ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
ダンジョンの五十二階層。
地響きと炎の咆哮が絶え間なく響く中、ロキ・ファミリアの隊列は崩れぬよう必死に前進を続けていた。五十八階層から放たれる砲竜の狙撃――床を突き破る火炎砲は、まさしく遠距離からの“虐殺”だった。
立ち止まれば焼かれるだけ。
敵を討つには、一刻も早く射線の根元へ辿り着くしかない。
「警戒を怠るな! 砲撃のタイミングを読むんだ!」
「急げ! 止まるな、下層に潜るぞ!!」
怒号と指示が飛び交う中、地面が赤熱し、再び火柱が吹き上がる。隊列は横へ散開し、熱風で身体を吹き飛ばされそうになりながらも、必死に進み続けていた。
その刹那――。
「ラウル、避けろ!!」
ガレスの怒号が響く。だが、言葉が届くよりも早く、頭上から影が走った。
ギチギチギチッ……!
巨大な節足を持つ蜘蛛型モンスター――デフォルメス・スパイダー。その腹部から粘つく光沢の糸が走った。
「――ッ!!」
粘つく白糸が閃光のように空気を裂き――。
「ラウルさん!」
レフィーヤの叫びと同時に、彼女の細い体がラウルを強く突き飛ばす。
バシュッ!!
直後、糸は寸分違わずレフィーヤの腕を絡め取った。
「きゃっ――!?」
軽い身体は宙へと引き上げられ、糸の引力に逆らえず天井方向へずるずると引き寄せられていく。
「レフィーヤ!!」
ラウルが蒼白になる。
彼女を狙うデフォルメス・スパイダーは、複眼をギラつかせながら天井からぶら下がり、レフィーヤを獲物として引き寄せようとしていた。
その刹那――
――ゴウッ!!
紅蓮の奔流が天井を貫いた。
「なっ――!?」
五十八階層から伸びる砲竜の火炎砲が、まるでタイミングを計ったかのようにデフォルメス・スパイダーを直撃した。
スパイダーの全身が灼かれ崩れ落ちていく。
レフィーヤを捕えていた糸も、熱に焼き切られて一瞬で粉々に弾け散った。
「あっ……!」
自由になったレフィーヤの身体は、しかし空中で止まらない。
砲撃の余波で床が吹き飛び、ぽっかりと開いた巨大な穴へ――。
「レフィーヤ!!」
レフィーヤの細い身体は――奈落へと吸い込まれていった。
その光景を見て誰よりも早く、誰よりも迷いなく、暗い奈落へ飛び込んだ者がいた。
巨大な盾を背に負い、フードを深く被った“謎の女冒険者”。
彼女が五十八階層へ落下するレフィーヤの体を抱きとめた。
しかし息をつく暇もなく、砲竜の狙撃が五十八階層へ落下中の二人に迫る。
五十八階層は深い。
だが砲竜の狙撃はそれよりも速い。
――ゴウウウウッ!!
真下から砲竜の口腔が赤々と光を帯びて迫り来る。
吐き出される灼熱の奔流は、落下中の二人を正確に射抜く軌道で伸びていた。
「っ……!?」
レフィーヤは目を見開き、身体が強張る。空中ではもう逃げられない。
そのとき――。
「貴女は私が護ります、だから大丈夫です」
女冒険者の囁きは、炎の咆哮の中でも不思議と澄んでいた。
彼女は片腕でレフィーヤをしっかりと抱え、もう片腕で背負っていた巨大な盾を勢いよく引き下ろす。
盾がレフィーヤを包み込むように前へ押し出され、まるで二人を抱く天蓋のように覆いかぶさった瞬間――。
――ドォオオオオッ!!
