ダンジョンで"救護"するのは間違っているだろうか 作:救護騎士団オラリオ支部
「やぁ、諸君。宴は楽しんでくれているかな?」
軽やかで芝居がかった声が、大広間の中央に響き渡った。
先ほどまでロキの怒声と混乱でざわついていた空気が、ぴたりと静まる。
視線が一斉に集まった先――
そこに立っていたのは、柔らかな微笑みを浮かべた一柱の神。
――アポロン。
「楽しんでくれていたなら何よりだ。こちらとしても趣向を凝らした甲斐があるというもの」
この宴の主催者である神は、優雅な所作で歩み寄り、ヘスティアたちの前に立つ。
それに釣られるように、周囲の神々や眷属たちも自然と円を描く形で集まっていった。
「……っ」
ヘスティアは、わずかに顔を引き締める。
穏やかな笑顔。
物腰の柔らかさ。
だが、その奥に潜むものを、彼女は本能的に警戒していた。
「これはこれは、ヘスティア。先日は私の眷属がずいぶん世話になった」
アポロンは胸に手を当て、芝居がかった一礼をしてみせた。
その仕草一つ一つが、計算され尽くした舞台役者のように洗練されている。
「……社交辞令ならいらないよ」
ヘスティアは小さく鼻を鳴らし、真正面から睨み返した。
「ボクの眷属に手を出そうとして、随分痛い目を見たそうじゃないか?」
その言葉に、アポロンの笑顔にわずかな綻びが生じる。
「はは……随分と手厳しいね、ヘスティア」
アポロンは一瞬だけ目を細め、それでもすぐに芝居がかった微笑を貼り直した。
「だが、その通りだ。ヘスティア。
私の眷属は、君の眷属によって重傷を負わされた。代償を支払ってもらいたい」
静かに告げられたその言葉に、大広間の空気が一段、冷えた。
「……代償?」
ヘスティアが眉をひそめる。
「そうだ。神として、ファミリアの主として――当然の要求だろう?」
アポロンはそう言いながら、視線をゆっくりとヘスティアの背後へと滑らせた。
――ベル・クラネル。
白い髪の少年に、金色の瞳が絡みつく。
「……っ」
ベルは思わず息を呑んだ。
視線を向けられただけで、ぞくりと背筋に冷たいものが走る。
「やめろ」
即座にヘスティアが一歩前に出た。
「ベルくんはボクの眷属だ。勝手に品定めするな」
「品定め? まさか」
アポロンは肩をすくめ、楽しげに笑う。
「私はただ――正当な解決策を提示しようとしているだけだよ」
「こちらがそれを飲む理由がない。そもそも、そっちの眷属たちが挑発してきたのが切っ掛けのはずだよ。
喧嘩を売っておいて負ければ神頼りなんて、少しダサすぎやしないかい?
神として、ちゃんと教育しておいた方がいいよ」
ヘスティアの痛烈な言葉に、大広間が一瞬、凍り付いた。
ざわ、と小さな波紋が周囲に広がる。
神々の視線が、興味と警戒を帯びてアポロンへと注がれた。
「……ふふ」
しかし、アポロンは笑った。
「だが、手を出してきたのはそちらだ。証人も大勢いる。非があるのはそちらだ」
ぞろり、と前に進み出たのは数柱の神々と、その背後に控える眷属たちだった。
いずれも、あの騒動――アポロン・ファミリアの団員がヘスティア・ファミリアの眷属に絡み、返り討ちに遭った場に居合わせていた者たちだ。
口々に語られる証言。
それは巧妙に“事実”だけをすくい上げ、“原因”を削ぎ落としたものだった。
「……」
ヘスティアは歯噛みする。
神々の前では、どんなに理不尽でも“証言”は力を持つ。
「なるほど」
アポロンは満足げに頷いた。
「見ての通りだ、ヘスティア。
私は争いを好まない。だからこそ、話し合いによる解決を――」
「待ちなさい」
凛とした声が、大広間に澄んだ余韻を残して響いた。
声の主は――アストレア。
穏やかながらも一切の揺るぎを感じさせない眼差しで、彼女は一歩前へと進み出る。
「その場には、ウチのリリルカも居たはずよ。
どうして、そのことについては何も触れられないのかしら?」
「ウチのヴェルフもよ。
というか、手を出したのはヴェルフなんだから、私に要求するのが筋でしょ?」
ヘファイストスの言葉に、場の視線が一斉に彼女へと向いた。
赤髪の女神は腕を組み、堂々と胸を張っている。
「あぁ、アストレアにヘファイストス。実に美しい友情だ!
だが、無理をしなくていい。
ヘスティアの眷属がけしかけていたのは、火を見るより明らかだ。
何故なら――正義を謳うアストレア・ファミリアの眷属が、乱闘騒ぎなど起こすなど、あまりに不自然なのだから!」
アポロンの高らかな宣言が、大広間に嫌な余韻を残して響いた。
「……っ」
アストレアの瞳が、わずかに細められる。
正義を謳う神。
その名を、まるで免罪符のように使われたことが、彼女には許せなかった。
「ベル・クラネル。
彼は、あの三人の中でリーダー的な存在だと聞き及んでいる!
