ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
「どういうことだ、猪野郎!」
モンスターが殲滅され、五十八階層には束の間の静寂が訪れていた。
だが、その静寂を切り裂くように放たれた怒声が、オッタルを容赦なく貫いた。
「お前の話じゃ、こいつは治癒術師だとか抜かしてやがったよな?」
ベートが女冒険者を指さし、まるで噛みつくような声音で怒鳴る。
「こいつのどこが治癒術師だ!
どこの世界にドラゴンの頭を殴り潰す治癒術師がいるんだよ!?
それとも何か、てめぇんとこじゃ――こんなのを治癒術師って呼ぶのか?」
散乱する魔石やドロップアイテム。
周りを見渡せば魔石やドロップアイテムが散乱しているが、その三割は件の女冒険者によってなされたものだ。
多数の砲竜や飛竜を正面から拳で沈めておきながら、治癒術師とは何の冗談か。
「いや、彼女は間違いなく治癒術師だ。ただ、前衛としての能力も兼ね備えているだけだ」
オッタルが淡々と告げると、ベートが即座に噛みつく。
「《兼ね備えてる》ってレベルじゃねぇんだよッ!」
五十八階層に、怒声が木霊した。
彼の言い分はもっともだ。
治癒術師と聞いて連れて来たはずが、蓋を開ければ戦闘力が一部の前衛を超える怪物だったのだから。
「まあまあ、ベート! いいじゃん別に!」
ティオナがひょいと間に入る。
「だってさー、モンスターの群れがその子に集中してたおかげで、正直かなり助かったってば! その上、回復もできるんでしょ!」
「頼りになるじゃん」と無邪気に笑うティオナとは対照的に、ベートはまだ納得していない様子で苛立たしげに舌打ちした。
彼は何度も頭をかきむしりながら、女冒険者の方を睨む。
その当人はというと、オッタルの後ろに隠れて視線を合わせようともしない。
その様子をフィンは静かに見守っていた。
レフィーヤが大穴に落ちた時、この冒険者は一早く救出に動いた。
明らかにレフィーヤを意識している。しかも悪意ではなく、純粋な善意として――。
「いい加減にせんか、ベート。お主が気になるのもわからんではない。実際、わしらとて気にはなっておる」
ガレスがベートを諭す。
彼の声は落ち着いているが、空洞に響く低音は圧力として存在感を示す。
「彼女には彼女の事情がある。本来、力を貸す必要もないはずが、ここまで来てもらっている。それ以上の詮索はあまりに無礼だ」
リヴェリアもガレスに同調し、女冒険者をかばう。
どうやら先の一件で二人とも、彼女のことを信頼してもいいと思ったのだろう。
特にリヴェリアは目をかけている弟子を救われた。
最初は不信感があったものの、彼女の行動は背中を預けるに値すると感じていた。
「そもそも最初っから気に入らなかったんだ!
なんで顔を隠す! 名を名乗らねぇ!
そんな奴をここから先に連れていくのか、フィン!」
ベートの怒声が最後の一撃のように響く。
確かに――誰もが思っていた疑問だ。
顔を隠し、素性を語らず、だが尋常ではない力を持つ冒険者。
この先の未知に同行させるに、正体不明の冒険者を同行させるのかと。
視線が一斉にフィンへ集まる。
その中で、女冒険者はオッタルの背に隠れたままだった。
「……フィン」
リヴェリアも、ガレスも、言葉なくフィンの判断を待っている。
フィンは静かにベートへ視線を向けた。
「ベート、言いたいことはわかる」
「なら――!」
「待ってください」
それは、はっきりと耳に届く声だった。
その瞬間、五十八階層の空気がぴたりと止まる。
オッタルの背に隠れるようにしていた女冒険者――彼女が、ゆっくりと前に出た。
その動きを受けて、ベートの鋭い視線が突き刺さる。しかし彼女は一歩を止めなかった。
「…もし、皆さんが私の素性について口外しないと約束していただけるなら、顔を晒すことも名を名乗ることも構いません」
オッタルも「いいのか」と問いたげな顔で彼女を見つめる。
女冒険者の声は震えてはいなかった。
だが、その決意の奥にある覚悟が、静寂となって階層を包む。
オッタルも眉をわずかに動かすほどだった。
「……本当にいいのかい? 正体を隠すにはそれなりの理由があるはずだろう」
フィンが確認するように問いかける。
