちだけお受け取らせて頂きます」

「ん、そうか?まぁ大丈夫なら良いんだが……ならそこに在るシャンプーとかは使ってくれて構わない」

「あ、ありがとう御座います…っ!」

「あぁ………そうだ、ゆっくり入っていいからな。此処に俺は居間で待ってるから」

 

 

 

そう言って、サクタロウは洗面所を後にした。

薄明るいお風呂場。湯気が立ち、本当に心地の良い湯加減で、気負いしていた心が絆されていく。

彼の顔を思い出す。やっぱり、無表情。あれがデフォルトなのだろうが、表情を読むのはやはり至難の域。

 

 

 

「……ぷくぷく」

 

 

 

何を想ったのか、マリーはお湯に顔を沈め、プクプクと息を吐いてバブリングををする。

 

 

 

「ぷはっ………だめですね。少し、疲れてるのかもしれません」

 

 

 

本当に可笑しな行動をした。

疲れ、で表していいのか。少し……落ち着く時間が欲しい。

 

幸いサクタロウからゆっくり入って良いと了承を得た。

ならば、10分ほど……浸からせて、頂こう。

 

 

 

その後、マリーはサクタロウのリンスインシャンプーとボディーソープ、洗顔を貰い、身を清めた。

 

 

 

 

”バシャっ…………ガラララッ”

 

 

 

 

「ふぅ……少し、のぼせてしまいましたっ…」

 

 

 

10分は余裕で超えてしまった。長い時間、お湯に浸かっていた。

マリーは風呂場から上がり、洗面所にあったタオルに手を伸ばして掴み、そのまま風呂場に戻って身体を拭く。

 

少し経ち、全身を拭き終えて洗面所に戻る。

彼が持ってきてくれたであろう服を見る。

 

 

 

「あ………うぅ、や、やっぱ大きいですよね……」

 

 

 

棚の上にあった服を広げる。

どれもこれも、全て大きいサイズだ。いやこれに関しては仕方がない。

 

 

 

「私とサクタロウさんとでは、やっぱり体格差があるので、当然服のサイズも合いませんよね……」

 

 

 

そうなのだ。彼とマリーとでは、余りにも身長差がある。

 

その差、何と48㎝。約50㎝の差だ。

加えて彼はそれなりに筋肉もある……華奢な体格のマリーとではその差は瞭然だ。

 

服の種類を見る。

 

 

・フード付きの白いパーカー。

・紐付きの長ズボン。

・平凡なヘアゴムが2つ。

 

 

 

「ん?これは……」

 

 

 

マリーが服の隣に置きメモを発見。

それを手に持ち、読む。

 

 

 

「〈ゴムはズボンの裾に通して使え。転んだら危ないから〉………ふふっ、はい。分かりました」

 

 

 

ゴムの使い所はズボンの裾に通す為だった。

これで、余ってしまう布面積もゴムで処置が出来る。

 

彼の真面目でマメな性格を見た。本当に、細部まで気を遣ってくれている。

 

 

 

「っ、と……は、早くお着替えをして向かわなくてはですね」

 

 

 

微笑んでいるのも束の間。マリーは少しいそいそと着替え始める。

 

下着は昨日のコンビニで買っている。そこは問題なかったのだが、やはり、彼の服は大きすぎる。

ぶっかぶかだ。萌え袖どころではない。足の長さも当然違うし男性用と云うのもあってか、着心地は少しゴワゴワしていて、ムズムズする。

 

でも本当に、心の底から嬉しい気持ちだ。

 

 

 

そして、マリーはドライヤーを借り髪を乾かして、洗面所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────サクタロウさん、上がりました」

「そうか……………っ」

「本当にありがとう御座いました。洗濯機は後20分で終わるみたいです」

「あ、あぁ、そうかッ………湯加減はど、どうだった?」

「とても気持ち良かったですっ!私もいつもあれくらいの温度で入浴しているので、丁度よくて心の底から心地よかったです」

「そうか、あー、なら良い………」

「……?」

 

 

 

洗面所を出て、居間のテーブルで胡坐を搔いていたサクタロウ。

そんな彼に近付きながら御礼を云うマリー。だが、何だか彼の様子が少し変だ。

 

