ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
「あああああぁああぁあ‼」
レフィーヤの叫びが五十九階層に響き渡る。
しかし、『彼女』は止まらない。
『地ヨ、唸レ――』
ミネの死をあざ笑うかのように、詠唱は続けて紡がれる。
『来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄ノ宝閃ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢ノ契約ヲモッテ反転セヨ空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地ト為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災-代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ地精霊大地ノ化身大地ノ女王』
―《メテオ・スウォーム》
頭上に迫る隕石群。
天蓋を破り、炎の尾を引きながら殺到する。
「ラウルたちを守れっ‼」
言われるまでもなく、ガレスが真っ先に走り込んだ。
「うおおおおおおおおッ‼‼」
ラウル、レフィーヤを庇って立つ。
その巨躯はまさに要塞。
だが、落ち来る隕石は一つではない。
雨――いや、殲滅の火柱。
直撃。
爆音。
衝撃が大地を揺らす。
重盾が悲鳴を上げるように歪む。
金属が裂け、罅が走る。
「ぐっ……が……っ!」
歯を食いしばりながらも、ガレスは一歩たりとも退かない。
――ミネがそうしたように。
背後でラウルが叫ぶ。
「ガレスさん‼ 無茶っす‼」
「黙っとれ小僧ッ‼ これが前衛の役目じゃい!!」
熱風。爆煙。崩落。
そこに残されたのは焼けただれた床と、立つ者のいない戦場だけ――。
しばらく誰も動かなかった。
呻き声すら無い。
まさしく死地だった。
その中で、たった一つだけ影が揺らめく。
炎を踏みしめ、煙を払い、歩き出す巨体。
紫煙の奥――その姿が現れた瞬間、空気が震えた。
猛者オッタルだけが両の足で立っていた。
ロキ・ファミリアが全滅しても、彼だけが平然としている。
「……まさか、これで終わりか?」
倒れ伏した冒険者たちを眺め、退屈そうに続ける。
「ならば――あの獲物は俺が貰うが?」
その言葉に――
「ふざけんじゃねぇぞ猪野郎‼」
ベートが立ち上がる。
「……獲物の横取りとは、流石に見過ごせんぞ猛者」
ガレスも立つ。
次いでフィン、リヴェリア、アイズ。
立てる者すべてが己の武器を向けた。
「悪いねオッタル、アレは僕たちの獲物なんだ」
―だから引いてくれ。
フィンの目が前方の“怪物”を見据える。
「あの怪物を討つ」
余裕など全くない。
しかしフィンは、己の口元を吊り上げて微笑む。
「君たちに『勇気』を問おう」
この場にいる全ての者に対し、フィンが問いかける。
「ミネ・シルヴァリエは、僕たちにチャンスをくれた。ここで僕たちが倒れれば、彼女の意思は無駄になる」
炎の中に消えたあの少女は、『勇気』をもってここに居る全員を守り切った。
「僕たちは“ロキ・ファミリア”だ。そんな結果は――認められない」
生還すら怪しい状況で、それでも彼は笑う。
望むのは勝利ではない。誇りだ。
「彼女が紡いだ勝機を、僕が繋いでみせよう――だから下を向くな」
その言葉は間違いなくレフィーヤに向けられている。
ミネを失ったことで一番ショックが強いのは彼女なのだから。
「それともここでオッタルに頼って、尻尾を丸めたままで納得できるのかい?」
レフィーヤの肩が震えた。
悔しさか、怒りか、それとも――恐怖か。
いずれにせよ、その震えはまだ、戦える証だった。
「……わたしは……」
喉が焼けるほど乾いているのに、声だけは震えない。
「あの人の勇気に――応えたい……っ」
握った杖に血が滲むほど力を込め、レフィーヤは立ち上がった。
涙は爆煙に紛れて見えない。
だが確かにそこにあった。
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「リル・ラファーガ!」
