ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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憧憬一途/癒業進化

オラリオの朝が、ゆっくりと動き始める。

小さな地下室の窓から差し込む陽光が、石壁に反射して淡く揺れた。

 

――あたたかい。

そう感じながら、ベル・クラネルは目を覚ます。

まだ夢と現の狭間にいるような意識の中、ふわりと頬に柔らかいものが触れた。

 

心臓が跳ねる。

嫌な予感がする。いや、どちらかといえば――恐ろしくも、幸せな予感。

 

「ん……神、様……?」

 

おそるおそる視線を動かしたベルの目に、白くまぶしい光景が飛び込んできた。

 

――ヘスティアがいた。

それも、寝ぼけたままベルの胸の上に乗っかり、すやすやと安らかな寝息を立てている。

 

「~~~~っ!!?!?!?」

「ん……んふふ……ベルくん、あったかい~……」

 

耳元で小さく漏れる寝言。

頬をすり寄せるように身じろぎし、ふわりと髪が香る。

柔らかい感触、甘い匂い。

天にも昇る心地――いや、むしろ地獄だ。

 

「か、神様っ!? ちょ、ちょっと!? 起きてくださいってば!」

 

「ん~……や~だぁ……ベルくんのとこ、きもちいいもん……」

 

完全に寝ぼけている。

まぶたは半分閉じ、夢の中と現実を混同しているらしい。

そのままベルの胸に頬を押し付けて、「むにゃむにゃ」と笑う女神。

 

(だ、だめだ……このままじゃ理性が持たない……!)

 

心臓が暴れる。

額に汗が滲む。

ミノタウロスに追われていた時よりも、なぜか命の危機を感じた。

 

「神様っ、本当に起きてください‼」

 

「ん~……ベルくんがうるさい~……もうちょっとだけぇ……」

 

(もうちょっとって……!)

叫びたい衝動を必死に飲み込み、ベルはそっと身をずらそうとした――その時。

 

コン、コン。

控えめなノック音。

 

「おはようございます。お二人とも、賑やかですね……朝から。」

 

涼やかな声が地下室に響く。

その瞬間、ベルはまるで石像のように固まった。

 

「み、ミネさんっ!? ち、違うんです、これは――!」

 

「……はい、見れば大体わかります。おはようございます、ベルさん。」

 

扉の向こうに立っていたミネは、静かに微笑んでいた。

蒼い髪が朝の光に映え、淡い青の瞳がやさしく細められる。

その姿はまるで、朝霧の中の妖精のようだった。

 

「……ヘスティア様、ベルさんが困っていますよ?」

 

穏やかな声に、ヘスティアはようやく反応する。

 

「ん~……もうちょっとぉ~……」

寝ぼけた声が妙に素直で、可愛らしかった。

 

「もしや“救護”が必要でしょうか?」

 

バッとヘスティアが跳ね起きた。

 

「無い! 救護は必要ないから!!」

 

顔を真っ赤にして叫ぶヘスティア。

ミネは小さく首を傾げ、「そうですか」とだけ微笑んだ。

 

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朝食を終える頃には、ようやく空気が落ち着きを取り戻していた。

ベルは上着を脱ぎ、恒例のステータス更新のために背を向けて座る。

ヘスティアは頬を染めたまま、なんとか気持ちを整えていた。

ミネはステータス更新が終わるまで外に出ている。

 

「じゃあ、背中見せてね。……ふぅ。昨日も頑張ったんだろ?」

 

「は、はい……! できる限り……!」

 

ヘスティアは針を指先に刺し、そこから滲んだ神血をベルの背に垂らした。

青白い光がほのかに広がり、神聖文字が浮かび上がる。

その瞬間――光が、ひときわ強く輝いた。

 

「……え?」

 

ヘスティアが息を呑む。

ベルが心配そうに振り返る。

 

「ど、どうかしましたか……?」

 

「い、いやっ! なんでもないよ! ちょっと驚いただけさ!」

 

笑ってごまかそうとするが、視線は釘付けだった。

神の目に刻まれた新たな文言――

 

【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】

早熟する

懸想が続く限り効果持続

懸想の丈により効果向上

 

ヘスティアの喉が、ごくりと鳴った。

そのスキルは――ただのスキルではない。

 

(……これ、まさか……ミネ君と、同じ?)