砲竜の火炎砲は二人を貫くことなく、巨大な盾へ真正面から叩きつけられた。
空中に火炎の奔流と衝撃が炸裂する。
落下しながら受ける火力など、普通の冒険者なら一瞬で炭になる。
しかし――。
盾の裏側、レフィーヤの肌に熱は届かない。
炎鳴が轟き、衝撃が爆ぜても、女冒険者の腕はまるで岩盤のように揺るがなかった。
「っ……あ……!」
恐怖で固まっていたレフィーヤは、ようやく理解する。
この女性は――空中で砲竜の直撃を“受け止めている”。
火炎の重圧で盾が軋む度、それでも彼女は微動だにせず、レフィーヤを抱く腕に力を込めた。
砲竜の咆哮が途切れた瞬間、炎の奔流が薄れ、熱風が尾を引いて天井へと消えゆく。
盾は灼け、煙が立ち上っていた。
だが二人は無傷だった。
レフィーヤの無事を確認すると、彼女はその巨大な盾を振りかぶり、地面に向かって投擲した。
何を、と思う間もなく、レフィーヤは見てしまう。
その盾と女性の腕がワイヤーで繋がれていることに――。
「いやぁぁぁぁぁぁあっ⁉」
盾の投擲に合わせて二人の落下が加速するということであった。
五十八階層へ繋がる大穴の中、レフィーヤの悲鳴だけが鮮明に響いた。
盾は地面へ向かって一直線に落ちていく。
ワイヤーで繋がれた二人も、その勢いに引きずられるように加速する。
そして次の瞬間、巨盾は一体の砲竜の頭に直撃し、そのまま粉砕した。
――ドガァァァンッ!!
轟音とともに衝撃波が迷宮を震わせる。
レフィーヤは必死に女冒険者の腕にしがみつきながらも、驚愕と興奮で息を飲む。
「着地します。しっかり捕まっていて下さい」
女冒険者は勢いそのままにレフィーヤを抱え、五十八階層へと着地した。
地面に衝撃が走り、砂煙と岩塵が舞い上がる。
その中で、ようやくレフィーヤの身体を支えていた腕を緩めた。
しかし、気を抜くことはできない。
彼女たちの周りには砲竜と飛竜、そして芋虫型の新種モンスターの群れが取り囲む。
特に厄介なのは新種。
あのモンスターの体液は非常に強力な酸性を持ち、普通の武具では瞬く間に溶かされてしまう。
情報共有で彼女にも知らされていたが、彼女は椿の用意した不壊属性の武具を持っていない。
いくら砲竜の狙撃を防いだあの巨盾でも、溶かされてしまうだろう。
しかし、彼女は落ち着いていた。
周囲を確認し、新種モンスターのうち一体に目を付け、おもむろに地面に落ちていた石を投げつける。
――剛速球。
その石はモンスターに直撃し、頭を貫いた。
「はい?」
ただの石ころであのモンスターを仕留める姿に、レフィーヤは唖然とした。
“え、オッタルさんの話だと、この人ヒーラーですよね?*1
なんで石一つでモンスター倒してるんですか!?”
レフィーヤは目を丸くし、女冒険者の腕から視線を離せなかった。
まさに“ただの石”で、新種モンスターの頭を貫いたのだ。
酸で武器が溶ける厄介な相手を、魔法でも武器でもなく、物理の一撃で仕留めてしまった――その光景は、ヒーラーだという彼女の評判と釣り合わなかった。
「レフィーヤー!」
思わず頭上を見上げると、大穴の縁から一気に落下してくるティオナ、ティオネ、そしてベートの姿があった。
三人ともそれぞれ武器を構え、全力で体勢を整えながら落下してくる。
砂煙と岩塵の中、落下してきた三人は無事に着地すると、周囲を見渡した。
砲竜や飛竜、新種モンスターの姿が散乱する戦場で、女冒険者は冷静そのものだった。
「レフィーヤ、無事ね!」
ティオネの声に、レフィーヤは小さく頷く。
恐怖と驚愕でまだ言葉が出ない。
「何やってんだ、ノロマ」
ベートの言葉には軽い苛立ちがあったが、目は戦況から離さない。
「レフィーヤを助けてくれてありがとねー」
ティオナが女冒険者に微笑みかけると、女冒険者は少しだけ頷いた。
その動作はまるで「当然のことをしただけ」とでも言いたげな、静かな落ち着きがあった。
だが戦場はまだ終わっていない。
砲竜の向こうから、飛竜が羽ばたきながら襲いかかる。
芋虫型の新種モンスターも、じりじりと接近していた。
それでもレフィーヤには確かな安心感があった。
仲間たちとこの女性がいれば、こんな危機でも何でもないのだと。
ミネの盾はフレイヤ・ファミリアのアルバイトで給金代わりに支給されたものです。
投擲してワイヤーで一気に移動したりポーションを格納するコンテナがあったりしますが、それ以外は重さなどを一切考慮せず頑強性のみを追求したタワーシールドになります。
護って安心、叩いて安心の一品。
お値段1億8000万ヴァリス。
このSSのフレイヤ様は…
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普通のフレイヤ様
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アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様