マリーは胡坐を掻くサクタロウに近付き、そのまま床に膝を着いて、サクタロウの顔色を見る。

 

 

 

「大丈夫ですか?何だか心成しかお顔が赤いような……」

「……お前の所為だ」

「え?」

「お前の所為だよ……俺の服を着るお前が、艶やかで魅力的に見える」

「ぁ、あうぇ……っ!?」

「……悪い、変なこと言った。少し近い、離れろ」

「あっ…す、すみません……っ!」

 

 

 

不意打ちだ、二人ともダメージを負うタイプの。

サクタロウも、非常に珍しく顔をほんの少しだけ赤くさせる。

マリーなんか真っ赤っかだ。まるで茹でダコの様に、顔のみならず身体全体を赤く染めて。

 

 

 

「朝飯、食うぞ。此処にパンとジャムとバターがあるから好きに食え……アレルギーはないよな?」

「え?あ、あぁ!ありません!大丈夫です、ありがとう御座いますっ!」

「あぁ……紅茶入れる。パンでも食って待って居ろ」

「はいっ……」

 

 

 

少し気まずい空気が流れたが、朝ご飯を食うと云う流れに強引に持っていく。

サクタロウが立ち上がって紅茶を入れに行く。その紅茶は、マリーが何時ぞやの日に彼に差し渡した代物。簡単で、インスタント系でお湯を入れてお終いだ。

 

だから味覚の無いサクタロウにも、簡単に作る事が出来る。

 

 

 

「ほら、持ってきたぞ。熱いから気を付けて飲め」

「ありがとう御座いますさ、サクタロウさん……パンもありがとう御座います、美味しいです」

「良い。1枚でも2枚でも、好きなだけ食え」

 

 

 

流石にお邪魔させて頂いている身だから1枚で済ませるが、マリーはその心遣いが本当に嬉しかった。何だか、本当に甘やかされている。こんな経験、今までなかった。

 

だからこそ……この朝ご飯の後に行われる【話し合い】が、凄く怖い。

 

この関係が一気に崩れる可能性があるからだ。

マリーは只、それがどうしようもなく恐ろしい。

 

 

 

「……美味いか?」

「んっ……はい。とっても美味しいですっ!」

「ふんっ、ただの食パンとイチゴジャムだろ。なのに良くもまあ、そんな曇りない笑顔で答えられるな」

「だ、だって、本当に美味しいですから……」

「……そうかよ。いや悪い、変なことを言った……喉に詰まらせんなよ」

 

 

 

サクタロウは皮肉を言ったつもりだった。だが全く効かないマリーの純粋性により、直ぐに謝り訂正。

マリーは意図が読めなかったが、余り気にせずそのままパンを食べ終える。

 

紅茶も一飲み。サクタロウも紅茶を啜る。

 

 

 

平和な時間が、ただ、過ぎていく……────それも今、終わる。

 

 

 

「……昨日はすまなかったな、マリー」

「え?」

「もっと慎重に、段階を踏んで説明するべきだった。俺の所為でお前の心に深い傷を負わせてしまった……心から、謝罪する」

「っ!な、何を仰いますか!そんな、アレは私がもっと冷静に対応できていたら、事も大きく成らず済んだ話ですッ!貴方が、サクタロウさんが謝る道理はどこにも…っ!」

「いいや、お前は何にも悪くない。あんな事実、あんな光景……見せられて冷静に成れない人間など居ない。それこそ、冷静に成れる人間を俺は、人とは呼べない」

「っ…!」

「マリーは冷静に成れなかった。それは人として当然の反応だ。俺の為に泣いてくれた……心優しき者が持つ、当然の感情だ」

 

 

 

サクタロウは続ける。

マリーの目をジッと見て、続ける。

 

 

 

「だからこそマリー、どうか俺の話を……聞いてほしい」

「サクタロウさん……勿論、ですっ」

「ありがとう。マリー、俺は………お前が寝てからずっと、ずっと考えていた。俺の秘密を言うべきかどうか。ずっと………その過程で、お前に嫌われるんじゃないかって、烏滸がましい事この上ない想いを殺して、考えていた」

