ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか   作:救護騎士団オラリオ支部

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穢れた精霊

「……なに、あれ?」

 

 思わずティオナがこぼした声に、一行の視線が同じ方向へと吸い寄せられる。

 

 そこにあったのは――“群れ”と呼ぶにもおぞましい光景。

 

 五十九階層の暗がりを埋め尽くすように蠢く、夥しい数の芋虫型モンスター。

 

 その芋虫の群れに囲まれるように――ひときわ異様な姿があった。

 

 巨大な植物の“茎”と“根”を思わせる下半身、中空を揺れる蔦。

 その上に乗るように、女性の形をした上半身がくねるように姿を現していた。

 

 肌は緑がかり、瞳は赤紫の妖しい光をたたえ、唇は花弁のように湿り気を帯びている。

 

 ロキ・ファミリアの誰もが息をのんだ。

 

「……これは……タイタン・アルムなのか?」

 

 リヴェリアの声に重みが乗る。

 

 深層に生息する巨大植物型モンスター。

 

 あらゆるものを捕食する貪欲なる『死体の王花』。

 

 それが今、目の前で芋虫型モンスターたちの魔石を取り込んでいる。

 

「強化種かっ⁉」

 

 ガレスの低い叫びに、全員が一斉に身構える。

 

 女性型のモンスターの上半身が体を起こし、蛹が羽化するように美しい体の線を持った『女』が生まれる。

 

『――ァアアアアアァアアアアァアアッ⁉』

 

 階層全体を震わせる絶叫だった。

 耳ではなく“身体”に直接叩き込まれるような咆哮。

 

 瞬間、空気が震動し、瘴気が波打つ。

 

 悍ましい怪物の下半身と、美しい女の体を持つ巨大な怪物が産声を上げた。

 

「なんだっていうのよっ、アレは⁉」

 

 ティオネが両手で耳をふさぎながら、しかし視線だけは離れない。視界の奥で、紫に近い深紅の目がこちらを“見返した”。

 

 まるで最初から彼らの接近を待っていたかのように。

 

「……うそ」

 

 そんな中、アイズだけは『彼女』を見つめながら呆然と立ち尽くしていた。

 

『アリア―――アリアァ‼』

 

 アイズに向かい『アリア』と連呼する異形の女型。

 

「『精霊』…⁉」

 

「『精霊』……あんな気持ち悪いのが⁉」

 

 ティオナが嫌悪を露わにするが、アイズは違った。

 

 その瞳は“恐怖”でも“怒り”でもなく――ただ、揺れていた。

 

『アリア、貴女ヲ――食ベサセテ?』

 

「総員、戦闘準備‼」

 

 誰よりも早くフィンの檄が飛ぶ。

 

 その様子を見て『彼女』は薄気味悪い笑みを浮かべ――

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!』

 

 『穢れた精霊』との戦端は開かれた。

 

  * * *

 

 前衛を担うのはガレス、アイズ、ベート、ティオナ、ティオネだ。

 

 だが――明らかに異常があった。

 

 巨大な“彼女”の蔦は、まるで獲物を識別しているかのようにアイズを執拗に狙っていたのだ。

 

 他の四人と比較にならない頻度。

 いや――ターゲット固定と言った方が早かった。

 

「……チッ、ふざけやがって‼」

 

 ベートが歯噛みする。

 

 ただ強いから狙われるのではない。

 まるで『お前ではない』と言われている気がする。

 

 自分など脇役にすぎない――と。

 

 それが、ベートのプライドを容赦なく逆撫でした。

 

「来るぞッ‼」

 

 ガレスの咆哮とともに、触手が床を砕きながら飛来する。

 

 ティオナとティオネが左右から斬り払い、ベートはその隙間を縫って肉薄する。

 だが、触手は捌ききれないほどの密度でアイズへ収束していく。

 

『アリア――アリアァ……ッ‼』

 

 “女の形”をした上半身が名前を呼び続けた。

 

『【火ヨ、来タレー】』

 

「詠唱だと⁉」

 

 リヴェリアの声が驚愕に染まる。

 

 『彼女』の足元に魔法円が広がり、魔法という人類の領域を犯す異常行動。

 

 もはやアレは、自分たちの理解の外にある存在だ。

 

「リヴェリア、結界を張れ‼ 総員、詠唱を止めろっ‼」

 

 フィンの指示が飛び、魔法と魔剣の砲撃が開始される。

 

 しかし『彼女』の花弁がそのすべてを無傷で防いでしまう。

 

「あれが効かないというのか…⁉」

 

 レフィーヤの魔法すら無力化してしまう防御力に、椿が驚愕する。

 

 そんな中、ミネとオッタルは後衛を守りながら事態を見守っていた。

 

「前に出なくていいんですか?」

 

 ミネがオッタルに語り掛けるが、オッタルは冷静に返す。

 

「出る必要もないだろう。この程度は乗り越えてもらわなくては張り合いもない」

 

 冷たくさえ聞こえる声だった。

 だがミネは、オッタルの意図を理解していた。

 

 自分もまたベルを信じ、戦いを見守ったのだから。

 

「猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ――」

 

 異様な長文詠唱がフロア全域に響き渡る。

 

 世界が紅に染まる。

 

―ファイアーストーム。

 

 極大の煉獄の如き業火が世界を焼いた。

 

 結界魔法が悲鳴を上げ、リヴェリアが苦悶の表情を浮かべる。

 

「結界がっ⁉」

 

 結界に亀裂が走り、その魔法の威力を物語る。

 

「ガレスッ、アイズたちを――」

 

 フィンが指示を出す前に、結界から飛び出し、その巨大な盾を掲げる存在がいた。

 

「レフィとリヴェリア様を守れ、そう言われましたので」

 

 業火の前に身を捧げ、巨大な盾で全員を庇うミネだった。

 

 だがそれはあまりにも無謀だ。

 

 最強の魔導士の結界をいともたやすく破る業火を前に、ミネの盾が融解を始める。

 

「やめろ、下がれミネ‼」

 

 リヴェリアの声がミネを制止するが――

 

「聞けません、リヴェリア様。ここで私が下がればレフィもリヴェリア様もただでは済みませんので」

 

 落ち着き払った声だが、その間にも盾は溶かされていく。

 

 盾を溶かされながら身を焼かれるミネの口から詠唱が紡がれる。

 

「【我が名の下に誓おう。砕けぬ盾よ、天より降り立ち、全ての穢れと災厄を退けよ。鉄壁の城塞となれ――《アストラ・ファエル》】」

 

 詠唱が終わった瞬間、ひときわ激しい業火がミネを飲み込み結界を破壊した。

 

 熱風と暴風が全員を襲う。

 

 だが結界内にいた者たちは、あの魔法を無傷でしのぐことができた。

 

 しかし――

 

「みね、お姉…ちゃん?」

 

 結界の前に立ち、皆を守り切った姉の姿はどこにもなかった。

 

「あ……」

 

 レフィーヤは理解してしまった。

 

「あぁ……」

 

 大好きな姉は皆を守り切り――

 

「あああああぁああぁあ‼」

 

 その身を捧げたのだ、と。




1億8000万ヴァリスを溶かされたと聞かされたヘスティア様の顔を見てみたい。

このSSのフレイヤ様は…

  • 普通のフレイヤ様
  • アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様
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