マリー、俺と付き合って下さい。   作:カブトムシの相棒

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遅くなり申し訳御座いません。


では、本編です。


別れはいつも突然。

 

 

 

 

Q:榊サクタロウとはどんな人物?

 

 

 

 

 

☆羽川ハスミの場合

 

 

「────榊サクタロウ……ゲヘナ学園が擁する絶対零度の狂人にて、最強のジョーカー(切り札)……現ティーパーティーの『聖園ミカ』様に対し、空前絶後の愚行を行い、逃げ遂せたたった唯一の存在。七囚人を超える、キヴォトス随一の狂人………ですが、これは世論の見解です。私は一度彼にお会いした事がありましたが、トリニティの私に対して礼儀正しい姿勢で接していたのが印象深いです。とても狂人なんて、あのミカ様に対してイカ墨を顔に掛けた人物にはとえも見えませんでした……あ、それとですが、彼は何と言いますか……生気を感じさせない顔立ちと云いますか、そのですね……表情を一切変えないで有名なのですよ。どんな緊張した場面でも、どんな過酷な修羅場でも、無を極めた能面の表情を変えない殿方なのです。先生も、一度お会いしたら分かるかと」

 

 

☆銀鏡イオリの場合

 

 

「────ふんっ!!今更あんな奴の情報を話す事なんてない!勝手に、あんなふざけた文章で、勝手に辞めて行った馬鹿なんてっ……仲間だと、思ってたのに………因みに、知ってどうするんだ?……え?会いに行く?ば、場所が分かるのか!?な、なら私も連れてって………は?足を舐めさせてくれたら良い?…~~~ッ!!死ね!!」

 

 

☆十六夜ノノミ&砂狼シロコの場合

 

 

「────ん、凄く強くて私よりも表情の変化が無い人」

「あはは☆もう少し付け足すとですね~……ザ・技巧人間って感じ、ですかね?少し前までアビドスに顔を出して居た時期がありまして、たま~に発生する敵の軍勢がアビドス高校に来襲する時があるのですが……その全てを驚異的な戦闘で終止させてしまうんです」

「何と云うか……破壊工作がとんでもない。この一言に尽きる気がする」

「そうですね~……音響爆弾や閃光弾、手榴弾や特殊改良の指弾、色々と凄まじい武器の数々をあの黒色のジャケットに仕込んで、状況に応じて対応する。乱戦に特化した戦闘者ですね」

「でもサシの戦いが苦手って訳じゃない。あのホシノ先輩に全く劣らない戦いをする髄力もある。ユメ先輩から聞いたけど、どんな厳しい状況下でも最高の成果を叩き出すのがサクタロウだって言っていた」

「だから、ゲヘナ学園のジョーカー(切り札)って異名が付いたのでしょうね。でも、もう一つある、彼の代名詞とも謂える【狂人】という異名……サクタロウ君は気にしては居ない様子ですが、やはり、彼が狂人と謳われるのは納得がいかないのですよね~」

「ん、私もそれは思った。いや先ずアビドスの全員が思ってる事かも。人に対して無感情に接するけど、何も狂人なんて、とは思う。彼に聞いても教えてくれない」

「あの人はホシノ先輩とはベクトルが違う秘密主義ですから。先生、もし彼にお会いして仲良くなれたのなら、またアビドスにって言って頂けないですか?ここ最近、一切の連絡がなくって……ユメ先輩やホシノ先輩も寂しがっていますし……」

 

 

☆柴大将の場合

 

 

「────随分な大食らいだったな、少し前まではウチの常連だったよ。誰かを連れて来るとかではなく、常に一人で来てくれたな。あの子は喋るのはそこまで好きじゃなさそうだったから俺からは話しかけた事は無いが、本当に礼儀正しい子って感じだったな。あとは、そうだな……先生も色々と調べてると聞いてはいるから、もう察っしが付いてると思う。あの子は無表情で何を考えてんのか分からんが、ありゃぁ……相当なモンを抱えているぞ。それも、16歳の子供が背負うには重すぎるモンがな……あの失っちまってる右目、見る度に心が痛む。俺とは訳が違う傷跡だしな……傷は男の勲章とは云うが、それが瞳だと話が変わる。16歳の年齢で失うには早すぎる……先生さん、サクタロウ君に会いに行くんだろ?なら、十分気を付けるんだな。あの子は……底の無い闇を抱えている。先生さんなら大丈夫だとは思うが、どうか、あの子を救ってやってくれ」