女冒険者は小さくうなずいた。フードの奥で揺れた髪が細く零れる。
「…ギルドや他のファミリアに知られればまずいのですが、この場にいる方だけで内密にしていただけるなら」
その言葉は弱々しくはなく、ただ真っ直ぐだった。
「…とのことだけど、皆はそれでいいかな? 彼女について口外しないということで」
フィンが隊全体へ向けて問いかけると、静かな沈黙が落ちた。
最初に口を開いたのは、意外にもアイズだった。
「……私は、いいと思う」
アイズは女冒険者をまっすぐに見つめる。
たったそれだけの言葉だが、その瞳が信頼の色を宿していた。
「助けてくれた。レフィーヤも。だから……大丈夫」
短いながらも重い肯定。
それに続くように、レフィーヤが勢いよく一歩前へ出る。
「わ、わたしも賛成ですっ!」
声が少しだけ裏返る。
「その……命を救っていただいたこと、忘れません! わたしは絶対に口外しません!」
その必死さに、女冒険者はわずかに肩を震わせる。
「私も同意見だ」
リヴェリアが続ける。
その声音は静かで、だが揺るがぬ信頼を含んでいた。
「レフィーヤを助けた。理由はどうあれ、あの行動は信頼に値する。……少なくとも、私にとっては」
ティオナが元気よく手を挙げた。
「はーい! あたしも賛成! だってもう仲間みたいなもんだし! 今さら名前とか顔とか気にしないって!」
他のメンバーも賛同し、彼女に視線を向けた。
つまりそういうことなのだろうと、彼女はゆっくりとフードを脱ぎ、その顔を晒した。
フードの奥から現れた長い蒼色の髪、そして尖った耳――その瞬間、五十八階層にいた冒険者たちは一瞬息を呑んだ。
「エルフ……だと⁉」
リヴェリアが思わず口をついた。
彼女の眼差しは驚愕で染められていた。
まさか同胞だったとは思ってもいなかったのだ。
エルフはその種族特性から魔力が伸びやすいが、力と耐久は非常に伸びにくい。
それが肉弾戦を中心とした格闘戦を行っているなんて想像の及ぶ範囲外だ。
「…なんと、ミネ、お主、あんなに戦えたのだな」
続いて椿からも驚愕の声が続く。
「おや、椿。知り合いかい?」
「主神様の神友のお供で、たまに顔を合わせるのでな。まさか深層で戦えるとは思ってもみなかったぞ」
ヘファイストスとヘスティアは神友同士のため、ミネも同行することがある。
その時、椿とは顔見知りになっていた。
「…あー! リオンとたまに一緒にいる人だー!」
声をあげるのはティオナ。
ティオナもその顔に見覚えがあった。
親友のアーディの友達、リュー・リオン。
彼女とたまに一緒にいる蒼髪のエルフを見かけたことが何度かあったことを思い出す。
「………え」
最後に目を丸く開いて全く動かなくなってしまったレフィーヤ。
「………お姉ちゃん?」
朧げながらも覚えている。
十年前、故郷から出て行ったきり、消息が分からなくなっていた姉のような人。
「…ミネ、お姉ちゃん?」
そこにいたのは、間違いなくミネ・シルヴァリエだった。
悩みましたがここで正体をばらさないとそのまま精霊ぶっ潰して正体不明になってしまう未来しかないのでベートにかみついてもらいました。
ミネ・シルヴァリエ
出身地:ウィーシェの森
一回目の補足でしれっと公開されていたロキ・ファミリアに対する最大級のフラグでした。
つまりレフィーヤと同郷で姉妹のように育っていた。
やったねベル君、フラグが出来たよ!
なおミネを連れて行ってしまったヘスティアは当時5歳のレフィーヤ視点では大邪神のように見えていた模様。
椿はヘファイストスとヘスティアが神友同士なので普通に顔見知り。
ただし一般人くらいに思っていた。
ティオナは何気に生存しているアーディと出会ってリューの頭痛のタネになっている。
親友(アーディ)の親友(リュー)の親友(ミネ)とか言う微妙すぎる関係。
このSSのフレイヤ様は…
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普通のフレイヤ様
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アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様