 

顔色がみるみる青ざめる。

十年前の記憶が脳裏に蘇る。

 

ミネには最初から、これと酷似した成長促進スキルがあった。

その力により、彼女は凄まじい勢いで成長し――

わずか一年でレベルを三つ上げた。

 

最初は別の理由で冒険者登録を見送り、その後改めて登録予定だった。

しかし、異常な成長が混乱を招く可能性があり、未だにミネは冒険者登録をしていない。

公になれば、オラリオ全体を巻き込む騒動になると分かっていた。

 

――だが、ベルはもう冒険者登録済みだ。

 

(ヤバい……! ミネ君並みの速度でベル君が成長するなら……!)

 

ベルがミネ並みに成長するなんて知れれば、神々は黙っていない。

“おもちゃ”として扱われ、最悪の場合――戦争遊戯を仕掛けられる。

 

もちろん、ミネという“最終兵器”がいれば勝てる。

けれど、彼女の存在が露見すれば――世界が騒然となる。

 

(お願いだよ……ベルくん。どうか静かにしててくれ……!)

 

小さな女神は、ステータスの紙をぎゅっと握りしめる。

胸の奥にひやりと冷たい汗が流れる。

そしてばれないよう、スキルの文字に指を当ててそっと消した。

 

「……よし、終わったよ。ベルくん」

 

ベルがステータスの用紙を受け取り、疑問を抱く。

 

「あれ、神様、スキルのスロットに消した跡があるような……」

 

「あぁ、ちょっと手元が狂ってしまってね。いつも通り空欄だから気にしないでいいよ」

 

「ですよねー」

 

何処か期待していたベルだったが、がっくりと肩を落とす。

 

「さ、ミネ君待たせてるんだし早く服を着ないか。この後、アストレアのところに行くんだろ?」

 

ベルはしぶしぶながらも、ステータス用紙を机に置き、上着を手に取った。

 

「……そうですね、早く準備しないと」

がっくりと肩を落としながらも、ベルは深呼吸して気持ちを切り替える。

 

ヘスティアはそっとベルの背中に手を置き、柔らかく微笑む。

 

「ベルくん、アストレアの所の子供たちが美人ぞろいだからってデレデレしちゃだめだぜ?」

 

「し、しませんよデレデレなんか!」

 

ベルは真っ赤になりながら部屋を出る。

 

地下室を出ると、オラリオの朝の喧騒が二人を迎えた。

街角では冒険者たちが準備運動をし、商店街からは活気ある声が聞こえる。

 

「ミネさん、待たせちゃったかな……」

 

ベルが小声で呟くと、青い髪の少女がにっこり微笑んで手を振った。

 

「大丈夫ですよ、ベルさん。早すぎてもアストレア様たちの迷惑になるでしょうし少しゆっくり行きましょうか」

 

ベルはほっと胸をなでおろす。

かすかにステータス用紙に残った跡を思い出すが、今は気にせず前を向くことにした。

 

「さあ、行きましょう。アストレア・ファミリアへ」

 

「はいっ!」

 

淡い光と人々の声が交差するオラリオの街――

今日もまた、新しい出会いと冒険が、二人を待っているのだった。




ミネは恩恵をもらった時から成長促進スキルが生えてる上に回復魔法も持っていました。

【癒業進化(リジェネレイトギフト)】
他者に対する総回復量に応じて成長率の永続的な強化
耐久、魔力の限界突破
総魔力量に応じて回復行動に対する補正
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