 

 

☆阿慈谷ヒフミの場合

 

 

「────【ゲヘナ学園のジョーカー】、又は【狂人】など、色々と凄い異名がついている御方ですね……一度、見かけた時があったのですが、非常に大きな体躯をしていて、しかも男性だったのでかなり注目の的だったのを覚えています。特徴的なのは右目が傷で閉じているのと、2m近い身長と筋肉質な身体、無表情だけど何処か優しい雰囲気を放つ、The・優男な感じでした。少し前にティーパーティーの『聖園ミカ』様に、その……イカ墨をお顔に投げて当てた大事件があって、それでトリニティでは畏怖的存在として今でも恐れられていたりします。あ!でも、最近は段々とその事件の話も薄れて来てて、もう知らない人も居たりします。そういえば………少し前に彼がトリニティに居たのではないかって噂に成ってしました。なにやら《ペストマスク》を被っていた不審者が居て、それが体系的に見積もってもサクタロウさんではないか~…何て話が今でも……どうなんですかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼は、今────

 

 

 

 

 

「────きらい!お兄ちゃんなんてっ……知らないもん!」

「イブキ、別に俺が嫌いなのは良いが先ずは話を聞け」

「~~~っ!!そういうところが、きらい~~!!」

 

 

 

一人の少女に、手を焼いていた。

 

次の日の朝………現在、サクタロウは約束通り【万魔殿】に居た。

 

二人の間には険悪なムード(イブキの一方的)が流れていた。

 

どうしてこうなっているのか……少し時を戻す。

 

 

 

 

 

 

▽────万魔殿に来る前………ゲヘナ改札前。

 

 

 

 

 

「────じゃあマリー、俺は此処までだが……気を付けて帰るんだぞ」

「はいっ!此処まで送って頂き、誠にありがとう御座います!無事に帰り次第、また連絡しますね」

「あぁ、頼む………マリー、その、楽しかったか?」

「はい!とっても楽しかったですよ!2日間も泊めて頂けて、しかも……恋仲にもなって頂けてっ!色々とありましたが、私はいま一番幸せです!」

「そ、うか……なら、良い」

「ふふっ……サクタロウさんはどうですか?幸せ、ですか?」

「んッ……別に、聞かなくても分かるだろ」

「サクタロウさんの声から聴きたいです」

「お前なぁ………まぁ……そりゃあ………うん」

「ふふっ!そうですか、とても素敵なお返事が聞けて嬉しいです!」

「………そうかよ」

 

 

 

朝の7時。サクタロウはマリーをゲヘナの駅前の改札に送り届けていた。

お洋服も綺麗に乾き、初めてのデートで着てきたお洒落服を着用。

 

因みに、マリーのパンツを外に干していた事は、少し怒られたようだ。

 

 

 

「じゃあ、元気でな。また変装して会いに行く。またな」

「は。はいっ…────あの!さ、サクタロウさん!」

 

 

 

マリーが改札を通る間際、一度後ろを向いたと思えば、マリーがサクタロウに近付く。

 

そしてそのまま……サクタロウに身を寄せる。

 

 

 

「ッ!……どうした、マリー」

「そのっ!さ、最後に……ギュってして、ほしくて……」

「……あぁ、分かった」

 

 

 

サクタロウは謂われた通り、マリーをギュっと抱きしめる。

 

サクタロウの着用するジャケットがカチャッ…と、重く硬い音が鳴る。

それは彼が持つ破壊工作用の武器類。何故それを持っているのか……それは後に成って分かる。

 

マリーは寂しくならない様に、堪能するように抱きしめる。

サクタロウは失わない為に、意を決したように抱きしめる。

 

それぞれ明確に想いは違えど、辿り着く先は……支え合う気持ち。

 

その抱擁は短かった。人の気配はないが、外である事、それが抑制する要因となった。

二人は離れ、マリーが笑顔を浮かべる。

 