アイズの神風が穢れた精霊を貫き、長い戦いに終止符を打つ。
誰もが、その場に立っていられなかった。
それでもロキ・ファミリアは――誰ひとり欠けなかった。
だが。
「……ミネ、お姉ちゃん」
レフィーヤが崩れ落ちる。声は途切れ、涙は止まらない。
その時――
「はい、呼びましたか?」
「……は?」
そこに、ミネがいた。
スンッ。
レフィーヤの顔から、一瞬だけ感情がすべて抜け落ちる。
「ずいぶん遠くに吹き飛ばされたな、ミネ」
オッタルが何事もないように話す。
「足元が崩れた時は、ちょっと焦りました」
服に少し汚れがあるだけ。血も、傷もない。
「さすがだね……想定以上だよ」
フィンは真顔だ。
「お主、本当にエルフか? レベル9というのを差し引いても頑丈すぎんかのう」
ガレスは素で引いていた。
レフィーヤは涙を残したまま、ぽかんと口を開けたまま固まる。
「えっと……」
思考が追いついていない。
「ミネ……お姉ちゃん……魔法に……飲み込まれて……」
「ええ、少し遠くに吹き飛ばされてしまいました」
「…………」
「………………」
「…………………へ?」
戦場に沈黙が落ちる。
あまりに普通に言うものだから、頭が真っ白になる。
周りには驚愕する者、当然のごとく受け止めている者、そして無傷のミネを見てドン引きしている者——さまざまだ。
え、あの魔法、リヴェリア様の結界を破るほど強力でしたよね?
それを、無傷? ノーダメージ?
炎と崩落の残滓の中、ぽつんと立つミネ。
まるで散歩から帰ってきたみたいに。
「えっと……皆さん、本当にお疲れ様です。すごかったです」
笑みさえ浮かべている。
「いやいやいやいやいや!!!」
レフィーヤは七度見くらいしてしまい、叫びながらミネの肩を揺さぶる。
「だって……あの魔法は……リヴェリア様の結界を突破して――!」
「ですね。あれは正直、少し危なかったです」
「少し!?」
「防御魔法が遅れていたら、服が燃えてしまうところでした」
「服!?!?!?」
レフィーヤは涙を乾かす暇もなく怒鳴る。
「ミネお姉ちゃんは!! わたしたちが!! 本気で死んだと思って!! 本気で――」
声が詰まり、震えたまま続けられない。
ミネはそっとレフィーヤの手を取り、微笑む。
「ごめんなさい。心配かけました」
「っ……ごめんなさいじゃありません……!」
「でも、ありがとう。私のこと、心配してくれて」
レフィーヤの目が潤んだまま、照れくさそうに伏せる。
「……当たり前です……っ」
「でも、フィンさんとかは吹き飛んだ私を目で追ってましたけど……」
その瞬間、フィン・ガレス・ベートが同時に視線をそらす。
「……彼女が犠牲になったなんて、僕は一言も言ってないからね」
言っていない。確かにフィンは、ミネが犠牲になったとか命を賭したとかは口にしていない。
「まぁ、レベル9という話だったしな。無傷はさすがに驚いたが……」
ガレスも吹き飛ぶ瞬間は目にしていた。だが着地地点を視認する前に爆煙が覆い、誰も確認できなかったのだ。
「レベル9が本当なら、そもそも心配なんて無用だろ」
ベートは吐き捨てるように言う。
それはそう。それは、そうなのだが——
「……納得できませーん!!」
レフィーヤの声が、今度は怒りと安堵が混ざり合う奇妙な音色で辺りに響いた。震える唇、小刻みに揺れる体。悲しみと安堵と怒りが一気に噴き出し、ようやく言葉になった。
前回ミネが使った魔法は自分にのみ障壁を張っています。
流石に全員に障壁を張るのはやりすぎと思った模様。
障壁がない場合は服が燃えますがダメージはほぼ無いです。
一様エルフなので服が燃えるのは割と死活問題。
このSSのフレイヤ様は…
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普通のフレイヤ様
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アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様