ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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レフィーヤとミネ

「…ミネ、お姉ちゃん?」

 

 レフィーヤのかすれるような声が、五十八階層の静寂を震わせた。

 

 え?

 

 その場にいた全員の思考が止まった。

 

 淡く揺れる蒼の髪、レフィーヤと同じ形の耳。

 そして、成長した今でも面影を残す、あの頃の“年上のお姉さん”。

 

 レフィーヤは、崩れ落ちそうなほど震える指先でその顔を見つめた。

 

「……覚えて……ます。

 小さい頃に遊んでくれた……

 ……ミネお姉ちゃんの顔……っ」

 

 言葉を紡ぐたびに涙が頬をつたう。

 その姿に、ミネは優しく微笑んだ。

 

「懐かしい呼び方です。

 最後に会ったのは五歳の時だというのに……覚えていてくれたんですね、レフィ」

 

「……っ!」

 

 その瞬間、レフィーヤの涙は堰を切ったようにあふれ出した。

 

 ――間違いない。

 

 この蒼い髪、この穏やかな声、

 そして、自分の名を呼ぶときだけ少しだけ崩れるあの柔らかい表情。

 

「では改めまして名乗らせていただきます。

 ミネ・シルヴァリエと申します。

 レフィとは…幼馴染になるのでしょうか?

 レフィが五歳になる頃まで、よく遊んでいました」

 

 静かな、けれど胸に響く声で、ミネは一礼した。

 

 その名乗りに、沈黙していたロキ・ファミリアの面々が次々と息を呑む。

 

「あ、つまりミネはレフィーヤが心配でついてきたんだね!」

 

 そんな空気を壊すようにティオナの声が響いた。

 単純すぎるまとめに、場の空気がふっと緩む。

 

「は、はい。オッタルさんと皆さんが話している時に、レフィの面影がある子がいて……つい気になってしまい」

 

「オッタルに同行を提案したと…」

 

 リヴェリアは静かに問いかけながらも、その声音にはどこか納得の色があった。

 

 ミネは小さく頷く。

 

「最後に会ったのは十年も前ですし……見間違いかとも思いました。

 ですが……どうしても気になってしまい…」

 

 ミネは胸に手を当て、静かに息を吐いた。

 

「同行後はそれとなく様子を窺っていましたが…ますますレフィ本人だとしか思えなくなって」

 

 いや、割とバレバレだったよ――とフィンは内心で肩をすくめたが、

 そこは空気を読む団長として黙っていた。

 

 そして、静かに場を整えるように一歩前へ出た。

 

「……なるほど。事情はよく分かったよ、ミネ・シルヴァリエ」

 

 その柔らかい声に、場の緊張がようやく均される。

 

「僕としても、君が“敵意を持った何者か”ではなくて安心した。

 レフィーヤにとって大切な存在だったのならなおさらね」

 

 ミネは姿勢を正し、深く頭を下げた。

 

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 ただ……どうしても、レフィのことが心配で……」

 

 その言葉に、レフィーヤがまた泣きそうになる。

 

「……そんな……そんな理由で……」

 

 震える声をかみしめるように呟くレフィーヤに、ミネは微笑みを向けた。

 

「ここにいる以上、レフィはもう立派な冒険者だと分かっています。

 しかし……例え十年会っていなかったとしても、

 貴女は――私の可愛い妹のような存在です」

 

「……っ……!」

 

 レフィーヤは堪えきれず、ミネの胸に飛び込んだ。

 

 ミネは驚きもしなかった。

 十年前の続きのように、その小さな体を受け止め、抱きしめた。

 

「どうしてっ……!」

 

 レフィーヤの声が震える。

 十年前に言えなかった感情が、ようやく形になって溢れ出す。

 

「どうしてっ、あの時、出て行っちゃったんですか⁉

 なんで……私を置いて行っちゃったんですか⁉」

 

 幼い少女が大好きだった“お姉ちゃん”に向けるには、あまりにも遅すぎた叫び。

 

 ミネの手が優しくレフィーヤの頭を撫でる。

 