 

 

「えへへ!最後にぎゅって出来て、良かったです」

「そうか」

「……サクタロウさんは、どうですか?」

「それ何回も聞いて、分かり切った事だろ……なんで言わなきゃならん」

「直接聞きたいですもん……サクタロウさんのお口っから」

「………俺も、良かったよ」

「っ!ふふっ!なら良かったです!」

「良い笑顔でお前は……ふんッ」

 

 

 

もう、マリーには勝てないのだろう。

そう思わざるを得ない。素直に成れないが、否定も出来ない。

少し誤魔化して思った事を言えば、マリーは満面の笑みで理解した顔をする。

 

恥ずかしい感情が沸々と心の内に沸き上がる。

 

別に嫌では無いが、まさか、自分がトリニティの小娘にしてやられるとは思わなかった。

 

 

 

「では、私はもう行きますね。次はまた追々、会う予定を決めましょうか」

「あぁ、そうだな。マリー、何かあれば直ぐに連絡しろ。即座に向かう」

「ふふっ!ありがとう御座います!嬉しいです…!」

「……じゃあ、またな」

 

 

 

マリーはピッ!と改札に交通系ICカードを押し、中へと進む。

小柄で華奢な体格も相まって、彼女の後姿は何だか寂しく思う。

 

……いや、自分が無意識的にそう思っているのかもしれない。

 

 

 

「サクタロウさん!また、お会いしましょう」

「あぁ、直ぐに会えるさ。気を付けて帰れよ」

「はいっ!」

 

 

 

そう言って、マリーは手を上品に振って、サクタロウに別れの挨拶を交わす。

 

数秒……経てば、マリーは姿が見えなくなっていた。

少しの間、サクタロウは其の場に佇んでいた。

噛み締める様に、少しだけ寂しいこの想いを整理したくて。

 

だが、その余韻を浸るのも束の間────サクタロウの背から声が発せられる。

 

 

 

「────余韻に浸っているところ悪いけど、もう時間よ。サクタロウ」

「────あぁ……そうだな」

 

 

 

その背中には、空崎ヒナが佇んでいた。

 

只一人、強烈なオーラを放って。

 

 

 

「随分と重そうなジャージね。これから戦闘にでも赴くかのような雰囲気も醸し出しちゃって」

「俺としてはイブキに会うだけ何だがな、何が起こるか分からんだろう。せめてもの保険だ」

「そう……今言うのも可笑しな話だけど、万魔殿よりも風紀委員の方が貴方にブチギレているわ。なんせモモトークでのあんな短文でのお別れだったのと、イブキを泣かせた事でそれはもうカンカン……」

「別に直ぐ治まるだろ。俺なんかが居なくともあいつ等は出来る奴等だ。時間が惜しい、行くぞ」

「………そうね」

 

 

 

サクタロウの一言により、ヒナが静かに動く。

もう何を言ってもダメなのだろう。少し、雰囲気が変わったと思えば、自分には何時もの無感情。

 

まだ、彼の心は凍ったまま。絶対零度が如く、人を寄せ付けない。

 

彼が歩く。隣にヒナ。

 

身長差がある二人。だが、その実力は互いに天井。

 

異様とも謂える構図。ヒナが話す。

 

 

 

「先に言っておくけど、出迎えは私だけよ。そうじゃなきゃ貴方が何をするか分からないから」

「そうか。聞くが、マリーにもそれは言えるんだろうな?」

「当然よ。でなければ、貴方がゲヘナを火の海にしかけないからね」

 

 

 

ヒナは睨みを利かせるが、右側に歩くサクタロウは残っている左目で見下ろしながら、最大限の重圧でヒナを逆に睨む。

 

 

 

「────仮に、マリーに身も心をも傷を負わそうとするのならば、火の海じゃ済まさん」

「ッ…!!」

「万魔殿も風紀委員会も、何もかも踏み潰してやる。再生不可能な程に、ゲヘナからその組織諸々を消してやる。これは……警告だッ」

 

 

 

感じた事のない怒気に、底の無い狂気。

 

それが、彼を彼たらしめる。決して圧倒的ではない、だが、只々────恐ろしい。

 

