ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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連続更新2話目です。


ロキ・ファミリア

オラリオでも最大の派閥であるロキ・ファミリアは、ダンジョンの四十八階層を進んでいた。

最初に異変に気づいたのは、感覚に優れた狼人――ベート・ローガである。

 

「……おい、フィン。先客がいやがるぜ」

 

足を止めたベートの口調には、警戒と興味が入り混じっていた。

深層特有の重苦しい静寂が通路を支配する中、その奥底で確かに“誰か”の気配が微かに揺れている。

 

この先の四十九階層――別名《大荒野》。

大量のモンスターが跋扈し、階層主バロールが鎮座する巨大な広間だ。

この階層に辿り着けるファミリアはそもそも限られている。遠征を実施できる規模を持つ派閥は多くなく、その候補となるどのファミリアにも、最近遠征の予定があったという話は聞こえてこない。

 

フィンは眉間に深い皺を寄せ、静かに思考を巡らせた。

だが――確かに“何者か”が先に四十九階層へ入った。その事実だけは、否応なく彼の警戒心を強める。

 

「……全員、警戒を」

 

フィンは短く命じた。

 

この先で何が起こっている?

誰が、この深層で戦っている?

 

その答えを求めるように、ロキ・ファミリアは四十九階層へと足を踏み入れた。

 

――猛者オッタルが吠えていた。

 

深層の岩壁そのものを震わせるような、獣の咆哮。

それはただの雄叫びではない。王の気迫を宿した、圧倒的な威圧だった。

 

だが――その咆哮を受けて応じ返す気配が、さらに異質だった。

 

空気がねじれ、魔力が荒れ狂い、まるで階層全体が一つの怪物となって怒り狂っているかのような圧力。

 

階層主――黒き竜バロール。

 

四十九階層《大荒野》の主たる竜の咆哮が、轟雷のように響き渡る。

 

「……オッタルだと!?」

リヴェリアが静かに息を呑む。

 

「なんであの猪野郎がここで暴れてやがんだよ……!」

ベートが毒づくが、その目は獣そのものの色で研ぎ澄まされている。

 

――二つの怪物が激突している。

 

それも、片方は人であるはずのオッタル。だが、彼の気迫は階層主と拮抗していた。むしろ、互角以上にすら感じられる。

 

(何故、オッタルがここに? そもそも僕たちが出発した時は地上にいたはずだ)

 

指揮官としての思考が高速で巡る。

だが、理由を推測するより早く――轟音が押し寄せた。

 

轟音は、ただの爆発音ではない。

岩盤が悲鳴を上げ、空間そのものが揺れ動き、立っているだけで足がふらつくほどの衝撃。

 

「っ……これは……!」

リヴェリアが思わず腕で顔を庇う。

 

視界を灼く光。

耳を裂く咆哮。

そして、渦巻く暴風。

 

――そこは、まさしく“戦場”だった。

 

大荒野の中央、黒き竜バロールが天を覆う巨体をうねらせる。

その前で、孤独なる猛者――オッタルが、獣のように吠えながら突撃していた。

 

人ではなく“神話の獣”がそこにいるかのようだった。

 

オッタルが地を蹴る――その一歩で地面が陥没する。

黒き竜バロールが咆哮し、振り下ろされた巨大な尾が竜巻を巻き起こした。

 

「……嘘、でしょう……」

ティオネが震える息で呟く。

 

人間が、階層主と正面からぶつかり合っている。

それも一対一で。常識ではあり得ない光景だった。

 

だが、事実として目の前の戦場では――

 

オッタルが、階層主を押している。

 

「ありえねぇ……」

ベートが唸る。

普段の嘲笑混じりの声音ではない。純粋な“畏怖”だった。

 

(何だ……何がオッタルをここまで変えた……?)

 

フィンの脳裏を凄まじい量の疑問が駆け巡る。

だが、それ以上に視線を奪われたものがあった。

 

――オッタルの目。

 

そこには理性があった。

だが、その奥に宿るのは一つの感情。

 

執念。

 

まるで獲物を決して逃がさぬ獣のような瞳で、オッタルは階層主に食らいついている。

 

都市最強の冒険者が冒険をしている。

 

その光景にロキ・ファミリアの全員が目を奪われていた。

 

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黒き巨竜バロールの断末魔が大荒野に木霊し、巨体がゆっくりと崩れ落ちる。

地鳴りのような衝撃とともに、竜の身体はひび割れ、黒い燐光を散らしながら砂のように崩れていき――その中心に、巨大な魔石だけが残った。

 

静寂。

 

ただし、それは安堵の静けさではなく、

圧倒的な非現実を前に、声を奪われた沈黙だった。

 

煙の中から、ゆっくりと一歩――

オッタルが姿を現した。

 

肩で息をしている。

だが、その呼吸は荒れていない。むしろ静かで、規則的だった。

 

まるで、今の戦いすら“日常の鍛錬”であるかのように。

 

「……馬鹿な」

誰かが小さく零した。

それが誰の声だったのかもわからないほど、全員が呆然としていた。

 

都市最強の冒険者が、たった一人で深層の階層主バロールを討ち取った。

それは記録としても常識としても存在しない所業だった。

 

「オッタル……」

リヴェリアが震える声で呟く。

 

その視線がとらえたのは、砂煙の向こうでゆっくり顔を上げる猛者の瞳。

 

――静かだった。

怒りも、興奮も、歓喜もない。

ただ果たすべき目的を遂げ、その結果を確認しただけのような瞳。

 

「…フィンか。そういえば遠征中だったな」

 