 

 

 

そんな事、思う筈がない。

思う筈が無いですよ、サクタロウさん……そう思っても、今は、何も言えない。

 

今の彼は、変わろうとしている。

今迄の彼を、彼自らが、変えようと踏ん張っている。

自分の中に在る名の無い感情を、理解しようと頑張っている。

 

マリーはそれが分かる。分かったのだ……だからこそ、押し黙る。

 

 

 

「俺は、さ……ずっと【強く成りたい】って、思っていたんだ。昔から俺は弱くてさ、ガキの頃は性別の違いや親がクズってだけの理由で、よくイジメられていた。4歳から孤児院で過ごしてからは、本当に酷くってな。イジメは12歳まで続いた」

「…………」

「そんな生活も、一人の男に拾われて変わった。12歳の時だ、俺が孤児院を脱走したその先に居たその男は、俺に契約を持ちかけたんだ……強くさせる変わりに、俺を【人体実験】のモルモットとして利用したいと……親は蒸発して行方不明。俺の捜索が無かったのは孤児院の教員が俺を拾った男に金を受け取ったからだ。今でいう【人身売買】だな」

「っ!ぁ……っっ………ぅ…っ!」

 

 

 

”その男は、俺にその事実を最後まで教えなかったがな”

 

そう告げる彼は、黙々と、淡々と話していた。

 

マリーは、もう、気がおかしくなりそうだった。

既に壮絶だ。胸糞が過ぎる。

酷すぎて、辛すぎる…なぜイジメ何か、親はなんで彼を捨てた?12歳の子供を人身売買で売りさばく?全てが人道に反し過ぎている行為…涙が溢れて、止まらないっ。

 

 

 

「俺は二つ返事で『OK』のサインを男に了承した。当時は何にも考えないで、ただ、只々……強く成りたいって意志があった。俺を見捨てた、俺をイジメた人間達の復讐心に近い感情だった………いつの間にか、それは消えていたんだがな」

「っ……ひどいっ……」

「……俺には【超再生】の能力があった。軽い怪我なら直ぐに治る、そんな能力が。その上位互換が【不死身】の能力。文字通り、生物を辞める神秘を俺は持っていた。男はそんな俺に目を付けて、まぁ数々の人体実験を施したんだ」

 

 

 

サクタロウは人体実験の概要は言わない。言ってどうするのか、別に伝える必要はないと判断した。

 

 

 

「結果……俺は不死身になった。昨日の出来事を見たお前なら一目瞭然だろう、俺にはどんな殺害方法を仕組もうが、俺には何のダメージも無いんだ。心臓、脳は少し再生に時間を食うがな……」

「………」

「そんな実験の過程で俺は【痛覚】を失った。これはどうでも良かった、寧ろ好機でもあった。痛みは心に恐怖心を与える、そんな感覚は必要無かったからな」

 

 

 

そんな事ない……なんて、無責任な事は言えなかった。

 

 

 

「そんな生活下でも俺は十分な道を歩んでいたと思う。確かに正道では無かったけど、それでも、最悪では無かった………でも」

 

 

 

サクタロウの表情がグッと変わる。

 

ここで初めて、彼は────マリーに、分かり易い表情を見せる。

 

それは……悲哀を思わせる表情だった。

 

 

 

「────【味覚】を失ってからッ……どうしようもない気持ちに成った」

「────っっ!!」

「こんな俺でも、食べ巡りは趣味の一つだった。それが出来なくなってしまったッ……食っても食っても、その食事特有の食感しか感じない。いつしか食べた飯の記憶さえ無くなっていく。不死の肉体を使ってどんなに身体を壊しても、味覚だけは、治らなかった」

 

 

 

聞くに堪えない話だ。

マリーはかなり限界だった。生きて行く中で、シスターと云う相談役の最高峰に位置する職を目指して、シスターフッドに入った。

まだまだ未熟でも、これでも幾人か自分に相談しに来てくれて、頑張って良い方向に行く助言を提示できたのではと思っていた。

日々思考して、考えて、考えて考えて、この人にはどんな言葉が適切かを考えて、その末に道を標した。

 