言うなれば……キヴォトスに於いて【最も敵に回してはいけない人間】と謂える。

 

それが、D.U.が生み、黒服が育て、ゲヘナが進化させた……狂人だった。

 

 

 

「……承知の上よ」

 

 

 

ヒナは、こう言うしかなかった。

悟った。これはハッタリではない。

未だ未知数の彼の戦闘能力。文字通り謎が多すぎる戦術故、ヒナですら攻略が難しいと判断する傑物。

 

────危険。だがそれ以上に……惜しい。

 

 

 

「……頼むぞ。俺とて無意味な戦闘はしたくない」

「……同意見。個人的に貴方とは戦いたくはないわ。色んな意味で、ね」

 

 

 

互いに歩いを進める。ヒナとサクタロウ……互いに最高峰の戦闘者。故に、分かり合えるモノがあった。

 

だが、同時に分かり合えないモノもあった。

風紀委員の正義。彼は、それそ失ってしまった。

下から無かったのか、それとも、自ら手放したのか。

分からない。分からない事だらけ。

サクタロウですら理解できないのに、ヒナが理解できる筈のない。

凍ってしまった心は……未だ、彼を蝕んでいる。

 

 

 

 

 

────だからこそ……マリー、そして先生……この二人が、鍵となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────少し、落ち着いたか?」

「っ……うんっ……ごめんなさい」

 

 

 

そして、時は流れ……今は万魔殿の休憩室、そこで、イブキとサクタロウの二人きりの時間ではあるのだが……どうやら、修羅場は一時落ち着きを取り戻した様子。

 

サクタロウがイブキを何とか宥め、それに呼応するようにイブキも気を落ち着かせる。

 

元々イブキは気を取り乱す様な幼子ではない。だが今回はサクタロウが急に居なくなってしまった事が原因で、しかも何日も連絡も無しだったのだ。

取り乱すなと云う方が無理な話だった。

 

 

 

「悪かったな。お前の気持ちを無碍にしていた、心配させてすまなかった」

「うぅん……イブキも、きらいって言って、ごめんなさい……ほ、本当はっ、嫌いじゃなくて…っ」

「別に気にしていない。言いたくない事を言うのは人としてのあるあるだ。お前は謝れた、ならそれで良い」

「………うん」

 

 

 

先ほどの言葉をイブキが謝る。サクタロウは気にしていないと良い、イブキの目元を拭う。

全く変わりない表情。これだ、同じ人間とは思えない雰囲気。

彼と話していて、彼と話していない。そんな……不思議で不気味な感覚に、イブキはいつも心がキュッとなる。

 

でも、大好き。大好きなのだ……一緒に居た時間は、イブキにとって大切な思い出。色んな戦地に着いて行って、色んな経験をして、彼の戦いを見て、彼の不器用な優しさを知った。

 

血は繋がって居ないが、お兄ちゃん的な存在だった。

 

 

 

 

 

 

「────ぐぬぬっ…!サクタロウめ、イブキと何を話して……!!」

「うるさいですマコト先輩。話が聞こえないではありませんか」

「ちょっと言い争いが聞こえたけど、平気よね?何だか心配だわ……」

「次イブキちゃんの泣き声が聞こえたら突撃しましょう!」

「そうさせない為に私が居るのよ」

 

 

 

此処は万魔殿の休憩室、その部屋の外。

外部から中の構造が見えない密閉されている部屋。故に出来るのは微かな音声を聞く事のみ。

 

そこには議長の『羽沼マコト』、議員の『棗イロハ』、諜報部員の『京極マコト』、書記の『元宮チアキ』、そして『空崎ヒナ』の5名が居た。

 

覗き聞き、盗聴、そう言えば良いのか、万魔殿のメンバーは休憩室で会話する二人の話を何とか聞こうとしていた。

 

ヒナは呆れながらも、ラインを超えない程度まで後ろで待機していた。

 

最初、サクタロウが万魔殿に来た時……ヒナとマコト以外の面々は明らかな怒気をサクタロウに(ヒナとマコトを盾に)放っていた。

 

しかもイブキと二人きりで話し合い何て……納得が出来る筈が無かった。

だが、そうも言っていられなかった。

 

