ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
ロキ・ファミリアが設営したキャンプの中、一際大きいテントの中央で、フィン、ガレス、リヴェリア――ロキ・ファミリアの三名と、オッタル、そしてミネが向かい合っていた。
息をするだけで痛むような静けさ。
戦いの緊張が未だ解けないまま、全員の視線が一点に集まる。
その中心に立つフィンが、静かに言葉を落とす。
「さて、ミネ・シルヴァリエ。僕から君に聞きたいことが一つだけある」
フィンはまっすぐ、逃げ道がないほど真正面からミネを射抜いた。
「――君が『オラリオの奇跡』だね」
ミネの肩が小さく揺れる。
フィンは続けた。
「高性能の回復魔法と防御魔法、そしてそれを使いこなす高レベルの正体不明の冒険者」
「十年前の暗黒期。 陰に隠れながらも街を支え、暗黒期の終結とともに姿を消した影」
リヴェリアが静かに頷く。
「多くの冒険者が助けられた。私たちロキ・ファミリアもだ」
ガレスは腕を組んだまま、懐かしむように目を細める。
「ギルドは捕縛依頼まで出しおったが……結局、誰も尻尾すら掴めなんだ」
「見つけられない。見つけても逃げられる。 追い詰めても、レベル3では何人束になっても叩きのめされる」
フィンは淡々と続ける。
「背丈は非常に低く、常にフードを被っていたため、小人族だと推定されていた」
「レフィーヤから17歳と聞いている。十年前なら7歳だ。小柄なのも当たり前だな」
ロキ・ファミリアのテントは、再び静寂に沈んだ。
「深く聞くつもりはないよ。君にも事情があっただろうしね。ただ、これだけは言いたかったんだ」
ロキ・ファミリアの大テントを包む空気は、ひどく重かった。
しかし、その中心に立つフィンの声音は、不思議なほど穏やかだった。
「――ありがとう。君がいてくれたおかげで、多くの人々が助かった」
その言葉は、胸に鋭く刺さるはずなのに、どこか温かかった。
ミネは――下を向いたまま、小さく呼吸を整える。
「……フィンさんが何を言っているのかはわかりません。ですが、その言葉は受け取らせていただきます」
――なんだその返しは。認めているようなものじゃないか。 フィンは思わず苦笑する。
腹芸は苦手そうだ。
フィンはそれ以上、何も聞かなかった。
本当なら、オラリオの安全を守るため、聞かなければならないことはいくらでもある。
レベル9という脅威は、フィンとしても探りを入れなければならない存在だ。
だが、この少女は疑うことすら馬鹿馬鹿しくなるほど、実直で誠実で、純粋だった。
「僕とガレスからは、これくらいかな。あとは……」
――ポンッ。
ミネの肩に手が置かれる。
すこぶる良い笑顔のリヴェリアが、そこに立っていた。
「――ミネ」
温度だけを感じれば優しさなのに、背筋が凍るほどの圧を含んだ声音。
ミネは思わず姿勢を正す。
「お前の主神と話がしたい」
ミネは硬直したまま、ゆっくりと振り返る。
リヴェリアの顔は――満面の笑顔なのに、背後の空間ごと圧力をかけてくるようだった。
「……黙秘します!!」
即答だった。
ミネはほぼ反射的に肩を揺らし、リヴェリアの手をすり抜けるように一歩後退する。
「どこの神だ? 十年でレベル9に至った教育というものを、ぜひとも教えてほしくてな?」
――私もアイズの無茶には手を焼かされたが、お前はどんな育てられ方をした?