ならば――彼こそが、けしかけた張本人に違いない!」
断罪にも似た宣言。
ざわり、と大広間の空気が波立つ。
無数の視線が、白い髪の少年へと突き刺さった。
横に居たアリーゼは、その様子を見てベルをそっと背に隠す。
(よかった……この場にミネが居たら、惨劇じゃすまないところだったわ)
「団員を傷つけられた以上、大人しく引き下がることはできない!
私のファミリアの面子にも関わるからね。
どうしても罪を認めないつもりか、ヘスティア?」
「くどい! そんなもの、認めるか!」
ヘスティアの叫びは、大広間に鋭く突き刺さった。
小柄な身体から放たれたとは思えないほど、強い拒絶の意思を宿した声。
「ならば仕方ない、ヘスティア――君に戦争遊戯を申し込む!」
その言葉が放たれた瞬間。
大広間の空気が、完全に凍り付いた。
「……っ!」
神々のどよめきが、一拍遅れて弾ける。
「アポロンがやらかしたぁー!」*1
「すっげー、イジメ」*2
「逆に見てみたい」*3
ざわざわと広がる動揺の中、アポロンは胸を張り、満足げに両腕を広げてみせた。
「そう、戦争遊戯だ。
神々の裁定に委ね、ファミリア同士で決着をつける――
これ以上に“公平”で、“美しい”解決はないだろう?」
その言葉の裏にあるものを、理解できぬ神はこの場にいない。
――勝てると、確信している。
いや、勝たせる準備を整えた上で、今ここで叩きつけた宣言だ。
「我々が勝ったら……ベル・クラネルをもらう」
「やっぱり、それが狙いかっ……!」
ヘスティアの叫びに、アポロンは一瞬だけ目を細め――すぐに、楽しげな笑みを深めた。
「ダメじゃないか、ヘスティア~。
こんなかわいい子を、独り占めにしちゃ~」
ねっとりとした声音。
冗談めかした口調とは裏腹に、その言葉ははっきりとした“宣告”だった。
「……気持ち悪い」
一部始終を見ていたナァーザは、一切の遠慮なく吐き捨てる。
ベルに近しい眷属たちも、似たような感想を抱いたのか、全員が顔をしかめていた。
「そんなもの、受ける義理はないね!
ベルくん、帰るよ!
ここに居ても、さらし者になるだけだ!!」
ヘスティアはそう言い放つと、即座にベルの手を取った。
その小さな手に込められた力は強く、迷いの一切を許さない。
「か、神様……」
ヘスティアはベルに顔を近づけ、彼にしか聞こえないようにささやく。
「受けることはできない。
ほぼ確実に勝てるけど、それはあの子を公にさらすのと同じだ。
我慢してくれ、ベルくん」
ベルは、ヘスティアの言葉に小さく息を呑んだ。
――勝てる。
だが、それでも“受けられない”。
その意味を、ベルは痛いほど理解していた。
戦争遊戯は、ヘスティア・ファミリアそのものが“見世物”になるということだ。
「じゃ、そういうわけだから、アポロン。
話は終わりだ。ボクたちは帰るよ」
「おやおや」
背後から、楽しげな声が降ってくる。
「逃げるのかい、ヘスティア?」
その一言で、大広間の空気が再びざわめいた。
「逃げる?」
ヘスティアは足を止め、ゆっくりと振り返る。
その表情からは、先ほどまでの苛立ちが消えていた。
代わりに宿っているのは――静かな怒り。
「言葉には気をつけなよ、アポロン」
声は低く、だがはっきりと通る。
「見逃してあげると言っているんだ。
二度も君のところの眷属たちが無様を晒すことになるのは、流石に忍びないからね」
「……減らず口を。精々、後悔しないようにな」
騒めく会場を後に、ヘスティアとベル、そして親しい者たちは宴を去るのだった。
現時点でアイズとミネは結構な水と油です。
強くなるために無茶するアイズとそれを力づくで止めるミネの構造が出来上がってしまいアイズがミネを拒絶しますがミネが無理やりアイズの無茶を止めるため二人の関係は悪化の一途。
この二人は似ていたり正反対だったりすることが多いです。
二人とも7歳の頃に恩恵を貰う。
二人ともファミリア内で大事に育てられる。
暗黒期にセイバーやバーサーカーしてたアイズとアサシンやキャスターしてたミネ。
最初はリヴェリアに反抗的だったアイズと最初から大人の言うことを聞いていい子だったミネ。
モンスターを倒すことに執着するアイズと誰かを助けることに執着するミネ。
家族を失ったアイズと自ら家族から離れて行ったミネ。
このSSのフレイヤ様は…
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普通のフレイヤ様
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アルちゃん味がブレンドされたフレイヤ様