 

『────悪い。30、いや、20分だけで良い。あいつと話し合いをしたい。それが済めば、もう良い』

 

 

この、妙に覇気のあった発言に、全員が面を喰らった。

 

あのサクタロウが、自分の意見を強く主張したのだ。

そう、あの……感情の無いロボットの様な男が、だ。

 

だから許可した。そして、今この現状がある。

 

 

 

「ほら、もう少し離れて。イブキとも約束したんでしょ?」

「ぐぎぃぃッッ……クソっ!」

 

 

 

そうして、マコト達は部屋のドアから離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────イブキ、最初に言わしてくれ……悪かった。お前を泣かせるつもりはなかった」

「う……うぅん!イブキね、気にしてないよ?イブキが、勝手に泣いちゃっただけだし……」

「だからこそだよ。お前よりも年上の俺が、確りとしなかったのが悪い。お前は優しいから、俺の為に泣いてくれたんだ。悪かったな」

「お、お兄ちゃん!もう謝らないで?お兄ちゃんは悪くないのに、そうやって謝られるの……なんか、いやだよ……」

 

 

 

イブキはスカートをギュっと掴み、何とか言葉を紡ぐ。

 

……ずっと、ずーっと。今、目の前に居る彼に会いたかった。

 

急に風紀委員会を辞めた。もう会わないと宣言された。裏切られたんだと思った。

 

感情が抑えきれなかった。一瞬、本当に嫌いになってしまった。

 

でも、やっぱり……会いたかった。会いたくて、会えて、嬉しかった。

 

 

 

「そうか……優しい子だな、イブキは」

「あっ……」

 

 

 

サクタロウがイブキの頭を撫でる。

 

初めて、彼が頭を撫でてくれた。

初めて、温かい顔をしてくれた。

 

 

 

「おにい…ちゃん……?」

「今まで、素っ気なくて悪かったな。冷たい態度で接して、悪かった。意図的にお前を遠ざけてた、そうすればお前は……俺の傍から離れると思ったから」

「っ!……い、イブキっ……お兄ちゃんと、離ればなれには、なりたくなくって…っ!」

「あぁ……そうだな。すまん、俺もそうだった。いや……そうなったのかもしれない。俺もイブキと会えなくなるのが、怖くなった」

 

 

 

”ぎゅっ……”

 

 

 

サクタロウがイブキを胸元に抱き入れる。

イブキにとって、色んな初めてが更新。

 

 

 

「あっ……あえ?」

「(ダメだな……本当に俺は………イブキには、マリーと同じくらい……怖がられたくないって、思ってる────でも、言わなきゃ)」

 

 

 

床に尻餅を着いて、イブキを抱きしめるサクタロウ。

イブキは唐突なサクタロウの抱擁に、理解が追い付かない。

 

だが、サクタロウは続ける。

 

 

 

「イブキ……お前に、見せたいモノが有る」

「見せたい、もの?」

「あぁ、誰にも言ってほしくない俺の秘密……お前に知ってほしい事だ。俺がお前から離れると云った、その理由を…な」

 

 

 

そう言うと、イブキは意を決した様なめつきで、サクタロウを見る。

 

 

 

「うん!聞く!お兄ちゃん、イブキに……お兄ちゃんのこと、話して!」

「……あぁ」

 

 

 

きっと怖がる。恐ろしく思うだろう。

人智から外れた、己の秘密。

人間とは言えない、己の構造。

 

イブキなら大丈夫?

 

分かってる。イブキもマリーもそういう子だ。

だからこそ、巻き込みたくない。そう思うのに、恐怖心を抱くのは駄目な事なのか。

 

……己と違い、マリーもイブキも、普通の人間だ。心優しい女の子達だ。

 

 

 

「俺はな、イブキ………俺は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

────不死身の肉体を持つ、生命体なんだ。

 

 

 

 

 

 

「────ふじみ…?」

 

 

 

イブキは目を点とさせる。

想像だにしなかった言葉。理解が、追い付かないでいた。

 

 

 

「そうだ。直ぐには理解も気持ちも追い付かない筈だ。だから……お前には、見せる」

 

 