でも、これは……余りにも、あんまりだ。

 

 

 

「お前にも、マリーにも本当に申し訳が無い。お前がくれたクッキーも、紅茶も、何もかも……俺にとっては只の味のしないモノだったんだ」

「そ……それは、だ、だって、しかた…ないでは、ありませっ……!」

「仕方なくなんかない。お前に嘘を付いた、その事実は消えない……ただ嫌われたくないってだけの理由でだ」

 

 

 

涙が止まらない。止まらなくて、イライラする。

泣きたいのは彼だ。一番苦しんでいるのは彼だ。

聖職者の端くれの自分が、なぜ、泣いている……っ!

 

マリーは心の中でそう唱えるも、感情を抑えられない。

涙が溢れて、もう止められそうにないのだ。

 

 

 

「大雑把だが、俺の秘密は……これで全てだ」

「っ!ひぐっ………サクタロウ、さん…っ」

「……こんなクズの話でも、お前は泣いてくれるんだな。マリー」

 

 

 

マリーは首を横に振るう。

 

 

 

「そんな、こと、いわないでっ……貴方は、あなた、は…っ……!」

「……ごめんな」

 

 

 

サクタロウは、謝る。

初めてここまで気を許したなーと、今この状況で妙な事を思ってしまう。

 

あぁ、本当に………妙な事を、思ってしまう。

 

 

 

「────マリー、俺が今からする事……許してくれなくて、構わない」

「え……ぇ?」

「……初めて人にするから、痛くしたら、ごめんな」

 

 

 

瞬間────サクタロウが、行動を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

”ぎゅぅぅぅぅぅぅっっ!!!”

 

 

 

「きゃっ……っ!」

「マリー、すまん……」

「っ……」

「この後ヴァルキューレに突き出して良い、だから今は……少し、抱かせてくれ」

「さく、た……‥ぁ……」

 

 

 

腕ごと、彼が抱える様にマリーを抱きしめる。

 

力は少し強い。マリーの力では振り解けない強さだ。

 

一体なぜ、突然……マリーは状況が掴めない。頭がまた、真っ白だ。

そして、耳元でサクタロウが告げる。

 

 

 

「マリー、それでもな……俺はマリーに会えた」

「ぁ………」

「お前に会って、全てが一瞬で輝いて見える様になった。本当に久しぶりに、色んな感情が生まれた気がするんだ。お前と過ごしたベンチでの事や、お前と過ごした大聖堂でのハラハラした経験や、お前と行った花園にゲヘナの街道……今わかった────本当に、心の底から、俺は楽しかったんだって」

 

 

 

あぁ、ダメだ……それはだめだ。

 

今も凄く泣いているのに、そんな事言われてしまえば、もう……絶対に止まらない。

 

 

 

「サクタ、ロウ……さっ……!」

「人に怒ったのだって、昨日が初めてだった。俺はさ、マリー……お前が善意でくれたクッキーと紅茶が、どうしようもなく嬉しくってさ。味は分からないんだけど、それでも本当に、嬉しかった」

「………わたしっ……きらわれること、して……貴方に、無神経なことをしてっ……申し訳、なくって……っ!」

「何を言っているんだ、お前は。知らなくて当然だろう?俺が馬鹿だったから、烏滸がましく嫌われる事を避けてしまったから、お前が苦しんでしまったんだ。それにな、俺がお前を嫌う事は、一生ないよ」

「さくっ……サクタロウ、さん…っ!…わたし、わたしも!貴方を嫌うなんてこと、ありませんっ!怖がるなんて、ことっ!ありません…っ!」

「………マリー、良いのか?俺はバケモノだぞ」

 

 

 

例え万人が彼をバケモノと呼んでも。

例え民衆が彼を受け入れなくとも。

 

 

 

「────関係ありませんっ!私は……貴方と、ずっと居たいからっ……!」

「おぉっと………マリー」

 

 

 

マリーがサクタロウの胸に、顔を埋める。

そのまま、泣きながら、彼に想いをぶつける。

 

 

 

「────サクタロウさんっ……」

「あぁ……なんだ?」

「私、わたし………貴方に初めて会ったあの日から」

 

