ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
地鳴りのような咆哮が、9階層の通路を震わせた。
ミノタウロスが拳を振り下ろし、
砕けた地面の破片がベルに降りかかる。
「くっ……!」
ベルは転がるように回避し、膝をつきながら体勢を立て直す。
リリルカは背後からボウガンで支援を行うが、巨体にはほとんど通らない。
「ベル様! 来ます!」
ミノタウロスの豪腕が横薙ぎに振り抜かれ――
その衝撃を、横から吹き飛ばす影があった。
ミネだ。
ミノタウロスの拳を流すように弾き、
軽やかな身のこなしでベルの前に着地する。
「二人とも大丈夫ですか?」
ベルは息を荒げ、ミネを見上げる。
「ミネさん……!」
リリルカも同じく安堵の声を漏らすが――
ミネは彼らを守るように立ったまま、一歩も前へ出なかった。
その場で目を閉じる。
脳裏に甦るのは――
先日のオッタル*1の言葉。
『いつまでそうやって甘やかす、いつまでそうやって守り続ける?』
静かな声で、ミネは自問するように呟いた。
(私は……本当にベルさんのためになっているのでしょうか)
そして目を開き、真正面からベルを見る。
「ベルさん」
その声音には、揺るぎない意志が宿っていた。
「お聞きします。
――助けが必要ですか?」
ベルは言葉を失った。
目の前ではミノタウロスが唸りを上げ、足音を響かせて迫っている。
すぐにでも再び襲いかかってくる。
だがミネは動かない。
守れる距離に立ちながら、それでも敢えて一歩も踏み込まない。
ベルの意思を問うために。
リリルカが息を呑んだ。
「ベル様……!」
ベルは――震えながら、自分の胸に問いかける。
(怖い……でも……
僕は……僕は……)
そして顔を上げ、叫んだ。
「……いいえ!必要ありません!!」
ミネの瞳がわずかに見開かれる。
「レベル1の僕がミノタウロスを倒せるなんて自惚れるつもりはありません。
それでも僕は……逃げたくない!そんな姿を貴女にだけは見せたくない!
だからミネさん……どうか…」
ー僕を助けないでください。
震えた声。
だが確かな決意。
ミネは静かに目を伏せ、そして微笑む。
「……分かりました」
ミノタウロスが地面を踏み砕きながら前進するたび、
空気が震え、ベルの体に圧迫感がのしかかる。
「リリルカさんは私の後ろに。これはベルさんの戦いです」
静かな声だった。
しかし拒絶ではなく、
“ベルを信じるための線引き”でもあった。
リリルカは唇を噛む。
「……そ、そんな⁉ リリだってなりたてとはいえレベル2です!ベル様と一緒に戦います……!」
ミネは首を横に振った。だがその瞳は優しかった。
「いいえ。リリルカさんがベルさんを心配する気持ちは分かります。
……ですが、ベルさんが“自分で立つ”と決めた以上、
私はその意志を尊重します」
わずかに震えた声を押し殺し、彼女は続ける。
「レベル差は確かに絶望的です。
ですが――ベルさんは、ただのレベル1ではありません」
その言葉に、ベルが息を呑む。
「ベルさんは、自分で“立ちたい”と言った。
それは誰かに守られるだけの冒険者ではなく、
一歩を踏み出す覚悟を示した」
ミネは二人の背後からミノタウロスを見据えた。
巨体が息を荒げ、怒りに肩を上下させている。
その圧力は、リリルカでさえ足がすくむほどだ。
だがベルは、もう一度ナイフを握りしめた。
ミネは深く息を吸い、そして告げる。
「――ベルさん。私は貴方を信じます」
―だから勝ちなさい。
リリルカは唇を噛みしめ、涙をこぼしながらもミネの後ろへと下がっていった。
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ミノタウロスが唸りを上げ、再び剣を振り上げる。
ベルはナイフを握り直し、足を踏みしめた。
恐怖ではなく、決意が彼を貫いていた。
「……行くぞ!」
その背後で、ミネとリリルカは息を潜め、ベルを見守る。
手を出せば助けられる距離だが、二人は敢えて静止する。
ベルの覚悟を信じ、見守ることこそが今できる支援だった。
ミノタウロスの攻撃は圧倒的だ。
だがベルはその一撃一撃を回避し、跳ね返すように斬撃を返す。
巨体と小さな体。力の差は明白だ。
だがベルの動きには迷いも恐怖もなく、ただ前へ進む意志が宿っていた。
ミノタウロスの咆哮が通路に響き渡る。
地面が揺れ、石片が飛ぶ。
それでもベルは一歩も引かず、刃を振り抜く。
二人は目を見開き、息を呑む。
ベルの一撃一撃は、少しずつだが確実に、巨体を追い詰めていった。
そして――
「ファイアボルト!」
ベルの手から赤い閃光が飛び出し、ミノタウロスの肩を直撃した。
炎が瞬間的に弾け、巨体に小さな痛みの波を走らせる。
だが、ミノタウロスの怒りは増すばかりで、体勢を崩すことはない。
その迫力に、ミネもリリルカも息を呑む。
ミネは目を細め、背後で静かに指先を絡めるようにして見守る。
リリルカも同じく、震える手を握りしめながら、ただ息を潜める。
手を出せば助けられる距離だが、二人の意思は揺るがない。
――今はベル自身が戦うべき時。
ミノタウロスの巨剣が再び振り下ろされる。
ベルは瞬時に後方へ跳ね、地面に着地しながら斬撃を返す。
火と金属がぶつかる音が通路に響き、砂塵が舞う。