 

そう言って、サクタロウがイブキの下から離れ、赫色のコンバットナイフを取り出す。

 

それは謂いようの無い雰囲気を放つナイフ。長い年月を共に過ごし、様々な盤面を引っ繰り返してきた彼の一つの愛用品だ。

 

イブキもそのナイフを知っている。何度も見てきた。彼の傍で、あらゆる場所で、彼の活躍を、そのナイフを用いてたのを見てきた。

 

 

 

”チャキッ……”

 

 

 

サクタロウが右腕に持つナイフを左腕の肘関節部分に刃を突き立てる。

 

イブキは動揺を隠せないでいた。いきなりで、危ないと思って、直ぐにサクタロウの方へ向かおうとする。

 

 

 

「ま、まってお兄ちゃん!なにをして…っ!」

「動くな、イブキ……良い子だから」

「っ!!」

 

 

 

サクタロウが圧を掛けて、制止させる。

 

その言葉を、その意味を、イブキは理解出来ない。

何で、そんな事をしようとするのか。分からない。

 

でも────その数秒後の、出来ごとに……。

 

 

 

「イブキ、俺の左腕をよく見ていろ────瞬きも無しだ」

「え、お、お兄ちゃんっ!?危ないよ!?腕が切れちゃ────」

 

 

 

”ブチュッ………ザシュンッッッ!!!”

 

 

 

「────え」

 

 

 

ビチャッ……と、血飛沫が切断された左腕から飛び出る。

 

イブキの服に付着する、その赤い鮮血は、滑らかでドロッとしていた。

 

 

 

「あ……え?あ……ひっ…!」

「ふぅぅ、ふんッ」

 

 

 

”ぐちゅぐちゅ…!”

 

 

 

だが、イブキは刮目する。

 

 

 

「────うで……なおっ…て……?」

「分かったろ、イブキ。俺は……そういう生物だ」

 

 

 

気付けば、左腕が治っていた。

ゲヘナの制服の上からだったから、生身の左腕が露出する。

 

────まるで、バケモノだ。

 

 

 

「どうだイブキ。今のお前に、俺はどう映る」

「う、あっ……」

「風紀委員として活動していた人間か?お前が慕ってくれたお兄ちゃんか?それとも……不死身の肉体を持つ、怪物か?」

「あ、なんで……うで…っ────うぁ…っ」

 

 

 

”パタッ……”

 

 

 

「イブキ……」

 

 

 

イブキが横向きに倒れる。

 

それは、そうだ。

脳の処理が追い付かない筈だ。だって、いきなり会いに来てくれて、いきなり腕を斬られて、再生した。

 

もう、普通ではない。マトモではない。

 

それも、まだ11歳の幼子が刮目するには、刺激が早過ぎるモノ。

 

サクタロウが倒れたイブキを抱きかかえる。

優しく、愛でる様に、そっと抱きしめる。

 

 

 

「ごめんな、イブキ」

 

 

 

そう発語しても、帰って来る言葉は……なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”ガチャッ────”

 

 

 

「ッ!やっと出て来────っ!!イブキ!」

「イブキ……!」

 

 

 

30分が過ぎ、定刻の時間が過ぎて皆々がソワソワし始めた頃……休憩室のドアが開く。

出て来たのは────イブキを抱っこする、サクタロウだった。

 

一気に視線が彼に向き、緊張した状態に成る。

 

 

 

「騒ぐな、寝ているだけだ」

「っ……イブキ」

 

 

 

イロハがイブキをサクタロウと入れ替えるように抱っこする。

 

可愛い寝顔……とは少し違う。可愛いのは変わりないのだが、どこか苦しそうに眠っている。

 

 

 

「言いたい事は言った。その直後にショックで寝てしまっただけだ、起きたらメンタルケアをしてやれ」

 

 

 

その一言は、万魔殿の面々に────激情を露にさせるには、十分な材料だった。

 

 

 

「貴様ッッ……イブキに何を────」

「ねぇ」

 

 

 

マコトがサクタロウに掴みかからんとしようとするも、先にヒナが前に出て、圧を掛けながらサクタロウに言を投げる。

 

 

 