 

 

言うのか、マリー。

言ってしまうのか、シスターマリー。

 

 

 

「貴方に、救って頂いた、あの日から……ずっとっ!」

「……あぁ」

「ずっと、ずっと………だ、だい、だいす────」

 

 

 

 

 

”────ピンポーン”

 

 

 

あと一言、それを言う前に、家のインターホンが鳴り響く。

 

 

 

「ひゃっ!?」

「ん……チッ、誰だボケが…ッ」

 

 

 

驚くマリーとは対照的に、クッソ悪態を付くサクタロウ。

 

 

 

「マリー……すまん、客人らしい」

「あ、あっ、あっ!!あぁぁぁ……!!」

「マリー?」

「あ、わぁぁ……アひんっ……!」

 

 

 

マリー、壊れる。

極度の緊張感から、少女漫画の様な展開に行った事により、様々な感情が爆発してしまう、

マリーはパニックに成ってしまった。

 

元々、こういうのには慣れていない子だ。仕方ないのだろう。

 

 

 

「お、おいマリー、落ち着け、呼吸を整えろ」

「あ、あぁぁぁぁ……あひんっ!!!」

「落ち着けよ、大丈夫だ……ほら、ぎゅーーってしてやる」

「あぁぁぁあ!!!ち、ちがゅ!ちぎゃっ!?お゙ッ!…お゙ぉ゙ぉぉ……あぁぁ……あ、んぅぅっ!」

「………その声、凄いな」

 

 

 

ヤッてないが、なんか、マリーから不埒な声が漏れる。

 

何故か?それは……サクタロウの抱擁が、絶妙にサクタロウの大きく成った”サクタロウ”の。マリーの”不埒な伊落”に絶妙且つ悦妙にアタックしているのだ。

 

 

 

「ま、まっへ!!まっっっ……ぁ…んぉ!?」

「あぁ、待つよ。お前が落ち着くまで、ずっとな」

「あ、あぁぁ……────ピッ」

「ん?…………は?」

 

 

 

そんな事、マリーが耐えられる筈もなく。

 

 

 

「────」

「えっ……デジャブってヤツか?」

 

 

 

マリーは気絶した。二度目の失神である。

 

 

 

「……理由を聞き出したいぞ、流石に」

 

 

 

展開が早いが、色々と上手く進むはずだったのだがと、サクタロウは落胆する。

だが、その落胆もまた……彼が得た、感情だ。

 

 

 

「マリー、大丈夫か?」

「キキッ、まぁ大丈夫じゃないだろうな。ふっ…しかし風紀員会を辞めた途端に〈トリニティの女〉を連れ込むとは、ゲヘナ生としてなっていないんじゃないかぁ?」

「………あ?」

 

 

 

前から声がした。誰かが立って居る。

サクタロウはシクッタと後悔する。インターホンの存在を忘れていたのだ。

 

しかし、何故声が……?サクタロウはマリーを死守する形で、一瞬で懐に仕舞っていた愛銃を持つ。

 

 

 

「そう身構えるな、今日は話をしに来ただけだ……次第によっては、大きな変更は有り得るがな」

「────そうか、遂に共同してまで俺を連れ戻したいって訳なんだな」

 

 

 

サクタロウは前を見る。

 

そこには────

 

 

 

「────久しぶりだなぁ?サクタロウよ」

「────えぇ、お久しぶりです。()()さん……相も変わらず壮健そうで何よりです」

 

 

 

現ゲヘナトップ────議長『羽沼マコト』が佇んでいた。

 

そして………

 

 

 

「朝っぱらからイキナリごめんなさい、しかも、男女の御取込み中にね」

「あぁ全くだ…随分と早い再会だな。もう少し空気を読んでほしい所だよ────()()()()

 

 

 

風紀委員会のトップにして、元上司……『空崎ヒナ』の姿もあった。

 

 

 

 

 

 





次回は先生が多分出ます!


補足:前書きでゲヘナを書かなかったのにも、サクタロウがヒナにだけ敬語じゃ無いのも、実はちょっとした理由が有ります。


感想誤字報告、大変元気が出るマンモスで御座います。
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