その声に、フィンは咄嗟に前に出る仲間たちを制した。

深層の静寂に、確かな威圧が静かに響き渡る。

 

「……見事だったよ、オッタル」

フィンはオッタルの戦いを賞賛する。

しかし、オッタルの表情は変わらない。

 

その時、コツッと足音が響いた。

 

"ソレ"を見た瞬間、フィンは己の指がかつてない程の警告を発しているのを感じ取った。

 

――アレはヤバい。

 

そこにはローブを深くかぶり静かに佇んでいる女性の冒険者がいた。

まず目についたのはその躯体とは不釣り合いな巨大な盾だ。

身体的特徴からヒューマンかエルフ……あんな盾を使っているのだからヒューマンだろう。

 

「なんだいオッタル、君も隅に置けないじゃないか。特定の相手がいるなんて初めて知ったよ」

 

もちろんフィンもそんな関係でないことはわかっている。

少しでも揺さぶりをかけて情報を得たいだけの牽制だ。

 

「…彼女とはそういった関係ではない」

 

オッタルは淡々と答えるが、フィンの追撃は止まらない。

 

「おや、そうなのかい?できれば紹介してくれると嬉しいんだけど」

 

オッタルは肩越しに女性を一瞥した。

彼女は微動だにせず、ただ静かに立っている。

その姿勢は、深層においてさえ揺るがぬ強固さを示していた。

 

「……彼女に関して詮索はするな」

 

オッタルの声は低く、しかし鋭く響いた。

言葉に含まれるのは、断固たる意思。

女性冒険者は微動もせず、深くフードを被ったまま立ち続ける。

 

「………」

 

女性冒険者の視線は、揺れることなくこちら――ロキ・ファミリアの隊列――を捉えていた。

フードの影に隠れた瞳には、警戒でも好奇でもない、まるで“観察”しているような視線がこちらを捉えている。

 

フィンはその視線に、一瞬背筋が凍るような感覚を覚えた。

ただ見られているだけなのに、なぜか全員の呼吸が重く、場の空気まで引き締まるようだった。

普通の人間なら、彼女の存在そのものが圧迫感となって身体にのしかかる――そんな畏怖を感じさせる何かがあった。

 

女性冒険者は、静かにオッタルの耳元に顔を寄せ、耳打ちをする。

 

「…何?」

 

オッタルの眉間にわずかな皺が寄る。

耳打ちの内容は、外からは聞こえない。

 

「……わかった」

 

オッタルは改めてフィンに向き直り、驚愕の言葉を発した。

 

「彼女からの提案だ。お前たちが良いなら、ここから先に俺たちも同行しよう」

 

その言葉が場に落ちた瞬間、ロキ・ファミリアの全員が一斉に視線を向ける。

 

「……は?」

ベートが思わず声を漏らす。眉が跳ね上がり、驚きと困惑が入り混じった表情を浮かべる。

 

「……つまり、この遠征に、お前と彼女も加わる、と?」

リヴェリアが声を震わせながら確認する。

 

オッタルは肩越しに静かに女性冒険者を一瞥する。

彼女は微動もせず、深いフードに隠れた瞳だけが冷静に隊列を、いや、誰かを見つめている。

 

フィンは考える。

この提案は実に魅力的だ。

オッタルを加えることが出来る、それだけでどれほどこの遠征の安全性を引き上げられるか。

 

フィンは短く息をつき、頭の中で冷静に状況を整理した。

 

(……だが、あの女性も加わる……か。正体を隠している以上、安易に同席させていい相手じゃない)

 

しばらく考えたが、結論は早く出た。

理性と現実のバランスを取るなら、拒む理由はほとんどなかった。

 

正体不明とはいえ、オッタルと同行しているなら最低限の信頼はできる。

さらに、この遠征の性質上、力が強力な者を増やすことは明らかに利点であった。

 

フィンは軽く息をつき、決断を言葉にした。

 

「それはありがたいね。是非ともお願いするよ」

 

その言葉に、オッタルは軽く頷いた。

女性冒険者も微動だにせず、ただ静かに立ち続けている。

 

ロキ・ファミリアの隊列は、再び足並みを整え、四十九階層を超え、さらに深部へと進み始めた。

砂煙がまだ漂う戦場を踏みしめながら、各々が緊張と期待を胸に抱く。

 

オッタルは相変わらず淡々とした表情で先導し、女性冒険者はその隣に寄り添うように歩いている。

その圧倒的な存在感に、隊列の誰もが自然と距離を置き、目を離すことはできなかった。

 

砂煙の向こう、階層主バロールの残滓が、まるで次なる試練を予告するかのように静かに揺れている。

そして――遠征は、さらに深層の未知なる危険へと歩みを進めるのだった。




ロキ・ファミリアにはベル君が焼き入れる代わりにオッタルに焼きを入れてもらいました。

フレイヤ様が命拾いした後、オッタルは鍛えなおすため深層アタック。
その際にミネに同行を頼みました。
フレイヤもこれを許可したため二人での深層到達RTAが開催。
オッタルとミネが組むと一日程で四十九階層まで到達できます。
ミネが障壁を張って回復魔法でスタミナと空腹を全開状態にしたオッタルがRTAでもしてるのかというほどに全力疾走で駆け抜けて来てます。
このときミネは強化種を生まないためオッタルが轢き殺したモンスターの魔石を全て砕きながらついてきてます。

なおアルバイトの範疇なので日給は相変わらず1000ヴァリス。
オッタルは今回の件で満たす煤者達から滅茶苦茶顰蹙を買ってます。

このSSのフレイヤ様は…

  • 普通のフレイヤ様
  • アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様
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