「その左腕はなに?随分と奇麗に切れているけど」

「さぁな」

「また……だんまりするつもり?」

「最初に言った筈だ。これは俺とイブキの問題だと、お前等は関係ない────…だが、そうだな」

 

 

 

サクタロウはくるりと後ろを向き、万魔殿とヒナに身体を向ける。

 

瞬間、全員が驚愕の表情を作る。

 

 

 

「────話したくとも、話せないんだ。俺に深く関わってしまった者でしか、俺の所為で要らぬ心配を抱えてしまった者でしか……話す事が、出来ないんだ」

「うそ……」

「サクタロウ、お前……」

「……本当に、サクタロウさんですか?」

「サク君…?」

 

 

 

サクタロウが、何処か……寂しい顔立ちをしていた。

 

あの、能面を極めた彼が、表情を作っている。

悲しくて、辛そうで、寂しい……そんな表情。

 

それは万魔殿の全員が、ヒナが……その変化に、心が締め付けられる感覚に成る。

 

 

 

「あんた等には迷惑ばっか掛けたと思う。凄く良くして貰って、万魔殿に誘ってもくれて、飽きる事のない日々を送れた。上手く言えないが、嬉しかった。ありがとう」

「サクタロウ……貴方」

「空崎」

「ッ……なに?」

「これを、お前に託す」

 

 

 

サクタロウが懐から一つの封筒を取り出す。

それを、ヒナに差し出す。

 

 

 

「これは?」

「イブキ宛の手紙だ。起きて、気を落ち着かせた後に、ソレをイブキに渡してほしい」

「……これも、この子が一人の時に?」

「そうだな。そうしてほしい……良いか?」

「いいわ、構わない」

「おい、何で私じゃないんだ!普通私だろ!」

「どうせ勝手に読むんだ、意味が無い」

「私がそんな事する奴に見えるか!?」

「「見える」」

 

 

 

ヒナとサクタロウが被せて発語する。マコトはキレた。

 

そんな中、イロハがサクタロウに近付く。

 

 

 

「……サクタロウさん」

「なんだ」

「貴方が秘密主義なのは今に始まった事ではありません。何もかもが謎、その戦闘方法も、その痛々しい瞳の傷跡も、その生気のない死んだ顔立ちも何もかも………貴方は聞いても何処吹く風で、一切を教えてはくれなかった」

「……」

「でも、そんな事はどうでもいいんです。私としてはイブキが貴方と接して、それがイブキにとって楽しみの一つになっていたのであれば、貴方の秘密なんて私にはどうでもよかった」

 

 

 

イロハの表情はけだるげなモノではなく、緊張感を思わせる表情で。

 

その珍しい様子から、サクタロウを除く全員が息を呑む。

 

 

 

「そんな秘密主義で、素直じゃない貴方にも色々と事情があるのは理解しています。ですが………どんな理由があろうと、イブキを泣かせた事実は変わりません」

「だから、なんだ?」

「……イブキの目が覚めて、貴方を拒絶したら。もう会わないと約束して下さい」

「あぁ、約束する」

「っ……本当に人と話してる感じがしませんね。どうしてイブキは貴方のような男性を慕っていたのか……」

「コッチが聞きたい。だがまぁ、悪い気はしなかったよ。イブキと一緒に居た時間はな」

 

 

 

サクタロウはもう一度歩みを進める。

イロハは止める気になれなかった。止めても、無駄だからだ。

 

それはマコトも、サツキも、チアキもそうだ。

ここまでしても、彼は何も話さない。話してくれない。

 

────全て、イブキが知っている。

 

イブキが起きて、話すよう促すか?それでイブキは話すのか?イブキに懇願して、話したがらなければどうする?イブキは約束を守る女の子だ、きっと離さない。用意周到な彼の事だ、きっとイブキにも口止めをしている。そうなれば脅しもあるが、相手は幼子のイブキ。絶対にない誘方だ。ありえない。

 

どう考えても無理だ。でも、此処でサクタロウに直接聞いても何も出ない。

 

戦闘で聞き出す?もっとダメだ。エデン条約も控えているのにこんな所でゲヘナの頂点戦闘者とゲヘナ最狂のジョーカーが争えば最悪だ。

 