小さなナイフの一撃が、巨体の皮膚に僅かな傷を刻む。
ミネは眉をひそめながらも、背後から力強くベルを見つめる。
リリルカも目を潤ませながら、ベルの一挙手一投足を見逃さない。
小さな体が跳躍し、ミノタウロスの横腹へ斬撃を叩き込む。
巨体がよろめき、地鳴りのような唸り声が通路に響いた。
だがベルはひるまず、冷静に距離を測る。
「ファイアボルト!」
炎が迸りミノタウロスの肩から胸にかけて大きな火柱となって炸裂した。
熱風に巨体がよろめき、砂塵が舞う。
ミネとリリルカは互いに小さく息を呑む。
その視線の先で、ベルは一瞬も迷わず前へ踏み出していた。
ナイフがミノタウロスの胸板を貫く。
だが倒れない。
ミノタウロスはナイフを胸に刺して無防備になったベルに手に持った巨剣を振り上げ…
「…ファイアボルト!」
魔法がナイフを通じてミノタウロスの内部を焼く。だがまだ足りない。
「ファイアボルトォオ!」
炎の奔流がミノタウロスの胸板を叩き、焼け焦げる肉の臭いが通路に漂う。 まだ、足りない。
「ファイアボルトオオオォォオ!!!!」
手にした純白のナイフが赤く輝き光り、炎の奔流は通路を焦がすように炸裂した。
轟音と共に砂塵が舞い上がり、通路は一瞬の静寂に包まれた。
ミノタウロスは、完全に消え去った――巨大な影はもうそこにはない。
熱と焦げた臭いが立ち込め、赤く焼けた跡だけが通路に残されていた。
ベルは…動かなかった。
魔法を使いすぎたことによる精神力枯渇で意識を失っていた。
ゆっくりとベルの体が傾き…ミネによって抱き留められた。
「……ベルさん、確かに見届けさせていただきました」
ミネはその小さな体を抱きかかえたまま、落ち着いた手つきでベルを膝に寝かせる。
焦げた臭いと砂塵の中で、彼女の瞳は静かに輝いていた。
声はかすかに震えながらも、確かな優しさに満ちていた。
リリルカもそっと近づき、目を潤ませながらベルを見守る。
ミネはベルの白い髪を指先でそっと撫で、軽く額に触れる。
「確かに私は過保護すぎた*2のかもしれません。今日、ここに来なければ私はきっと貴方を守り続けたでしょう」
その手のひらから伝わる温もりが、気を失ったベルの心を、確かに溶かしていく。
「……でも、ベルさん。今日、貴方が自分で立ち向かう姿を見せてくれたことで、私は知りました」
ミネはゆっくりと息を吐き、ベルの額に額を軽く寄せる。
その瞳には揺るぎない信頼と、温かい誇りが宿っていた。
「どんなに恐ろしくても、どんなに無理に思えても……自分の意志で立ち上がる貴方を、私は信じましょう」
リリルカもそっとベルの肩に手を添え、微かな笑みを浮かべた。
涙を拭いながら、二人は言葉なく、ただベルのそばで見守る。
通路には戦いの痕跡だけが残る。
しかし三人の間に漂うのは、安堵と信頼、そして確かな絆の温もりだった。
ミネは小さく息を吸い込み、ベルの髪を優しく撫でながら囁く。
「……今日のこと、私は決して忘れません。そして、貴方も、忘れないでくださいね、ベルさん」
ミネの手の温もりに包まれ、深い安堵と共にベルは眠り続けた。
リリルカも静かに膝をつき、二人を守るように見守り続ける。
戦いの後の静かな時間――そこには、勝利以上の尊いものが、確かに息づいていた。
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ベル・クラネル
Lv.1最終ステイタス
力:SSS1172
耐久:SSS1378*3
器用:SSS1205
俊敏:SSS1532
魔力:SS1067
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「ではリリルカさんはベルさんを運んでください」
ミネはゆっくりと立ち上がり、ベルを背負ったリリルカを見やる。
「いや、あの…ミネ様……それは?」
リリルカはミネが片手で掴んでいる猪人――オッタル*4――に目を向けた。
「意識を失っているだけなので安心してください。早く地上に戻りましょう。少し、フレイヤ様にお話しなければならないことがあります」
リリルカの脳裏に、かつて自分のファミリアに起きた惨劇がよぎった。
考えることは放棄した。
リリルカにできるのはただ一つ――美の女神の無事を祈ることだけだった。
ミネはオッタルを軽々と抱え上げ、リリルカとともに地上への道を進む。
通路の戦いの爪痕を越え、砂塵と熱気を後にし、三人は静かに安全な地上へと向かった。
やめて!ミネのステイタスでオッタルを薙ぎ払われたら、神の鏡で覗き見してるフレイヤの部屋までミネが救護しに来ちゃう!
お願い、死なないでオッタル!
あんたが今ここで倒れたら、アレンやヘイズとの約束はどうなっちゃうの?
時間はまだ残ってる。ここを耐えれば、ミネに勝てるんだから!
次回「フレイヤ死す」救護スタンバイ!
このSSのフレイヤ様は…
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普通のフレイヤ様
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アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様