ミネにもわかっている。
リヴェリアは純粋に、ミネを心配しているのだと。
しかし、ミネを育てた面々からしてみれば、とんだとばっちりだ。
ミネはヘスティアやアストレア・ファミリアの皆の言うことは素直に聞いていたし、レベルについても多少の無茶はしたかもしれないが、順当に上げてきたつもりだった。
だが――他者から見れば、どうだろうか。
当時七歳の子供が死と隣り合わせの危機の中で人々を救い、三年もの間、敵からも味方からも逃亡を続け、最終的に行方不明となり、そして今、人類最高峰のレベル9となって目の前に現れた。
――どう考えても、まともな育てられ方をしていない。
そんな凄絶な過去を、本人は「普通です」と言い切るのだから、周囲から見ればなおさら異常だ。
同胞として、そして何よりミネと同い年のアイズの面倒を見てきたリヴェリアにしてみれば、見過ごせるはずがなかった。
ミネ自身は必死だっただけで、そこに英雄譚などなかった。
ただ救うために、悲劇を少しでもなくすために動いただけだ。
しかし十年前――七歳の子供にできることではない。
それは、誰の目にも明らかな事実だった。
リヴェリアは小さく息を吐いた。
「……黙秘か。仕方あるまい、今回は諦めよう」
そう言って、ようやくミネの肩から手を離す。
圧迫されていた空気が、ほんのわずかに緩んだ。
だが、それでもなお――彼女の視線は鋭い。
「勘違いするな。責めているわけではない」
リヴェリアは静かに言葉を選ぶ。
「幼い子供が背負うには、あまりにも重すぎるものだ。 それを誰も止められなかったことを……私は、悔いているだけだ」
ミネは言葉を失い、わずかに目を見開いた。
責められると思っていた。
追及され、問い詰められる覚悟もしていた。
だが、向けられたのは叱責ではなく――後悔だった。
「私たちが不甲斐ないばかりに、苦労を掛けた」
ミネはリヴェリアの目を見据え、まっすぐに言う。
「……いえ、苦労などとは思っていません。私は、私が望むようにさせてもらっていただけですから」
きっぱりと、しかし穏やかな声だった。
言い切られたその言葉に、リヴェリアは一瞬だけ目を伏せる。
そこには怒りも失望もない。
ただ、年長者としての――どうしようもない複雑な感情だけが滲んでいた。
「そうか……」
短く、それだけを返す。
それ以上踏み込めば、この少女の覚悟そのものを否定してしまう。
リヴェリアは、それを理解していた。
フィンが場を締めるように、軽く手を叩く。
「さて、重たい話はここまでにしよう。僕たちは準備が終わり次第、地上に戻るけど……君たちはこれからどうするんだい?」
ミネはオッタルへと視線を向ける。
他の面々も、オッタルの言葉を待った。
「俺たちは、しばらく留まるつもりだ。……まだ、足りないだろうからな」
至るつもりなのか――レベル8へ。
おそらく、目の前の少女に何らかの思うところがあったのだろう。
レベル9という前代未聞の存在。
オッタルが躍起になるのも、無理はない。
もしかしたら、何度か刃を交えているのかもしれない。
フィンはその言葉を聞き、わずかに目を細めた。
「なるほど……」
探るような視線が、オッタルからミネへ、そして再びオッタルへと戻る。
「彼女が、君をそうさせたのかな?」
「……俺は、知らぬ間に驕っていたようだ。ミネは、それを気づかせてくれた」
オッタルは即座に切り返した。
「この身は女神のためにある。だからこそ、越えねばならぬ」
それ以上の説明は不要だと、言わんばかりの口調だった。
しかし、その目はギラギラとミネを見据えている。
フィンは、二人が戻ってきた頃にはレベル8誕生の報を受け取ることになるだろうと、半ば確信し、苦笑した。
その後、ロキ・ファミリアは二人を残して地上へ戻り、オッタルは深層でミネのサポートを受けながら、その身をさらに鍛えていくのだった。
ミネとオッタルが深層にいる間にベル君はヴェルフフラグを回収したり怪物進呈されたり
漆黒のゴライアス戦をしています。
つまり次から戦争遊戯編です。
このSSのフレイヤ様は…
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普通のフレイヤ様
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アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様