「……ごめんなさい」

 

 その一言は、包み込むように静かで、けれど深く震えていた。

 

「何を言っても言い訳にしかならないでしょう。

 あの時の私は夢を叶える絶好の機会でした。

 たまたま下界に降りて来て下さった神様に出会い、恩恵を受けられることになり、成りたい自分を目指すことが出来る。

 私はその欲望に抗うことが出来ませんでした」

 

 ミネの告白は、静かに、けれど胸を締めつけるほど真っ直ぐだった。

 

「……私がいなくなったことで、レフィにどれほど寂しい思いをさせたのか……

 私には想像することしかできません。本当に……ごめんなさい」

 

 ぽたり、とレフィーヤの涙がミネの胸元に落ちる。

 

「……嫌いになったかもしれませんね」

 

「なるわけ……ないです……っ!」

 

 抱き締める腕に力がこもる。

 

 レフィーヤは嗚咽を漏らしながら、声にならない言葉をいくつも吐き出した。

 

「ミネお姉ちゃんが……夢を追うのが悪いなんて……そんなの……思ったこと、一度も……ないです……!

 ただ……会いたかっただけなんです……私……ずっと……っ」

 

 ミネはその細い肩を抱き寄せ、包み込むように目を細めた。

 

「……ありがとう。レフィがそう言ってくれるだけで、私は救われます」

 

 十年分の寂しさと、十年分の想いがようやく触れ合った瞬間だった。

 

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「ミネ、君の素性ははっきりした。

 僕たちに害意がないのも証明できた」

 

 フィンがミネに向き直り、五十八階層の空気を整えるように声を響かせた。

 

「出来ればもう少し君のことが知りたいんだけど…、

 レベルや使える魔法とかも教えてもらってもいいかな?」

 

 ギクッ、と。

 

 ミネとオッタルが、同時にわかりやすく肩を跳ねさせた。

 

 あまりにも綺麗にシンクロしたその反応に、ロキ・ファミリアの面々がぽかんと目を丸くする。

 

「……え、なに今の綺麗なハモり」

 ティオナが眉をひくつかせる。

 

「ミネの反応は分かるが……オッタル、お前まで動揺する理由はなんだ?」

 ガレスが半眼で問い詰める。

 

 オッタルは首をパキパキ鳴らし、わずかに目を逸らした。

 

「……個人情報の開示は、慎重に行うべきだ」

 

 オッタルがそう言い放った瞬間、場の空気は微妙に変わった。

 えっ、そんなに聞かれちゃいけないことなの?

 

――五十八階層の闇の中に、微妙な沈黙が広がった。

 

 その二人の様子に、フィンは嫌な予感を覚える。

 えっ、無いよね、まさかレベル7とか言わないよね?

 2人しかいないはずのレベル7が突然自然発生とか、オラリオの情勢が一気に変わるんだけど⁉

 

 しかし、聞かなければならない。

 たとえ地獄の窯を解き放つことだとしても、戦力の確認は必須だ。

 

「…もう一度聞くよ、ミネ。君のレベルはいくつだい?」

 

「ど、どうしても言わなければ…」

 

「言ってほしいな。この先は何があるか分からない。戦力の把握は必須だ」

 

「…絶対に、ここだけの話ですからね…」

 

 ミネはあきらめたように、そして決意したように口を開く。

 

「……レベル9です」

 

 フィンは、たかだかレベル7とか思っていた数分前の自分を殴りたくなった。

 そりゃ隠すよね!

 どこからこんなのが自然発生してきた⁉




このSSを書き始めるときに主人公は団長かアリスの二人の候補でしたがアリスが主人公だった場合はブルアカ本編終了後の数十年後のアリスが事故で次元を超えてベル君の村に訪れる予定でした。
この場合、名もなき神々の王女の力を完全に制御し精神的に成長したパーフェクトアリスが降臨し初手黒龍討伐とかやりかねないフルスペック∀のようなチートものになる予定でした。

このSSのフレイヤ様は…

  • 普通のフレイヤ様
  • アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様
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