 

 

”ガチャ……”

 

 

 

気付けば、サクタロウがドアに手を掛けている。

 

結局、何も成果は得られなかった。

 

 

 

「あぁ、最後に一つ」

 

 

 

ドアを半開きにさせて、サクタロウが後ろを振り返って、告げる。

 

 

 

「────■■■■■■■■■■■■■、イブキ」

”「────え」”

「イブキの心が落ち着いたら、そう伝えてやってくれ。じゃあな」

「あ、ちょっ……」

 

 

 

”バタン……”

 

 

 

最後にそう言って、サクタロウは去って行った。

無音が張りつめる執務室。

彼の言葉、聞き逃さなかったが……余りにも、衝撃だった。

 

 

 

「……伝えろって、えぇ?」

「ま、マコトちゃん……どう思う?」

「どう、か……まぁ、うん」

「イブキにこんな事……」

 

 

 

万魔殿の面々が小難しい顔をする中……ヒナが、呆れた表情で告げる。

 

 

 

「────イブキ、愈々サクタロウを【監禁】しちゃうんじゃないかしら……」

 

 

 

あのイブキがそんな事をする程の発言。

 

それは一体、何なのか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆────ゲヘナ郊外区域……廃墟街。

 

 

 

 

 

「……ふぅ、此処まで来れば大丈夫だろう」

 

 

 

万魔殿の執務室を出てっきり、周囲の視線がザクザクと俺の背中に突き刺さっていた。

恐らく万魔殿の親衛隊と、風紀委員だろう。

 

ヒナと裏ルートで万魔殿に侵入したが、流石に本部に居たから存在がバレたらしい。

 

途中から追跡部隊が俺を追いかけていたが……まぁ、何とか振り撒いた。

 

 

 

「(此処から後数分もしない内に俺の家……さっさと帰ろう、マリーにも話した事を伝え────ん?)」

「────…?……?」

「…!………、…っ!」

 

 

 

路地裏を使い、ス~っと移動しながら前に進むと……俺のアパート付近で見かけない二人組を発見した。

 

一人は……いや、待て。あれは『ユメさん』では?何でこんな所に……まさか、俺に会いに?

いや、先ずは状況を整理だ。もう一人は………おい、まさか────

 

 

 

「────へ~此処がサクタロウ君のお家なんだー!」

「らしいけど……しくったなぁ、部屋が分かんないや」

「え?じゃあどうすれば!?」

「うーん……片っ端からインターホン鳴らし作戦で良く?なーんt」

「先生……それ良いですね!為せば成るってやつです!よーし!やっていきましょう!」

「あ、待ってユメうそうそうそ!!冗談!冗談だから!あーちょっと待って!」

 

 

 

……痛覚が無いのに、何だか頭が痛くなりそうな感じだ。

 

まさか、明日会いに行く予定だった人物。

 

────シャーレの先生が、逆に会いに来てくれたとは。

 

……しかも、少し交流のある『梔子ユメ』と共に……なんて。

 

 

 

 







名前:梔子ユメ

年齢:19、20??

経緯:アビドス高等学校卒業

所属先:シャーレ

補足:アビドスを卒業後、借金返済の為一度『連邦生徒会』で職員として活動。そのまま1年の月日を得て、先生がシャーレの顧問としてキヴォトスに来て、連邦生徒会長代理の『七神リン』が先生の『補佐』としてユメをシャーレに派遣。

何故生きているのか……それは、サクタロウが【カイザー】の傭兵だった時代に、アビドスに赴いていた時に偶然干からびていたユメを発見。

何とか対処し、そのまま病院へ。一命を取り留めたユメはサクタロウに感謝し、そこからアビドスとの交流が始まる。





因みにユメはサクタロウの事を『恋愛対象としては見ていない』です。
弟の様な形で接しています。

……先生とは、何だか…?

ユメ先輩の年齢マジでどないしよ。2年前って考えたら、卒業したら普通は18歳。つまり、2年たっているのなら20でも可笑しくはない……でも19の可能性もある。

少し話しを進めたら【ユメ先輩×先生】のアレやコレ書きたいですわ~!(唐突な路線変更)


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